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ダンジョン、マスターアップします

作者: 芍薬甘草

 

「ねぇねぇミルナミルナ! 私、ダンジョンマスターのいる世界を構築しようかなって思うんだ」

「っ!?」


 ある昼下がりのお茶会の席で。

 友神コトコトは開口一番、無邪気な笑顔で私こと女神ミルナミルナにそう告げてきました。

 危うく紅茶を吹き出すところでしたよ、まったく。


「ゴホンッ、やめておきなさい。あなたはまたそうやって流行りものに手を出して……」

「だって、面白いじゃんダンジョン運営! 私結構ダンジョン系の世界の視聴料に神力払ってるよ?

 ミルナミルナだって、あの視聴率上位のダンジョンものは面白いって言ってたじゃん」

「あの世界はすごくバランスが取れてるのよ。ダンジョンの設定とかダンジョン同士の戦いとかよくできてるし。

 ……で、あなたにあんな風に管理できるの? あなたついこの前、適当に放り込んだ地球人のせいで世界をひとつ滅茶苦茶にしたじゃない」

「あ、あの世界は永久時間停止エターナルフリーズにはしてないもん! 今でも住人の信仰でちょっとずつ神力回収できてるし」

「初期投資した神力の回収に、あと何百神年かけるつもりよ……」


 一発当てようとしないで、堅実に住人の信仰から神力を回収する方が後々良いと思うのだけどねぇ。

 面白い世界を構築した上で、他の神々の視聴料で神力を回収する世界『地球』の大成功以来、こうしてあの手この手で自分の世界を面白おかしくしようとする神々が後を絶たない。

 最近では地球人が妄想した奇想天外な世界を、神が自分の神力を注いで再現し、他の神々から視聴料を巻き上げようとするのが主流になっている。

 ――で、私の友神コトコトもそっち系の世界にどっぷりはまってしまった一柱なのよね。


 せめて飽きっぽいコトコトにはゴール地点の見えやすい中世貴族恋愛ものとかの方が合ってるだろうに、よりにもよってダンジョンマスターとは。

 この前は地球人のレプリカに過剰なチートを与えて自分の世界に放り込み、またたく間に大規模な環境破壊で世界をボロボロにしていたコトコトには無理があるでしょうね。


 ダンジョンのある世界は神力消費が馬鹿みたいに大きくなり、さらにダンジョンマスターがいる世界となるともう桁が違ってくる。

 その分一発当たれば見返りは大きいものの、これは彼女の友神として脅してでも考えを改めさせねば。


「基本的にダンジョンのある世界は運営にかかる神力消費激しいわよ? ダンジョンマスターの設定によっても違うけど」

「そ、それはこの前の世界の信仰をつぎ込んでなんとか……」

「まあ初期のゴブリンやスライムで満足してくれているうちはそれで足りるでしょうね。けどインフレしてドラゴンとか大量に配置するようになっちゃうと、膨れ上がったポイント管理とかに神力消費が激しい割に、マンネリ化してて視聴料の回収どころじゃなかったりもするし」

「そこは、ほら、ご新規神にタイムシフト買ってもらってどうにかするもん!」


 むう、粘るわね。

 別の路線で攻めてみましょうか。


「ダンジョンの醍醐味って言ったらシムクラフト的な拠点開発よ? ダンジョンマスターの思考誘導をこまめにやらないと、無計画な大規模開発で大惨事になるけど大丈夫? そこで失敗すると誰も見てくれないまま神力が足りなくなって永久時間停止エターナルフリーズしなきゃいけなくなるわよ?」

「だ、大丈夫! 色んなダンジョン系の世界を見てきたし、何となくわかるって!」

「本当かしら? 貴方がやるとカニ囲いから穴熊にじっくりと持っていくべき局面で、じれったくなって飛車角を大量に投入しちゃいそうだけど」

「そ、そんなことしないもん!」


 コトコトが顔を赤くして涙目になってきました。

 私の良心がチクチクするけれど、これも彼女の為、すまし顔を崩さずもうひと押ししてしまいましょうか。


「じゃあ、テーマは何? どうやって視聴してくれる神々にカタルシスを与えるのかしら?」

「テーマ!? カタルシス!? えっと……ええ!?」


 ふふふ、困ってる困ってる。

 これは我ながら、かなり意地悪をしている自覚がある。ダンジョン系世界のテーマなんてダンジョンに決まっているし、カタルシスもダンジョンに決まっている。


 でもここでしっかりと答えられるくらいでないと、あっという間に世界を崩壊させてしまう。

 何しろダンジョンは一般的な物理法則は勿論、よくある魔法法則もかなり無視して運営される事になる。当然、その矛盾を矛盾でなくするためには私達の神力が大量に必要となり、中途半端な神力ではすぐに上手くいかなくなってしまう。


 残念だけどコトコトには、自分の全神力をつぎ込むだけの覚悟なんて――



「ミルナミルナ、私、テーマとかカタルシスとか全然考えてなかったよ」

「でしょう。だったらダンジョンよりも……」

「でも! よく考えてなんてなかったけれど! 私はダンジョン世界が造りたいんだよ!」


 私はコトコトに冷たい目線を向ける。

 たじろぐコトコト。


 ――でも。


「や、やるもん」

「…………」

「絶対にやるもん! やりたいんだもん! ミルナミルナに、誰にも見られなくたって、私はダンジョンがやりたいんだもん!」

「……そ」


 なによ。

 この子ったらいつになく本気じゃないの。


「いいんじゃない? がんばりなさいな、応援するから」

「へ?」


 あーあー、私ったら上から目線の嫌な女神に成り下がっちゃったわね。

 ほら、私があっさり手のひらを返したもんだから、コトコトがポカンとして首をかしげてる。

 プルプル震えちゃって……これは私、いまから土下座神に役職変えないといけないかな?


「ミルナミルナ……ありがとう!」

「え?」

「そうだよね、ミルナミルナは私が覚悟もなく始めないように脅してくれたんだよね。

 ――うん、確かについさっきまで軽い気持ちで始めようとしてたよ。

 でも、本気出す。本気出すよ私! がんばるぞー!」


 えっと……どうやらやめさせるつもりが焚きつけちゃったのかしら? 

 でもコトコトがそう言ってくれるんだったら、私も脅した甲斐があったのかしらね。



 *   *   *   *   *



 その40神日後、コトコトのダンジョン系世界はひっそりと出発した。


「ねぇミルナミルナ、ドワーフの女の子は髭有りと髭無しどっちがいいかな?」

「ヒロインにする予定があるなら無しだけど、そうじゃないなら有りのほうがそれっぽいわね。

 ああでも、髭有り設定でもエルフとかと混血したら髭が消える設定にすれば問題ないのかしら?」


 そんな相談をしながらも、コトコトはかなり精密に世界設定プロットを作ったらしい。

 最初こそコトコトの世界は丁寧すぎて人気が出なかったが、しばらくすると口コミで徐々に評判が広まる様になり、視聴料も増えてどうにか運営していくのに必要な神力は回収できている様だ。


「ん? なにニヤニヤしてるのミルナミルナ?」

「別に、何でもないわよ」


 ふう。まったく。

 やる気満々な友神を眺めながらすする紅茶は格別ね。



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ひっそりと連載しています。ジャンルはハイファンタジーです。

「賢者フィロフィーと気苦労の絶えない悪魔之書」
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