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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

感情の誕生

作者: 井神築

世界は、無で溢れている。


この世に感情という概念はなく、世の人々は何も感じずただ只管死なない為に生きているだけである。

 しかし、世の中にある出来事が起こる事で世界は大きく変わる。

 

 ここは、東京都心部。地震だ。誰かが呟いたのが聞こえた。震度8、マグニチュード9.0の超巨大地震であった。今までにここまで大きな地震は前例がなかった。地面は割れ、電柱は倒れ、マンションは傾き、ビルが崩れ落ち大きな物音が響き渡る。しかしそれとは逆に大勢の人々は静かであった。まるで巨大地震がさも当たり前かのように。地震の揺れに耐えきれず立っていられない者。倒れないように何かに掴まる者。建物に潰され動けなくなり痛がる者。様々な人間がいるがそこに慈悲も恐怖もない。ただ危険だという本能のままに、自分の考えだけで行動する。痛がる者を助ける事もせず、そのまま目の前を通り過ぎる。それを目にした所で、怒りや悲しみを感じるわけでもなく、そのまま死ぬのを待つのみなのだ。その中で「私」は一人歩道の上で佇んでいた。

「サラリーマンA」今日の会議は何時からだ? 

 周りがどれ程無残な光景だろうと関係はない。自分のやるべきことしか考えない。

「サラリーマンB」午前10時からです。でもこの現状じゃ会議も中止かもしれませんね。

「サラリーマンA」なぜだ?

「サラリーマンB」この様子じゃ会議室も残ってるか分からないですし、死者も大勢出てるでしょうし。

「サラリーマンA」そうだな。なら今日は帰るか

「サラリーマンB」そうですね。お疲れ様です。

と言って二人の会社員は家路に着きに帰った。自分の家が残っているかも分からないのにと「私」は思った。


ドカーーン。近くで何かが爆発した。車だ。その爆発により近くのコンビニに火が移った。コンビニからマンションへ、マンションからビルへと火が次から次へと移り去っていく。一瞬で周りは火の海となった。しかし、周りの人々は気にも留めず去って行く。「私」は、それをただ何も考えず無我のうちに見る。そう、眠っているかのようにその時の「私」は無であった。

「女子A」痛い熱い痛い熱い痛い。  

近くから悲痛な声が聞こえた。その女性は火事で倒れてきた建物に潰され動けなくなっていた。

「女子B」どうにもなんないからうちもう行くね。バイバイ加奈。

「女子A」ちょっと………待ってよ… 助けてよ

「女子B」やだよ。熱いじゃん。じゃあね。

「女子A」………熱い…………。

そのままその女性は目を閉じた。一緒に歩いている友人らしき人物ですら歯牙にもかけず、捨てるのだ。自分自身以外はどうでもいい。どうなったって構わない。どうせ偶々同じ学校で同じクラスで同じ道だったから一緒にいただけなのだから。

そうして佇んでいる間に周りから人はいなくなっていった。周りは崩れ落ちた建物と火で囲まれていた。その中に倒れている人達。おそらく死んでいるだろう。その中に微かに生きている子供がいた。歳は10歳にも満たない小さい顔立ちの女の子で顔は炭で黒くなり声も出せず口だけが魚みたいにパクパク動いていた。その子は「私」を見て何かを訴えているようだったが全く分からなかった。そしてそのまま女の子は先程の女性のように目を閉じた。

何も考えず現状だけを視認し、家路に着く者。建物が倒れ火に囲まれながら普通に歩いている者。一緒に歩いている者が死にゆく事を気にもしない者。死にかけの顔で何かを訴える者。この全ての事を見るまでに5分もかからなかったであろうか。

 経験した事がない様々な事が一気に起こって脳が追い付かず「私」は思ってしまった。あの女の子は何を伝えたかったのだろう……と。ここで初めて「私」は人に興味を持った。その瞬間、そこに一つの感情が生まれた。

                      不思議だ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 何一つ感情が存在しない世界を描くという発想の面白さに惹かれて読み進めました。 感情がない以外の部分は現実と変化のない世界がかえってこの状況の異質さを物語っていてぞっとするものがありますし大…
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