7 二色の巨影と最後の死闘
第1章も終盤です。
語り手: アルタイル
地面を突き破り現れたのは巨大な穴。それが落ちていくセイヤたちに迫ってくる。
「させるかっ!!」
すかさず『光』の力で白……ではなくなぜか真っ黒な翼を作り、ユキをキャッチ。そのまま滑空し轟音を立てて突っ込んでくるトンネルから大きく離れて着地した。
「テスラ、なんなんだアレ!?」
「……わたしも知らない。大きすぎる。」
『相手の精神エネルギーが強くデータ不足です!解析までもう少しかかるので時間を稼いでください!!』
「オーケー。」
「任せて。」
今までの敵が比べ物にならないほど強大な敵。だが、今の彼らには戦う以外の選択肢はなかった。
どうせ逃げても追いつかれるだろう。あの小屋の住人まで巻き込むことになりかねない。
『【緑】に【黄】、二色持ちです!気を引き締めていきましょう!!』
「あいよ!」
地震とともに、化け物がその姿を現した。それは巨大なヒルともいうべき奇怪な容姿で、直径10m以上の口を持つチューブ状の影だ。体に【緑】と【黄】のラインが血管のように張り巡らされていて、非常に気持ち悪い。
その巨体からは濃密なエネルギーのオーラを感じる。全くもって油断できない。
「一口では喰えねえな。ユキ、奴の動きを抑えてくれ!」
「……任せて。」
ユキが以前より大きいつららを大量に作り、一斉に放った。巨体ゆえにほとんどが着弾するも、あまり効いている様子はない。
敵の殺意がユキに向かいかけたので、セイヤは槍を投げてヘイトを稼ぐ。やはり効いている様子はないが、意識はセイヤの方へ向いた。
しかし、倒せるビジョンが浮かばないほどの硬さだ。
『部分解析結果、敵は【緑】を用い障壁を展開しています!』
つまり、本体の硬さではなく強固なシールドが存在していることになる。どうにか破壊できなければダメージは通らないだろう。
「……穿て。」
ユキは弾幕ではなく巨大な氷塊を飛ばす。しかし障壁はそれをあっさりと弾いてしまう。
このまま飛べないユキが留まって攻撃していると非常に危険だ。しかし吸収した『光』の量はまだ少なくセイヤが飛び続けるのにも限界がある。
再び槍を投げ敵を引きつけるセイヤ。
その一撃を受けた影が痛みにのたうちまわる。
障壁を通り抜け、たしかに効いたのだ。
「ユキ、何かしたか?」
「……ううん、なにも。」
『おそらくですが、当たった場所が原因かと。今の一撃は影の口の近くに着弾していました!』
つまり、巨大影はセイヤたちを捕食するため口に障壁を張っていないのだ。
作戦変更。
「ユキ、全力の一撃を用意しとけ!俺の合図で放つんだ!」
「わかった。流石に一瞬じゃ無理。」
『20秒です!時間を稼いでください!!』
「任せろ!!」
怒りに我を忘れた影が迫ってくる。向かってくる口にもう一本槍をお見舞いし、ユキたちから引き離していく。
すると突然、影の体の黄色いラインが輝き出す。猛烈に嫌な予感がしたので思い切り横へ飛びのくと、さっきまでいた場所を凄まじい威力の光線が襲った。真っ黒な地面がかなりえぐられている。
(シャレにならんわっ!!)
お返しにと槍を連続投擲、空中で軌道を変えた槍たちは影の口へ殺到するも、相手はまだまだ余裕そうだ。
そして突然地面に潜っていった。
強い衝撃の後、地面ごと空中に投げ出される。
「何度やっても……マジかよ」
今度は最初と違い、空中にいるところを光線が襲う。
流石に空中では避けきれず、球体の影を作り防御。その表面に全力で【紫】の力を展開し、光線を当たったそばから分解していく。
同時に翼を形成し、球体を削りきられたところで脱出。落ちるようにして地面に着地するが、そこで違和感に気づいた。
「右手の次は左足かよ。……ついてないな。」
影で庇いながら飛んだはずが、流石に捌ききれなかったようだ。すぐに影で足を生成して補う。
セイヤはこのことに対して静かに怒りを感じていた。なぜなら……
「喰っていいのは俺だけだ。」
ここで20秒が経過する。
今度は相手の胴体へ向け槍を投擲した。
「こっちへ来やがれクソミミズが!!」
そして全力で走る。その先はもちろんユキのいる場所だ。
巨大な口をこちらに向け迫ってくる影。再び光線を放とうとしていたので槍を食わせたら、影は発射に失敗したようだ。
(最初からこうするべきだったか。)
するとテスラをこちらに向けて立つユキが見えた。こうした堂々とした姿もまた綺麗だ……ではなく。
ユキのすぐそばでブレーキをかけて止まる。
「今だ!!」
「『〈神の怒り〉ッ!!!』」
ユキたちの叫びとともに、ユキの生み出した黄金の光の球が一瞬収縮し、次の瞬間、まばゆい黄金の光線が放たれた。
影の使っていた極太なものではなく、極限まで細く、鋭い光線。
影はすぐに黄色の光線で対抗し、二つの光が空中でぶつかり合う。しかし拮抗したのは一瞬で、黄金の光が黄色い光を貫いて突き進んでいく。
1秒と待たずに黄金の光は影に到達。その体を一直線に貫いていった。
テスラならあの宝石ーー“色”の力の源に照準したはず。まだ付き合いの短い彼女(?)だが、そうしてくれただろうという確信があった。
……。
「ふざけやがって!!」
動きを止めた影に違和感を抱き、ユキを抱きつつ全力の低空飛行。一気に加速し、小屋の前まで一瞬でたどり着く。
と、次の瞬間。
影の黄色と緑色のラインが点滅したかと思えば……
影を中心に、凄まじい爆発が起きた。
ここでもマズイと判断し、ユキと小屋を庇うようにドームを作り、さらに【紫】の力で爆発のエネルギーを分解する。
「……わたしも。」
ユキも壁に触れて結界を張り、2人と一つの全力をもっての防御。
これだけのことが一瞬で起き、数秒後に静寂が満ちた。
「……勝った?」
「勝ったな。」
『【緑】も【黄】も……反応なし。勝ちましたね。』
「「『……。」」』
戦利品こそないが、死闘を経ての完全勝利。自爆という相手の最期の策も防ぎ切り、危機を乗り越えることができた。
3人で力を合わせて生き延びることができたのだ。喜びがセイヤの胸の奥からあふれ出してくる!
「うおっしゃああああああああ!!」
「……満足♪」
『私も、わたしも頑張りましたよー!!』
「うるさいっ!人の家の前で何騒いでるんだ!」
心底迷惑そうな顔をして小屋から出てきたのは、メガネをかけた白衣の女性だった。
……スッゲェ美人の。