第9話 揺らめく水面に戯れる(離)
今回と次回で漸く水泳部入部編は終わりです。
それは、みちるにとって忘れ難い悲劇でした。
今から2年前―――――9月も中旬だと言うのに未だ夏の残暑が厳しい中、公益財団法人である日本水泳連盟の主催する国民体育大会水泳競技大会のシーズンが近付いて来ました。
当時未だ高校1年でありながら水泳部で頭角を現したみちるは、自分以上のエースである忍と上の2年生と3年生の先輩1名ずつの4名で国体への参加を決めたのでした。
「やったじゃねーかみちる!あたしとお前の2人が国体に選ばれるなんて嬉しいぜ!」
「あら?私は兎も角、忍なら選ばれて当たり前だと思ってたわよ?」
国体を始めとした主要な大会に出場する為には、連盟の定めた標準記録を突破せねばなりません。そしてその標準記録を超えた者の中から、更に厳正な審査によって参加選手は選ばれます。
中学時代から大会での優勝経験が有ってそれなりに名が知れ、霧船にもその実績から推薦で入る程の選手だった忍は当然だとしても、まさか自分まで1年で選ばれるとは思っても無かったみちる。
1年で自分達だけが選ばれた事を心から喜び誇った2人でしたが、思えばこれが彼女達2人にとっての“幸せの絶頂”だったのかも知れません…。
「うっ……!」
不意に右肩を襲う違和感。それは鈍い痛みとなって忍に降り掛かって来ます。
「どうしたの忍?何処か具合でも悪いの?」
「な、何でもねぇよ!それより来週が楽しみだな。」
違和感は此処最近、それ以前にも何度か有りました。然し、忍は其処まで深刻には捉えておりませんでしたし、親友でライバルのみちるに余計な心配を掛けさせまいと騙し騙しやって来ていたのです。
そして―――――運命の日。
午前中の予選はみちるが無差別100m自由形、忍が無差別100mバタフライ、先輩方もそれぞれ背泳ぎと個人メドレーに参加。
みちるは辛うじて勝利して午後の決勝に駒を進めるも、先輩2人は敢え無く敗退。残りは忍だけでしたが、この時のみちるは彼女なら予選を突破出来ると信じてました。
然し……。
「えっ?忍――――――」
競技中に突然忍を襲った激痛。余りの痛みに彼女はそのまま悶絶して溺れ出したのです。異変を察知した救護の人達が助けた時、彼女の右肩は痛々しい程に腫れ上がっていました。
医者からも「どうしてこうなるまで放っておいた」と言われる程に腫れ上がった忍の水泳肩。これではもう泳ぐ処では有りません。忍には当然、暫く水泳禁止の強いドクターストップが掛ったのでした。
一方みちるは精神的に大きなダメージを負っていました。自分と一緒に予選を突破して決勝を共に戦えると思っていた忍が、選手生命に関わる大事で棄権したのだから当然です。
そんなボロボロの精神状態で最高のパフォーマンスなど出来る筈も無く、午後の決勝で参加した少年A100m自由形では午前の時の精彩を欠いて最下位と、目も当てられぬ結果に終わってしまいました。
親友と出場した夢の舞台は、最悪の形での幕引きとなってしまったのです。
あの日の事を、みちるは片時も忘れた事が有りません。学校では普通にしていても秋以来、何処か表情に陰のある忍の表情をこの1年半余り見続けて来ました。
何度リハビリを重ねても、治ったと思った途端に繰り返し繰り返し再発する水泳肩―――――。
五体満足に泳げて練習を重ね、どんどん自分から水を空けて行くみちるや同級生、後輩やライバル達―――――。
その絶望がみちるの内に、もう本人の内なる水霊では浄化不可能な程の重く、有害な穢れを溜め込んでしまった事は想像に難く無いでしょう。
「なぁ、みちる―――――あたし、ずっともう泳げないのかな?このまま永遠にみちると泳げないなんて、考えただけで怖いよ………!!」
或る時、目から大粒の涙を流して忍が自分に言い放ったその言葉が、今でもみちる自身の胸に刺さったまま抜けません。
「泳げない」と言う、死に勝る苦しみの生き地獄に堕とされ、自分の人生に絶望した忍の顔―――――。
自分の胸に顔を埋め、声を挙げて泣いた忍の慟哭―――――。
その1つ1つもまた、みちるの網膜と鼓膜にそれぞれ烙印の如く強く深く刻まれ、未だに取れずにいたのでした。
「ねぇ、汐月さん―――――。」
忍の家へと向かう道すがら、不意にみちるはリラに尋ねます。
「貴女があの精霊って言うのを使って魔法みたいな事が出来るって言うのは驚いたけど、どうして汐月さんはそんな力が使えるの?それにさっきまでいたあの変な魚みたいな……確か水霊って言うのももう見えなくなったけど……。」
一般人としては至極尤もな問いですが、リラは面倒臭がらすに答えます。
「水霊達は私がさっきみたいなフィールドを展開しない限り、普通の一般人には見えないんです。でも、見えないだけで周りにはちゃんと居ますよ?水の有る所になら水霊は何処にだって……。」
そう言ってリラが再びアクアフィールドを展開すると、再びみちるの目には空高く立ち昇る気泡と、周囲を泳ぐ見た事の無い魚達が映りました。地面を見ると、更には海老や蟹、貝などの水生生物まで居ます。
「うわぁ、本当だわ……。でもこうやって見ると、まるでこの街全部が海の底に沈んでるみたいな不思議な感じね………って汐月さん、さっきからあちこちで上がってるあの黒い煙みたいなのって何なの?」
「あれが“穢れ”です。人の心の中のストレスや悪いマイナスの感情から湧いて出て来て、人間に病気や不幸を齎して性格まで捻じ曲げるとっても悪い物なんです。あれを浄化する為に水霊達は世界中を水と一緒に廻ってるんですよ。」
初めて目にする穢れに対し、みちるは生理的な嫌悪感を覚えました。ですが、直ぐに大小様々な水霊達が寄って来てこれを食べたり攻撃したりして浄化して行くのを見ると、少し胸の空く想いでした。
「先輩だってさっき私に対して怒った時とかだって、同じ様に強い穢れを抱えて、身体から出してもいたんですからね?」
リラからの指摘に、みちるは思わず胸にナイフが刺さる様な感覚を覚えました。彼女に癒されるついさっきまで、自分は気付かない内にあんな黒い汚染物質を内側に溜め込んで、あまつさえ放出していた…。そう思うと空恐ろしい気持ちになるのも無理は有りません。。
同時に、それを癒して綺麗にしようとするとするリラの気持ちも分からなくも無いと思う様になりました。こんなに穢れた物を抱えた人間が大勢目に付いて、自分にそれを綺麗に出来る力が有るならそうしたい。自分がリラと同じ立場なら、きっと同じ事をやっていたでしょうから…。
「確かに、こんな黒くて汚い物が身体から出てるなんて思ったら、普通は何とかもう出ない様に綺麗にしようって言う風に思うわよね。私だって汚れとか目に付いたら洗って落とそうとするから……。改めて貴女にお礼を言うわ。どうも有り難う。」
これから自分達が救いに行く忍は、きっと己自身や街で見掛けたのよりもっと酷い穢れを内側に抱えているに違いない。そう思うと早く彼女を癒し救わなければ…!!忍の家に近付くにつれ、みちるはそう決意を新たにしました。
「それで汐月さん、そんな凄い力をどうして貴女は使える様に……」
「あっ、見てリラ!あの家の2階から凄い煙みたいに黒いのが上がってる……!!」
リラがどうやって水霊士としての力を得たのか?その「もう1つの問い」に対する答えをみちるが聞く前に、不意に葵が真っ先に声を上げた物だから5人の視線は当然其処へ向かいます。
其処は前日リラが下見をした、「日浦」と言う表札が張られた普通の一般住宅。然し、その2階からは工場の煙突から濛々と上がる黒い煙の様に大量の穢れが天へと立ち昇っていました。
余りに穢れの濃度が強過ぎる為か、周囲を泳ぐ水霊達もおちおち近付く事が出来ません。
「前橋先輩……あの家ですか?」
「そう――――――あそこが忍の家よ!」
改めて忍が酷い穢れを溜め込んで苦しんでいると認識させられ、みちるの心には泣きそうな気持が込み上げて来ます。
さながらRPGに於ける魔王の居城とも言うべき目的地を視界に捉えた5人。他の水霊達すら簡単に近付かない程の場所となると流石に尻込みの1つもしてしまう物ですが、リラとみちるは『忍を癒し救う』と言う強い信念の下に来たのです。今更こんな所で引き下がる訳には行きません。
あそこに居るのは倒すべき悪の魔王では無く、救うべきお姫様―――――そんな考えと共に、5人は改めて自分達の内なる水霊を顕現させ、勇気を奮い立たせました。
更に何時でもクラリファイイングスパイラルの準備が出来る様、リラは周囲の下~中級水霊を何百匹と呼び寄せるのでした。
(随分と深刻な穢れね。だけど、1人の人間の絶望だけでこんな巨大な穢れが出来るなんて事が有るのかしら―――――?)
言い知れない不安を胸に抱きながらも、扉の前に向かって行く5人の姿を遠くからテミスは静かに見守っていました。
玄関前の扉に立つと、先ず扉のインターホンを押したのは当然の適役足る忍の親友・みちるでした。
「はーい、どなた……ってあぁ、みちるちゃんじゃない。こんにちは。」
「こんにちは、忍のお母さん!」
現れた忍のお母さんを相手に、何時も通りの柔らかい物腰で堂に入った応対をするみちる。然しそんな忍のお母さんの視線が次に向いたのは当然と言うべきか、みちるの背後に控えた見ず知らずの4人の少女達です。
「あら?みちるちゃん、後ろにいるその子達は誰?」
「この子達は今日水泳部に入ってくれた新入生です。」
「そうだったの!今年は4人も部活に入ってくれた子がいて良かったわねぇ~♪」
みちるの説明を受け、リラと葵と深優と更紗は1人1人お辞儀しながら自己紹介を始めます。
「初めまして、汐月リラです!」
「私、五十嵐葵って言います!」
「吉池深優です。初めまして、日浦先輩のお母さん!」
「長瀞更紗と申します。宜しくお願いします。」
最初の3人が元気の良さをアピールするのに対し、最後に深々とお辞儀をする事で更紗は礼儀正しさをアピールします。
「皆元気で可愛い子達ねぇ~。ウチの忍にも、昔はこんな時期が有ったのに………。」
そう言うと忍のお母さんは、静寂に包まれた湖の様な物悲し気な目で二階へ続く階段の方に視線を一瞥しました。
「お母さん、忍はあれからどうなんですか?」
心配そうに尋ねるみちるに対し、忍のお母さんは浮かない顔で答えます。
「普通に生活する分にはお医者さんも問題無いって言ってたけど、それにしたって水泳肩って言うのは1度なったらもう2度と治らない病気なのかしら?リハビリ自体はスポーツに詳しいお医者さんの言う通りキチンとやっているのだけれど、何だか前より痛そうになってるみたいだし……」
(え……?)
忍のお母さんの言葉に、リラは一瞬何かの違和感を感じました。そんな彼女の心中など知る由も無く、みちるが話を進めます。
「――――取り敢えず、忍に新入生の子達を紹介したいから上がりますね!」
みちるの言葉に促されて玄関でローファーを脱ぐと、リラ達はそのままみちるを先頭に忍の部屋の有る2階へと登って行きました。
「忍!私よ。入って良い?」
「みちるか……?あぁ、入れよ。」
「うん!あっ、汐月さん達は此処で待ってて?私が合図したら入って来て頂戴。」
ドアをノックして入室を求めると、忍は凡そ覇気の無い声でこれを許可。言質を取ったみちるはすかさず入室します。
忍へのサプライズの心算なのか、その直前にリラ達に合図するまで入るなと小声で伝えて―――――。
入室したみちるを待っていたのは、授業終了と同時に早々に帰宅して私服に着替えていた忍でした。パーカーの下にショートパンツと言うカジュアルな格好をしています。身長も171とみちる同様それなりに高く、脚も相応に長く伸びて綺麗な脚線美をしていました。
然しその顔は如何にもつまらなさそうで、如何にも投げ遣りと言う感じの面持ちでした。
「お邪魔しまーす♪ってもう、忍ったら相変わらず家じゃそんなつまらない顔して!」
「今に始まった事じゃねーじゃん、ほっとけよ………。」
故障でもう水泳の出来ない身体になってから、忍はすっかり覇気のハの字も無い虚ろな日々を過ごしていました。
勿論最初はまた水泳が出来る日が来ると信じて希望を持ち、リハビリだって頑張っていたのですが…。
学校ではそう言う素振りは極力見せてはいないのですが、そのギャップには最初の頃、みちるも胸が痛くなった物です。
家に帰っても勉強以外特にやる事が無い為、忍の学校での成績は上位に入る方でしたが、やっぱり彼女には勉強してるよりプールで泳いでる姿が似合っている……。
キラキラと光る水面の上を掻き分け、宝石の様な水飛沫を立てて楽しそうに泳ぐ姿が―――――。
「ねぇ聞いて忍。今日ね、1年の子達が4人も新しくウチの部に入ったんだよ?」
「はぁ?1年が………4人?」
リラ達新入生が4人、水泳部に入った事を嬉々として報告するみちるですが、やはり忍は何処か他人事みたいにそう虚ろに返すばかり。
そんな忍の事を敢えて無視するかの様に、みちるは今年入った1年の新入部員4人に入室を促します。
「良いわよ皆!入って来て!」
その言葉に促され、リラ、葵、深優、更紗の4人が「待ってました!」と言わんばかりに1人ずつ入室して来ます。
「初めまして日浦先輩!私、1年2組の汐月リラです!」
「同じく1年2組の五十嵐葵です!」
「以下同文の吉池深優です!」
「同じく長瀞更紗です。宜しくお願いします、日浦先輩。」
先程忍のお母さんにしたのと同じ様に、忍本人に挨拶をするリラ達。まるでピチピチと活きの良い新鮮な魚の放つ命の輝きに、忍は思わず目を背けたくなる自分を感じました。
「おいみちる、こいつ等か?新しい部員ってのは……」
「そうよ忍。他にも3日前には2年生の飯岡さんも新しく入って、今年は5人も入ったわ!」
尚も忍とは対照的に嬉々とした調子で語るみちるの姿に、忍は露骨なまでに不快感を覚えました。
自分がずっと泳げなくて、肩の痛みで苦しんで1年以上も塞ぎ込んでるのに、目の前のみちるは自分のいない間もずっと練習して来てあの国体から腕を上げて来た……。
おまけにこんな活きの良いフレッシュな1年生まで連れ込んで来るなんて、これではまるで………。
そう思うと、自分の中にずっと抑えられ、燻り続けていたドス黒い感情が沸々と込み上げて来るのを忍は感じていました。
「それでね、忍。今日は貴女に大事な話が有るの!貴女の肩の故障を……」
「みちる、お前さぁ……」
これからリラの話を出して忍を癒そうとした矢先、不意にみちるの言葉を遮って忍が口を開きます。
「あたしの事虐めてそんな楽しいかよ?」
虐めと言う言葉に、一瞬リラが反応しましたが、誰もその事には気付いていませんでした…。
「な、何を言ってるの忍?いきなりどうしたの?私がどうして貴女の事を虐めてるって思うの?」
「じゃ何で、そんな嬉しそうな顔でこんな1年のヒヨッ子共自慢気に紹介なんてしてんだよ?」
気が付いたら忍の腕はワナワナと震え、口元から覗かせた白い歯は怒りで軋む声を上げ始めていたのです。そして―――――。
「何なんだよ………一体何なんだよお前!!?さっきから嬉しそうな顔で訊いてもねぇ事ゴチャゴチャゴチャゴチャ……あたしが泳げなくて1年半以上もずっと辛い毎日送ってるってのに心底楽しそうにしやがって!!!」
「忍……?」
訳も分からず突然キレる忍。その態度が気に入らないとばかりに口を開いたのは葵でした。
「ちょっと先輩!幾等何でもそんな言い方…」
「るっせぇんだよ黙ってろ1年のヒヨッ子がァッ!!」
その剣幕に思わず気圧される葵を横目に、忍はみちるに食って掛かります。
「違うわよ忍!私は……」
「何が違うってんだよ!?お前は良いよな!!怪我も故障もしねーで3年間五体満足に水泳出来て大会にも出れてよ!!あん時と比べても速く泳げる様になったんだろ!?あたしって邪魔モンまで居なくなって、自分が晴れて霧船のエース!!おまけに1個下の2年には将来有望の後輩共まで侍らせて、今年はこいつ等かよ!?あたしが泳げなくてずっと惨めな想いしてんのに、そんな未来の無いあたしの前にこんなキラキラした奴等連れて来て自慢しやがって!!んな事されたってあたしが惨めになるだけだって分かんねーのかよ!?おまけに治る見込みなんざ無ぇってのに、何っ時も何っ時もムカつく文面のメールなんざ寄越しやがって!!励ます心算でもどーせ本当は「もう治んねーんだから無駄無駄www」って腹の底じゃ嘲笑ってたんだろあたしの事!?表向きはあたしの事想う振りしてさァッ!!これが嫌がらせ……いや、“虐め”じゃなかったら何だっつーんだよ!?あぁんッ!?」
さながら過去1952年に観測中の海上保安官31名全員を死に追いやった海底火山である明神礁が大噴火するが如く、怒りに任せて言葉を迸らせる忍の剣幕に、みちるは気圧されるばかりでした。
ですが、それ以上にみちるを襲ったのは“悲しみ”だけでした。男勝りだけどあんなに真っ直ぐで、一本気な性格だった忍が、そんな有る事無い事邪推して、あまつさえも自分が思い遣りの気持ちから出した励ましや応援のメールを、「どうせ治らないのに無駄」と嘲る悪意のそれと解釈する程に捻じ曲がっていたなんて……。
気付いたらみちるの目からは大粒の涙が止め処無く溢れていました……。
「忍………。」
(虐め………。)
その言葉に、リラは思わず目を伏せようとする自分を感じていました。自分を害そうと言う心算は無いにしても、心が捻じ曲がった人間は相手の善意を逆に悪意と受け取って、行き過ぎると「虐め」だとして敵扱いまでしてしまう……。
アクアリウムの能力でこっそり忍を見た次の瞬間、突然視界がブラックアウトしました。彼女の内から湧き出る穢れは、この部屋其の物をすっぽりと覆い尽くす程に酷いと言うのでしょうか!?思わずリラも解除してしまう程です。
(何も見えない……!!これがこの人の中に巣食った穢れだって言うの……ッ!?)
「話を聞いて忍!!私は貴女の肩を治せるかも知れないから……」
「あたしの肩を治すだァッ!?そんな事が出来んだったらもうとっくにやってんだよ!!けど幾等リハビリしたって全然治んねーじゃねーか!!!治ったと思ったってまた直ぐ再発して前より酷くなるし、もうウンザリなんだよ、そんな淡い希望なんか持って報われる見込みも無ぇ努力すんのはさァッ!!それに仮に治ったとこでどうだってんだよ!!?あたしにはもう1年半もブランク有んだぞ!?今更どんなに頑張ったってもう昔みたいには泳げねぇんだ!!!大会出れたって敗け……うッ!?くうぅぅ~~~~~~~~~ッ…………!!」
尚も怒りの奔流に呑まれて罵詈雑言を吐き散らす忍ですが、突然彼女の右肩を容赦無く激痛が襲います。その時、リラは不意に何か強い違和感が襲いました。
(前より酷く……?って言うかこの感覚…これってもしかして……!?)
再び恐る恐るアクアリウムを発動させて忍を見ると、以前穢れでブラックアウトする視界の悪さの中にリラは信じ難い物を見たのです!
(何、あれは……!?)
余りに穢れが酷過ぎる為に直ぐに能力を解除しましたが、リラの目は薄らとですがしっかり捉えていました。
忍の肩の周辺に吸い付く、『禍々しい気配の数体の下級水霊』……。
彼女に宿る、エイに似た姿の内なる水霊とは別な水霊の存在を……。
「兎に角、今更あたしはもう水泳なんか出来ねーし泳ぐ気も無ぇんだ!!お前とだってもうダチでも何でも無ぇ!!目障りなんだよ!!!」
みちるとの絶交宣言を吐き捨てながら、忍は尚も痛む肩に手を当てながら部屋を出て、そのまま外出してしまいました。
「あぁ~~~怖かったぁ~~~~っ!!」
「日浦先輩ってあんなに怖い先輩だったんですか前橋先輩?」
「でも、幾等もう泳げないからってあの人、自分の事で頭一杯過ぎじゃない?」
その場に残された者の内、葵3人は忍の荒み切った気迫に気圧されてすっかり腰が抜けていたのでした。
「ごめんね?貴女達にまで嫌な想いさせちゃって……。あの子、本当はあんな子じゃ無かったのに……。」
朝焼けに照らされた海の水面の様に、キラキラと光り輝いていた昔の忍の瞳を思い出すみちる。その余りの変わり様に、再び彼女の目には大粒の涙が大瀑布の様に溢れ出るのでした。
「泳げなくて塞ぎ込んでる内にあんなに投げ遣りになるなんて……おまけに……ヒック……もう…ヒグッ……友達じゃ……ないって……ヒッグ、ウッ………ウアアッハアアアアア~~~~~~~~ン!!!」
忍の去った部屋に、親友の慟哭が木霊します。然し、そんな中でリラは1人、黙っているだけでした……。
「リラ……?」
「リラっち……?」
「さっきからどうしたの黙ったりして……ッ!?」
3人がリラの表情を見ると、リラの表情には強い怒りの表情が浮かんでいました。それも初めて見る怒りの顔を……。
「リラ、気持ちは分かるけど忍先輩だって本心で言ってる訳じゃ……。」
てっきり忍の態度に対して怒っている物と思った葵ですが、リラの口から出た言葉はもっと意外な物でした。
「私、何と無くだけど分かった気がする……。」
「分かったって何を……?」
恐る恐る深優が尋ねると、リラはこう返します。
「ずっと日浦先輩を苦しめていた物の正体が……!!」
「えっ?だってあの先輩は練習のし過ぎで肩を壊して、それからリハビリをやって来たのよ?お医者さんもスポーツに詳しい人で、キチンとしたやり方を教えて貰って……。」
「其処よ更紗ちゃん。先輩のリハビリ自体は決して間違ってない。現にそれで治ったって皆最初は思ってたんでしょう先輩?」
「えっ……えぇ、そうよ。でも治ったと思ったらまた再発して、しかも前より悪化する様に……。」
“前より悪化”……?どんな故障でも自分の体をいたわり、正しいやり方でキチンとリハビリをしていれば治りこそすれ悪化する事は無い筈なのに……。
自分の中で、全ての点が1つに繋がるのをリラは確信しました。
「前橋先輩、私分かったんです………日浦先輩を今まで苦しめていた物の正体が!!」
「えっ!?」
「何ですって!?」
リラの放った言葉に、4人全員が耳を疑いました。
キャラクターファイル10
プラチナ
年齢 無し(強いて挙げれば更紗と同じ)
誕生日 無し(同上)
血液型 無し(同上)
種族 水霊
趣味 更紗日記
好きな物 更紗の好きな物なら全部
更紗の中の内なる水霊。その名通りプラチナに輝くアロワナの姿をしている。小さな事に基本的に頓着しない大らかな性格の持ち主で、アロワナ自体が高いジャンプ力と焦らずゆったり泳ぐ魚だけに、如何にも更紗らしい水霊と言えるだろう。
リラはそんなプラチナとクラリアの合体技とも言うべきアクアリウムの術法を編み出して行使しているが、他に高い跳躍力で機動力を確保すると言う、身体能力強化の使い道もあるらしい。




