ドラゴンは考える
勇者がお姫様と出会えたので、主人公のターンです。
ザァザァと風が靡く、クァっと出たあくびを噛み殺し真正面を見れば、情報調達に行った獣が1匹こちらにお座りして待機している。
相変わらず足の早いものだと感心し、勇者の動向を聞くことにした。
「勇者、狙いは?」
「勇者は召喚を受けてこの世界へ来て、東の国の王から勅令を受け取り、お供を連れて東の国を出立しました。王はただ、竜様の加護をお求めする勅令しか出していません」
なるほど、異世界召喚魔法。随分と前に東の国が開発した魔法でしたが、まだ出来る者がいたようでした。勇者一行は加護を受けるように勅令されただけ…なんだか引っかかります。私の加護など魔王退治に何も役に立つことないはずですし。
「引き続き、勇者、監視」
「かしこまりました、竜様」
まだ、勇者がこちらと敵対するかわからないことだらけです。監視しとく事に損はありません。獣にそう伝えるとサッと東の国への方向へ走っていきました。
東の国から西の国に行くにはどうしても、北の国か南の国と南西の国を通っていくしか方法がありません。可能性としては南から南西の国へと行くルートだと思うのですが、勇者が寒さに強いのであれば今が冬の季節である極寒の地北の国を抜けることが出来ると思いますがそれは人間には無謀だと思います。
ですから、南から西の国へと行くと思うのです。
ここは彼女にも手伝いを頼みましょう。
「レルーチェ」
「聖竜様!お呼びでございますか?!」
「勇者が、来る。監視、手伝い」
「まあ!勇者がこの森へ来るのですか?監視は白夜の獣に頼まれたものをお手伝いすれば宜しいのでしょうか?」
「頼む。勇者、目的、不明」
「かしこまりましたわ、聖竜様。妖精の名にかけてこのレルーチェが目的を探ってきますわ!」
そう彼女、レルーチェがキラキラとした可愛らしい表情を浮かべ言うと一瞬のうちにその場から消えました。スキル『瞬間移動』だ。この世にはステータスという生き物全てに当てはめられたものがあり、それを見る力がないと他人のは覗けないが自分のステータスを見ることができる。
かく言う私も自分のステータスはもちろん、スキル『神眼』もちであるから他人のも自分のレベル以下の者達なら見ることが出来ます。
この森を作る遥か前。挑む者が今では皆無ですが、それでも数千年前までは挑む者達もいた。そのお陰がぐんぐんとレベルが上がり、スキルを会得し、この森を作るためのスキルもまた会得しました。
転生でもない、ただの召喚の勇者がどれ程優れたスキルやステータスを保持しているかそれは少しだけ気になるもののこの森にいる限りは私の土壇場である。
この森は私自身と言っても過言でないほどの年月がたっており、人間用に1箇所だけルートを開拓させてあるがそれ以外は私の根達が張っています。適度に養分を残し、過剰な部分は私へと流れているから普段食事は要らないし眠っているだけで過ごせていけている訳です。
平和な森を乱すものは許しませんが、勇者の真の目的がわかり私を害するものでないのであれば加護を与えるのも考えましょう。
兎に角も、今は獣とレルーチェの帰りを待ちながら今しばらく睡眠をとりましょう。だって私は眠りの竜ですからね。