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A.Q.U.A.R.I.A  作者: Ирвэс
第三章 水と時間は螺旋の様に
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第20話 水槽になる世界

今回で水泳部の1年のあの子と2年のあの子、そして1年のあの子と2年のあの子が急接近!

 「じゃあ潤先輩、やって見て下さい。」


 「う、うん……分かった。」


 日も落ちて空が闇の帳に覆われ掛けた夕刻、自宅アパートの近くを流れる川辺で、リラは先輩水霊士(アクアリスト)として、潤にアクアリウムの力を使いこなす為の指南を行っていました。

 精神を集中させてブルーフィールドを展開すると、潤の元に1体、また1体と水霊士(アクアリスト)達が集まって来ます。けれど、グッピーやプラティ、モーリー等のメダカ型の水霊(アクア)や、ネオンテトラの様なテトラ系をメインとしたカラシン型の水霊(アクア)が主に集まって来るリラに対し、潤に集まって来るのは決まってプレコやコリドラス、ロリカリアと言った熱帯に棲息する鯰型の水霊(アクア)がメイン。当然と言うべきか、レッドテールキャットと言う鯰型のドリスもその場にやって来ていました。


 (潤先輩がアクアリウムを使うと、鯰系の水霊(アクア)が集まって来るんだ……。同じ水霊士(アクアリスト)なのに何だか面白いかも。)


 周りに自分と違う種類の[[rb:水霊 > アクア]]が潤の周囲に集まる光景を眺めて内心そう呟くと、リラはグッピーやプラティ型の水霊(アクア)達を周囲に集めます。そうしてリラは、両手に何時もの様にコバルトブルーの光球を形成します。


 「じゃあ先輩―――――始めますよ!」


 その言葉と共に、リラは水霊士(アクアリスト)としての術法のデモンストレーションを始めました。


 クラリファイイングスパイラル、ストリームメモリアル、ハイドロスパイラルシュート、アクアレミニセンス、トルネードクラリフィケーション、ミラーリングアクアリウム―――――そうした術法の数々の練習に加え、普段は余り使う機会の無いポゼッションアクアリウムやストリームマインドについてもリラは教えていました。


 特に基本の術法であるクラリファイイングスパイラルに関してはその螺旋を大きく形成、尚且つ長時間持続出来る様にみっちりと練習を積んでいました。

 この数日間、部活動が終わってから下校する際、リラは良くこうして潤のアクアリウム特訓に付き合う様になっていたのです。

 最初はテミスから頼まれたからと言うのも有りますが、彼女が同級生の真理愛の水をその力で癒した所から、潤の水霊士(アクアリスト)としての確かな才能を認めたからと言う点が今では大きい。


 「ハァ……ハァ………疲れた………。」


 練習の疲れの為に集中力が切れたのか、潤は徐にブルーフィールドを解除してその場にへたり込んでしまいました。


 (いや~、あんた水霊士(アクアリスト)としては新米やって聞いとったけど、ホンマにええ筋しとると思うで!)


 するとドリスが近付いて来て潤の背中に鼻先を当てて擦り付けながらそう励まします。尤も、潤はブルーフィールド処かアクアフィールド其の物を解除してしまっていた為、ドリスの声など聴こえていませんでしたが…。


 「先輩、また少し上達しましたね。お腹も空きましたし、今日は此処までにしますか?」


 リラの言葉と共に鳴り出す腹の音に、潤は思わず顔を赤らめます。川のせせらぎの音を以てしても誤魔化し切れない程の音だった為、リラも苦笑いを禁じ得ません。


 「そっ、そうだねリラちゃん!じゃあ、これからわたしの家来る?何時も練習に付き合ってくれてるからそのお礼に♪」


 「えっ、良いんですか!?」


 まさかの潤からの夕飯の誘いに、リラは思わず嬉しくなりました。そうして2人は、少し離れた場所に有る潤の自宅マンションへと夕飯を食べに向かって行くのでした。



 「水泳の練習が終わった後だってのに、あいつ等無駄に元気だよな………。」


 そんな2人の様子を、離れた場所から見守りながらそう呟くのはリラのアパートの近所に住んでいる忍です。彼女はアクアフィールド圏外の離れた場所で2人の様子を眺めている為、挙動不審な事をやっている女子高生の後輩2人の姿にしかリラ達が見えませんでしたが、水霊仲間(アクアメイト)として事情を知ってる手前、苦笑しながらもその様子を微笑ましく見守っているのでした―――――。



 翌日の事です。放課後の部活でリラは、何時もの様に練習もそこそこに今日も水霊(アクア)と一緒に楽しそうに泳ぎ戯れていました。


 「何だ、あいつまた水霊(アクア)と遊んでんのか?」


 「もう直ぐ総体も近いって言うのに……。」


 忍とみちるが呆れてそう呟く横で、水霊士(アクアリスト)として覚醒した潤が微笑ましくそれを見つめながら零しました。


 「でもとっても楽しそうですよリラちゃん。テミスや他のグッピーやネオンテトラ、それに色んな魚の姿の水霊(アクア)達と楽しそうに泳いで……。」


 「あぁ、水霊士(アクアリスト)って言うのになった潤は見えるんだったわね。その水霊(アクア)って言う魚のお化けみたいなのが――――。」


 潤の言葉に対し、真理愛が納得と言わんばかりにそうコメントしていると、リラがプールから上がって来ます。

 それを受けて瑠々と水夏がリラに絡んで来ます。


 「ねぇ汐月、あんた何時もプールで泳ぎ回ってるけど、それってあの水霊(アクア)って言うのと遊んでんのよね?」


 「えっ?遊んでるって言うか、一緒にテレパシーでおしゃべりしてるって言うか……。」


 「でもそれって見えない私達からすれば不謹慎よ?大会だって近いのに1人で遊んで迷惑だって思わないの?」


 「ごめんなさい……。皆が楽しそうに話し掛けて来るからつい………。」


 水夏に咎められ、リラは思わず俯き様にそう返します。分かってはいても、水霊士(アクアリスト)として水霊(アクア)が見えて彼女達と言葉を交わせる以上、水の中を泳ぐ瞬間はリラにとって水霊(アクア)達と肌で触れ合える至福の時間。

 然し、水霊士(アクアリスト)である潤を除いて他の一般人には水霊(アクア)は見えません。水霊仲間(アクアメイト)として自分の秘密を知る葵達同級生や上の2,3年の先輩達とて、それは例外では無い。

 

 「ねぇリラ、水の有る所なら水霊(アクア)は一杯居るみたいだけど、それってこんなプールも一緒なの?」


 葵が今更と思う様な問い掛けを投げ掛けると、リラは言います。


 「うん、消毒の為の塩素(カルキ)が入ってたって水は水だから、水霊(アクア)達はプールにも出て来るよ。」


 すると今度は深優がとんでもない発言をしました。それもリラにとっても目から鱗と言っても良い発言を―――――。



 「でもさー、何とか一般人の私達でも水霊(アクア)見れる様になったら良いのにね。リラっちや飯岡先輩みたいな水霊士(アクアリスト)のアクアリウムで一々見せて貰わなくても、見たい時に見れる様に。」



 「えっ……?」


 この深優の発言を受けてリラが目を点にする中、真っ先に口を開いたのは忍でした?


 「あぁ、そりゃ確かにあたしも思ったわ。一々汐月、それに飯岡から見せて貰うよりあたし等が見たい時に見れた方が、何か有った時に力になれるだろうしな。」


 「まぁ、水霊士(アクアリスト)でも無い一般人の私達に出来る事なんてあんまり無いかもですけど、葵が好きな相手にフラれて穢れが溜まったのを深優が何とか癒した事が有りましたしね。」


 「へぇ、そんな事が有ったのね……。」


 「ちょっと更紗!恥ずかしい事バラさないでよ!!」


 更紗の補足説明に興味深く相槌を打つみちるに対し、余程思い出したくない黒歴史だからか、葵が顔を赤らめてそう叫びます。

 そんな中でテミスにリラがテレパシーで相談します。 


 (ねぇテミス、一般人でも水霊(アクア)が見れる様にする方法なんて、そんなの有るの?)


 テミスは直ぐに返事します。


 (有るには有りますよ。水霊士(アクアリスト)が自身の中で熟成された水霊力(アクアフォース)を他の人間の内なる水霊(アクア)の中に分け与えてあげれば、その宿主が『見たい』と念じた時に見える様になるの。)


 (へぇ、そう言うのも有るんだ……。)


 内心そう相槌を打つリラに対し、深優が不意に話し掛けて来ます。


 「ねぇリラっち、さっきから何じっと黙ってんの?」


 その問いにリラの代わりに答えたのは潤でした。


 「リラちゃんね、テミスとテレパシーでお喋りしてたの。さっき吉池さんが言ってた事について質問してたよ?そしたら皆も見える様になる方法有るって!」


 「あっ、ちょっと潤先輩!」


 咄嗟に潤を制止しようとするリラですが時既に遅し。他の水霊仲間(アクアメイト)の先輩や同級生達は突然の俄か雨の様に色めき立ちます。


 「えっ、本当!?」


 「マジか!」


 「私も見れる様になりたい!」


 此処まで皆にせがまれては元来、気弱な位に内向的で押しの弱いリラとしては根負けせざるを得ません。


 「………分かりました。」


 そう言うとリラはブルーフィールドを展開。右手にコバルトブルーの光の球を発生させます。


 「熟練の水霊士(アクアリスト)水霊力(アクアフォース)を葵ちゃんや先輩達の内なる水霊(アクア)に分け与えれば、皆にも見る位は出来る様になるってテミスは言ってました。」


 熟練ですので、未だ覚醒したばかりで日の浅い潤にそれは務まりません。この場に限って言えば、それは経験者であるリラにしか出来ない事でしょう。

 水霊力(アクアフォース)の光球をを小さく拡散させると、それを葵達の内なる水霊(アクア)――――即ちアンジュ、ブルーム、プラチナ、ノーチラス、ヴァルナ、シュトラーセ、シュロ、レインへとリラは宿しました。


 「じゃあ葵ちゃん、深優ちゃん、更紗ちゃん、部長に先輩の皆さん、『水霊(アクア)が見たい』って強く念じてみて下さい。」


 リラに促されて潤以外の8人がそう頭で強く想うとどうでしょう。


 「……あっ!見える!テミスが向こうで泳いでるのが!」


 「うわっ!ジュンジュンの足元にデカい鯰!」


 葵が指差したプールの先では、ゆったりと泳ぐテミスの姿が有りましたし、瑠々の視界の先にも確かに潤の足元を泳ぐドリスの姿が有りました。

 それは最初は半透明で薄らとでしたが、次第にくっきりと見え出します。気が付けばプールの周りを大小様々な、見た事も無い沢山の魚が群れや単独問わず泳ぎ回る光景が広がり、さながら海底に沈んだ街の様な錯覚が水泳部のメンバー全員を支配するのでした。


 「凄いわね……グッピーやクマノミやツノダシみたいなのまで一杯泳ぎ回ってる……。」


 「汐月、お前何時もこんな景色の中で泳いでたのか?」


 忍がリラにそう尋ねると、突然プールに水飛沫が上がります。

 何事かと思って音のした方を向くと、真理愛がプールに飛び込んで水霊士(アクア)達に囲まれながら泳ぎ出していたのです!

 水霊士(アクアリスト)が力を与えれば一般人でも使えて水霊(アクア)が霊視出来るこのアクアリウムの術法こそ、『アクアヴィジョン』です。


 「何これ、とても素敵だわ!沢山の綺麗で可愛い魚達と一緒に泳ぐなんて楽しい!」


 最初は水霊(アクア)に対して興味を示していなかった真理愛も、こうなると話は別です。一発でその世界の美しさの虜になってしまいました。

 然し、それは彼女がより楽しく水泳を行う上での良い刺激となったので結果オーライでしょう。


 「あっ!真理愛ちゃんだけ狡い!」


 潤がそう叫ぶ横でリラがアクアフィールドをプールに展開すると、次は水霊(アクア)達の声が聴こえて来ます。


 (遊ぼ!)


 (皆どうしたの?一緒に泳ごうよ!)


 (私達、泳いでる皆の姿が見たいの!)


 彼女達の声を受け、プールサイドに佇んでいた真理愛以外の部員達も自らの内に俄然やる気が出て来るのを感じました。


 「何これ?」


 「汐月、これってあの水霊(アクア)達の声なの?」


 みちるがリラに尋ねると、リラは答えます。


 「私は先輩達に水霊(アクア)達の姿を見れる様にしましたけど、声はアクアリウム無しでは聞けません。」


 「まっ、確かにこんだけ沢山の奴が騒ぐ声が日常でも聞こえたら、とても生活処じゃねぇわな。」


 忍が苦笑いしながらそう頷くと、プールで真理愛が声を上げて言います。


 「何やってるんですか先輩!?それに皆も!早く一緒に練習しましょう!水霊(アクア)達も一緒に泳ぎたがってるし、これ以上のモチベーションって無いと思います!」


 真理愛の言葉を受けて、瑠々と水夏もやる気満々と言わんばかりにこう言います。


 「言われなくたってそうするよ真理愛!」


 「水霊(アクア)は水其の物だって汐月言ってたけど、『水は私達の友達』だって、あの子達の言葉で良く分かったから……!!」


 「良し!漣、一旦上がりなさい!それじゃあ吉池、長瀞、星原、濱渦!自由形100m行くわよ!」


 「はい!!」


 総体を前に水霊(アクア)達からの応援の言葉を受け、更なる弾みが付いた霧船女学園水泳部は、最後の調整に向けて再び練習を再開するのでした。



 水霊(アクア)を見たい時に見られる様になった事は、彼女達のスクールライフ其の物の装いと彩りを変えたのは言うまでも有りません。

 授業の合間や休み時間等、隙を見つけてはアクアヴィジョンで周囲を泳ぐ水霊(アクア)達を眺めてはその様子を楽しむ様になったのです。


 (うわぁ、色んなカラフルの魚が泳いでて綺麗……。)


 (おぉっ、でっかいのが窓の向こうでゆったり泳いでる!)


 教室の中や校舎の周りを時にゆったりと、時に忙しなく、群れたり単独で泳ぐ様々な色と姿の魚達の姿に、葵達は不思議と心を癒されます。然し、これは何も不思議な事ではありません。

 熱帯魚と水草で彩られた水槽は、現実に於いても『アクアリウムセラピー』と言って癒しの効果が有る事が分かって来たからです。

 

 最近の研究で、観賞魚には人間関係が出来上がり、新しい環境に慣れるまでの間のストレスを緩和する可能性が有る事が分かって来ました。

 それは睡眠と覚醒の中間の状態に有る浅い眠り――――即ちレム睡眠と言う夢心地の状態に有る時に脳から発せられるシータ波の発生を促し、治癒力を高めるセラピー効果を齎すのです。

 当然それはストレス軽減の効果も有ります。病院で熱帯魚の水槽が置かれているのを目撃した事の有る人も少なからず居るでしょう。あれは患者の精神的な苦痛や不安、退屈を緩和させる為なのです。

 研究者の話では、水槽の中を観察する事で子供の痛みの知覚が軽減したり、血圧が下がったりする効果も有る様です。歯科治療の前にアクアリウムを観た患者は、それだけでも緊張が解けるとまで言われています。


 更に言いますと、海外でもアメリカのインディアナ州に有るパデュー大学で、アルツハイマーの患者に水槽で泳ぐ色取り取りの魚を見せると落ち着いて意識もしっかりし始めたという研究結果が発表され、認知症に対しても精神の安定の為にアクアリウムセラピーが実践されているのです!

  

 リラのクラリファイイングスパイラルでなくても、泳ぐ魚達の姿は眺めているだけでも十分な癒しの効果が有り、それが更に教室や街の中や空の上を泳ぐと言う非日常の光景は、葵達の心を癒して穢れを浄化するのに充分でした。


 「おい五十嵐!何ボーっとしてるんだ!?」


 「……はっ、はい!」 


 けれど、偶にボーッと見つめてて先生から注意されるなんて事も有る為、余り長い間眺めているのはお勧め出来ないのですけどね?



 さて、そんな或る日の昼休みの事です。


 「あれ、汐月達じゃん?」


 「奇遇………。」


 「えっ?」


 「星原先輩!濱渦先輩!」


 昼食を摂ろうとリラ達4人が校庭に足を運ぶと、其処には偶然瑠々と水夏の2人の姿が有りました。先陣を切って葵が尋ねます。


 「先輩達もご飯ですか?」


 「そうだけど、もしかしてあんた達も?」


 「じゃあ一緒に食べませんか?」


 「良いよ。皆とも1度話がしたいって思ってたし。瑠々も。」


 「なっ!?恥ずかしい事言わないでよ馬鹿!」


 2人の遣り取りを前に、4人は顔を見合わせて「フフッ」と笑うと、2人の傍に腰掛けて一緒に昼食を摂りながら先輩後輩でのガールズトークに興じます。


 「へぇ、先輩達って幼馴染みだったんですか!私と深優と一緒なんですね!」


 「わたしもあんたと吉池仲が良いからもしかしてって思ったけど、やっぱ幼馴染みだったのね。」


 お互いがお互いを幼馴染みと知り、葵と瑠々は驚きと共に親近感の眼差しで互いを見遣ります。


 「でも吉池、お互い相方が馬鹿だし喧しいし苦労するわね。」


 「本当ですよ!葵ったら何時も何時も世話が焼けるんだから……。」


 「ちょっと深優!それどう言う意味よ!?」


 「ってかわたしに言わせりゃ世話焼けんのはあんたでしょ水夏!!何時も何時もボーッとして天然ボケで!!」


 瑠々の突っ込みに対して水夏は数秒の沈黙を置いて返します。


 「………何時もテスト前や連休明けに宿題の事で泣き付いて来る癖に。」


 「なッ!?」


 水夏からバッサリ切り返され、瑠々は言葉も有りません。追い打ちを掛ける様に深優もこれに続きます。


 「うんうん。葵もそうでした。」


 「何よ~ッ!?悪かったわねあんた程頭良く無くて!!それよりあんたもう他人の胸揉みまくるの良い加減止めなさいよ!皆迷惑してんだから!!」


 「死んでもイ・ヤ・よ!!」


 そう言って深優は正面から葵の胸の膨らみに両手を押し当て、思いっ切り握り締めます。


 「ひやああぁぁあんッ♥」


 そんな4人の遣り取りを、リラと更紗の2人は苦笑いしながらずっと無言で見つめるしか出来ずにいました。

 今回の会食を機に成績優秀枠の深優と水夏、明るいムードメーカーの葵と瑠々の4人は、それぞれがそれぞれで共通点を持つ幼馴染み同士である事を知り、同時に先輩後輩の垣根を超えて互いの距離が縮まったのは言うまでも有りません。



 さて、それから時は流れて放課後、何時もの部活での事です。


 「個人の部は誰がどれに出場するかは決まったけど、残りのリレーは誰が出るかしら?」


 総体を前に控え、未だ出場者の決まっていない400mメドレーリレーに誰が出るか、みちる達は決めようとしていました。

 因みに個人戦に於いて誰がどの種目に参加するかの内訳は以下の通りです。


 先ず1年はリラが100mバタフライ、葵が100m背泳ぎ、深優が100m自由形、更紗が200m自由形にそれぞれ参加。

 続く2年は潤が100m背泳ぎ、瑠々が400m自由形、水夏が200m平泳ぎ、真理愛が200m自由形。

 そして最後の3年はみちるが400m個人メドレー、エースの忍が100mバタフライとなります。

 

 さて、残る団体戦である400mメドレーリレーには誰が参加するのでしょう?


 「はい!わたし、自由形(フリー)で出ます!」


 「じゃあ私は平泳ぎで。」


 先ず志願したのは瑠々と水夏の2人でした。


 「まぁ、お前等2人は順当だな。」


 「星原と濱渦は去年もリレー出てたからね。」


 因みに後の2人はみちると真理愛の2人でした。尤も、地区予選は突破出来た物の、関東大会では惜しくも敗退しましたが……。

 その代わり個人の部でみちると真理愛、そして卒業した先輩が無事に全国大会へと駒を進め、昨年は全国3位に辛うじて上り詰めました。

 言い忘れてましたが、霧船女学園水泳部は部員こそ毎年10人前後で決して多くは無い物の、それでもほぼ毎年全国大会へ出て上位の記録を残す常連だったのです。同年9月には国体にも出ました。

 多くの人が水泳に親しむ水の都である蒼國に在って、並み居る地元のライバルを毎回押し退けての全国出場――――男子の居る学校が加わればまた事情は変わりますが、それでも霧船女学園は実績だけを見れば、充分強豪を謳うのに足る名校なのです!


 「わ、私も背泳ぎで出ます!」 


 「それじゃあ最後は私もバッタで出ます!」


 「良し、じゃあ残る2人はお前等な!」


 更に葵と深優も同時に志願すると、忍は首を縦に振ってこれを承認します。5月からの練習の過程で、みちるも忍も2人の成長は身近で見て来ました。幼馴染み故の息の合った動きも。

 取り分け葵は1年の中では未だ実力的に心許無い所が有りますが、忍や真理愛のお陰で1番得意な背泳ぎ以外、一通りの泳ぎがこなせるまでに上達して来ました。

 後は実際の大会に於いて場数を踏んで経験を積むだけ。そう判断しての承認でした。


 「それじゃあ総体まで後2週間……気合い入れて行くわよ!」


 みちるの号令の下、何時もの様にリラ達は練習に励みます。水霊達に見守られながら―――――。



 個人戦に加え、団体戦に於けるリレーの練習に日々取り組む先輩、後輩の2組の幼馴染みコンビ。葵が背泳ぎ、深優がバタフライ、瑠々が自由形で水夏が平泳ぎで泳ぎます。

 尤も、個人で泳ぐ距離が200mや400mと長いだけの瑠々や水夏としては、特別練習でやる事など有りません。それぞれ個人と同じ泳法で、より短い100mを泳ぎ切るだけです。

 それは個人でも100mを背泳ぎで泳ぐ葵も例には漏れません。唯一勝手が違うのは、個人で自由形なのに対してメドレーリレーでバタフライを泳がねばならない深優だけです。

 プール開き以来、自由形以外で泳いでいる所を見た事が無い葵以外の部員達は内心心配でした。


 そんな彼女達の心配を他所に、練習開始と共に深優はリラと忍にバタフライで一緒に泳ぐ事を持ち掛けて来ます。


 「それじゃあリラっち、バッタで泳ご?忍先輩も良いですよね?」


 「え?うん、良いよ深優ちゃん。」


 「リレーの練習か?自由形(フリー)以外で泳いでるとこあんまし見ねぇが、本当にバッタ出来んのかお前?」


 忍の問い掛けに対し、深優は得意気に答えます。


 「大丈夫ですよ先輩!霧船入るまで長い間ご無沙汰でしたけど、私、バッタも平泳ぎも背泳ぎも皆得意なんですから!2週間も有れば勘なんて十分取り戻せますって♪」


 そしてその言葉は、確かな説得力を以てその場に居る物全てを納得させる結果となって現れました。

 みちるのホイッスルの音と共に、一斉にバタフライで50mプールを往復。合計で100mを泳ぎ始めるリラと忍と深優。果たして結果は―――――。


 「――――忍1:07.32、汐月1:17.64、そして吉池が………1:10.92!?」



 流石に忍には及ばなかった物のそれでもリラ以上の好記録!これには他のプールサイドで眺めていた部員達も感嘆の声を上げます。


 「吉池凄いじゃん……。」


 「吉池さん、バッタでもあんなに速く泳げるんだ……。」


 「只者じゃないって思ってたけど、本当やるわねあの子……。」


 瑠々と潤、そして真理愛が改めて深優のハイスペック振りに感心する中、1年の更紗も同じ様なコメントをします。


 「本当に凄いよ深優……忍先輩が3年のエースなら、私達1年のエースはやっぱ深優だよね……。」


 「まっ、あれ位あいつならやれるわよね。」


 幼馴染みと言う事も有ってか、深優の実力に関して葵は然程驚いてはいない様でした。

 3人がプールから上がると、今度は他のメンバー達が入れ替わりに思い思いのやり方で泳ぎ始めました。

 尚、霧船のプールのコースは全部で6つ有りますが、その内半分の3コースは200m以上を泳ぐメンバーが、残りの半分は100mを泳ぐメンバーが利用して泳いでいます。


 「じゃあ更紗、あんた終わったら次私ね?」


 ですが待って下さい。葵が更紗に200mを自由形で泳いだ後、自分にバトンタッチする様に頼んで来ました。


 「星原先輩、次は私に泳がせて下さい!」


 同じ事は瑠々に対する深優も口にしていました。


 「良いけど葵、あんまり無茶しないでよ?」


 「けどあんた達大丈夫?6月入ってから1度に1000mも泳ぐなんてさ。」


 更紗と瑠々がそう心配そうに2人に言うのも無理は有りません。水夏とみちるも黙ってはいましたが気持ちは同じです。

 元々瑠々や水夏、それに更紗やみちるがが200m以上を日常的に泳ぐ長距離選手なのに対し、葵と深優はどちらかと言えば50mが基本で幾等長く泳いでも100mが限界の短距離選手。幾等100m泳いで後続の選手に交替するリレー形式とは言え、途中で速度が落ちてしまっては不利です。

 それに繰り返しになりますが、葵も深優も中学の体育以外で水泳は御無沙汰だった為、技術面は兎も角、体力面ではどうしても長距離選手達から見ても心許無い。

 何より6月も1週目が過ぎて総体まで残り2週間しか有りません。それまでも2人は100~200m以上泳ぐ練習を、体力作りの一環でランニング等と並行してやっていましたが、それ以上に基本50mの短距離を得意とする2人は、生温い練習では駄目だと6月に入ってから500m~1000m、時にはそれ以上の距離を週に数回泳ぐ様になりました。行く行くは1万mの泳ぎ込みが出来る様になる様に……。



 「平気です!って言うか、先輩達の足を引っ張んない為にも私達、体力付けなきゃ行けないですからそれ位で泣き言なんて言ってられません!」


 そうして葵と深優は自身の肉体に鞭を打ち、己が限界に挑むべく1000mの距離を泳ぎ始めます。

 

 「あの子達もすっかり水泳のアスリートね……。」


 「その内1万m泳ぎ込みが出来る様になりゃ良いな。」


 個人メドレーの練習の為の泳ぎを終え、プールサイドに上がったみちるは、直ぐ傍の忍の横でやれやれとばかりにそう呟き、1年の幼馴染みコンビの泳ぐ姿を見つめるのでした。

 勿論、モチベーションの為に水霊(アクア)を霊視してやる気を上げる事も忘れていません。

 

 「ふぅ~、もうクッタクタに疲れたぁ~………。」


 「リラっち、アクアリウムお願い……。」


 先輩達の足を引っ張るまいと、深優と葵はより懸命に練習する日々。練習が終わったらリラに頼んで忍と共にクラリファイイングスパイラルで癒して貰っていたのでした。


 「潤先輩、私は忍先輩と葵ちゃんと深優ちゃんを癒しますから、先輩は他の人達をお願いします。」


 「任せて!」


 勿論、潤も経験を積む一環でアクアリウムを行使していました。クラリファイイングスパイラルを形成する潤ですが、此処から彼女は独自のアレンジを加えます。


 「じゃあ瑠々ちゃん、水夏ちゃん、始めるよ?」


 そう言って潤が行ったのは何と、『クラリファイイングスパイラルを腕に纏っての指圧』でした。

 当初はリラと同じ様に光の螺旋を形成してその中に相手を包み込んで癒していまた潤ですが、彼女はマーシーハグで真理愛を癒した経験から、其処から自身の身にクラリファイイングスパイラルを纏って物理的干渉を伴う癒しの手段を編み出していたのでした。

 特にマヌンダのやり方にインスピレーションを受けたのか、その手でマッサージを施すやり方の方が性に合っていた様です。


 「ああぁぁっ、良いよジュンジュン、凄く効くうぅぅぅぅっ……!!」


 「本当に、水霊士(アクアリスト)2人も居てくれて助かるわぁ………。」


 (テミスとマヌンダの協力が有ったとは言え、この数日間で自分に合った癒し方を編み出すなんて、潤先輩って意外と凄いかも……。)


 マヌンダ宜しくクラリファイイングスパイラルを纏った腕で2人を癒す潤の姿に、リラは感心するばかりです。肝心の潤の腕ですが、疲れて出先から帰って来た兄のマッサージを良く行っていた事も有り、その腕は見事な物でした!


 「でもやっぱり、1番癒されるのって、この水霊(アクア)達が泳ぎ回ってる所を眺めてる瞬間よね。」


 「あぁ、そうだな……。」


 クラリファイイングスパイラルに包まれながらみちると忍がアクアヴィジョンを発動させて眺める先には、カラフル且つ様々な姿形の水霊(アクア)達が楽しそうに更衣室内を泳ぎ回ると言う、見ているだけで癒される幻想的な光景でした。

 例え厳しい練習でヘトヘトになっても、自分達の姿を見守る様に泳ぎ回る水霊(アクア)達の姿を見ると、彼女達の中には不思議と元気が湧いて来るのでした。

 

 プールで泳いでいる時も、更衣室に戻る時も―――――。



 そうして更に翌日の事です。


 「あ~~っ!また理科室に教科書とノート忘れた!!」


 「またなの?全く、葵は相変わらずそそっかしいんだから……。」


 何時もの昼休みですが、どうやら葵がうっかり理科室に忘れ物をしたので取りに向かいました。幼馴染みの手前、付き合いの良い深優もそれに同伴します。


 「有った有った!」


 「んじゃ、戻ろっか葵。リラっちとサラサラ、待ってる間、今頃何やってるかな?」


 「少なくともあんたみたいにゲームはしてないと思うけど?」


 そう皮肉を言いながら、葵が深優と一緒に1年の教室が有る3階を蹴り昇って行った時です。


 「でさー、昨日帰ってから観たドラマで―――――。」


 「あぁ、それ観た観た。主人公役の――――――。」


 不意に2年の階段近くの廊下で、2人の女子の話し声が聴こえて来ました。聞き覚えの有る声だった為に陰から覗いてみると、話をしていたのは水泳部の先輩の瑠々と水夏でした。


 (星原先輩?濱渦先輩?)


 思わず足を止めて2人の会話に聞き入っていると、深優が彼女に小声で注意の言葉を投げ掛けます。


 「ちょっと葵!他人の立ち話陰で盗み聞くなんて駄目だよ!早く3階行こうってば!」


 「ごめんごめん。」


 そう返してから改めて階段を昇って行こうとした時でした。


 「それとさ水夏、五十嵐の事なんだけど―――――。」


 (えっ――――――?)


 瑠々が口にした「五十嵐」と言う苗字に、葵は思わず足を止めます。同じクラスの違う人の苗字の可能性も頭を過ぎりましたが、相手が相手だけに自分の事を言っている可能性が高い。

 そう思うと、葵は2人の会話に嫌でも耳を傾けざるを得ません。同じ事は条件反射で深優も無意識に行っていました。


 「あの子がわたし等と一緒にリレーに出んの、あんたはどう思う?」


 「別に私は良いと思うわよ?1年なんだし、経験積ませて成長させる意味でも。潤以外の新入部員の中じゃタイムは1番下だけど、それでもちょっとずつだけど縮めてるんだし?」


 「けどもう総体まで2週間も無いのよ?吉池があんな早く上達してんのに比べて、五十嵐遅いじゃん。あんなんで本番間に合うのかしら?」


 「まぁ、気持ちは分かるわよ。潤は兎も角、私や瑠々は真理愛と違ってA決勝で上に残んのは難しいからね~。去年私、結局A決勝6位で標準届かなかったしさ……。代わりにあんたと部長と真理愛の4人でのリレーで何とか決勝4位で進出出来たから……。」


 「わたしも予選突破したのに決勝5位だったけど、標準に届かなくて関東大会出れなかったし……。」


 何と、瑠々と水夏は個人戦で関東大会出場を逃すと言う苦い経験を味わっていたのです。通常、競泳では先ず予選を勝ち抜いた8人が選ばれ、優勝者を決める決勝が行われます。霧船がこれから参加する総体では、決勝で4~8位の者は地方大会の標準記録を突破しなければそれに出場する事は出来ない訳ですが、悲しい事に瑠々と水夏はA決勝まで進出したにも関わらず、標準記録を突破出来ずに関東大会の選抜に落ちていた訳でした。只、それでも並み居る蒼國の猛者が犇めく予選を勝ち抜き、A決勝に進出出来ただけでも2人の実力は決して低くない事は確かでしょう。


 とは言えそんな彼女達にとって、みちる達と一緒に全国の舞台へ立つ為には個人戦より、団体戦である400mメドレーリレーの方がそう出来る確率としては高いと言うのが、彼女達の見解の様でした


 ですがこの時、瑠々は近くで葵が自分達の会話を聞いている事など露知らず、とびっきり無神経な発言をしてしまうのでした……。


 「あ~~~っ、どうせだったら五十嵐以外の誰かだったら良かったのに!あの子と一緒に泳いで負けて、わたし等だけ全国行けなかったら超ショックなんですけど!」


 (―――――――――――ッ!!)


 (葵……!?)


 瑠々のその言葉に、葵がショックを受けたのは言うまでも有りません。まさか自分が足手纏いだと、一緒にリレーを泳ぐ仲間から本心でそう思われてたと知って動揺しない者など居る筈も無いのですから当然です。


 「良く言うよ。リレーで地方出れても、結局予選落ちして全国行けなかったじゃん私達……。」


 「だから勝てる子と組んでリレー出たいんじゃん!!」


 瑠々がそう強く水夏に反論した時です。


 キーンコーンカーンコーン………。


 無情に鳴り響くのは昼休みの終焉と、午後の授業の始まりを告げるチャイム。瑠々と水夏はそのまま葵と深優の事になど最後まで気付かず、そのまま教室へと戻って行きました。


 「何よ、星原先輩ったら無神経過ぎでしょ……。」


 瑠々の発言にそう憤慨しながらそう呟く深優。ですが、今は先生が来る前に教室に戻って次の授業に備えねばなりません。


 「でも今は教室に……って葵?」


 気を取り直して教室に戻ろうとしますが、葵はそのまま呆然とその場に無言で立ち尽くすばかりで動こうとしません。まるで海底に降ろされて鎮座する錨の様です。


 「もう!何時までボーッとしてんのさ葵!?授業始まるから行くよ!!」


 「ハッ!!ご、ごめん深優……。」


 自身のシャウトで葵が我に返ったのを確認すると、直ぐに深優は葵の手を引いて一路自身の配属先である1年2組へと戻って行きました。



 そうして放課後、例によって何時もの部活の時間になってからの事です。霧船水泳部の本日の練習は、市民プールで行われる運びとなりました。

 何時もの様に、各々の得意な泳法で100m、200mと言う距離を泳ぐリラ達。長距離選手のみちる、瑠々、水夏、更紗もそうですが、短距離選手の葵と深優も体力作りの意味で今日も1000m以上を目標に泳いでいるのですが―――――。


 (頑張らなきゃ……もっと速く泳げる様にならなきゃ……!!)


 心なしか葵の泳ぎに、何時も以上の必死さが垣間見えます。もっと速く、もっと速くと、まるで今の遅い自分じゃ駄目だと言う強迫観念に駆られて焦っている様子がありありと伝わって来るかの様です。


 「ねぇ吉池、五十嵐の様子、何時もと違くない?」


 真っ先に違和感に気付いたのは部長のみちるでした。そう言って深優に尋ねると、彼女も同じ事を思っていたのか、こう答えます。


 「はい、確かに……。」


 何故葵がそうなってしまったのか、深優には見当が付いていました。葵があぁも必死で泳ぐ理由――――それは言うまでも無く瑠々の言葉が原因です。

 瑠々は自分の実力を信じていない………それを知らず知らずにとは言え聞いてしまったのですから焦るのも無理は有りません。


 (星原先輩や深優達の足を引っ張んない為にも――――私がもっと上に行かなきゃ!!何時までも皆の中でタイムが1番ビリのままなんて………それだって嫌だから!!)


 然し葵自身、瑠々に言われるまでも無く自分が1年の中でタイムが最下位であり、誰にも勝てていない事に対し、少なからず焦りや劣等感を感じていました。

 元々天才肌な幼馴染みの深優や、フィジカル面に恵まれた更紗。そして驚異の肺活量と水を愛する心でグングンと伸びて行くリラ。同じ1年の彼女達と比べて、自分の成長は遅くて微々たる物。

 圧倒的な持つ者と言うべき3人の同期を前にすれば、『置いて行かれる』と言う焦りは嫌でも葵の心を支配しに掛かるのも当然でしょう。彼女の心は今、津波の如く押し寄せる焦燥に呑まれ、まさしく沈む一歩手前に在ったのでした。


 (葵……。)


 その様子を心配そうに深優は遠目から見守っています。こうなって来ると彼女も練習処では有りません。

 漸く1000mを泳ぎ切ってプールを上がる葵を見て、深優が思わず彼女の下に駆け寄ります。


 (えっ?深優ちゃん、葵ちゃんのとこへ行ってどうしたの?)


 先程から自身の練習に取り組んでいたリラですが、不意に視界に入った葵と深優を怪訝そうに見つめます。

 すると、プールに居合わせた青鈍色のカブトガニ型の水霊(アクア)である『エウナド』がリラの元にやって来て囁きました。


 (リラ、あの少女は―――――)


 (汐月の奴、あのカブトガニみたいなのと何話してんだ?)


 その様子を、リラから水霊(アクア)を見られる様にして貰った忍がその傍で訝し気に眺めていました。2人は同じバタフライの選手である為、一緒に練習すべく泳いでいたのでした。


 「ハァーッ……ハァーッ………」


 「葵!」


 「深優……。」


 「大丈夫、葵?凄いヘトヘトだけど、無理し過ぎじゃないの?」


 心配そうに話し掛けて来る深優に対し、葵は何も言わずに無言で立ち上がると、再びプールへと飛び込んで泳ごうとします。


 「葵!?」


 再び背泳ぎで泳ぐ葵。恐らくまた1000mを泳ぎ切ろうと言うのでしょう。然し、元々短距離選手である葵は本来、200mが無理無く泳ぐ限界です。500mも泳げば疲れが全身に溜まるのに、その倍の1000mともなれば全身が悲鳴を上げてガタが来るのは必定。

 幾等体力作りの為とは言え、身体を壊しては元も子も有りません。 


 「駄目だよ葵……うっ……!」


 慌てて深優が彼女を止めようとしますが、自身も先程自由形で1000m近い距離を体力作りの為に泳いでいた身。その反動でヘバったのか、身体に力が入りません。

 自分だってそうなっているのですから、況や葵だって今日はもう限界の筈。早く止めないと身体が壊れたら取り返しが付かない事になる。早く彼女を止めないといけないのに……!

 そんな彼女の傍に、近付いて来る影が有る事に深優は気付きませんでした。


 (頑張らなきゃ……!!頑張らなきゃ……!!)


 尚も身体に鞭打って必死に背泳ぎでコースを往復しようとする葵ですが、不意に自分の身体を掴まれる感触を彼女は覚えました。甲殻類かイソギンチャクに捕獲される魚類と似た気分。それがその時の葵の心境でしょう。


 「リラ!?」


 自身の身体を掴んだのはリラでした。


 「葵ちゃん、無理しちゃ駄目。さっきエウナドから聴いたけど、もう葵ちゃんの身体凄く疲れてるよ?これ以上無理して泳いだら身体壊れちゃうって……。」


 「エウナドって……もしかして水霊(アクア)?」


 リラの口にした水霊(アクア)の名前を受け、アクアヴィジョンを発動させるて見ると、彼女の傍にカブトガニに似た水霊(アクア)が居ます。これがそのエウナドなのだと葵は直ぐに理解しました。


 「リラっち!葵!」


 直ぐに後ろから深優が駆け付けて来ます。近くには更紗も一緒です。


 「深優、更紗……。」


 「葵、話は深優から聞いたよ。無茶な泳ぎ方して凄く疲れてるって……。」


 「焦る気持ちは分かるけど葵、無茶して泳ぐのは良くないよ!それで身体壊しちゃったら総体だって出れないよ?」


 心配そうにそう言う更紗と深優ですが、葵は俯き様にこうポツリと呟きます。



 「放っておいてよ……。」



 「えっ?」


 リラが思わずそう口を開くと、葵は声を大にして言い放ちます。


 「だから放っておいてってば私の事なんて!!私はあんた達みたいに天才じゃないの!!皆の倍頑張んなきゃ駄目なの!!」


 そう叫ぶ声に、リラと深優と更紗は気圧されるばかりです。気が付けば何事かと、近くにいたみちるや瑠々と言った先輩の女子達数人も視線を向けていました。


 「葵ちゃん……って、あっ!?」


 気が付くと葵はリラの腕を振り解いて再び背泳ぎで泳ぎ始めます。所が―――――。


 「うっ……あぁっ!!ゴボゴボゴボゴボ…………」


 不意に葵の足を襲う激痛。どうやら無茶な練習が祟って足を攣ってしまった様です。痛みでバランスを崩した葵は、そのままプールの水の中に沈んで行きます。


 「葵ちゃん!?」


 悲鳴に近い叫び声を上げるリラ。 然し、其処へみちると忍の2人が駆け付けると、程無くして葵の両肩を抱いて浮上して来ました。


 「プハーッ!……ハァ、ハァ………」


 「全く、無茶し過ぎよ五十嵐。」


 「汐月達が折角心配して言ってんのに話位聞けっての!」



 休憩室に入ると、早速リラはアクアリウムを施し、その場で葵の足を癒して尚且つ体力を回復しました。今日も今日とで身体に負荷が溜まっていた為、クラリファイイングスパイラルで癒すのは相当時間が掛かりましたが、何とか彼女の足を元のコンディションに戻す事は出来た様です。

 因みに周囲の利用客には見えない様に、リラは自分の半径10㎝以内にしかブルーフィールドを展開していません。ほぼゼロ距離でのクラリファイイングスパイラルでした。蛇足ですが、葵の足はエジプト型の形をしています。


 「有り難う、リラ。」


 「もう、『有難う』じゃ無いよ葵!其処は『ごめんなさい』って言うとこでしょ!」


 自分の足を癒してくれたリラに対してお礼を言う葵ですが、深優は其処で言うべきは謝罪であると咎めます。同じ事は更紗も思っていたらしく、深優に続いて諫めに掛かりました。


 「そうだよ葵。体力作りの為に1000m以上泳ぐのは良いけど、もっとペース配分とか考えなかったらあっと言う間にバテるし、休憩だってしなかったら身体だって壊すんだからね。」


 「ごめん、皆――――。」


 2人に諭されてしおらしくなる葵に対し、口を開いたのは忍でした。


 「で、何であんな足が攣る様な無茶な泳ぎ方したんだよ?お前、昔のあたしみたくなっても良かったのか?」


 嘗て無茶な練習で肩を故障した忍の言葉は、光すら届かぬ深海の底に沈める程の圧を以て葵の心に重く響きます。


 「忘れないで五十嵐。1年生とは言え、貴女だって霧船の大事なメンバーであり戦力なの。それがもう直ぐ総体だって近いこの大事な時に、怪我で出られなくなったなんて事になったら私達だって困るわ。」


 「はい――――。」


 「それで、どうしてこんな無茶な泳ぎしたの?」


 みちるの言葉を受けて反省したのか、項垂れる葵に対して真理愛が改めて彼女に尋ねます。葵は言いました。



 「――――皆の足を引っ張りたくなかったんです。」



 葵の言葉に目が点になる部員達。


 「えっ?」


 「何?」


 「どう言う事?」


 葵は続けます。


 「私、今年入った子達の中で1番タイムが遅くって、どんなに練習したって深優や更紗やリラみたいになれなくって、でも総体までもう後2週間しか無いから、何とか皆に追い付こうと必死だったんです。特に、リレーで星原先輩と濱渦先輩の足引っ張って、私の所為で予選落ちしたらッて思ったら、今のままじゃ駄目だって思って……。」


 その言葉に反応したのは瑠々と水夏でした。


 「えっ!?」


 「私達の足を引っ張りたくなかったからって……。」


 すると深優が補足の為に言いました。


 「私と葵、今日の昼休みに教室に向かう途中偶然聞こえたんです。星原先輩と濱渦先輩が、葵が中々伸びなくて総体でのリレーが心配みたいな事を話してるのを……。」


 その言葉を聞いて2人はハッと思い出しました。確かに今日の昼休み、瑠々がそんな事を口走っていた事を――――。


 「ま、まさかあんた達、あの話聞いてたの!?」


 動揺しながら瑠々が言うと、2人は頷きます。


 「特に星原先輩言ってたじゃ無いですか。『あ~~~っ、どうせだったら五十嵐以外の誰かだったら良かったのに!あの子と一緒に泳いで負けて、私等だけ全国行けなかったら超ショックなんですけど!』って。葵がこんなになったのは多分その所為で焦ったからですよ。」


 深優がそうぶっちゃけると、他の部員達は当然怒りの視線を瑠々へと向けます。


 「ほォォ~しィィ~はァァ~らァァァ~~~~ッ……!!」


 「星原先輩……!!」


 「瑠々ちゃん……!!」


 「瑠々………!!」


 「だ、だって、まさかわたしと水夏の話聞いてる子が居るなんて思ってもみなかったから……ねぇ、水夏も何とか言っ……」


 咄嗟に弁明しようとする瑠々ですが、その言葉が言い終らない内に彼女の頭に痛みを伴う衝撃が容赦無く襲って来ます。


 ゴチン!!


 「痛ったあぁァァァ~~~~ッ!!」


 弁護を求めた水夏からのまさかの鉄拳制裁です。


 「あんたは何時も一言余計なのよ。」


 「っつ~~~~~ッ!!何よーッ!?あんただって五十嵐の泳ぎ信じられなかった癖に1人だけ良い子ちゃんぶって!!」


 「あれぇ~そうだったっけ~?ま、仮にそうだったとしても、私は瑠々みたいに『リレーのメンバー違う子になって欲しい』なんて全然言っても思ってもい~ませ~んよぉ~~だ!」


 「ムッカ―ッ!!何ですってこいつ……!!」


 幼馴染み同士で仲間割れをする瑠々と水夏ですが、其処へ突然深優が瑠々の背後に回り込み、そして……。


 「星原先輩、幼馴染み同士で喧嘩するなら後でして下さい。それより私の幼馴染みの心煩わせた慰謝料の代わりはたっぷり貰いますから!!」


 脇の下を潜らせた両手を競泳水着の内側に潜り込ませると、深優はそのまま瑠々のバスト87も有る生の胸の膨らみをたっぷりと堂に入った手付きで揉みしだきます!


 「ちょっと吉い……んんああぁぁ~~~~~~んッ♥」


 「う~ん、星原先輩も結構大っきいですね~♪みちる部長や忍先輩程じゃ無いけど揉んでて楽しいっ♪」


 「コラ吉池!公共の場でんな事止めろオォォ――――――――ッッッ!!!」


 他の部員達が呆れてドン引きする中、忍の怒声が休憩室に木霊します。室内に他の利用者が居なかったのがせめてもの救いでした―――――。



 それから夜中の19時、何時もより長い練習が終わり、メンバーは何時も通り帰宅の途に就きました。

 それぞれがそれぞれの家の有る道で別れる中、意外な組み合わせが残りました。

 葵と深優、瑠々と水夏の1年と2年の2つの幼馴染みコンビです。

 

 「五十嵐、今日のお昼ごめんね。あんた達が居るのも気付かないで、あんな無神経な事言ったりして……。」


 「いいえ、良いんです。自分だって皆の中じゃ1番のビリなの分かってますし、言われて当たり前です。そんな足手纏いな子とリレー組むなんてなったら誰だって嫌だろうし……。」


 瑠々の謝罪の言葉に、葵は俯いてそう返します。するとそんな葵に苦言を呈す者が有りました。


 「五十嵐、貴女、自分の事本気で出るべきじゃない足手纏いだって思ってるの?もしそうだったらとんだ馬鹿だよ。」


 思わぬ水夏の言葉に、葵と深優は怪訝な表情を浮かべます。


 「濱渦先輩?」


 「大会に出て勝とうって思うのは大事だけど、それ以上に自分に出来る最高の泳ぎをするのが選手としてはもっと大事。違う?」


 「それは、そうですけど―――――。」


 唖然とした表情でそう返す葵に対し、水夏は続けます。


 「私のお母さんは言ってた。『人生で若い内に大事なのは、勝って嬉しい気持ちや負けて悔しいって気持ちを一杯味わう事だ』ってね。其処から色んな事を学んで経験して、これからの人生の糧にして行く事が、楽しく生きる為に欠かせないの。これからの大会、もしかしたら勝つかも知れないし負けるかも知れない。でもね、そんな事で人生決まる訳じゃ無いんだから、思いっ切りやり切れば良いのよどんな事でも。人生で大事なのは結果じゃなくって、目の前の現実に対して何をどう考えてどう行動したか……言い換えれば“どう生きたか”でしょ?結果なんて、その行動のおまけでしか無い――――。」


 哲学的な水夏の言葉を、葵と深優は「へぇ~」と感心しながら聞き入るばかりでした。


 「それに、私達は未だ2年で貴女達は1年。今年が駄目でも来年が残ってるんだから、その時負けない様に頑張れば良いでしょ?焦らないで自分のペースで1歩1歩成長して行けば良いの。」


 「……有り難うございます、先輩。」


 「濱渦先輩も良い事言うね、葵。」


 すると先程から黙っていた瑠々が口を開きます。


 「全く、普段マイペースで何考えてるか分かんない癖に、こう言う時だけカッコ付けて先輩ぶっちゃってさ!」


 「何よ?悔しかったら瑠々こそもっと頑張って先輩ってとこ五十嵐達の前で見せたら良いじゃん。」


 「はぁ!?何よあんた喧嘩売ってんの?」


 「ちょっ、ちょっと星原先輩止めて下さい!!」


 「濱渦先輩も落ち着いて!」


 そう言っていがみ合おうとする2人を咄嗟に宥める葵と深優。同じ幼馴染みで似た者同士の葵に止められて、瑠々は思わず吹き出します。


 「プッ……アハハハハッ!!まさかあんたに止められるなんてね五十嵐。いやぁ参ったな!」


 「星原先輩?」


 「足攣ったあんた見て私、思い出しちゃった。みちる先輩と一緒に去年国体出れて、それで浮かれて張り切り過ぎてわたしも足攣ったんだっけ……。」


 恥ずかしそうに頭を掻きながら、瑠々は自分の過去を暴露します。どうやら全国は逃しても、国体の選抜に瑠々は残れた様でした。


 「先輩、そんな事が……。」


 「全く、あの時の瑠々には困った物だったわ。お陰で瑠々は出場辞退して、私と真理愛とみちる部長だけしか出れなかったんだから……。もうあんな事は2度としないでよ?あんたと一緒に泳げなくって、私がどんだけ寂しかったか……。」


 「分かってる。やっと忍先輩も復帰したんだし、真理愛も一緒に泳ぎたかったジュンジュンがまた戻って来た訳だけど、一緒に泳ぎたかった相手とこうして同じチームで泳げるのって、もう今年しか無いんだよね……。」


 何処か遠くを見る様に、瑠々は夜の帳の降りた空を見上げて言いました。気が付くと夜空には北斗七星が浮かんでいます。

 そうして瑠々は言いました。



 「ねぇ五十嵐、吉池――――水夏が言った通り、今年の大会が駄目でも、わたし達には未だ来年が有る。焦んないで一杯練習して速く泳げる様になれば良いわ。でもね―――――我が儘を承知で言うけど、それでもわたしは行きたいの。今年(いま)だけのメンバーで、1人も欠ける事無く全国(インハイ)へ―――――!!」



 その言葉を聞いて、葵と深優は言葉を失いました。まさか瑠々がそんな想いを持っていたとは―――――。


 「わたし達の話、聞こえてたんなら分かると思うけど、わたしと水夏、去年の総体の個人戦じゃ標準破れなくて落ちて、代わりのリレーでやっと関東大会行けたんだ。まっ、結局予選落ちして全国は逃したけどね……。もしかしたら今年は個人戦で敗退も有るかも知れない。下手したら決勝の前に予選落ちするかも……。わたしも水夏も、真理愛やみちる部長、それに忍先輩と比べたって其処まで才能無いからさ……。」


 寂し気な雰囲気をそこはかと無く漂わせながら、瑠々は流し目で自分の弱さを吐露します。

 成る程、確かに去年の大会に於いて個人の部で関東大会出場を逃すと言う辛酸を舐めたのなら、それはリレーに賭けたいと強く思うのも当然でしょう。となれば、やはり葵が不安要素だと感じて、あんな事をつい漏らてしまうのも無理からぬ話です。


 「先輩……。」


 「瑠々……。」


 不安そうに見守る1年生の幼馴染みコンビと相方の水夏の視線を一点に集めながら、瑠々は握り拳を作ると、再び空を見上げて言います。


 「それでもわたし、皆と全国(インハイ)出たいの!今居るメンバー全員で!まぁ、1年のあんた達が全員予選通過出来るかだって、これからやって見なきゃ分かんないけど、それでも1位じゃなくても優勝じゃなくってもわたし、誰も欠けないで全国行きたい!」


 そう言葉を紡ぐ瑠々の赤紫の瞳には、海底火山のマグマの様に尽きない闘志と、巨大な海底山脈の様に揺るがない不動の決意と覚悟が宿っていました。

 彼女の水泳に対する“秘めたる想い”と言う名の本音を聞けて、葵と深優は瑠々の中の評価をまた1つ改めました。


 そう――――『星原先輩は自身の弱さを自覚しながらも、自らが同士と認めた者達と共に勝利を目指して前に進もうとする、とても仲間意識の強い人なのだ』と……。


 「……な~んて意識の低さだからわたし達、善戦マンで終わっちゃうんだけどね♪やっぱ思い切って『目指せ優勝!!』って位の気構えが無いと駄目かな?」


 大言壮語の後におちゃらけた調子でそう続ける瑠々を前に、葵と深優はフッと笑って答えます。


 「別にどっちでも良いんじゃないですか?」


 「そうですよ!でもやっぱり目標は高い方が、例え駄目でも辿り着ける場所の可能性は広がるって思いますけどね。」


 「そう?そりゃどうも有り難う。でもあんた達って本当良い子ね~!妹にしたい位だわ♪」


 冗談交じりに2人に抱き着いてそんな事を言う瑠々に対し、葵はこんな頼み事をします。


 「星原先輩、もし良かったら先輩の事、名前で呼んで良いですか?」


 「私も濱渦先輩の事、水夏先輩って呼びたいです。」


 1年生の幼馴染みコンビに名前で呼ばせて欲しいと頼まれた2年生の幼馴染みコンビ。それに対して2人は思わず目を見開きましたが、直ぐに口元に笑みを浮かべて答えます。


 「良いわよ。好きに呼びなさい。」


 「じゃあその代わり私達も貴女達の事、葵と深優って呼んで構わないわね?」


 「はい、喜んで!」


 「瑠々先輩、水夏先輩――――皆で一緒に総体、頑張って標準記録突破して関東大会出ましょう!」


 そう言って学年違いの幼馴染みコンビは、改めて握手を交わします。総体へ向け、4人の繋がりが深まった瞬間でした。



キャラクターファイル21


星原瑠々(ほしはらるる)


年齢   16歳

誕生日  12月1日

身長   167㎝

血液型  O型

種族   人間

趣味   旅行

好きな物 ASMR動画、裸足になる事


ポニーテールで結った青いロングヘアーに赤紫の瞳が特徴で良く手を後ろ手に組む。

アクティヴな性格で細かい事に拘らず良く言えば大らか、悪く言えば大雑把である。父が深優と同じく蒼國の海で漁師をしており、母は養殖業を営んでいる。

水夏とは性格こそ真逆だが何かと気の合う幼馴染みで、何時も一緒に居る事が多い。クラスは水夏と同じ2年5組。

自由形の泳ぎを得意とし、内に秘めたる水霊(アクア)はベタ型の水霊(アクア)で名をシュロと言う。

総体前に自分と水夏が幼馴染みである事を葵と深優に告げた後、紆余曲折を経て互いに名前で呼び合う仲になった。去年の大会の際、個人の部で予選敗退した過去から己の能力不足を自覚しつつ、それでも総体を1人も欠ける事無く皆で予選を突破したいと思っている所からも人としての芯は勿論、仲間意識の大層強い少女である。

余談だが練習後に元の制服へ着替える際、靴下を履かずにローファーを素足履きか、時にはそのまま手に持って裸足で歩く程の裸足好きで、教室や体育館問わず直ぐに裸足になる為、水夏からは「履物嫌い」と揶揄されている。更にやる気スイッチが入ると胸を大きく揺らす癖が有る。

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