東の国オステン、勇者召喚
勇者の名前迷いましたが呼びやすそうな名前にしました。
学校帰り、何時もの通り部活動であるサッカーを終えて帰宅する途中いつもは立ち寄らない公園に足を踏み入れたことが彼、陣内淳之介にとって人生の転機と言われる日であった。
「また明日!淳之介!」
「おう!またな、寺内!!」
同じサッカー部員である寺内に声をかけそのままサッカーバックを持ち、家で待っているであろう母が待つ家へと帰宅を急ぐ。
今日は朝にカレーと言っていたから、育ち盛りで食欲満タンの淳之介にはとても楽しみな夕食だった。
学校から家までは片道15分程度。近場の高校を選んだだけあって通学はとても楽だ。ジョギング代わりにと毎日歩きで登校しているから尚更、淳之介にとっていつもの歩き慣れた道のはずだった。
「ん?こんなところに公園なんてあったっけ…?」
いつもの曲がり角、そこをさらに5分ほど歩いて右に曲がれば一本道で遠目にも我が家が確認できる。その前の道にそこは存在していた。
ごく普通の公園。特徴なんてものはあまりないが、いまはさほど珍しくない遊具がない公園だ。近年、都内では遊具が少なく減る一方だと新婚夫婦の淳之介の姉、真美子がため息をついて母親に愚痴っていたのを思い出した。
「ここに公園あるなら次の休みからは自主錬もできるな〜」
自転車侵入防止の柵を乗り越え、公園に足を踏み入れる。サクサクと人工芝の公園内を歩いていると、中央に立つ大きな時計台に初めて気が付いた。
「時計台かぁ、比較的新しそう?かも」
しげしげと時計台を見上げていたが、時刻は18:30を指していて淳之介はふと我に返りさっさと家に帰ろうと引き返したはずだった。
直後、雷が落ちたような衝撃が地面に伝わり、そのまま淳之介は体勢を崩し衝撃から身を守ろうとうずくまった。
◆ ◆ ◆
「成功…!成功です!勇者様がいらっしゃいました!」
「皆様良くやってくださりました…!これで魔王へ対抗し得る者が来てくださいました。」
うずくまり、衝撃に耐えていた淳之介の耳に聞こえたものは信じ難い言葉だった。
「勇者…?、というか今の地震大丈夫だったのか?」
何やらよく分からないことを言っていたがただ、周りの様子は確認すべきだ。そう考えゆっくりと起き上がると、先程までのどかな街中の風景だったはずがそこはなにやら地下のような松明だけで光を照らしている空間。
自分を囲むようにして立つ黒ずくめのローブを着た人々。ただ一人、少女だけがこちらに素顔を晒し目線を向けていた。
「あの、君は…?というかここは?俺、公園にいたはずなんだけど」
「勇者様、この世界を救いに来て下さり感謝御礼を申し上げます。私の名はクリスティーナ。ここ、東の国オステンの皇女でございます。」
「は、え…。皇女って…お姫様?!そもそもなんで俺が勇者?よくわからない、もう少し詳しく教えてもらえませんか?」
突然言われたその言葉に頭が混乱しながらも、彼女《クリスティーナ》に問いかけると少し強ばっていた顔が少しだけ微笑みを浮かべ淳之介を見た。その笑顔にドキリしたのは淳之介だけの中の秘密である。
「はい。どうぞ私の事はクリスとお呼び下さいませ、勇者様。詳しくお話致しますのでどうぞ王宮へとお越しくださいませ。」
「え、あ…はい。クリスさん」
にこやかに笑う彼女に少しだけ警戒心が解けはじめる淳之介はそのままクリスティーナが先導するように歩き始めると着いて行くように歩き出した。
どこの世界も男は美人に弱いという典型的な例である。その様子を少しばかり呆れつつも、ひっそりと1匹の獣が見ていることなど誰も気付く事は無かった。