第16話 濾過フィルターはディアフレンド
お待たせしました!エピソード葵開始です!一話完結ですが!!
「じゃあ更紗ちゃん、私達もう帰るね。」
「バイバイ更紗!」
「サラサラ、また明日ね!」
そう言って更紗の家を後にしたリラ達3人は、一路帰宅の途に就きました。
道すがらガールズトークに興じる3人。話題に上ったのは言うまでも無く、テミスの事でした。
「それにしても驚いたよね。まさかテミスがリラのお祖母ちゃんの高校時代の頃にそっくりだったなんてね。」
「この世の中って自分とそっくりな人が3人居るなんて言うけど、あれはそっくりなんてレヴェルじゃないよ。まんまテミス其の物って感じだった。」
「いや、私のお祖母ちゃんがテミスそっくりなんじゃなくって、テミスがお祖母ちゃんそっくりなんでしょ?逆じゃない深優ちゃん?」
しず枝の一件が片付いてから、テミスはまた元の調子を取り戻し、リラが何か有った時の相談役として元通り機能する様になりました。
「でもこうやって見ると、リラが困った時に色々教えてくれるテミスってまるで“お婆ちゃんの知恵袋”だよね。」
「葵も随分と古い言葉知ってるね~。」
IT全盛のこのご時世、お年寄りなんかに頼らなくても知りたい事はネットで検索すれば、簡単に知る事が出来ます。長く生きた老人固有の知識も経験も、急流と化した時代の変化の中では、その継承の必要もほぼ無くなって久しい。
況してや平均寿命が伸び過ぎ、能力が衰えても簡単に死ねない年寄りが増えた現代で、彼等が尊敬される事なんて先ず有り得ません。辛辣なまでに口の悪い人間からすれば「老害」だの、「さっさと死ね」だのと毒づかれても仕方の無い存在に成り下がったと言えるでしょう。
老人の価値が下がり、尊敬される時代が終わったとされる今の世の中、葵の口にした“お婆ちゃんの知恵袋”と言う言葉も、そうした意味では時代遅れの死語と言っても過言では無いのかも知れません。
そんな中でテミスの力添えのお陰とは言え、80を過ぎて尚声優として精力的に活動を続けて支持されるしず枝は、まさしく稀有な存在と言えましょう。
(でも、考えてみれば私、テミスの事を何も良く知らない……。水霊士としての私の活動であれこれ言って来ても、それ以上の事は何も話してくれないから………。)
葵と深優の話を聞きながら今回の事を受け、リラは改めてテミスと向き合う決心をしました。水霊士としてこれから更に活動して行くにも、テミスの存在はリラにとって欠かせないそれ。
然し、素性も何も詳しく知らない相手を受け入れて一緒にやって行く事など到底出来る筈も有りません。
テミスの事を理解する第一歩目として、先ず彼女とユラの関係をしっかりと知らなければならない。
そう判断したリラは、思い切ってテレパシーでテミスに呼び掛けました。
(テミス!)
直ぐに相手からの返事が来ます。
(どうしましたか、リラ?)
更紗の家で知った疑問を、リラはテミスに堂々とぶつけます。
(貴女とお祖母ちゃんって一体どう言う関係なの?)
テミスから返って来るのは沈黙だけでした。然し、リラは怯まずに続けます。
(お祖母ちゃんの高校時代の姿、テミスにそっくりだった!それに何よりこの前、お祖母ちゃんの親友だったしず枝さんが死んだ時だって、力尽くでも助けようとしたでしょ?どうしてそんな事したの?)
其処へ漸くテミスからの返事が返って来ました。
(只の気紛れよ―――――。)
(嘘よ!気紛れにしたって色々出来過ぎてる!こんなに色々偶然が重なって、本当にお祖母ちゃんと何の関係も無いなんて信じられない!)
テミスからの返事の言葉を否定し、リラは尚も食い下がります。
(ねぇ答えてテミス!私、テミスの事もっと良く知りたいの!貴女の事何にも知らなかったら、私だってテミスの事怖くて信じられないよ!)
その言葉に、テミスは自分の中で何かがさざめくのを感じました。同時にリラに対する認識も少し改めました。
そう―――――『彼女はもう、人形宜しく自分の言う事を聞いてその通り盲目的に従うだけの人間では無く、自ら考えて動くだけの“自分”を持ち始めている』、と。
(―――――残念だけどリラ、その話は貴女には未だ早いわ。時期が来たら話してあげるから、今は我慢して水霊士としての使命を遂行しなさい。)
然し、テミスは敢えて心を鬼にすると、そう返し突っ撥ねるだけでした。
(そんな、どうして………?)
納得の行かないまま、リラは愕然とその場に立ち尽くすしか出来ずにいました。折角の決心を挫かれたリラは、只その場に茫然となるだけです。
「リラ、一体どうしたの?さっきからずっと黙ったままだけど?」
ずっとテミスとテレパシーで会話して、自分達の話に参加して来ないリラの事を心配した葵がそう話し掛けて来た為、リラはどうにか気を取り直して葵と深優と3人、取り留めの無い話をしながら自宅アパートへと帰って行きました。
それからもリラは諦めず、他の水霊達にユラとの関係を始め、テミスに関する事柄を訊ねて彼女の事を聞き出そうとしますが、テミスが予めリラに自分の事を話さない様に仲間達に触れ回った為か、誰も何も話してはくれませんでした。
どうして其処までしてテミスがリラに自分の出自を話したがらないのかは分かりませんが、此処まで箝口令を徹底するその姿勢は、逆にテミスが自分に対して極めて重要な秘密を隠している事の証明に他なりません。
「どうしてなの?何で誰もテミスの事教えてくれないの?」
その問いに対して、水霊達が返すのは決まってこの言葉です。
(リラ、テミスを信じてあげて――――――――――――。)
テミスに対する疑問が払拭出来ないまま5月は過ぎ去り、とうとう暦の上では6月を迎えました。
「あ~めあ~めフレ♪フレ♪気持ち~はケロ♪ケロ♪」
5月31日を皮切りに、蒼國はすっかり梅雨入りしていました。けれど、こんな雨の絶えない時期にも関わらず、水を友とするリラはそれすら楽しんで登校していました。
「リラ、楽しそうだね……。」
「雨の中、傘も差さないであんな楽しそうに歩く子なんて初めて見たよ……。」
「水霊士だからなのかな?」
一緒に登校して歩いている葵、深優、更紗の3人は、自分より数歩先を上機嫌でステップすら踏んで歩いているリラに対して思い思いの感想を述べています。
リラが楽しそうなのは更紗が指摘した通り、水霊士として降って来る雨の中の水霊達との楽しい対話に耽りしながら歩いている為と言うのも勿論有りますが、実はそれだけではありません。
何と、元々リラは『雨其の物が好き』だったのです!
雨が降った時、優しく洗われた清新な空気が肺の中に満ちて行く感覚が、リラは堪らなく好きでした。
降り注ぐ雨によって、大地の木々や草花が成長して行く姿を見るのも、雨上がりに新緑が鮮やかに生える様も、リラの心を嬉しくさせました。
勿論土砂災害や、全身がずぶ濡れになる様な過度な土砂降りは流石に頂けませんが、そうでないなら冷たい雨に濡れても良い――――そんな考えをリラは持っていたのです。
水霊士として覚醒して以降、水霊の力を借りて傘すら差さずに全身を天から降り注ぐ雨に晒し、プールで泳ぐ時と同様に水霊達と対話して歩く様になりました。
そんなリラにとって、雨の雫は空からの涙では無く、雨音も悲しみの声でもありません。寧ろその逆で前者は水霊達からの祝福、そして後者は水霊達の喜びの歌なのです!
「ねぇ、リラって雨が好きなの?」
学校に着いた時に葵がそう尋ねると、リラは大きく頷きました。彼女は言います。
「うん!だって雨って水霊士に似てるから♪」
「雨が水霊士?」
深優が首を傾げると、リラが答えます。
「雨は地上を綺麗にしてくれるでしょ?空気を綺麗に掃除して、乾いた地面を癒して水の恵みを与えてくれるでしょ?そんな雨は、水霊士其の物だって思うわ。」
「成る程ね……。」
納得とばかりに更紗がそう答えると、リラは尚も雨の降り続く窓の外の景色を眺めながらこう内心で呟きました。
(そう………私も、そんな雨みたいになりたいって思う――――――。)
夕暮れのPM18時、部活動が終わって何時もの下校時間がやって来ました。雨は午後の昼下がりに上がり、空は素晴らしい程に美しいオレンジ色の夕陽で彩られています。
「あぁ~今日も一杯泳いで気持ち良かった♪」
「もう、リラったら何時もそれよね!」
「でも気持ちは分かるよ。水霊士にとって水泳って本当に相性良いみたいだし、リラっちにとって入って正解だったね♪」
「それは深優も一緒なんじゃ……。」
顔を赤らめて胸元を両手で押さえながら、若干迷惑そうに更紗がそう突っ込みます。どうやら今日も更紗は深優の毒牙に掛かった様でした。
4月末に入部して以降、ゴールデンウィーク明けのプール開きまで市民プールで本格的に先輩達と泳ぐ様になり、本格的なプール開き以降はそちらを主な活動場所としてずっとリラ達は泳ぎの練習に励んで来ましたが、深優は何とその1ヶ月間で忍とみちる、真理愛と潤と縷々と水夏、そして葵と更紗と何とリラまで全員の胸を揉みしだいていました!
当然他の子達からは迷惑がられていますが、深優は全く懲りる気配が無いので台風の様な物だと思って皆半ば諦めているのが現状でした……。
「いやいや♪先輩達もリラっちも葵もサラサラも成長してて私超嬉しいよ♪タイムも胸も♪」
「コラァッ!!調子に乗るなこの馬鹿深優~~~~~ッ!!」
深優のやや上から目線な物言いにカチンと来たのか、葵は怒って意趣返しとばかりに深優の胸を揉み返します!
「あっ!葵何すん……ひやああああぁぁっぅううんッ!?」
「ちょっと葵ちゃん!他人が見てるかも知れないのにこんな……」
すると其処に、聞き慣れない男の声が耳に飛び込んで来ました。
「ん?あれ、五十嵐?」
「えっ?」
「あっ!」
思わず葵と深優が声のした方を向くと、其処にはリラと更紗の知らない見知らぬ黒髪の高校生男子の姿が有りました。運動部の練習で走っているのか、上も下もジャージ姿です。
「ハ、ハル君!?」
「久し振り!龍洋行ったみたいだけどまさかこんな所で会うなんて!」
不意に遭遇したその男子に対して葵と深優が話し掛けると、相手も懐かしさからこう返します。
「あぁ、吉池も久し振りだな!2人とも元気そうで何よりだよ。」
突然現れて葵から「ハル君」と呼ばれた男子の存在に、リラと更紗は驚き戸惑いましたが、意を決してリラが深優に尋ねます。
「ねぇ深優ちゃん、この人誰なの?」
「あぁ、リラっちとサラサラは知らないんだったね。私と葵の中学時代の同級生で、名前は『陸奥春馬』君だよ。葵や私はハル君って呼んでる。前に1回話したけど忘れちゃった?」
「そっか、彼が前に話してた「ハル君」だったんだ……。」
深優からそう説明されて、リラは漸く思い出しました。最初に3人と中庭で昼食を摂った時に少しだけ話題に上った人物で、確か葵が片想いしており、久し振りに出会った際にテンパった挙句近くの川に落っこちたとか……。
その件の人物がまさかこんな目の前に思いがけず現れるとは、何と言う偶然の廻り合わせでしょう!改めて葵を見ると、片想いと恥じらいのジレンマの中で顔を赤らめてそわそわするばかりでした。
「何だ、新しい学校の友達にはもう話してたのか……まぁ良いや。改めて名乗るけど、俺の名前は陸奥春馬。五十嵐と吉池の2人とは同じ中学に通ってて今は龍洋で陸上部やってるぜ!えっと、君達2人は……」
さっき深優から説明されたのに改めて自己紹介をする所からも、陸奥と言う男子は礼儀正しい青少年と言う印象を受けました。片想いとは言え、葵が恋愛感情を抱くのも頷けます。
此処までされて自分達も自己紹介しない訳には行きません。男の人には女子以上に免疫の無いリラですが、勇気を出して名乗りました。
「あっ……いや、わ、私の名前は汐月リラです。霧船の1年生で、葵ちゃんと深優ちゃんと一緒に水泳部……です。」
「私は長瀞更紗。葵と深優と同じクラスの友達よ。」
「汐月と長瀞か。宜しくな!」
そう爽やかに返すと、改めて陸奥は葵の方を向いて言います。
「けど驚いたぜ五十嵐。中学ん時は陸上でマネやってたのに、高校入ったら水泳だなんてさ。てっきり高校でも陸上だって思ったんだが…。」
何と、葵は中学時代は陸上部に所属してマネージャーをやっていた様です。彼女が陸奥に惚れたのも、そんな彼の姿を間近で見ていたからなのでしょう。
「えっ?あっ、そうだねハル君!普通そうだよね!中学の時と高校で違う部活なんて、やっぱ可笑しいよね!」
意中の男子が不意に近付いて来る為、葵はどぎまぎして思わず後退りしてしまいます。
(あ、これってまさか……。)
この展開のオチが読めたのか、深優は苦笑いを浮かべて事の成り行きを見守るだけでした。
「いや、別に可笑しいとかそんな事は無いと思うけど……って言うか何後退りしてんだよ五十嵐?」
「そ、そんな事わあああぁぁぁ~~~~~~~~~~ッッ!!!」
ドッボ―――――――――――――――ン!!!
歴史は繰り返すとは良く言った物です。意中の男子との思わぬ再会にテンパった挙句、葵はそのままうっかり近くの水路に足を滑らせて転落してしまいました。
「葵ちゃん!?」
「葵!?」
(あちゃ~…やっぱりこうなったか……。)
思わぬハプニングに声を上げるリラと更紗ですが、展開が読めていた深優は別段驚く事も無く、相変わらず苦笑いしながら幼馴染みの醜態を傍観しているだけでした。
「ハァ~~ッ……何やってんだよ全く………。」
溜め息を吐きながらやれやれと手を差し伸べて葵を助けると、陸奥は持っていたタオルを貸し与えました。
「あ、有り難う……ハル君………。」
「良いよ別に……タオルは後で返してくれて構わないぜ。じゃあ俺は練習残ってるからまたな!」
そう言い残すと、陸奥はそのまま走り去って行きました。遠ざかる彼の後姿を、葵は赤らめながら何時までも見守っていました。
遠ざかる陸奥を見送った後、リラ達は葵の家に立ち寄りました。自宅に着くなり、葵はいの一番に制服からジャージ姿に着替えます。靴下もずぶ濡れになったので、当然脱いで足は素足です。
「『エナ』、葵ちゃんの制服から水を抜き取っておいて。」
(ほいほ~い♪)
チョウザメに似た、エメラルドグリーンの中級水霊であるエナに、水路に転落してずぶ濡れになった葵の制服と靴下の脱水をリラは依頼しました。
エナが仲間である他のチョウザメ型水霊達を呼び寄せ、葵の制服にたっぷり浸み込んだ水分を吸収している間、リラ達は葵の自室に足を運びます。
その後、葵が3人の為にジュースとお菓子を持って遅れてやって来ると、それを床の卓袱台の上に置き、設えられた座布団にリラと更紗を座らせました。
「ふふっ♪私の部屋へようこそリラ、更紗!まさか2人をお招きする日がこんなに早く来るなんてね♪」
そう言ってリラと更紗を歓迎する葵の言葉を受けて、2人は気付きます。『自分達は今日、初めて此処に来たのだ』と言う事実に―――。
「そう言えば、葵ちゃんの家に来て部屋にまで入ったのって今日が初めてだよね。」
「あぁ、確かに……。」
葵の部屋は中々に小綺麗で、ぬいぐるみ等の如何にも女の子らしいインテリアが設えられていました。
「ねぇ、でもあれって……。」
ですが本棚を見ると、少女漫画の他にも何故か同人誌まで置かれており、他にも深優と一緒に遊んでいる物を含めた色んなゲームまで有りました。
「あぁ、その同人誌や漫画は私が貸してるんだよ?んで、ゲームだって葵と一緒に遊ぶ為に一緒に買いに行った奴ね♪」
「やっぱり深優ちゃん絡みだったんだ……。」
「幼馴染みの趣味に一々付き合うなんて葵、無理してない?」
「え?別にそんな事無いよ?普通に面白いって思うから。」
改めて葵が深優と言う水質に見事に適応出来ていると言う事実を、リラと更紗は再認識させられました。無駄にコミュ能力が高く、相手の趣味、嗜好に苦も無く合わせられる。
やはり葵はどんな器にも収まる水の様な柔軟さの持ち主なのだと言う事実を、リラは此処でも実感させられたのです。然しそうでなければ、こんな一歩間違えば相手からドン引きされる様な趣味を持った子と幼馴染みとして、長年付き合える筈も有りません。
「葵~ッ!!やっぱそう言ってくれるのって葵だけだよ~ッ!!」
「わッ、コラ深優!どさくさに紛れて胸触んないでったら!!ホラ、もう其処座んなさいよ!!」
思わず抱き着きながらセクハラを働く深優の腕を振り解くと、葵は床に敷いた座布団に彼女を正座させました。
こんな目に遭いながらも上手い事深優の手綱を握る葵はやっぱり大した物だと、2人は感心するばかりです。
一生の中で親友と呼べる人との出会いの確率は“24億分の1”とされていますが、2人はまさにそんな天文学的な確率で巡り会えた奇跡のコンビなのでしょう!
「それで葵ちゃん、さっき帰り道で会った男の子、陸奥君の事だけど……。」
恐る恐るリラが本題として、先程出会った陸奥と呼ばれた少年の事を切り出しました。
「へっ?ハ、ハハハッ、ハル君が、どどど、どうかしたの!?」
思わず顔を赤らめてどぎまぎしながら葵がそう返すと、次に口を開いたのは更紗です。
「同じ中学出てて、前に片想いしてたのは前に話して貰ったけどまさか葵、元々陸上部だったなんて意外……。」
「陸上部って言ってもマネージャーだけどね。因みにハル君は短距離走のエース。」
「ちょっと深優!私が話すから勝手に喋んないでったら!!」
バツが悪そうにそう言って深優を制止すると、葵は一呼吸置いてから自分と陸奥の関係について話しました。
「ハル君がちょっとだけ言ってたけど、私は中学の頃は陸上部のマネージャーをしてたの。皆の為にスポドリ用意したり、練習器具準備したり、それに皆のタイム図ったり掃除したり――――」
「他にも怪我や体調悪くなった選手のケアや備品の片付けと補充、グラウンドや砂地の整備、それに大会じゃ場所取りやお茶やスポドリの準備、大会の栞やお弁当の確認………やる事一杯有ったよね。」
それだけ仕事内容を列挙されると、陸上部のマネージャーと言うのも結構ハードな役目である事が実感させられます。
「葵ちゃん凄いね。それだけの仕事1人で………。」
「いやいやいや!そんな訳無いから!!私1人でそれ全部やったら過労死するから!!私以外にも先輩後輩に後2,3人は居たわよ!!」
「何だ、他にもマネージャー居たのね……。って言うか過労死は大袈裟なんじゃ……。」
更紗が冷静な突っ込みを炸裂させる中、深優が2人の為に解説を入れます。
「そんなの当たり前でしょ?でも一応葵の名誉の為に言っておくけど、葵はマネージャーとしては優秀な部類で仕事自体はテキパキこなしてたからね!」
コップに入ったジュースをグイっと一飲みして喉を冷やすと、葵は咳払いをして改めて説明をします。
「(ゴホン!)話を戻すけど、私と深優の居た蒼國第一中学校って陸上強くってさ、全国でも上位入賞の常連で、過去に1回優勝した事有る程なの。だから部員もそれなりに結構多かったの。」
(そんな中でマネージャーとして皆の面倒キチンと見てたなんて、やっぱり葵ちゃんって凄いんだ……。)
葵の言葉を受けてリラが内心そう感心します。
「そんな中でハル君は短距離走じゃぶっちぎりのエースでさ、1年の頃から一目置かれてたの。2人も見た通り彼、爽やかでカッコ良かったでしょ?そんな彼を間近でマネージャーとしてお世話出来るってだけで、私は幸せだった……。」
顔を赤らめて若干、陶酔気味に語る葵に対して深優が言います。
「良く言うよ葵。ハル君の前じゃ何っ時も真っ赤になってまともに話す処か顔も見合わせられなかった癖に……。それでさっきみたいにすっ転んだりタイム測り損ねる事だって有ったじゃん……。」
「ちょっ、恥ずかしい事バラさないでったら!!」
「要するに彼の前だと失態演じる事が多かったって訳?」
「そ!」
「コラ~~~~~ッ!!」
更紗の的確な指摘を深優は大々的に肯定した物だから、葵は顔を赤らめて声を張り上げます。
「葵姉、五月蠅いよ!」
「ごめんっ!!」
突然ドアが開いて妹と思しき少女が抗議の声を上げた為、葵は思わず条件反射で謝罪しました。
「深優ちゃん、それに葵姉のお友達ですか?不束な姉で申し訳有りません。これに懲りずに葵姉と仲良くしてあげて下さい!」
「余計なお世話よ!!」
そう言ってリラ達に頭を下げて謝罪すると、妹はドアを閉めました。
「…まぁ、取り敢えず良く出来た妹だね、葵ちゃん……。」
「有り難う……。」
そうリラからフォローされると、バツの悪い表情で俯きながら葵はそう返すだけでした。
「でもハル君も鈍いよね~。何時も葵が顔赤くしてドジ踏んでばっかだからって、『俺、何か五十嵐から嫌われる事やったの?』なんて訊いて来るんだもん。あの時は私だって『無下に扱っていないからそれは違うから!』なんて答えてフォローしたけどさ、あんだけ自分を前に顔赤くしてたら気が有るんだって気付きそうなモンなのに。男って基本、言わなきゃ分かんないニブチン揃いなのかしら?」
陸奥の事を思い出して話す深優ですが、その表情と口調には記憶に蘇る彼の鈍感さに対する呆れの感情が滲み出ていました。
「葵ちゃんがそのハル君の事が好きなのは何と無くだけど分かったわ。だったらさぁ……」
不意にリラが手を挙げて言います。そう―――――。
「思い切って告白したら良いんじゃないかな?」
……と。超特大の核爆弾にも匹敵するリラの爆弾発言に、周囲は凍り付きました。
「えっ!?えぇぇぇぇええぇぇぇっ!!?ちょちょちょちょっとリリリリラ!!そ、そんな告白なんて!!深優!!更紗!!2人も何か言ってやってよ!!」
再び顔を赤らめ、先程よりも取り乱した調子で葵がそう抗議すると、深優と更紗も賛同の声を上げました。
「ごめん、葵。私も今回ばかりはリラっちに賛成だね。」
「どっ、どうして!?」
「中学の時、葵以外にもハル君の事狙ってる子って結構居たんだよ?ハル君は鈍いから気付かないで終わったけど、高校行っても彼女がいないって保障は何処にも無いでしょ?」
深優から指摘されて葵はハッとなります。確かに、あれだけ爽やかで整った顔立ちで、陸上でも1年で頭角を現すエースだった彼の事を慕う女の子は中学の時、何人も見掛けました。
自分が陸奥の世話をしている光景を良く思わない処か、失態を演じて迷惑を掛ける場面で露骨に非難して来る相手もいました。
そう言う子と敵対した時には幸運にも陸奥が庇ってくれましたが、その事もまた吊り橋効果となり、却って葵の中で陸奥への好感度の上昇に繋がりました。
けれど、何も言えぬまま卒業して陸奥は龍洋、葵は霧船に進学してしまったのです。彼女がその事を悔やんでいたのは想像に難く無いでしょう。
「折角タオルを返すって口実まで出来たんだし、勇気を出して気持ち、伝えて見たら?私達も応援する!」
「深優――――更紗―――――よ、良ーーーし!皆が其処まで言うならこここ、告白しちゃおうかな!!」
2人からも背中を押され、葵はその気になりました。
すると其処へエナ達がドアの隙間から入って来ました。どうやら葵の制服の完全脱水が終わった様です。
「あっ、葵ちゃんの制服の脱水終わったみたい。」
その言葉を聞いて、葵はアイロンを掛けるべく、洗濯物置き場に置かれた制服を取りに行きました。
時刻も丁度18時45分を回る頃だった為、リラと深優と更紗は帰宅しました。
「いや~漸く葵もハル君に告白かぁ!葵、これで吹っ切れれば良いんだけど!」
「2人がカップルになれたら良いね。」
深優と更紗がそう話して帰る中、不意にエナがリラの耳元に囁きます―――――。
(リラ、この子達の話についてだけど―――――――。)
(え?それって――――――。)
次の日の放課後、部活動が終わってから4人は、陸奥が何時も自主練のランニングを行うコースに入っている、近くの川で待ち受けていました。
水霊達から陸奥の居所と、これから何処へ向かうのかを予め教えて貰っての先回りでした。
そして――――――。
「来たよ!」
「葵!」
「う、うん!」
オレンジ色の美しい黄昏の空の中、陸奥が沈む太陽を背に走って来ます。夕陽の中の告白とは何とも乙なシチュエーションでしょう!
葵は意を決すると、昨日借りたタオルを手に陸奥の前に躍り出ます。
「ハ、ハル君!」
「五十嵐!?何で此処に?」
昨日と同じ時間帯に、2日連続で突然現れた中学時代の同級生に陸奥は戸惑います。葵以外の3人は彼女から離れた場所で様子を見守っていますが、リラだけが浮かない顔をしていました。
「……あ、あのねハル君、き、昨日は有り難う……こ、これ、返すね!」
そう言って昨日借りたタオルを返します。
「お、おう……。」
(良いよその調子!)
(頑張って…葵!)
2人が応援する中、遂に葵が陸奥に告白しようとします。
「そ、それでねハル君、わ、わた……私……」
所が―――――その時でした!
「待ってよ、春馬君!」
突然、陸奥の背後から走って来る1人の女子の姿が有りました。青銀色の美しい髪をポニーテールで結い、同じく龍洋指定のジャージにショートパンツの女子が走って来ました。
「遅いぞ珠得!」
「ごめんごめん、マネージャーの仕事長引いちゃってさ!」
マネージャー?何の事でしょう?
突然現れた得体の知れない女子の姿に、葵の脳は混乱するばかりでした。
言うまでも有りませんが、深優と更紗の思考もこれには強制停止せざるを得ません。
間近で見た女子の顔は実に端正で、見ていて知性の高さや品格すら感じさせます。
更紗程ではありませんが背が高く、ショートパンツから下のスラっと長く伸びた白磁の様な透明感の有る脚は、太腿から脹脛、踝まで見事な脚線美を描いていました。
更に走っている時に揺れるだけの胸の膨らみも完備しているのを、深優は見逃しませんでした。
(こう言う事だったのね……エナの言ってた事って………。)
只1人、リラだけは全てを知っていました。昨日エナが話していたのはこの様な内容でした。
(リラ、この子達の話についてだけど、五十嵐葵が好意を抱く陸奥春馬にはもう意中の相手が居るよ。その名は藤本珠得―――――!)
当然、リラも何故こんなタイミングでバラすのか問い詰めましたが、エナ自身は何れ全て分かる事だから同じ事とまるで他人事の様に言う始末ですから閉口してしまいました。
水霊は元々人間とは違う存在。人間を宿主に生まれた内なる水霊なら兎も角それ以外の、語弊を恐れずに言えば野良の水霊には人間の心の機微や情緒の理解は先ず出来ません。何時ぞやのエフィアやユナーシャ、それにドリスは未だ幾分それが出来る部類ですが、残念ながらエナはそれが出来ない“その他大勢”の1体なので、「仕方無い」と割り切るしか無いのです。
かと言って折角告白を決意した葵に言う事も当然ながら出来ません。遺憾でしょうが、流れに身を任せてなる様になるしか無いのです。
「えっ?えっ?あ、あのハル君……その子は―――――。」
全身を微妙に痙攣させながら葵が陸奥に尋ねると、相手はそんな葵の心中など御構い無しに答えます。
「あぁ、こいつは『藤本珠得』。俺と同じ龍洋の陸上部員で俺と一緒の短距離選手だ。ついでにマネージャーまでやってるぜ!」
何と、突然現れた美少女は嘗ての自分と同じ陸上部のマネージャーで、あまつさえ陸奥と同じ短距離選手!完全に自分の上位互換と言うべき存在にポジション処か、想い人其の物を奪われて葵は立つ瀬が有りません。
「初めまして、えっと貴女は――――?」
「あ、葵です。五十嵐葵……ハル君とは同じ中学の………。」
「あ、そうだったんだ!宜しくね五十嵐さん!」
一切の悪意も無く、陸奥に負けぬ劣らぬ清涼感溢れる声で握手を求める珠得に、葵はつい他人行儀となってしまいました。それと同時に、思わず手を伸ばさざるを得ませんでした。
そうして握手を交わし終えると、陸奥は言いました。
「さて、そんじゃ一緒にもうひとっ走りするか!」
「うん!」
そう言葉を交わすと、龍洋陸上部の男女2人は再び暮れなずむ夕陽の中を走り出します。
「待ってハル君……!」
思わず葵はそう叫んで2人を呼び止めます。
「2人って……一体どう言う関係なの?」
葵の問いに対し、陸奥は間を置かずにこう答えました。
「いや、どうって言われても、珠得は俺の彼女だけど?」
それは葵が1番聞きたくなかった答えでした。陸奥は続けます。
「俺、ずっと五十嵐の事気になってたんだ。けど、話そうとする度何時も目逸らしたりテンパったりしてたじゃん?タイムだって測り損ねたりするしさ、もしかして俺の事嫌いなんじゃないかなって思って、正直やり辛かったんだよ。」
意外過ぎる真実でした。どうやら陸奥は中学時代、葵の事が気になって仕方無かった様です。けれど、普段の言動が言動だけに彼自身、まるで踏み切れなかったのでした。
「其処へ行きゃ珠得は違ったよ。こいつは俺に対して物怖じしないで話し掛けてくれたぜ?俺としても女子の中じゃ気安く話せる相手だったし、だからこうやって付き合う様になったんだよ。」
(不味い……葵ちゃんが……!!)
まるで皮膚を喰い破って体内に侵入するカンディルの大群の如く、陸奥の言葉は葵の耳から心臓へと容赦無く流れ込んで深々と突き刺さります。
呆然とその場に背を向けて立ち尽くす葵の中に、急速に穢れが溜まって行くのをリラは見逃しませんでした。
「五十嵐、本当は今まで俺の事嫌いなの我慢して相手してたんだろうけど、霧船は女子校なんだからもうその必要も無いだろ?向こうじゃ確か水泳やってんだってな?頑張れよ!お前ならやりゃ出来んだからさ!!」
それだけ言い残すと陸奥は、相方と共に夕陽の中を颯爽と走り去って行きました。
「……………。」
2人が走り去った後にポツンと1人、その場に取り残される葵。
(違う、そうじゃない―――――。違う……違うのハル君、私は―――――――――!!)
喉の奥から出そうで出ないその言葉が、脳内で何度も何度も水槽の水の様に循環します。
「葵!」
「葵ちゃん!」
咄嗟にリラ、深優、更紗の3人がその場に走り寄ります。
「葵ちゃん、残念だったね……。」
リラが嘘偽りの無い憐れみの表情で葵に対してそう言うと、葵は答えます。
「リラ………あんた、本当は知ってたんでしょ?」
「え……?」
「本当は全部知ってたんでしょ!?ハル君にもう彼女が居るって事、水霊の皆から教えて貰って知ってたんでしょ!!?何が告白よ!?知ってて私にこんな恥掻かせる様な事昨日言ったんでしょ!?」
「そ、それは帰った後でエナから教えて貰って………。」
「ホラやっぱり!!全部分かってて私にあんな恥掻かせて酷い!!酷いよリラ!!リラの事、友達だって思ってたのに!!!」
目に大粒の涙を浮かべ、怒り……いいえ、憎しみに任せて言葉を迸らせる葵からは、今までの比では無い程の膨大な穢れが生じてしまっています。アンジュも死んだ様に動きません。
確かに「告白しよう」と言い出したのは自分だけど、陸奥の真実はその後エナから教えて貰って初めて知ったのです。葵に黙っていた事自体は確かに問題だったでしょうけれど、だからと言って決してリラ自身に落ち度が有ったかと言えばそれも違います。
「深優と更紗もそうよ!!昨日一緒に帰った時、リラから本当の事全部教えて貰ってたんじゃないの!?さっきだって、皆してグルになって私の事恥掻かせて弄んで楽しんでたのね!!?」
「そんな事無いよ葵!!リラっちは兎も角、私もサラサラもそんな事全然……」
「何が水霊士よ!!?最低だわ!!あんた達なんて今直ぐ絶こ………」
その言葉が言い終らない内に、深優が勢い良く葵の頬に平手打ちを喰らわせました!
「深優………?」
「リラっちの所為じゃないよ葵!!って言うか葵、自分が今何て言おうとしたか分かってんの!?頭冷やしなよ!!」
深優の平手打ちと一喝が効いたのか、葵の中の穢れの発生が緩やかになりました。尤も、相変わらず内なる穢れは未だ残って予断を許さない状況は続いていますが……。
葵の怒りが収まったのを確認すると、深優は葵の肩を抱いてこう諭します。
「確かにリラっちは水霊士で、水霊達から色んな事聞いて知ってるのは間違い無いよ。ハル君の彼女の事だって帰ったあの後知ったみたいだけど、その事は葵だけじゃなくって私やサラサラにも言ってなかったんだよ?」
「私も、まさか彼にガールフレンドが居たなんて今初めて知った……。嘘じゃない。」
葵が2人の顔を見ると、どうやら本当に何も知らなかった様です。
「じゃあどうして……?どうして教えてくれなかったのリラ?」
先程の言葉に委縮したのか、若干オドオドした何時もの調子でリラは言います。
「あ、あのね葵ちゃん、私だってエナから聞いた時は驚いたよ。話した方が良いかも水霊達に相談したけど、皆言ってたよ。『何れ分かる事なんだから何時話しても同じ事だ』って……。私も、葵ちゃんなら乗り越えられるって信じてたから、敢えて何も言わなかったんだよ……。」
リラの弁明に続き、更紗が言います。
「最低だなんて言わないでよ葵。リラと私達が出会って未だ2ヶ月ちょっとしか経ってないけど、リラが私達の為にどれだけ心を砕いて頑張って来たと思ってるの?前橋部長や日浦先輩、飯岡先輩、深優のお父さん――――葵だって前に1回癒して貰ったでしょ?皆の心と身体を癒す為に頑張って来たリラをそんな風に言うなんて、この私が許さないよ?」
「リラ………更紗…………。」
2人の言葉に、葵の中の穢れは少しずつ減衰を始めました。今がチャンスとばかりにリラが周囲の下級水霊達を集めてクラリファイイングスパイラルを形成しようとした時でした。
「リラっちを責めないで葵!リラっちだって人間なんだよ?間違いだって有るし失敗だってする………今回のこれは、黙ってたのが裏目に出ただけ!」
そう言って深優は徐に葵を抱き締めて言います。
「それにさ葵、ハル君言ってたじゃん?『気になってたんだけど、何時も目を逸らしてテンパってたから嫌われてたって思ってた』って……。葵が普段からもっと勇気を出して、普通に話せてたらハル君だって今頃葵の事選んでたかも知れないんだよ?なのに葵ったら自分を保つ=自分の事ばっかりで、相手の事全然見ようとしなかったでしょ?それで相手に自分の気持ち分かって貰おうなんて、思う方が間違いなんだよ。言っても無い事や伝えても無い気持ちを分かって貰おうとか、気付いて貰おうなんて甘えちゃ駄目だよ葵!相手に自分を分かって貰いたかったら、相手が気付くのを期待する前に自分から分かって貰う努力をしなきゃ駄目なんだよ!」
深優がそう言葉を紡ぐ毎に、葵の瞳からは大粒の涙が止め処無く溢れ出て、やがて―――――。
「分かってる……そんな事、分かってるよぉぉ………でも…ヒック、でもヒック!しょうがないでしょ………自分でもヒグッ、どうにもならないんだから………ずっとヒック……ずっと好きだったのに……ハル君の事………うっ……うぅっ……………」
迸る想いはやがて、葵の理性のダムを崩壊させ、滂沱の涙を以て彼女の感情を完全解放へと導くのでした………。
「わああああああああああああああああああああああああああァァァァァァァ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッッッ!!!!!!」
気が付けば、既に周囲には夕闇が立ち込めていました。河原に響く葵の慟哭を、幼馴染みの深優は一心に受け止めました。リラがアクアリウムを発動させて葵の様子を見ると、何と驚くべき光景が目の前に広がっていました。
(えっ……これは………!?)
何と深優の内なる水霊のブルームが、葵の内なる水霊アンジュの穢れを取り込んで浄化し、そのまま2体が協力して葵の穢れを完全に取り除いて行ったのです!
水霊士としての自分の出る幕の無さに、リラは呆気に取られました。
(信じられない。こんな事が有るんだ―――――!!)
例え1人の内では処理し切れない穢れを抱えても、他の誰かの優しさや思い遣りが有ればアクアリウムの力など借りずとも、その穢れを浄化出来る事が有る――――。
リラはその事実に只々呆然と立ち尽くしながら、抱き合う葵と深優の2人の姿を見守るしか出来ずにいました。
水霊士として、今まで多くの穢れを癒して来ましたが、こんな例は初めてでした。
然し同時にリラはこの事実を前に悟りました。人間とは本来、多少の穢れに負けない強さを持った生き物なのだと言う事を―――――。
勿論、不摂生等から来る肉体の穢れはアクアリウム抜きには癒すのは難しいでしょうが、怒りや憎しみ、悲しみや苛立ち等のストレスから来る心の穢れならば、水霊士以外の人間でも癒して浄化出来得る。
そう考えた時、リラの心の中に1つの大きな疑問が生まれて来ます。
そう―――――「水霊士は何の為に在るべきなのだろう?」と言う疑問が……。
あくる日の放課後、何時も通り水泳部での練習を終え、忍の身体のメンテナンスの為にクラリファイイングスパイラルを発動させて彼女の心身を癒す一方で、リラは内心その答え無き疑問に思考を廻らせていました。
この街の最後の濾過フィルターとしての自身の在り方を、今更リラは曲げる気は有りません。然し、それでも一般人でしかない深優が葵の穢れを浄化して見せた事は、リラにとって今後の自分の在り方を改めて考えさせる切っ掛けとなったのは言うまでも無いでしょう。
はい、と言う訳で各友人にフィーチャリングしたエピソード3人分目出度く書き切りました!同時に第二章はこれにて閉幕し、次回から新章突入です。2年生も巻き込んで新たなドラマが開幕されますのでお楽しみに!
キャラクターファイル17
エナ
年齢 無し
誕生日 無し
血液型 無し
種族 水霊
趣味 お洗濯
好きな物 よもやま話
中級水霊。エメラルドグリーンのチョウザメの様な姿をしている。主に蒼國の街で活動している水霊の1体だが、他にも東北や北海道、時にはロシア方面まで北を幅広く回遊する。
趣味がお洗濯であるだけに、今回のエピソードの様に衣類などの汚れを落として綺麗にしたりする。水霊士には忠実だが、人間の感情の機微には疎くて事務的な思考しか出来ない所が有るのが玉に瑕。




