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A.Q.U.A.R.I.A  作者: Ирвэс
第二章 流れる水のロンド
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第14話 行く川の流れは絶えずして

此処からエピソード更紗に入ります。

 それは、5月も中旬から下旬に差し掛かろうとしていた第3週目の日曜日の事でした。

 リラは珍しく電車に乗って遠出しようと、街のランドマークである蒼國総合文化センターの傍の蒼國駅へと出掛けました。



 蒼國市は東京からも決して遠くなく、寧ろ近い場所に位置した関東の港町であり、蒼國駅は小田電鉄の系列に属する駅。暫く乗って小田原線と合流すれば、そのまま新宿にも行けるのです。

 切符を買って快速線に乗り、東京に有る目的地に行こうとした時でした。


 「………リラ?」


 「えっ?更紗ちゃん?」


 偶然にも同じ電車に乗ろうとしている更紗の姿が、リラの視界に飛び込んできました。直ぐに一緒の座席に2人並んで座ると、快速線の列車はそのまま最終目的地である新宿を目指して走り出します。

 尤も、2人の目的地は新宿ではありませんが……。



 車窓から流れる景色を見ながら、2人はこんな会話を繰り広げていました。


 「でも驚いたわ。まさかリラまで電車に乗って東京まで遠出なんて。」


 「それはこっちの台詞よ。更紗ちゃん、何処まで行くの?何の用事?」


 リラがそう尋ねると、更紗は黙ったまま暫く彼女の顔を見つめた後でこう答えます。


 「……お祖母ちゃんに会いに行くの。下北沢に有る特別養護老人ホームにね。」


 「下北沢に?」


 「そう、下北沢に有る『まつばら』って言う所―――――。」


 遠い目をしながらそう返す更紗の姿を見て、リラはそれ以上の詮索はしませんでした。

 すると今度はお返しとばかりに、更紗がリラの目的を尋ねて来ます。


 「リラはどうなの?電車に乗るなんて珍しいけど、何処かに用事が有るからこうやって乗ってるんでしょ?」


 予想のしていた問い掛けとは言え、リラは言葉に詰まってしまいました。何故ならこれから彼女の為しに行く用事は、周りからしたらそれ程大した事ではないにしても、本人にとっては切実な物でしたから……。


 「そうだけど……別に大した事じゃないよ。パパッと行ってササッと帰る簡単な用事だから……。」


 「そ、そうなんだ……。」


 当たり障りの無いリラの回答に対し、目が点になる更紗でしたが自分だって必要最小限の事しか相手に話していない手前、深い詮索は野暮だと判断したのでしょう。それ以上の追及はしませんでした。

 そうして2人は列車が目的地に着くまでの間、他愛の無いガールズトークに花を咲かせます。尤も、2人とも葵や深優に比べて感情を表に出すタイプではない為、それ程盛り上がった話は出来ませんでしたが……。

 快速列車はやがて小田原線と合流。そのまま町田、新百合ヶ丘、登戸、成城学園前を通過して下北沢に到着するのでした。



 列車から降りて改札の方へと向かって行くと、休日と言う事もあって多くの人達が改札の向こうからこちらへと流れ込んで来ます。

 リラがアクアリウムを発動すると、やはりこの周辺にも多くの水霊(アクア)達が沢山縦横無尽に泳ぎ回り、同じくやはり其処かしこに発生した穢れを取り除いているのでした。


 (当たり前の話だけど、やっぱり穢れって何処にでも在るのね……。)


 水の都である蒼國市と同じ様に、下北沢にも蔓延している穢れ。然し、この街の穢れはこの街の水霊(アクア)達が綺麗にしてくれるでしょう。

 自分が水霊士(アクアリスト)として為すべき使命は此処には無いと判断したリラは改札を済ませると、気を取り直して目的地の有る調布に行くべく、京王井の頭線に乗り換えようとします。

 

 「リラ、待って!」


 不意にそう言って更紗がリラの手を取って制止したではありませんか。

 

 「いきなりどうしたの更紗ちゃん?私達此処から別行動なんじゃ……。」


 困惑と共に振り向き様に尋ねると、更紗は真っ直ぐリラの顔を見つめて言いました。


 「お願いが有るの。」


 「えっ!?お願いって……?」


 突然そう言われ、リラは戸惑いを隠し切れません。自分を真っ直ぐ見つめて来る更紗のその姿には、普段が普段だけに威圧感さえ覚えてしまいます。


 基本的に更紗は口数が少なく、余り多くを語るタイプでは有りません。リラや葵、深優の様な仲の良い友達相手にもそうですが、そうでない相手に対しても基本的に必要最低限の言葉しか喋らない為、何を考えているのか分からない場合が多いのです。

 加えて身長も166cmと、女子としては背も高い方ですし感情の起伏も少ないですから、相手によっては威圧的な印象すら与えかねます。まさしく海底に鎮座するクエの様な「大型の底魚」其の物と言っても良い佇まいです。

 

 尤も、面倒見が良くて世話焼きな性格ですから大概の場合、威圧的な第一印象はそれで撤回される事も多いですがね。



 「私と一緒に来て欲しいの。お祖母ちゃんのいる所へ……。」


 突然更紗に自身の祖母の居る老人ホームへの同行を求められ、リラは呆気に取られた表情を浮かべましたが直ぐに問い返します。


 「何で急にそんな事……って言うか、どうして私が一緒に行かないと行けないの?」


 至極真っ当な疑問ですが、更紗は淀み無く答えます。


 「この前遊びに行った時に皆で写真撮ったでしょ?それを私、お祖母ちゃんの所にメールして送ったの。私のお祖母ちゃん、5年前から体調が思わしくなくって、特別養護老人ホームに送られてたの。後何年生きられるか分からない位弱ってて……。だからせめて、私が皆と仲良くしてる所を写真で送って元気付けようって思って……。」


 (更紗ちゃん……。)


 話してる内に寂しさと悲しさが込み上げて来たのか、途中から言葉のリズムとテンポが次第に弱くなって行くのを感受性の豊かなリラは聞き逃しませんでした。

 同時に更紗の言葉の中に有った“5年前”と言う単語を耳にした瞬間、リラの脳内に悲しい記憶がフラッシュバックしました。



 そう………『最愛の祖母との死別』と言う記憶が―――――――。



 そんなリラの心中など気付く由も無く、更紗は続けます。


 「それでこの前、お祖母ちゃん私に電話して来たの。『更紗の友達に……特にリラって子に会ってみたい』って―――――。何を考えてそんな事言ったか分かんないけど、リラが一緒に電車で遠出してくれてラッキーだったから……。」


 そして手を合わせると、更紗は改めてリラにお願いします。


 「お願いリラ、私と一緒にお祖母ちゃんのお見舞いに来て!リラも用事有るって聞いたけど、直ぐに終わって帰るだけなら少し位私に付き合ったって平気でしょ?」


 友達から其処まで真剣に頼まれればリラも、黙って引き下がる訳には行きません。

 嘗ての中学時代、そうやって友達面して近付いて来る様な狡い人間の頼みを聞いて損な役回りを何度も担った手前、他人から何か頼まれると弱い自分の性分を何度疎ましく思ったか……。

 然し、出会ってから未だ2ヶ月程度でも、水霊(アクア)の事で強く深く繋がった絆で結ばれた更紗の頼みならば―――――。


 「……そうだね。私の用事なんて、別に今直ぐじゃなきゃ駄目って言う様な物でも無いし……。良いよ更紗ちゃん。一緒に付いて行ってあげる!」


 「有り難うリラ!じゃあその代わり私もリラの用事に付き合うね!」


 リラとしては別に無理して自分に付き合わなくても良いのですが、これも“お互い様”の精神なのでしょう。そんな殊勝な言葉に、思わず嬉しそうに首を縦に振るのでした。


 駅を後にした2人は、そのままスマホの地図を頼りに南へ2キロ程歩いて行きます。

 そうして見えて来たのは3階建ての校舎の様な白い建物。この施設こそ更紗の目的地である『特別養護老人ホームまつばら』です。



 施設の自動ドアを潜った2人は早速、受付窓口へと足を運びました。


 「長瀞しず枝さんのお孫さんですね。少々お待ち下さい。」


 テンプレートな営業スマイルでそう応対すると、看護師が更紗のお祖母さんの入居している部屋へ続く廊下を歩いて行きます。その背中を見送った後、近くの長椅子に2人で座って待つ事にしました。


 (それにしても、更紗ちゃんのお祖母ちゃんってどんな人なんだろう?写真で私の顔を見て会いたがるなんて………。)


 予期せずしてこれから出会う事になる更紗の身内に対し、リラが疑問と共に想いを馳せていると不意に更紗が声を上げます。


 「お祖母ちゃん……。」


 「えっ……?」


 思わず更紗の向いた視線の先に顔を向けると、其処には車椅子に乗ったまま看護師に連れられた老婆の姿が有りました。

 すっかりやせ衰えて点滴に繋がれており、顔にも皺や弛み等、時の浸食の痕跡が相応に刻まれてはいましたが、何処と無くですがその顔立ちは更紗の面影を感じさせます。やはり彼女が紛う事無き更紗のお祖母さんであるのは確かな様でした。


 「更紗、来てくれたのですね………。」


 駆け寄る更紗に対し、老眼鏡を掛けた目でその顔を覗き込んでお祖母さんは言いました。


 「お祖母ちゃん、連れて来たわよ。リラの事―――――。」


 「貴女が、更紗ちゃんのお祖母ちゃんですか?」


 恐る恐るリラが目の前の老婆に尋ねると、彼女は弱った顔を微笑ませて答えます。


 「えぇ、そうよ……。私の名前は長瀞しず枝。貴方のお祖母さんの水森ユラとは高校時代お友達だったの。」


 車椅子に乗って点滴に繋がれる等、大きく弱ったその身体では笑顔を作るだけでも大変そう。彼女の姿に、リラはそんな印象を受けました。

 けれど、しず枝の言葉にはそれ以上にリラは驚きを隠せません。まさか更紗のお祖母さんが自分の祖母と友達同士だったなんて―――――。

 更紗も同じ事を思っていたらしく、しず枝の隣で大きく目を見開いて2人の顔を交互に見つめていました。


 因みにリラの祖母であるユラの苗字は水森で、リラ自身の苗字は汐月ですが、これはユラの娘が汐月姓の男性と結婚して変わったからです。

 つまり、ユラはリラにとって『母方の祖母』だったのでした。


 「リラちゃん、もう少し私の近くに来て顔を見せて頂戴……。」


 殆ど生気の感じられない中、漸く振り絞った声でしず枝はリラを呼びます。

 その言葉に促され、リラがしず枝の近くに来て、車椅子に座った彼女の目線までかがむと、しず枝はその藍色に澄んだ瞳を見て感慨深げに言います。


 「………本当にユラに似てるわね貴女。5年前に死んだって聞いた時、もう2度と会えないって思っていたのだけど、まさか代わりにそのお孫さんに会える日が来るなんて……。」


 痩せ衰えたその震える手で、優しくリラの頬に手を当ててそう話すしず枝の顔には、懐かしさと寂しさが入り混じった複雑な表情が浮かんでいました。

 水分が抜け、すっかりしなびて皺と言う皺が刻まれたその顔の目に浮かんだ涙は、砂漠に湧いて出た雀の涙程の湧き水の様です。


 「5年前に友達が亡くなったって聞いてお祖母ちゃん、凄いショックで元気無くなってたけど、それってリラのお祖母ちゃんだったの?」


 「そうよ更紗………ユラは私にとって、1番の親友だった。将来の夢について話しても、ユラだけは馬鹿にしないで応援してくれた……。彼女がいたから私は夢を叶えられて、今此処にいるの………。」


 そう更紗と話すしず枝の姿を前に、リラは生前の自分の祖母の事を思い出していました。



 「ホラ、泣かないでリラ。お前が悲しんだら、私まで悲しくなるから……だけどね、もしお前が笑ってくれたら私だって嬉しくなるわ!」


 何時も仕事で家に居ない両親の代わりに、自分に構ってくれたのは他でも無いユラでした―――――。

 学校で嫌な事や悲しい事が有った時、自分を励まして慰めてくれたのもユラでした―――――。

 老体に鞭を打って、幼かった自分を色んな場所へ連れて行って、様々な世界を見せてくれたのもユラでした―――――。



 その1つ1つを思い出す度に、自然とリラの目からは大粒の涙が浮かび始めます。


 「しず枝さん………。」


 気が付いたらリラは、自分の顔をくっ付きそうな程しず枝のそれに近付けて言いました。


 「私のお祖母ちゃんはしず枝さんから見て、どんな人だったんですか?私と更紗ちゃん位の時、どんな女の子だったんですか?私、知りたいんです。お祖母ちゃんの事をもっと!」


 その言葉にしず枝は呆気に取られましたが、直ぐに近くに居た看護師の方へ顔を見遣ります。看護師は手に携えていた祖母のカルテを見ると、問題無いと判断したらしくニッコリ笑って頷きます。


 「そうね………看護師さんも大丈夫だって言ってるし、今日は私も調子が良いから教えてあげましょう。私の1番の友達だったユラの事を―――――。」


 そう言うとしず枝は語り始めます。リラに対してしず枝から見たユラがどんな人物だったのかを――――――――――。



 そうして1時間後、話しが終わってしず枝は自室へと戻って行きます。これから身体の検査をしなければならないからです。看護師に車椅子を引かれて行く祖母の背中を見送った更紗は、同じく世代を超えた友人であるリラを連れて施設を後にするのでした。


 

 まつばらを後にすると、2人は元来た道を引き返して下北沢駅へと歩いて行きました。リラと更紗の話題に真っ先に上ったのは当然、自分達の祖母の関係です。


 「でも驚いたな。まさか私のお祖母ちゃんがリラのお祖母ちゃんと親友同士だったなんて――――――。」


 「知らなかったよ私も……。でも、こうやって私と更紗ちゃんが巡り会えたのって、もしかしたら神様のお導きだったのかもね!」


 「そうだね。お陰で私達もこうやって仲良くなれたんだから……。」


 フッと笑みを浮かべて更紗がそう言うと、リラも心なしか嬉しくなります。


 人と人とが廻り会う―――――それは当たり前の様で実は最も尊い奇跡の産物。

 その確率は天文学的確率で低い物なのです。

 今回のリラと更紗の様に、人生を80年として一生の内、何らかの接点を持つ人と出会う数は凡そ3万人程度であり、その確率は何と24万分の1とされています!

 因みに同じ学校や職場、近所の人との出会いは3000人、親しく会話を持つ人が300人、友達が30人、そして親友は僅か3人!

 その確率も学校や職場、近所の人は240万分の1、親しく会話を持つ人は2400万分の1、友達は2億4000万分の1、そして親友は何と24億分の1!

 

 勿論これは環境等の要因でその数にも変動は有りますが、何れにせよ、如何に人と人との出会いが紛う事無き大いなる奇跡であるかが分かるでしょう。


 今まで虐めに遭っていたリラは、その確率に恵まれなかっただけであり、その不幸を乗り越えた今、葵や深優、更紗、みちるや忍、それに潤の様な仲の良い親友や先輩と廻り会えた!

 まるで神様がリラに与えてくれたご褒美の様です。



 「じゃあ、次は私がリラに付き合う番ね。リラ、今日は一体何処へ行って何をする気だったの?」


 表情には余り表れていませんが、本人的には嬉しい口調で更紗がそう言うと、リラは微笑みながら言いました。


 「お祖母ちゃんのお墓参り。今日が命日だから、その為に調布に有るお祖母ちゃんのお墓に行くの!」


 澱みも濁りも無い澄んだ声でリラはそう返しました。その澄み渡る藍色の瞳が太陽の光を反射し、まるで光る海の水面の様です。

 同時に更紗も、話を聞いた時には呆気に取られて驚きました。まさか今日がリラのお祖母さんの命日だったとは……。

 これ程までに運命と言う物を感じた瞬間は、更紗の16年近い人生の中で1度も有りません。


 「―――――そっか!」


 ですが、丁度自分のお祖母さんと友達のお祖母さんとの関係を知った手前、リラの用事は更紗としても決して他人事ではありません。

 自分のお祖母さんの友達のお墓参りに付き合うと言うなら、改めて大歓迎です。


 早速2人はお墓参りの準備をすべく、駅前の商店街を目指しました。

 その道すがら、更紗はふと興味深い言葉を漏らします。


 「あーあ、自分の声をもうユラさんに聴かせてあげられないって知って、お祖母ちゃん相当悲しそうだったよ。お祖母ちゃん、何十年もの間ずっと自分の1番のファンだって言う人から届いた何百通ものファンレターを今も捨てないで大事に取ってあるけど、それってユラさんからのだったんだねぇ………。」


 ファンレター?自分のお祖母ちゃんがしず枝のファン?一体何の事でしょう?

 当然の如くリラは更紗にどう言う意味か尋ねます。


 「更紗ちゃん、私のお祖母ちゃんがしず枝さんにファンレターって、何言ってるの?まるで有名人みたいな言い方してるけど……。」


 すると更紗は次の瞬間、意外過ぎる爆弾発言を繰り出しました!



 「え?だって私のお祖母ちゃん、『声優』だよ?」



 その言葉に一瞬、目が点になるリラ。そして――――――。


 「えっ………?えええええええ~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!?更紗ちゃんのお祖母ちゃん、声優だったの~~~~~~~~~~~~~ッ!!?」


 「シッ!声が大きいよリラ!」


 更紗の口から出た言葉に、リラは驚愕するしかありませんでした。まさかしず枝が声優であり、自分の祖母であるユラがその大ファンだったなんて、余りに予想の斜め上を行き過ぎる真実でしたから……。

 

 (でも良く良く思い出してみたらお祖母ちゃん、小さい頃からちょくちょくアニメなんか正座してじっと食い入る様に見てたし、ラジオだって良く聴いてたっけ……。そう言えばその時に聞こえて来た声って何処と無くしず枝さんっぽかったけど、まさか本人だったなんてね………!!)


 余りに信じ難い、そして生前の知られざる祖母の一面を知り、リラは只々唖然となるばかりでした――――――――――――。



 気を取り直して商店街へと梯子すると、早速リラは更紗はお墓に供える花束を2人でお金を出し合って買いました。

 更紗まで花にお金を出してくれたかと言いますと、それは自分に付き合ってくれたお礼であり、『しず枝の代わりに孫の自分がユラの墓参りをしてあげる』と言う意思表示から。

 

 そして京王井の頭線に乗って明大前に辿り着くと、其処から京王快速線に乗り換えて調布まで直行するのでした。


 「此処も変わってないな……。」


 道行く中学生位の女の子達の姿を見て、リラは何処か悲しそうな眼差しでそう呟きます。


 「……リラ?」


 「……何でも無い。」


 調布駅を降りてから、リラはずっと浮かない顔で道を歩いていました。

 さっきからリラの脳裏を過ぎっているのは、虐めと孤独に彩られた辛い思い出ばかり。

 そう、此処はリラの地元だったのです。然し、友達である更紗にそれを悟らせまいと、リラはずっと黙っていました。


 そして遥か遠くを見通せば、其処には調布市と稲城市を分かち、東京でも指折りの一級河川である『多摩川』が流れています。

 あの川の畔で今から2年前――――当時中学2年生だったリラは、虐めを苦に自殺を図ったのでした――――――。



 「―――――ラ!ねぇリラ!リラったら!」


 調布市と稲城市を繋ぐ多摩川原橋を遠くに一望しながら、封印して忘れ去りたい過去を思い出していると、更紗の声がします。

 ハッとなって声のした方を向くと、更紗が呆れた表情でこちらを見ています。


 「もう、リラったらどうしたのよ?いきなり立ち止まってボーっとして……。」


 「えっ?あぁ、ごめん更紗ちゃん。ちょっと考え事して……。」


 昔を思い出していたなんて、そんな事はとても更紗には言えません。あんな辛い過去を話して更紗に悲しい想いをさせても仕方無いですし、何よりそんな自分の過去を打ち明けられる程、リラは更紗にも……そして葵や深優にも心を許していませんでしたから…………。


 「またなの?もう、リラって時々空想に耽ってボーっとする事有るよね。水霊(アクア)の事になると周りだって見えなくなるし……。」


 「あはは、ごめんね………でもそんな私と仲良くしてくれるから、更紗ちゃんの事私は好きだよ?」


 「持ち上げたって何も出ないよ。ってあっ、見えて来たよリラ。」


 2人の視界に飛び込んで来たのは、ユラの魂の眠るお墓の有る調布のメモリアルガーデンです。



 早速入園すると、2人は早速ユラの墓前にやって来ました。更紗が優しく見守る中、リラはユラの墓前に花を供え、両手を合わせて彼女の冥福を祈るのでした―――――。


 (ユラお祖母ちゃん―――――今日ユラお祖母ちゃんの友達だった人に会ったよ。今近くに居る私の友達のお祖母ちゃんがその人だって知って私、凄く驚いた。その孫の私達まで一緒にこうやって出会って仲良しの友達になるなんて、人の縁って不思議だね――――――。)


 目を閉じ、手を合わせて祈る事でユラの魂に語り掛けていると、リラの頭の中をお祖母さんとの思い出がフラッシュバックしました。



 家に殆ど居ない両親の代わりに自分の面倒を見てくれたユラ―――――。

 低学年の頃、校門を潜れば迎えに来てくれたユラ―――――。

 色んな事を知っていて、自分にその知識を授けてくれたユラ―――――。



 藍色の瞳に映ったユラは何時も優しくて、時に厳しくて、まさにリラにとっては母なる海を体現した様な存在でした。

 そんな彼女が5年前の或る日、奇しくも自分が自殺を図ったあの多摩川で倒れ、そのまま「さよなら」を告げずに死んだ事をリラは一生忘れないでしょう。


 その時の記憶が蘇って来た時、リラの目からは大粒の涙が溢れ出て、気が付けば嗚咽すら漏らしていたのでした。


 「お祖母ちゃん………どうしていきなり死んじゃったの―――――――?私がどんな想いで、あの場所で自殺しようとしたと思ってるの――――――――――?」


 (自殺……?)


 リラが思わず零した「自殺」と言う単語が更紗の心に引っ掛かりましたが、今の彼女にそれを問い質す事は出来ません。

 今の彼女に出来る事は、只黙ってリラの様子を見守る事だけでした。


 尤も、リラの事を見守っていたのは更紗だけではありません。2人の真上から、テミスが何やら複雑な表情でリラの事を無言で見つめていました。



 亡き祖母であるユラの墓参りを終えると、リラは更紗から手渡されたハンカチで涙を拭いて調布駅へと帰還。そのまま元来た路線を乗り換え乗り継ぎ、ホームグラウンドである蒼國へと帰って行きました―――――。




キャラクターファイル14


エフィア


年齢   無し

誕生日  無し

血液型  無し

種族   水霊(アクア)

趣味   雲の中を散歩する事

好きな物 ジャンボサイズの食べ物全般(人間態になって食べ歩く)


甕覗色のアリゲーターガーの様な姿をした中級水霊(アクア)。ユナーシャと共に南半球を雲と共に主に回遊しているが、雨となって日本にもやって来る。

現段階で上級水霊(アクア)に近い存在と目されており、その癒しの力は中級水霊(アクア)の中ではユナーシャと並んでトップクラス。

深優の父である航のガンを癒して根治させるべく、初めて扱う上級水霊(アクア)であるテミスを行使する事で生じるリラの肉体の負荷をユナーシャと共に防いだ。

楽天的でノリの良い性格である。

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