6 新たな仲間と新たな希望
新キャラ(?)説明会です。
語り手: アルタイル
[再起動完了。]
[基本データベースにアクセスしています。]
「なんだコレ?」
「……やっぱり魔道具?それも循環に無駄がない。……なんて書いてあるの?」
「そっか、ユキは読めないよな。」
[スキャナーの動作確認を行います。]
[スキャンレーザーは基本的に無害です。]
その言葉の後一瞬わずかな浮遊感を感じたが、それだけだった。
[スキャン終了。]
[スキャナーの動作確認が完了しました。]
[スキャナー異常なし。]
[周辺の安全を確認しました。]
[人格ユニットを起動します。]
「人格だと?一体なんなんだよコレ。」
「……あ、また何か出てきた。」
[人格ユニット起動完了。]
[全フェーズが問題なく終了しました。]
『というわけでよろしくお願いします、ご主人様!』
「「喋った!?」」
水色の板が突然声を発した!それも気楽そうな軽い調子の女性の声でだ。
「なんて言ってるの!?」
「なんか俺たちのことをマスターだとよ。おい板、精神波で話せないのか?」
『かしこまりました!……ついでに文字も変更しておきます。』
「ありがとな。じゃ、お前が何者か説明してもらおうか。」
この時のセイヤはスマホのしゃべるアレなどを想像していたりする。形もちょうどいいし、魔術でできた大昔の携帯電話とかだろうか。
『はい、自己紹介ですね!では説明いたしましょう、この私が何者なのかを!!』
「……早く話して。」
辛辣な態度に見えるが、この時のユキは知らない魔道具に興奮して急かしただけだったりする。その証拠にジト目のまま目を輝かせている。
『あ、ハイ……。私は“エスカテスラ”。再起動時に表示されたように全知の辞典……になる魔道具です。』
「全知か。ならここから人間の世界に変える方法とか知らないか?」
『すみません、実はまだ未完成でして。実は今のままだと基本的な知識しかないんですよね……。』
「そっか。」
『あ、待って、置いてかないでくださ〜い!道案内はできなくても役立つ機能はまだまだあるんですから〜!!』
役立つというところで2人の足が止まる。振り返ったセイヤが板を拾い上げた。
「何ができる、言ってみろ。」
『はい、一つ目の機能は“スキャン”です!これさえあれば初めて見る魔物の特徴も看破できますよ!呪いの確認や食べ物の品質確認まで使えるんですよ?』
「つまりポケ○ン図鑑か。いや、こんなに機能多くなかったか。」
「……確かに便利。この先何がいるかわからないし。」
好感触だと判断したエスカテスラが早口で続ける。
『次の機能は“魔導触媒”としての機能です!どちらか魔術の使える方は私を持ってみてください!』
「ユキ、魔導触媒って何だ?」
「魔法陣とか式とかをあらかじめ組んだり、杖に魔術を仕込んでおくことで魔術を使いやすくするためのもの。……魔導書とかがそう。」
それだけ教えてユキは板を受け取った。
すると板の表面に円が表示される。
『では、使いたい魔術をイメージしてください。』
(……〈小さな灯火〉かな。)
そしてユキが魔術をイメージすると、描かれた円に変化が現れた。六芒星を基本とした魔法陣らしきものに変化する。
そしてユキが精神エネルギーを送ると、板の少し上に小さな光が現れる。魔術の行使が成功したのだ。
「すごい、無詠唱でできた。」
『でしょう!だから是非とも連れて行ってください!!』
「あー、どうするかなぁ……」
「セイヤ、これ持ってっていい?」
「OK。」
セイヤはユキの上目遣いに一撃でノックアウト、あっさり許可した。
『なんででしょうか、私拾ってきた猫みたいな扱いになってる気が……』
「ユキ、こいつのことはお前が責任を持つんだぞ。」
「はーい!」
『そういうのいいですから……』
「……ご飯何食べる?」
『エネルギー充填でいいですから。』
こうして、大昔のAIっぽいやつが仲間に加わった。
♢ ♦︎ ♢
「オラァ!」
「……焼き尽くせ。」
再び歩き出したセイヤたちは例によって影たちに絡まれたが、今回も危なげなく撃退した。
特にエスカテスラの力でユキの火力が上がったため、敵の数が多くても全く苦にならなかった。セイヤが渡した指輪の効果も重なり、雷を乱射して敵を一掃していく。
「それじゃ、いただきます。」
動かなくなった魔物をセイヤが食べ、エネルギーをユキに分ける。こうしてこの日の食事は終わった。
「「ごちそうさまでした。」」
『なんですか、それ。』
手を合わせる2人に文字通りクエスチョンマークを浮かべるエスカテスラ。
「ああ、俺の国の挨拶だよ。エスカテスラも……テスラでいいか。お前もついてくるなら覚えとけよ。日本語もな。」
「……わたしも日本の勉強してる。」
『わかりました、記憶開始ですね。』
(……私もってことは、仲間になれたってことでいいのかな?)
新たな主の出身地、ニホンという国に想いを馳せる。
そして改めて、スキャン済みの主人のデータを確認する。
完全に人間の枠から逸脱した身体能力、そして膨大な精神エネルギー。極めつけは【紫】の始祖の反応だ。
これほど強力な人なら、テスラの目的を果たしてくれるかもしれない。
(あの人たちには……私の“肉体”を見つけてもらわないとね。そのためならいくらでもサポートしてみせる。)
「なんか機嫌いいな。」
『マスターのお役に立つのが使命ですから!でもなんで……』
「音符マーク出てるぞ。」
「……人間臭い。嫌いじゃない。」
『そうですか?ありがとうございます!』
そんなこんなで決意を決めるテスラだった。
だが。
「(ボディか、見つけてやったら喜ぶかな。)」
「(……でも気づいてないみたいだし、こっそりにしよ?)」
実は考えていること全部が表示されていたりする。
変なところで抜けているテスラだった。
♢ ♦︎ ♢
「おい、あれを見ろ!」
「……こんなところに、家?」
『これは……人間らしき反応です!ちょっと精神波が怪しいですけど、肉体は間違いなく人間です!!』
「ユキ、走るぞ!!」
「おー!!」
見えたのは、どう見ても普通の小屋。そう、普通なのだ。この世界で見た建物といえば、影が擬態している真っ黒なものばかりだった。だがその小屋は、どこからどう見ても木製。
テスラの“サーチ”でも人間の反応(?)ときた。
もう走るしかない。
この謎の世界で彷徨い続けてひと月以上。
やっと見つけた帰還への手がかりに心が弾む!
『……ッ!?下ですっ!!』
「ぬぉぉぉ!?」
気づいた時にはもう遅く、セイヤたちは上空に打ち上げられていた。