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A.Q.U.A.R.I.A  作者: Ирвэс
第三章 水と時間は螺旋の様に
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第18話 合流する4本の河川

今回のエピソードで2年の子達も水霊仲間(アクアメイト)に加わります!彼女達の日常が少しだけど大きく変化する瞬間をご覧あれ!

 (何だったの?リラちゃんの周りにいた、あの大っきな海老や鰻の幽霊みたいなのって―――――?)


 リラがアクアリウムで忍達を癒す場面を目撃した帰り道、潤はその時の光景を思い出していました。


 (って言うか五十嵐さんや日浦先輩達が包まれてたあの光の螺旋みたいなの、この前わたしが砂川さん達と包まれてたあれと一緒だった。)



 この学園に入って来て、最初に出会った1年の子である汐月リラ―――――思えばあの奇妙な魚の幽霊が見える様になったのは、彼女との出会いからでした。

 それから何か有る度に魚の幽霊が直ぐ後ろや近くにいる事を同じクラスメイトに指摘しても、誰も何も見えないと言って変人扱いする始末。

 4月の末頃、リラに癒された時に自分と一緒に魚の幽霊が見えた筈の元虐めっ子の砂川、安孫子、梶沼の目の前をその魚の幽霊が通り過ぎた事が有りましたが――――。


 「あっ!砂川さん!!魚の幽霊が其処に!!」


 「はぁ?何処に居んだよ?全然姿見えねーじゃねーか!」


 潤の指摘に対して返って来たのは、「姿が見えない」と言う返事でした。


 「見えない?嘘……、リラちゃんに会った時は見えてたのに何で……?」


 「いや、知らねーよ!つーかリラ?あぁ、あの汐月とか言う変な魔法だか手品みたいな事やって私等の事癒したっつーあの訳分かんねー1年か。」


 砂川がリラの事を思い出すと同時に、安孫子と梶沼の2人もその時の事を思い出します。


 「今でもマジで信じらんないよね。あれが本当に有った事なのかさぁ……。」


 「けど飯岡やあたし等3人の事、今でもハッキリ頭の中に残ってるし、あの変な光の渦みたいなのに包まれてマジ気持ち良かったのだって覚えてる。だからあれが夢じゃねーっては確かだよな……?」


 夢じゃないと言うのは3人とも認めている様です。リラが潤と砂川達の内なる水霊(アクア)を取り出し、相手の脳にそれぞれ挿入する事でその記憶を見せる追憶の術法『アクアレミニセンス』で4人はお互いの事を知り合いました。

 当然、その痛みも苦しみも弱さも………。だからこそ、嘗て潤を虐めていた砂川達は彼女の事をどうでも良い赤の他人としてでは無く、自分の延長としてしか捉えられなくなった為、もう虐めはしなくなったのでした。


 「そんな……わたし、あれからハッキリ見える様になったのにどうして?」


 「んなモンあたしが知るか馬鹿!あの汐月って1年に絡まれて可笑しくなったんなら、直接あいつに訊きゃ良いだろ!」



 砂川からそう諭されて以来、潤はリラに真実を聞き出そうと思っていました。所が、潤は元々リラと同じか下手をすればそれ以上にオドオドした内気な性格。近付いた所で気軽に尋ねられません。

 水霊(アクア)の事に関しても、精々話題に触れたのは入部してから近況を訊かれた時程度です。


 「嬉しいです飯岡先輩、先輩も一緒に水泳部に入ってくれて!」


 「え、えぇ……む、胸を他人に見られるのは恥ずかしいけど………。」


 後ろからジロジロと眺めている深優や、何故か自分を睨んでいる真理愛の視線を意識しながら、潤は顔を赤らめてそう返しました。


 「それで、あれからどうです?また虐められたりしてませんか?」


 「い、虐め?あっ、あぁ大丈夫、大丈夫だから……!砂川さん達も、もうわたしには何もしなくなってくれたから!」


 「良かった……また穢れを内側に溜め込んだら私、何時でも先輩の事癒してあげますからね!」


 そう満面の笑みで答えると、リラはそのままプールサイドへと向かって行きました。


 「あっ、ちょっと待ってリラちゃん………!」


 慌てて呼び止めるも時既に遅し。リラはそのまま自分から遠ざかって行きました。

 その後も何度も何度も潤はリラに話し掛ける機会を5月の間中、ずっと窺っていたのですが如何せんリラは同じ1年の葵達や、どうしてかは知りませんが何時の間にか3年のみちるや忍達とも仲良くなって良い雰囲気を作っていたのです。

 基本的に1人ぼっちで臆病な潤にとって、リラと彼女を取り巻くその良き隣人達の醸し出す空気はさながら分厚い結界の様。とても割って入る余地など有りません。

 自分の様な部外者が無理矢理入り込んでその空気を壊す様な素振りを見せたら、忽ち嫌われて酷い目に遭わされる可能性すら有ると思うと、潤はますます敬遠して遠くから眺めるしか無くなってしまうのでした。


 (リラちゃん、友達や先輩に何時もあんな事してるんだ……。と言う事は、五十嵐さん達も前橋部長も日浦先輩もリラちゃんの秘密、もう知ってるって事だよね?皆わたしがされたみたいに、あの魚の幽霊みたいなのの力で身体と心を皆陰でこっそり癒して貰って………。でも確かにそんな事、普通他人には言えないよね。)


 リラ達の秘密を陰で目の当たりにし、漸く自分の中で全ての点が繋がって線に変わって行くのを潤は感じていました。然し此処で、1つの疑問が潤の中に浮かんできます。


 (五十嵐さん達や先輩達、まさかあの魚の幽霊が見えるのかな?でももしかしたら砂川さん達と一緒で本当は見えてないかも知れないし………。)


 どちらにせよ、リラと葵達はあの魚の幽霊で繋がっているのは間違いない様子。ならば付け入る隙は其処しか有りません。明日になったら、思い切ってリラに全てを問い質そう。潤はこの時、そう決心しました。

 すると其処へ、潤の携帯のインスタにメッセージが届きました。それは瑠々からの物でした。


 『ジュンジュン、汐月と忍先輩の事何か分かった?』


 それを見て潤は思い出しました。リラと忍が自分達に隠れて何をしているか、自分が見に行って確かめて来ると言って、瑠々達と別れた事を………。

 魚の幽霊の力を使って忍達を癒していた事は、自分も同じ経験が有る手前分かっていましたが、砂川達の話からも何も知らない一般人が信じてくれるとは思えません。


 『リラちゃん、日浦先輩と前橋部長、それと五十嵐さんに凄く上手にマッサージしてた。皆気持ち良さそうだったよ!』


 返答に困った潤は止むに止まれず、そう当たり障りの無い返事しか出せずにいました。


 『マジで!?じゃあ今度わたしもやってもらおっかな♪』


 (ごめんなさい瑠々ちゃん……半分嘘吐いちゃって………。でも、本当の事を確かめたらその時はキチンと言うね?)


 本当の事を言わない後ろめたさを感じながら、潤はそう決心して自宅のマンションへ続く道を歩いて行きました。


 「飯岡さん、ちょっと良い?」


 その時、突然目の前に真理愛が現れました。相変わらず自分を睨み付けて来る為、どうにもやり辛い相手として潤は彼女に苦手意識を持っていました。


 「さ、漣さん?どどど、どうしたの?」


 因みに余談ですが、潤は2年3組で真理愛は2年1組、そして瑠々と水夏は2年5組に在籍しています。


 「前から言おうと思ってたけど、どうして今更水泳なんてやってるの?」


 真理愛のその言葉に、潤は呆気に取られました。まるで自分が水泳をしてはいけないみたいな口振りです。


 「えぇっ?そ、そそそ、それは、その………」


 「ねぇ、どうして其処で言葉に詰まるの?」


 相手の強い語気に圧された潤は顔を赤らめたまま俯き、そのままモジモジするしか出来ずにいました。そもそも彼女が辞めた切っ掛けは、自分の胸の発育の良さを男子にからかわれた事が切っ掛けでその羞恥心からです。

 ですが潤としては当然、そんな事は恥ずかしくてとても言えた物ではありません。元々気が弱くて内気だった潤は、真理愛から何を訊かれても沈黙を守るのが精一杯です。


 「………言いたくないなら良いわ。でもね、これだけは言っておくわ。私は貴女の事を許さないから!勝手に水泳を辞めて逃げた貴方の事だけは……絶対に!!」


 尚も強く、それでいて高圧的に言い捨てると、真理愛は踵を返して去って行きました。その後ろ姿を潤は、只々黙って見ている事しか出来ません。


 (漣さん、どうしたんだろう?怒ってる筈なのに、何だか泣いてるみたい………。)


 リラと同じく澄んだ藍色の瞳は、遠ざかって行く真理愛の背中をそんな風に映し出していました―――――。



 翌日、学校のプールで何時もの様に霧船女子は練習に励んでいました。リラも例外では有りません。何時も通り練習に精を出す傍ら、プールの水霊達と戯れるリラの姿を、潤は何時に無く真剣な目で見つめていました。

 尤も、そんな潤の事を更に真理愛は相変わらず目の敵と言わんばかりに睨んでいましたが……。


 「今日は此処まで!練習もそうだけど、皆しっかり身体をいたわって。それじゃあ解散!」


 「お疲れ様でした!!」


 やがて空が黄昏の色へと染まる頃、みちるの締めの言葉と共にその日の練習は恙無く終わりました。


 「ふーっ、今日も一杯泳いで疲れちゃった。」


 「汐月、また宜しく頼むぜ!」


 「はい!任せて下さい!」


 みちると忍に頼みを、リラは何時も通り快諾します。すると其処へ思い掛けない相手からの声が掛かりました!


 「じゃあさじゃあさぁ汐月、私にもマッサージやってくれない?」


 突然瑠々が自分にもマッサージをやってくれと頼んで来た物だから、リラはビックリすると同時に困惑しました。マッサージ?一体何の事でしょう?

 瑠々は手を後ろ手に組んだ姿勢で、期待の眼差しで目をキラキラさせながらじっとリラの顔を見つめています。


 「…あの、星原先輩……マッサージって何の事ですか?」


 数秒の沈黙の後、瑠々からの不意討ちに対して言葉の出ないリラに替わって尋ねたのは葵でした。


 「だって汐月、何時も忍先輩に練習の後やってんじゃん?何時も部長や五十嵐達と着替え終わった後にどっか行っちゃってたからずっと気になってたんだけど、忍先輩が故障しない様にしっかりマッサージして身体の調子整えてあげてんでしょ?ついでに部長や五十嵐達もさ!」


 その言葉を聞いて、水霊(アクア)関係者全員の顔に無意識の内に苦笑いが浮かびました。確かにリラが忍にアクアリウムを施す時は、決まって2年の先輩達の居ない場所でやってましたし、その時はみちるや葵達も付き添います。特に6月に入ってからは総体へ向けてより練習に力を入れて取り組んでいる為、忍以外にもアクアリウムを施す事も多くなりました。

 ですがそれでは一般人の2年生からすれば蚊帳の外にされていると思われ、怪しまれるのも無理は有りません。


 「ジュンジュンが昨日、練習帰りに偶然皆の事目撃したんだけど、教えてくれた時には『やっぱりね!』って思ったよ!写真が有ったらもっと良かったけど!」


 「私も後で瑠々からLINEで教えて貰ったけど驚いたわ。汐月、貴女がマッサージが上手って言うのは本当みたいね!」


 続く瑠々と水夏の言葉に、リラ達は呆然となったのは言うまでも有りません。その言葉と同時に、6人の視線は一気に潤の方へと向かいます。まさか彼女に目撃されていたとは……。


 「…………取り敢えず飯岡先輩、更衣室行って着替えましょ?話はそれからで良いですよね?」


 暫くフリーズしていたのから漸く立ち直ると、リラは何とか喉からその言葉を絞り出しました。

 その間も真理愛はずっと潤を不機嫌そうに睨み付けていましたが、それに気付いていたのは視線を感じていた潤だけでした―――――。



 更衣室に戻って制服に着替え終わると、瑠々は早速リラにマッサージをせがんで来ます。


 「ねぇ汐月、忍先輩が終わったら次わたしにもやって頂戴♪身体が重たくて重たくて仕方無いから、ね?」


 するとリラは他の葵、深優、更紗、みちる、忍の5人と一瞬アイコンタクトを取ったと思うと、直ぐに口を開いてこう言いました。


 「その前に私、飯岡先輩に話が有るんです。漣先輩と星原先輩と濱渦先輩はちょっと外へ出てて貰えませんか?」


 「えっ?どうして?」


 「良いから飯岡以外は表出ろ!あたしが良いっつーまで入って来んなよ!?」


 「ホラ、分かったら早く出る!」


 急に潤以外は出て行けと急に言われ、真理愛達は困惑しました。然し、忍とみちるの手によって潤を除く2年生3人は、そのまま更衣室から追い出されてしまいます。


 「何で急にわたし達の事追い出す訳?」


 「此処に来てまた除け者なんて酷くない?」


 瑠々と水夏が口々にそうぼやく中、真理愛は何も言わずに黙ったまま、依然険しい目で扉の向こうを睨んでいました。いいえ、正確には扉の向こうの潤の事をずっと――――――。

 さて、更衣室でリラ、葵、深優、更紗の1年生4人組と部長のみちる、エースの忍の6人に囲まれ、潤は思わず委縮してしまいます。

 完成された仲良しグループのコミュニティに、部外者の自分1人が割って入るなんて物凄い後ろめたさです。自身が完璧に場違いな異分子なのは痛い位自覚している手前、早くこの場から居なくなりたい気持ちで一杯でした。

 けれど、リラの事でどうしても訊かなければ行けない事があるのもまた事実です。


 (本当だったらリラちゃんと2人っきりで話がしたかったのに、何で……?何でわたし、こんな状況になってるの――――――――――――!?)


 無数の獰猛な(ふか)が犇めき合う冷たい海底へと、1人投げ込まれた様な恐怖と心細さに潤の心は支配されていました。

 そんな中、先に口を開いたのはリラでした。


 「本当なんですか飯岡先輩?昨日私がアクアリウムで先輩達と葵ちゃんを癒してた所を見掛けたのは?」


 自分と同じ澄んだ藍色の瞳を真っ直ぐ己の顔へと向け、そう尋ねて来るリラに対して潤は答えます。


 「え、えぇ………本当よ。リラちゃんが魚の幽霊と海老と鰻の幽霊を使ってわたしにしたみたいに、先輩達を“癒して”たんでしょ?良く分からないけど……。」


 「魚と海老と鰻の幽霊?もしかして、水霊(アクア)達の事言ってんのか?」


 潤の言う幽霊の正体について忍がそう推測すると、みちるも潤に尋ねます。


 「『わたしみたい』に?それってつまり、飯岡は汐月からアクアリウムで癒されたって事なの?」


 「は、はい……。」


 「みちる部長、忍先輩、実は飯岡先輩って、リラがこの学校に入学して初めて癒した相手なんです!」


 そう言って葵と深優と更紗が事情を説明しました。

 4月の入学式から2週間後に初めてリラと友達になり、中庭で昼食を摂っていた時に窓から上履きを放り投げられる等の虐めに潤が遭っていた事―――――。

 そしてその虐めっ子だった3人の女子と一緒に、潤自身もアクアリウムでリラに癒されてもう虐められなくなった事実―――――。

 同時にその場面を葵が目撃した事を機に、深優と更紗も芋蔓式にリラの秘密を知って共有する様になった事を―――――。


 今までの一連の出来事を話した時、みちると忍の顔には納得の表情が浮かんでいました。


 「成る程ね。水泳部に来たのも、元は学園の穢れの掃除の一環だったんだ―――――。」


 「けど、そのお陰で結果としてあたしは救われた訳だし、こいつ等も飯岡も水泳部に目出度く入ってくれたんだし良いじゃねぇか!」


 「そうね。切っ掛けはどう在れ、汐月達には色んな意味で感謝してるわ。お陰で私達、こうやって水霊(アクア)で繋がった仲間同士お近付きになれたんだし♪」


 そんな遣り取りをしている2人に対し、先程から黙って話を聞いていた潤は唖然としながらこう言いました。


 「先輩達とリラちゃん達が仲良しになってたのって、そう言う理由が有ったんですね……。あの魚の幽霊―――アクアって言うのが切っ掛けで繋がれたんだ………。」


 潤がそう呟いていると、リラは漸く本題に入りました。そう、自分達の昨日の様子を潤が目撃した事に関してです。


 「飯岡先輩、私がアクアリウムで先輩達を癒してたのを見掛けたのは公園の外でなんですよね?」


 「えぇ、そうよ。それがどうかしたのリラちゃん?」


 潤の言葉を受け、リラは怪訝そうな顔で返します。


 「でも可笑しいですね。水霊(アクア)って普通、水霊士(アクアリスト)がアクアリウムの力で展開するアクアフィールドやブルーフィールドの範囲内に入っていないと一般人には見えない筈です。そして昨日私がそれを展開したのはあの公園の中でも先輩達と葵ちゃんが座ってたベンチの周りだけ。公園の外からは絶対に見えない筈なのに……。」


 リラがそう言い終るや否や、潤はハッと目から鱗が落ちた様な気になりました。砂川達が見えていないのは、アクアリウムの能力の適用範囲外では一般人は水霊(アクア)を見る事が出来ないから!ならば自分は何故あの日以来、水霊(アクア)を見る事が出来る様になったのか、その鍵はリラに訊けば分かると言う確信を得たのです。

 待ってましたとばかりに潤は、声を大にしてこう叫びました。


 「それなんだけどリラちゃん、わたし見えるの!リラちゃんからアクアリウムで癒されてから、その水霊(アクア)って言うのがあちこち泳いでる所が!!」


 爆弾発言とも言うべき彼女の言葉に、忽ち更衣室には数秒の沈黙が流れました。やがて――――――。



 「…………………………えっ?えええええええぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~ッ!!?」



 更衣室中に驚愕の声が上がります。


 「何か更衣室の中、五月蠅くない?」


 「潤、あの6人と何を話してるんだろうね?」


 退屈そうにスマホを弄りながら瑠々と水夏がそうぼやいていました。真理愛は依然険しい目で扉の向こうを睨んでいます。



 「ア、水霊(アクア)が見えるって……。」


 「マジかよ……?」


 葵と忍が信じられない表情でそう呟くと、リラも気を取り直して尋ね返します。


 「ほ、本当なんですか?飯岡先輩……?私、今アクアリウムの能力使ってませんけど、本当に水霊(アクア)がアクアリウム無しで見えるんですか?」


 念の為にリラが尋ねると、潤は早速それを証明せんとするが如くあちこちを指差してこう言いました。


 「本当なの。リラちゃんの近くにコバルトブルーの大きな魚が泳いでて、更衣室中のあちこちをグッピーやエンゼルフィッシュやディスカスみたいな魚が一杯泳いでて、窓の外には昨日見た大っきな海老と鰻、それから日浦先輩の足元にも大っきな鯰が居るわ!あっ、それとロッカーの陰には小っちゃい蟹やヤドカリみたいなのも居る!」


 恐る恐るリラがアクアリウムの能力を発動して一般人でも水霊(アクア)が視認可能な状態にすると、潤の言った通り本当に更衣室の周囲にはテミスを始め、グッピーやエンゼルフィッシュ、ディスカス型の下級水霊(アクア)達が泳ぎ回っているではありませんか!

 更に窓の外には昨日お世話になったノアリリアとマヌンダの2体、忍の足元にはドリス、そしてロッカーの陰にも確かに水棲甲殻類型の下級水霊(アクア)が蠢いています。


 「うわ、先輩の言った事、全部当たってる……。」


 「信じられないけど、見えてるのは本当なんだ……。」


 リラ以外に水霊(アクア)を素で見られる一般人の登場に、深優と更紗が唖然とそう呟きます。周りの子達も声も有りません。

 けれど、リラはそんな中で落ち着いて尋ねます。


 「飯岡先輩、私ビックリしました。まさかアクアリウムを使わないで水霊(アクア)が見える人が私以外に居るなんて……。一体何時からそんな事が出来る様になったんですか?」


 その問いに対し、潤は徐にリラの両手を握ると、待ってましたとばかりにこう答えました。


 「リラちゃん、貴女がわたしを助けてくれたあの時から、いいえ、貴女がわたしと最初に会った時からよ。」


 潤の口から出た答えに、リラは再度驚愕するしかありませんでした。まさか最初から水霊(アクア)が見えていたなんて―――――!!

 けれど彼女の瞳を良く見ると、自分と同じ藍色の瞳の色をしています。もしかして彼女は自分と同じ水霊士(アクアリスト)なのでしょうか?いいえ、水霊(アクア)の存在を知らなかった所からそれは違うでしょう。

 再び頭の中が混乱しそうになると突然、近くを泳いでいたテミスが人間態になって現れて助け舟を出しました。


 「それはねリラ、この子が水霊士(アクアリスト)の素質を持った人間だからよ。」


 テミスから発せられたその言葉に、再びその場にいる全員が驚愕に凍り付きました。


 「嘘……?」


 「飯岡先輩が……」


 「水霊士(アクアリスト)の……素質を持った人間?」


 「じゃあ、こいつもこれから汐月と同じになるかも知れねぇって事か?」


 「でも、さっきからの話の流れからしても、それ以外考えられない……。」


 周囲がそれ以外の言葉を失って呆然とする中、リラが気を取り直して尋ねます。


 「そんな大事な事、どうして黙ってたんですか先輩?」


 潤は言います。


 「だって……リラちゃん五十嵐さん達や日浦先輩達と仲良しそうだったし……その輪の中に今更割って入るのもどうかって思うし……。それに、リラちゃん以外の皆が水霊(アクア)の事知ってるなんて思わなかったから、いきなりそんな事言われたって信じて何て貰えないだろうって遠慮して……。で、でもわたしだって、リラちゃんと2人っきりになれたら話せてたんだよ?なのに、そのチャンスが全然無くって………。」


 その言葉に、漸く一同は納得しました。


 「要するに、お互いがお互いを良く知らなかったのと、飯岡の私達への敬遠が招いた擦れ違いだったのね……。」


 「まっ、普通水霊(アクア)なんて言われたって汐月以外誰も信じる訳無ぇだろうしな。あたしだって汐月と会って癒して貰わなかったらずっと知りも信じもしなかった訳だし……。」


 「ごめんなさい、飯岡先輩。私がもっとキチンと先輩の話を聞いてれば良かったのに……。」


 「良いのよリラちゃん。お陰でずっと胸に閊えてた物が取れてわたしもスッキリしたから!」


 そんな遣り取りが更衣室の中で延々と繰り広げられていたその時でした。突然ドアが開いて瑠々達が乱入して来ました!


 「ねぇ汐月!何時まで話してんの?もう良いでしょ!早くマッサージしてよ!」


 「ちょっと瑠々!まだ先輩達入って良いって言って無いでしょ!?」


 「ごめんなさい汐月さん。みちる部長、忍先輩、後で瑠々には言って聞かせますから!」


 真理愛の謝罪を受け、みちると忍はやれやれと溜め息を吐いて言いました。


 「良いわ。もう話は終わったから。」

 

 「つーかお前等、そんなにこいつから癒して貰いたいのかよ?」


 忍の「癒す」と言う言葉に、その場にフェードインした潤以外の2年生達は目が点になりました。


 「汐月、1年のお前等と3年のあたし等だけ全部知ってて2年のこいつ等除け者にすんのも可哀想だ。話しても良いだろ?」


 忍がそう言うとリラは一瞬驚きましたが、直ぐに改めて頷きます。

 先に司会進行役を買って出たのはみちるです。


 「良い皆、先ずは落ち着いて話を聞いて頂戴。汐月は―――――」


 そうして葵達は瑠々達にも説明しました。

 リラが水霊(アクア)と呼ばれる水の精霊を使役するアクアリウムと言う特殊能力を使い、人々の身体を構成する水の穢れを取り除く事で心身を癒し、病気や怪我や疲労を回復させる水霊士(アクアリスト)である事を―――――。

 同時に自分達もまた、リラのアクアリウムを身を以て経験した者達であると言う事を―――――。


 「し、汐月さんが水を癒す水霊士(アクアリスト)って……。」


 「そ、それって漫画か何かのフィクションなんですか?」


 「ぶ、部長や先輩まで一緒になって何を言ってるんですか?」


 当然と言うべきか「信じられない」と言う表情でそう返す瑠々達に対し、葵がこう返しました。


 「信じられないかも知れないけど本当なんです。嘘じゃない証拠だってキチンと有ります。リラ、アクアリウムを見せてあげて!」


 「ついでに実演してやれよ。練習の後にお前があたしにやってる“何時ものあれ”をな!」

 

 「はい、忍先輩!葵ちゃん!」


 葵に促されてリラがアクアリウムを展開して周囲を泳ぐ水霊(アクア)達を見せる事で、瑠々達は漸く信じる気になりました。

 そうしてリラは水霊(アクア)達を操り、クラリファイイングスパイラルで忍を包み込むと、その力で彼女を癒してみせます。

 更に窓の外に居るノアリリアとマヌンダの2体を呼び寄せると、彼女達の力を借りてマッサージを希望していた瑠々と水夏の2人の身体を癒しました。

 

 「ふぅ、ビリビリに痺れたけど気持ち良かった。忍先輩、汐月からこんな風に身体メンテして貰ってたのね。」


 ノアリリアに癒された水夏が納得と言わんばかりにそう言うと、それに続くのはマヌンダからクラリファイイングスパイラル入りのマッサージを受けた瑠々です。


 「そりゃ一般人のわたし達には言えないよね。って言うかまさか海老からマッサージされる日が来るなんて、夢にも思わなかったよ。って言うかジュンジュン、あんたがメールで言ってたのってこれだったの?」


 「え、うん。でもわたし、嘘は言ってないよ。本当にマッサージで癒してたのは本当だし、それがこんな水霊(アクア)の力でやってる物だって言ったって信じてくれる訳無いから……。」


 「それはそうよね。デンキウナギとテナガエビから身体の疲れを取って貰いましたなんて話、言ったって誰も信じる訳無いし。」


 2年生女子の4人が口々にそう言うと、更にリラが言いました。


 「折角ですから先輩達も見て見ませんか?自分の内に宿る水霊(アクア)がどんな物かを。」


 「えっ?何々?内に宿る水霊(アクア)って何なの?」


 そう言い終ると共に、突然4人の中から何かが飛び出して来ました。それは2年の子達の内なる水霊(アクア)です。

 4人の内なる水霊(アクア)はそれぞれ潤がダークブルーの身体に白いスポットのアグア・プレコ、 真理愛が白地に黒いグラデーションの入った身体に、赤と青のオッドアイをしたロリカリア、瑠々が青紫のベタ、そして水夏が金色のラインが入った青黒い鰻でした。

 

 「凄い、こんなのが私達の中に居るんだ……。」


 「へぇ、わたしの水霊(アクア)って言うの、中々カッコ良いじゃない!」


 水夏と瑠々が小並……もとい、率直な感想を述べると、4人とテレパシーで対話していたリラが言いました。


 「4体の名前ですけど、先ず飯岡先輩の水霊(アクア)は『ステラ』、漣先輩の水霊(アクア)は『シュトラーセ』、星原先輩の水霊(アクア)は『シュロ』、そして濱渦先輩の水霊(アクア)が『レイン』です!」



 同時に葵、深優、更紗、みちる、忍のそれぞれの内なる水霊(アクア)であるアンジュ、ブルーム、プラチナ、ノーチラス、ヴァルナ、そしてリラの内なる水霊(アクア)のクラリアと彼女の保護者とも言うべき上級のテミスが一堂に介すると言う何とも壮観な風景が、霧船女学園水泳部の更衣室には広がっているのでした。

キャラクターファイル19


マヌンダ


年齢   無し

誕生日  無し

血液型  無し

種族   水霊(アクア)

趣味   健康体操(ヨガ等)

好きな物 手芸


中級水霊(アクア)。パールブルーのテナガエビに似た姿をしている。ユーラシアから北アメリカまで、北半球を中心に循環する水霊(アクア)で、日本にも良くやって来る。

手先が非常に器用で、寄せては返す大小も強弱も様々な波の様にその長い手を駆使して様々な作業や工作を行う。水霊士からはマッサージ要員として重宝され、クラリファイイングスパイラルを両手に纏っての肩揉みや指圧、整体マッサージは折り紙付き。

ノアリリアと共に蒼國にも良くやって来る上、性格も温厚な為、リラも御用達の存在である。

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