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A.Q.U.A.R.I.A  作者: Ирвэс
第二章 流れる水のロンド
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第10話 揺らめく水面に戯れる(結)

これにて水泳部入部編完結!

 一方その頃、素足にスニーカーを履いて家を飛び出した忍は、行く当ても無く蒼國の街を彷徨っていました。


 「クソッ……何やってんだあたし………もう泳げないからって、みちるにあそこまで当たる事なんて無かったのに………!!」


 海に面した大きな河川の橋梁に差し掛かり、その水面を覗き込みます。橋から水面までそれなりに高く、何よりもう日没の時間だった為、小さくてハッキリとは映りませんでしたが其処には自分の顔が映っていました。

 荒んでとても見られた物じゃない、惨めな顔の自分自身が―――――。


 「そうだよな……。こんな自分の事ばっかのあたしに、あいつの友達の資格なんて有る訳無いんだ………。周りも自分も見えないこんなあたしだから、肩が壊れるまで気付かなかったんだ……。だからあの時―――――――。」


 水面に映った自分を見て思い出されるのは、自他の事が見えずに間違ってばかりの自分の愚かさへの後悔でした。


 けれど、過去の事をどんなに想い悔いても、もうそれは未来永劫帰れはしない遠い郷愁(ノスタルジー)……。

 そして自分は水泳だけで無く、今度は友達すら捨ててしまった……。

 全ては自分のエゴばかりにかまけ、周りは疎か自分の事すら見えていなかった自分自身が招いた結果……。


 どうせこの先生きてたって……きっと………。



 目からハイライトを消した忍は、気付いたら橋のフェンスから身を乗り出し……そのまま………。



 ……と、その時でした。


 「忍―――――――――――――――――――――――――――――ッッッ!!!!」


 突然自身の名を呼ぶ声が聞こえたかと思いきや、突然数本の触手が伸びて来て身を投げようとしていた忍の四肢と胴体に絡み付き、不意に自殺を思い立った彼女を間一髪助けたのです!


 「みちる!?どうして此処に!?つーか、何であたしが此処に居るって分かった!?」


 「そんな事は今は良いわ!私が……いいえ……」


 「私達が先輩を助けてあげます!!」


 その言葉と共にみちるの前にリラ達4人が躍り出ました。ブルーフィールドを全開で展開すると、次にリラはドリスを召喚します。


 「ドリス!!」


 (よっしゃ!!行っくで~リラ!!)


 「深優ちゃん!ブルーム借りるね!」


 「OK!」


 ドリスとブルームを光球に変えて右手に宿すと、大きな長槍(ランス)の形になりました。


 「なッ……!?お前、何だよそれ……!?」


 「え~~~~~~~いッ!!!」


 驚く忍を他所に、リラは勢い良く長槍(ランス)となったドリスとブルームを彼女の右肩に放ちました。荒療治の『ハイドロスパイラルシュート』です!


 「おっ、おい、一体何の……うああああああ~~~ッ!?」


 ハイドロスパイラルシュートが忍の右肩に命中すると、凄まじい光の水飛沫が迸り、彼女の右肩周辺の穢れを洗い流します。これだけでも忍の中の痛みやストレスは和らぎましたが然し、リラの目的は其処では有りません。

 術法が肩に当たる直前、突然忍の右肩から6つの小さな影が散開して逃げ出すのを5人は見逃しませんでした。その6つの影は真っ黒にくすんでこそいますが魚の姿をしており、形状としてはヤツメウナギやハゼ等の口で吸い付くそれに近い姿でした。


 「リラ!もしかしてあれがリラの言ってた……」


 確認を求める葵のその言葉に対し、リラは大きく頷いてこう強く返します。


 「うん、間違い無い!あれが……“穢れ水霊(アリトゥール)”よ!!」



 時系列は此処で、忍が家から出て行った直後にまで戻ります。


 「穢れ水霊(アリトゥール)!?」


 初めて聞く言葉に目を丸くする葵と深優と更紗、そしてみちる。

 そんな4人に対してリラは続けます。


 「うん、テミスから聞いた事が有るの。水霊(アクア)の中には人間の出す穢れに呑み込まれて暴走して、人間に害を為す悪い水霊(アクア)がたまにいるって!それが穢れ水霊(アリトゥール)って言うの。」


 「へぇ~……そんなのが居るんだ。」


 「でも可能性としては無い話じゃないよね?」


 「人間だって汚い物を処理してたら、自分だって汚れて最悪健康を損なう事だって有るしね。」


 「それも驚いたけど汐月さん、テミスって誰?」


 リラの言葉に4人は驚きを隠せません。まさかリラが扱う魚の姿をした水の精霊達に、そんな危険な存在が居たなんて……。

 そんな中でみちるは1人、不謹慎にもテミスと言う人物が気になっていました。

 

 「先輩、私、一瞬だけど見えたんです。その悪い水霊(アクア)が日浦先輩の右肩に取り憑いてるのが!」


 「じ……じゃあ忍が幾等リハビリしてもずっと治んないまま今に至ったのは……。」


 「はい、穢れ水霊(アリトゥール)が原因です!リハビリ自体が間違ってないのに何時までもずっと治んない処か、まるで狙い澄ましたかの様に再発して前より酷くなるなんて、他に考えられません!」


 

 忍の右肩から離れた6つの小さな影………それはその身を黒くくすんだ穢れで覆われてしまった『穢れ水霊(アリトゥール)』と呼ばれる存在でした。

 通常、水霊(アクア)は地球を廻りながら水を浄化すると言う、『星の濾過フィルター』の役目を担う存在。

 然し、中には人間の内側から迸る穢れに当てられた水霊(アクア)や、元々は人間の内側に宿る水霊(アクア)だったのが、穢れを生み出す自身の有り様を省みる事の無い愚かな人間に見切りを付けて暴走し殺害。そうして無理矢理自由の身となった物の、その身を蝕む穢れの所為で自制が利かなくなり、無差別且つ通り魔的に人間に憑依して穢れを増大させて病魔や怪我のダメージを促進させたり、人格を醜く歪め、犯罪や虐待、いじめ等の反社会的な行為に及ばせると言った悪事を働く者まで居るのです。

 それこそが『穢れ水霊(アリトゥール)』。先程もリラがテミスの受け売りで語っていた通り滅多にではありませんが、こう言う存在も水霊(アクア)の中には居るのです。

 因みにアリトゥール(Alitur)はラテン語で、「下水、汚水」を意味しています。


 「あれが…あれが忍の事をずっと苦しめて来た元凶だったのね………。許さない………絶対に許さないわ!!」


 全てを知った時、みちるの中には彼女自身も人生史上感じた事の無い程の怒りが込み上げて来たのは当然の事。

 逃げようとする6体の穢れ水霊(アリトゥール)ですが、忍のリハビリの努力を無にし続け、その運命を狂わせて来た元凶をみちるが許す筈も有りません。


 「汐月さん!」


 「はい!!ノーチラス!!あの穢れ水霊(アリトゥール)達を捕まえて!!!」


 周囲のメダカの群れの下級水霊(アクア)達をリラがノーチラスに宿して力を送ると、ノーチラスは身体を白く光らせ、高速でその6つの触手を伸ばして穢れ水霊(アリトゥール)達を一瞬で捕獲しました。


 「更紗ちゃん!プラチナを貸して頂戴!!」


 「うん!」


 「行くよクラリア!!」


 (任せて―――――。)


 先ずクラリアとその仲間で300匹近いメダカ型の水霊(アクア)の大群を鰯のそれの様に高速で旋回させてな等身大の光の螺旋を作ると、その中に更紗の内なる水霊(アクア)である身体の大きなプラチナが入り込んで更にダイナミック且つフルスピードでその中を繰り返し旋回。

 それはやがて水飛沫を上げて地上を駆ける光の竜巻となり、勢い良く穢れ水霊(アリトゥール)へと殺到します!


 これが、対穢れ水霊(アリトゥール)用にリラが編み出した術法『トルネードクラリフィケーション』です!


 「行っけええぇぇ~~~~~~~ッ!!」


 普段大人しい姿から想像出来ない程の大声でリラがそう叫ぶ中、クラリアとプラチナの文字通りの合体技とも言うべき光の竜巻はノーチラスに捕獲された6体の穢れ水霊(アリトゥール)の穢れを瞬く間に遠心分離で消し飛ばして浄化し、元の正常な水霊(アクア)に戻しました。

 更にそれは、近くに居た忍を包み込むと、その内に堆積した穢れの半分をごっそりと浄化して行ったのです!只、残りの半分は忍にとって重く、深刻な物だった為に除き切れませんでしたが……。


 竜巻が終わると周囲は元の静寂を取り戻し、無数の水飛沫が周囲に飛び散った跡だけが残りました。然し、あれだけの水の奔流が周囲を駆け回ったと言うのに誰も濡れていません。

 そしてアスファルトの大地を濡らした水飛沫の跡も、程無くして消えて無くなりました。


 「忍!!」


 目に再び涙を溜め、みちるが忍に駆け寄ります。


 「みちる……?」


 忍も最初に見せた様な荒んだ顔では無い、優しく穏やかな顔になっていました。


 「良かった……。てっきりあのまま自殺するんじゃないかって思うと、本当に怖かった……ッ!!」


 忍に強く抱き着くと、みちるは静かに嗚咽を挙げて泣くばかりでした。


 「心配掛けて、ごめん……。あたし、みちるに酷い事言っちゃって……」


 「良いの。貴女が無事だったから……!!」


 申し訳無さそうに目を伏せてそう謝罪する忍ですが、みちるは慈しみ溢れる眼差しでこれを許しました。


 「そうだ!ねぇ忍、肩は?未だ痛む?」


 みちるの問い掛けに忍はハッとなり、再び右の肩に手を当てるとどうでしょう?もう痛みは嘘の様に完全に消えていました。それ処か寧ろ、身体にエネルギーが漲る様な感覚すら覚えます。


 「あれ?痛くない……?」


 「それって……治ったって事?」


 「ちょっと待って下さい前橋先輩!未だ日浦先輩は完全に癒せてません。」


 痛みがないと聞いて嬉しげな表情を作るみちるですが、其処に釘を差したのはリラでした。


 「日浦先輩……。」


 同じくリラの顔をじっと見つめながら、忍の尋ね返します。


 「お前、汐月って言ったか?さっきまであたしの前で起こってたのって何だったんだよ?つーか、お前って一体……?」


 「私の事は今は良いです。それより先輩、改めて貴女にお訊きします。」


 「あたしに?何をだよ?」


 「先輩の肩はもう私が癒しました。先輩はもう泳げます!だけど……」


 「だけど何だ?」


 一呼吸置くと、リラは改めて忍に尋ねました。とても大事な、『忍自身のこれから』についてを――――。


 「先輩はもう泳ぐ気は無いんですか?言いましたよね?『今更故障が治った所でもう1年半以上もブランクが有って、前橋先輩にも水を空けられて、大会に出ても振るわないで終わるかも知れない』って……それでも先輩はその五体満足な身体で泳ぎたいって思いますか?」


 「リラ……。」


 「リラっち……。」


 そう問い掛けるリラの姿を、葵と深優と更紗の3人は後ろから見守るばかりでした。


 彼女の放った言葉に、再び忍は沈痛な面持ちになりました。確かに忍自身の肩の故障はリラの手によって完治しました。医者でも自分でも治せなかった故障を、目の前の1年の後輩は治してくれた。その点ではリラに対してし切れない程の感謝しています。

 然し、もう1年半以上も自分は満足に泳いでいないのです。今更水に入るのも正直怖い……。そんな気持ちさえ有りました。

 散々新聞とかで自分を持ち上げてくれていた世間の連中も、自分が故障したと分かれば途端に掌を返して居なくなる始末……。

 大会にまた出た所で、どうせ成績も振るわず再び……いいえ、考え様によってはあの国体以上に惨めな想いを味わうかも知れない……。


 そう思うと、とても怖くて競泳水着も着れない……。

 それが、彼女の内に残る50%の穢れの正体でした。


 「忍……?」


 「ごめんみちる…あたし………やっぱ怖いんだ…。1年半以上も水泳から離れてた奴が、今更戻ったって………!!」


 少なからず怯えた調子で、忍はそう苦しそうに言葉を紡ぎます。みちるを握るその手は、小さく震えていました。

 

 「そんなッ…!!」


 折角右肩は治って自由に動くのに、忍はやっぱり水泳を辞めてしまう―――――そう考えると、みちるの目には悔し涙が再び滲みます。


 (本心で言ってるんですか?)


 すると突然脳内に響く声。リラ達の前に突然現れたのは、意外にもテミスでした。テミスは魚の姿から人間態に変化すると、みちると忍の前に近付きます。


 「何だ?魚が女の子に……」


 「誰なの……貴女?」


 初めて見る上級水霊(アクア)であるテミス。魚の姿から人間の姿に変化する様子と共に、彼女が放つ神秘的な存在感にみちると忍は呆然となるばかりでした。


 「初めまして前橋みちる、日浦忍。私は水霊(アクア)のテミス。リラにアクアリウムの力を与えたのはこの私よ。」


 「えっ……貴女が汐月さんに!?」


 初めて聞く衝撃の事実に戸惑うみちると忍を横目に、テミスはリラを呼びます。


 「来なさいリラ。貴女に教えたい術法が有ります。」


 「えっ、教えたい術法?」


 「その前に先ず、日浦忍の内なる水霊(アクア)――――『ヴァルナ』を外へと出しなさい。」


 「でもテミス、先輩の水霊(アクア)は―――――。」


 忍の内に宿る、エイに似た姿の水霊(アクア)のヴァルナは今の忍の心を体現するが如く、怯えて忍の奥に籠った切り出て来る様子を見せずにいました。


 「葵さんの内なる水霊―――――アンジュの力を借りてみなさい。社交性の高い彼女の水霊(アクア)ならばもしかすれば―――――。」 


 「成る程!葵ちゃん、アンジュを借りるね!」


 「待ってました♪」


 そしてリラは葵の内に宿る水霊(アクア)であるアンジュを、忍の内に放ちました。


 青白い優しい光を放ちながら、未だに穢れの残る濁った忍の内奥に隠れているヴァルナの下へと近付いて行きました。

 やがてその優しい光と温かいオーラに照らされると、それに導かれる様にヴァルナが飛沫を上げて遂に忍の内より姿を現しました。


 「何だ…?あたしの中から………エイ?」


 「綺麗――――――。」


 忍の中から現れたヴァルナは、ダークブルーの身体に白いスポットライト、金色の瞳と言う“マンチャ・デ・オーロ”なる淡水エイに似た姿をしていました。


 「リラ、ヴァルナに命じなさい。『日浦忍を映せ』、と…。」


 「えっ?うん、分かった。ヴァルナ、日浦先輩を映しなさい!」


 するとヴァルナは忍を数秒間見つめたかと思うと次の瞬間、光を放って何と「もう1人の忍」へと姿を変えたのです!


 「えっ!?あたし!?」


 「しっ、忍が2人!?」


 「凄い!何これ!?」


 「アクアリウムってこんな事も出来るんだ……。」


 目の前で実演されるアクアリウムの新能力の前に、一般人は唖然とするばかり。更紗も何も言わずに息を呑んで只事の成り行きを見守るばかりでした。


 「これがアクアリウムの発展技『アクアミラーリング』。内なる水霊(アクア)と宿主との対話。言うなれば『もう1人の自分とのカウンセリング』を実現させる術です。」


 そう言うとテミスは再びコバルトの飛沫となって消えました。


 「それではリラ、後は日浦忍次第よ――――――――――。」


 「日浦先輩次第……。」


 そう呟くリラを横目に、忍はヴァルナが化身したもう1人の自分と対峙していました。


 「これが、もう1人の……あたし……。」


 「忍―――――。」


 すると忍に化身したヴァルナが勢い良く宿主に掴み掛りました。


 「お前…、本当にそれで良いのかよ!?このまま一生泳ぎと無縁の暮らし送って、それで満足なのかよ!?」


 「えっ?」


 突然胸倉を掴んで自分を詰って来るもう1人の自分に、忍は只々面食らうばかりでした。


 「誤魔化すなよ!?あたしはお前なんだぞ!?ずっと17年間お前の事見て来たんだからあたしには分かる!!お前は本当は泳ぎたくて泳ぎたくて仕方無ぇんだよ!!けどお前は大会に出て、勝って、皆から評価されたいって気持ちで一杯で忘れちまったんだ!『心から水泳を楽しんでた自分』をよォッ!!!」


 その言葉を聞いて忍は頭にマッコウクジラから体当たりされた様な衝撃を感じました。同時に思い出したのです。初めてプールで泳いだ時の、あの水の感触を……。小学時代から中学時代……仲の良い友達と泳ぐのが楽しかったあの頃の気持ちを!

 それを思い出した時、忍の目からは涙が滲み出て来ました。


 「あたしは…本当は………」


 何時からでしょう?泳ぐ事を心から楽しいと思えなくなったのは……。


 「思い出せよ忍!水泳が楽しくて仕方無かったガキの頃を!!」


 何時からでしょう?周りからの評価ばかりを気にして練習に励む様になったのは……。


 「泳げよ!勝ち負けとかどうだって良いから思いっ切り!」


 今までのリハビリだって、「泳ぎたいから」と言うより水泳で負けるのが……「ライバルたちに引き離されるのが怖いから」その焦りで取り組んでいたのではないでしょうか……?

 勿論やり方自体は間違っていなかったから、そのまま頑張っていれば復帰出来たかも知れないのに、そんな体たらくだからあんな穢れ水霊(アリトゥール)なんて訳の分からない魔物に取り憑かれ、全てを棒に振ってしまった……。


 全ては、自分にとって本当に大事な事が何かを見失っていた、己の弱さが招いた事だった―――――――――!!


 「……たい…。」


 「あぁ!?何だって!?」


 「…ぉ……よぎ……た……い………。」


 「もっとデカい声で言え!!」


 「あたしだって……本当は泳ぎたいよ!!プールで一緒に…皆と……泳ぎたい………ッ……うぅっ…………。」


 気付いた時、忍の目には大粒の涙が溜まって今にも迸りそうになっていました。

 漸く自分の本心に気付いた忍の姿を確認すると、リラは再び周囲の下級水霊(アクア)達を集めてクラリアと共にクラリファイイングスパイラルを形成すると、それをヴァルナに纏わせます。


 「待って汐月さん、私の水霊(アクア)も使って!」


 「前橋先輩……。」


 みちるからの請願に対し、相手の真剣な顔をじっと見つめてリラはコクリと頷きます。彼女だって、忍を癒す力になりたい。その為に此処にいるのですから―――。


 「葵ちゃん、深優ちゃん、更紗ちゃん……。」


 3人の友人に対してリラは言います。


 「アンジュとブルームとプラチナ、もう1度貸してくれる?ノーチラスに力を送りたいから…。」


 その言葉に3人はフッと微笑むと共に、力強く頷きました。


 社交性と度胸のアンジュ、元気と優しさのブルーム、強さと逞しさのプラチナを光球に変えてもう1つのクラリファイイングスパイラルをリラは形成。そしてそれを今度はノーチラスに纏わせます。


 「ヴァルナ、ノーチラス―――――後はお願い!」


 その言葉に両者はフッと微笑んで頷くと、先ずはヴァルナが再び忍の内に宿り、その力で彼女の内に堪った残りの穢れの全てを浄化します。

 其処へ更に、ノーチラスが続いて忍の内に入る事により、彼女の心と身体は全て完全に癒されるのでした――――――――――――。



 「何だよ、これ………?」


 溢れ出した光の中、ノーチラスが体内に入り込んだ忍の目には、みちると自分との思い出が鮮明にフラッシュバックして映し出されました。

 同時に、自分の事をみちるが今までどれだけ心配し、どれだけ大切に想って今日まで過ごして来たのか、その悲しみや喜びや慈しみの感情の数々もしっかり伝わって来たのです。



 「み…ち……る―――――――――――――くっ…うっ……うぅっ……ああっ、あっ…………わあああああぁぁぁぁぁぁああああ――――――――――――――――――ッッッ!!!!!」



 海底温泉の様に内側から止め処無く湧き出て来る温かい気持ちに、忍の涙は止まりません。旧約聖書に有る“ノアの大洪水”の様に押し寄せる、「滂沱の涙」で顔中を濡らしながら、みちるは赤ん坊の産声以上に大きく声を上げて泣きました。

 そんな彼女をみちるは強く抱き締め、その胸に忍の泣き顔を埋めさせます。


 みちるの表情は、まるで母なる海の様に深い深い慈愛に満ち溢れた物でした―――――。




 ――――――数日後、霧船女学園のプールは学校の教員や、水泳部を筆頭とした有志の女子達の手によって1年振りに綺麗に清掃されました。無論、その有志の中にはリラ達も含まれていました。そうして水を湛えたプールは、心なしか輝いて見えます。


 それから5月のゴールデンウィーク明けと共に、水泳部に名を連ねる彼女にとっては心より待ち焦がれた瞬間がやって来ました。そう、プール開きです!

 其処には、競泳水着に身を包んだ部長の前橋みちるとエースの日浦忍の3年生2人を筆頭に 2年生の漣真理愛、星原縷々、濱渦水夏の4人が揃い踏みしていました。更に―――――。


 「こ、今年から水泳部に入りました。2年4組の飯岡潤です。水泳はちゅ、中学時代にやってました!1年間休んでましたけど、頑張って取り返して行きたいです!」


 中学時代に水泳部に入っていた、2年生の潤が競泳水着に身を包み、新入部員として穿破と後輩と同級生達に挨拶をする姿も有りました。

 豊満に膨らんだ乳房を大きく揺らし、羞恥心で顔を赤く染めながらも何とか挨拶を終える潤。

 彼女が1年のブランクを埋めてどう成長して行くのか、今後に期待ですね!


 そして今年は1年生が4人も新たに入りました。そう……、その4人とはズバリ、言わずと知れたあの子達です!


 「1年2組、五十嵐葵です!水泳は初めてです!一生懸命頑張ります!」


 「同じく1年2組の吉池深優!宜しくお願いします!」


 「1年の長瀞更紗です。頑張ります。宜しく……。」


 先輩達と一緒の競泳水着に身を包んで手を後ろ手に組み、三者三様の形で挨拶をする葵と深優と更紗の3人。最後は勿論――――。


 「1年2組、汐月リラです!水は苦手じゃありません。寧ろ大好きです。宜しくお願いします!」


 リラも水泳部に一緒に加入していました。澄み渡る藍色をした彼女の眼差しには、学園のプールがとても美しく輝いて見えました。

 それはまさしく、今の彼女の心を映す水鏡其の物でした。

 水泳部としてのこれからの活動に心を躍らせるリラ。



 彼女の澄んだ藍色の瞳に映るプールには――――――テミスと一緒に大小様々な、沢山の水霊(アクア)達が戯れているのでした。



リラ達が水泳部に入る前の活動は暫くしたら番外編で書きたいと思います。次回は学友である3人にフィーチャリングした話を書く所存です。


先ずは深優から!どうぞお楽しみに!



キャラクターファイル11


日浦忍(ひうらしのぶ)


年齢   17歳

誕生日  9月19日

身長   174㎝

血液型  O型

種族   人間

趣味   漫画描き

好きな物 真剣勝負


霧船女学園水泳部のエース。ツリ目に黒のショートヘアーが特徴で良く手を後ろ手に組む。

高校1年の時に国体に出場する程の名選手だったが、大会時に怪我を患ってそのまま1年余り休部していたが、リラのアクアリウム能力によって心と身体を癒させられたのを機に、再び水泳と向き合う様になる。

ボーイッシュで男勝りな性格だが面倒見が良く、みちると親友同士である一方で、家が近所と言う事もあってリラと絡む事も多く、彼女の姉貴分の立ち位置を担う。本人は無自覚だが、嬉しい時には胸を大きく揺らす癖が有る。

専門もリラと同じくバタフライであり、泳ぎを通じて良い師弟関係を築いて行く事となる。

因みにクラスはみちると同じで3年3組で、素足にスニーカーと言う珍しいスタイル。

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