4 白の少女と【金】の力
用事だらけな中なんとか更新。
ご都合主義が目立ち始めてきてるかもしれません。
語り手: アルタイル
自らの過去を話し終えた少女。それと一緒に名前を思い出せないことも教えてくれた。
「……あれ、おかしい。なんで涙が……」
黄金色の瞳から流れ落ちる光。本人も気づかぬうちに泣いていたらしい。
「うちに来な。行くあてがないなら、俺が面倒見てやる。」
セイヤの突然の提案に狼狽える少女。
「今は冬だ。万年雪みたいに白く綺麗だから……お前はユキだ。そう呼ばせてもらう。」
安直なネーミングで大丈夫だろうかと横目で見てみると、そこには黄金の目を輝かせる雪のような少女が。
そして、いきなりセイヤに抱きついてきた。
「……わたしはユキ。……セイヤのユキ。」
セイヤは上目遣いでこちらを見上げるユキに、思わずドキッとしてしまった。
そんなとき、この甘い空気を邪魔する奴が。
「ケェェェェェッ!!」
開きっぱなしの扉の隙間から、見覚えのあるキリンが顔を出したのだ。そして抱き合う二人を見た途端絶叫。
それだけでセイヤは限界に達した。
「いただきます……」
セイヤはユキを離し、狂気的な笑みを浮かべた。
それを目撃したキリンは「失礼しました〜」とでも言うように立ち去ろうとするが、その黒く長い首をより黒い巨大な腕が鷲掴みにする。
首を固定され暴れ出すキリン。腕はさらに膨張し、巨大な口となってキリンを頭から飲み込んでしまった。
「ふぅ、ごちそうさまでした。」
満足そうに手を合わせるセイヤと、目を見開くユキ。
「……見てみて実感した。……やっぱりセイヤ、すごい。」
「ただの食事だけどな。そういやユキは食いもんとかどうすんだ?」
「……食べなくても大丈夫。……精神エネルギーが足りなくて魔術は使えないけど。」
食事は必要ない。だからといってエネルギー補給が永遠になしというわけにもいかないだろう。
さっきからユキはフラフラとしているし、どう見ても健康体ではない。このままでは移動するとき支障が出るし、何よりかわいそうだ。
……だがユキが影を食べて大丈夫な確証はないので、とりあえず水だけでも飲ますことにする。
「……おいしい。」
水筒(影)にいれてた水を飲ませた反応がこれだ。彼女の話といい、いったいどれほど前からここにいるのだろうか。
♢ ♦︎ ♢
扉の外は、不自然なくらい影がいなかった。先ほどのキリンモドキの悲鳴で何か察したのだろうか。
「とりあえず、もっと北に進むか。」
北へと歩き出す。しかし、どこにも影たちはいなかった。
「そういえば、いつも空飛んでるアレはなんだ?」
「……あれは光。……影と対をなす精神体で、影が地面から離れるのが苦手なように地上を嫌うの。」
影とは対をなす、まさに光そのものの精神体。基本的な生態は影と同じらしい。しかし影は黒いものがほとんどなのに対し、光は白に近い色をしている。
すると急に、イカのような形をした2mくらいの光が細く変形し急降下してきた。
……ユキに向かって。
「セイヤ、あれ……っ!?」
しかしセイヤの方を向くと、紫で装飾された黒い槍を構えるセイヤが。なんとなくすることを察したユキ。その辺はセイヤに任せることにする。
「クェェェェエエッ!?」
わずかに疑問を孕んだ声が響く。この一撃で命(?)を絶たれた光が、力なく落ちてくる。
「そんじゃ、こいつもいただきますか。」
味は色なし影どもよりはマシで、白湯のような味だった。
直後、セイヤを激しい腹痛が襲う!!
「う、くぁぁぁ……」
「セイヤッ!!」
「あんじんしろ……すぐに……てぎおう……する。」
初めて影を食べた時を思い出す。あの時も今と同様に、セイヤの体が適応するのに痛みを伴った。
しかし今回の痛みはすぐに引いた。以前よりも適応力が上がったのかもしれない。
そのとき野生(影)の勘で殺気を感じ、ユキの手を引いて一歩下がった。
すると目の前に、真っ白い槍が突き刺さる。セイヤはそれをすかさず丸呑みにした。
「……セイヤ、上。」
「あー、あれはマズイな。」
上空には、先ほどのイカが無数に集まってきている。それらは円を描くように飛び、セイヤたちを狙っていた。
そしてその全てが細長く変形し、次々と落ちてくる。
「ユキ、逃げるぞ!」
体力のないユキを背負い、右腕を大きく展開。それを盾にして第一陣を防ぐ。金属音を立てて弾かれた槍たちは周りに散らばると、今度は低空から横向きになって飛んできた。
「鬱陶しいっ!!」
あまりに速すぎるため飛んできたやつから直接食べることはできない。ひとまず影を硬質化しドーム状に展開するが、少しずつ削られているのがわかる。
セイヤは範囲攻撃を持たないため、この状況を切り抜けるのは難しい。いずれドームに穴が開き、そのまま蜂の巣にされてしまうだろう。
「……セイヤ、わたしならなんとかできる。」
「その体でどうするんだ?」
「……物理攻撃じゃない。魔術で焼き払う。」
そういう言ってセイヤから降りると、小さい声でブツブツと何かを唱え始めた。
しかし残り少ない精神エネルギーを無理やり絞り出そうとしているのがセイヤには目に見えてわかった。
「やめろ、死んじまうぞ!」
「…………ッ!!」
このままじゃどうにもならない。慌てて止めようとして、やめた。突破法を思いついたのだ。
……この方法ならなんとかなる。
セイヤは後ろからユキに抱きついた。一瞬驚いたようだが、彼女はすぐに詠唱に戻る。
そしてセイヤは【紫】の力を使い、まずはユキの精神エネルギーを少し取り込む。それを吸収、解析し、自身のエネルギーを【紫】から【金】の波長へと変換した。
それを少しずつユキに流していくことで、ユキの精神エネルギーは満たされていった。セイヤのように腹は満たされないが、これで魔術は使えるはずだ。
通常精神エネルギーとは一人一人波長が異なるものだ。変化し続ける影や光ならまだしも、同じ波長を維持する人間はエネルギーの直接吸収など出来ない。今回はそれを【紫】の『状態変化』を生かして強引に解決したのだ。
ユキの顔を確認すると、なぜか恍惚とした表情を浮かべていた。しかしすぐに真剣な表情へ。
「……いける。」
「任せろっ!!」
合図に合わせ、ドームを回収。イカどもが飛び込んでくる前に、ユキが叫んだ。
「……いくよ、〈地獄炎ッ!!〉」
再びドームを閉じ、自分たちを守る。ドームの外から凄まじい爆音と熱が伝わってくるが、ドームに影を足し続けて耐える。
少しするとドームへの負荷は全くなくなった。外へ出てみると、半ばガラス化した地面といつも通りの空が広がるのみ。実に静かだ。
セイヤの服の裾をつかんだユキが、上目遣いで見つめてくる。
「……わたし、役に立った?」
「ああ、これ以上ないくらいにな。」
ユキの頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうに目を細めたのだった。