第7話 89式5.56mm小銃
追記:コメントで89式小銃の弾薬は正確にはNATO弾ではないというご指摘を頂いたため、当該箇所にNATO弾を選択した経緯について説明を追加しました。
アルバ、5歳
銃の製作に取り掛かってから1年ほどがたった。
ついに89式小銃の試作品が完成した。
手元にある銃は紛れも無い89式小銃だった。
今回の銃は脳内の設計図に忠実になるように制作した。
しかし、樹脂部分は土魔法では製作出来なかったのでその部分も金属製となってしまった。
そして、土魔法で樹脂が作れないと判明したのが製作開始から2ヶ月、その時から試作品2号を作り始めている。
この試作品1号が完成するまでにかかった時間が1年ほど、試作品2号は8割完成しており、試作品1号を運用してみて、その結果集まったデータを元にパーツを交換して組み上げていくつもりだ。
ちなみに樹脂部分だが、鉄で作ったにも関わらずイメージした質量が樹脂だったために鉄の感触と強度を持ち、質量は樹脂とあまり変わらない謎の物質となった。
そして、弾薬の方も製作が完了している。
弾薬は5.56×45mm NATO弾、西側諸国の共通弾薬である。
本来この銃は89式5.56mm普通弾を使用する。
しかし、今後新たに銃を作った際に弾薬が共通だったほうが何かと便利なのであえて5.56mm×45mm NATO弾とした。
そして弾倉はSTANAGマガジン、これも西側で互換性がある弾倉だ。
これも選択した理由は弾薬と同じだ。
正直、製作に際しては、銃より弾薬のほうが時間がかかった。
銃の方は部品を組んでいけば完成するが、弾薬の方は発射薬を製作しなければいけない。
これを作るために俺は土魔法以外の火魔法や風魔法を駆使して作らなければいけなかった。
その辺の魔法は少々苦手だったが、発射薬を作る程度では不自由しないだろう。
それに自分は詳しいデータもわかる上に、実際に発砲したことがあるためイメージも容易だった。
そして、銃を作るのとほぼ同じ時間をかけて、ついに完成までこぎつけたのだった。
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俺は今、完成した89式小銃試作品1号を手に、家の裏から15分ほど歩いたところにある小高い丘に来ていた。
ここから俺の住んでいるキトカが一望出来る。
確か人口が300人ほどだから、1世帯あたり4人として大体75世帯、そこそこの大きさの町だ。
一本の道が走り、それが二つにわかれているところを中心にしてこの町はある。
道は東西に走り、途中で道が二つにわかれて、別れたほうが南東の方角へと向かっている。
東の方には森が広がり、その先にプロチナ村という村があるらしい。
この街道は西から来て南東へ行くのが主なルートらしく、南東方向へ馬車で10日ほど行くと、海運都市ラプア、西方向へ馬車で10日行くと商業都市ユーノスがある。
もっとも、この町を通らずとも10日ほどでラプアとユーノスを行き来出来る新街道が整備されたためここを通る人は相当減少したが。
そして南の方には一面に畑が広がっている。
町の中心は道沿いにあるが、全体の半数ほどの家は畑の中に点々としている。
そして俺の住んでいる家は町の中心地から北へ5分ほど歩いたところにひっそりと立っている。
なので、今自分がいる丘は町から20分ほど歩いたところにあるということになる。
そして、この丘の北側にはそこそこの大きさの池があり、その先に森が広がっている。
その森は魔物が出るので子どもたちだけでの立ち入りが禁止されているため、入ることは出来ない。
そして、北に広がる広大な森の彼方には山脈がある。
すごくアルプスの少女が住んでいそうな山脈である。
俺がなぜ今この丘にいるのかというと、それはもちろん小銃の試射を行うためだ。
なぜここを選んだのか、それについては、町の子供達が遊んでいるのは大体町の北の原っぱで、その先にあるこの丘に来る人があまりいないから。
それにこの丘の先の池を挟んだ先には魔物が住む森があり、子どもたちが近寄ってこないからだ。
つまり、ひと目につきにくい上に子供が遊ぶのが町の北ということで怪しまれないためだ。
そして丘の森側の中腹あたりに来て、俺は20mほど離れた岩の上に的を置いた。
この的も俺が土魔法で作ったものだ。
銃の長さは916mm、5歳である俺の身体からすれば身長とあまり変わらない大きさだ。
俺は家から持ってきたシートを敷いてその上に伏せた。
そして、銃の先の方にある二脚を開け、射撃姿勢をとった。
安全装置を単射に合わせ、引き金を引く。
ダンッ!
「っくぅっ!」
二脚があるとはいえ、まだ体は五歳児だ、小学生でもないのだ。
右肩に来る反動を歯を食いしばって受け止める。
やはりこの体ではいきなりアサルトライフルを扱うのは難しい。
補助魔法が使えるため身体能力を高めてあるが、さすがに根本的な問題として体が小さいため駄目みたいだ。
射撃姿勢も伏せ撃ちでなければ恐らく無理だろう。
だが、発砲した弾は見事に20m先の的を撃ちぬいていた。
銃の性能的には問題ないみたいだ。
これから徐々に距離を開けて、最終的にアサルトライフルの交戦距離と言われる300mくらいの距離で目標に当てれるようになったら良しとしようと思う。
だが土魔法で作った的はあと数回使えば壊れそうだった。
はじめから何度か使ったらそのまま捨てる予定だったが、それだと面倒だ。
やはり射撃場を作ったほうが良いか。
そこに備え付けの的を置いておけば良いのだ。
それか後ろに土壁を作ってそこに的を書くのでもいい。
そう思った俺は残りの時間を使って丘の中腹に土魔法を使って射撃場を作った。
そして、俺はその次の休日から89式小銃の射撃訓練とデータを取ることに使いはじめるのだった。
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アルバ、6歳
試作品2号を作ったりしていたら1年たっていた。
出来上がった89式小銃試作品1号でデータを取ったりそのデータを元に試作品2号を組み上げたりしているうちに夏になり秋が来て冬が過ぎて春になった。
現在製作が完了した試作品2号は、鉄の感触のためつるつる滑るグリップに滑り止めの溝を彫ったり、銃床の部分を折曲銃床式に変えるなどの変更を行った。
そして今日も今日とて小銃の射撃練習、といきたいところだったのだが、家の敷地を出るところでラーニャに捕まった。
「アルバ兄、また今日も変な魔道具を使いに行くの?いい加減やめにしてよ」
「いや、別に良いじゃないか、だって父さんも別に良いって言ってるでしょ?」
「それでもお母さんは心配しているんだよ、いつか事故起こさないかって」
「でもさぁ、一応俺も治癒魔法つかえるんだぜ?致命傷でない限りは大丈夫だから」
「もう、本当に何かあっても知らないからね」
「大丈夫だって、そんなことよりラーニャは勉強しなくて大丈夫なのか?まだ足し算が怪しくて引き算は悲劇的な状況だというのに」
「うっ......」
ラーニャに呼び止められたが、なんとかそれを振り払い、俺は射撃場へと向かった。
そういえば俺は町のほうで話題になっているらしい。
『ハーシュタ家の子供が何やら怪しい魔道具を開発している』と。
ラーニャから聞いたのだが。
ラーニャの方も俺の妹ということで色々と聞かれているらしい。
まぁ、ラーニャに聞いてもわかんないだろうけど。
詳しいこと教えてないし。
さすがにこの剣と魔法の世界で銃を作っているなんて言えない。
そんなこんなで射撃場へ着いたが、そこには先客がいた。
人数は10人ほどで、全員が子供だ。
確かこの町の子供達だった気がする。
その中の一人は、確かこの辺のガキ大将だ。
ここへ来るときに何回か遊んでいるところを見ていたのだが、全部素通りしていたので話をしたことはない。
そういえばこっちの世界へ来てから友達作ってなかったな。
別に話しかけるのが怖かったとかそういう理由じゃないからね。
こんな武器作っている子供に誰も寄り付いてこなかっただけだし。
俺には銀髪碧眼獣耳な妹ラーニャがいるからいいんだよ。
・・・なんだろう、目から汗が。
そんなことを考えていると、子供の一人がこっちに気が付き、指をさしてきた。
そしたらあのガキ大将を先頭にみんなこっちに来た。
なんだ、面倒事はゴメンだからさっさと逃げましょうか。
さぁ、家に帰ろう。
「おい、お前ちょっと待て、お前がアルバ・ハーシュタか?」
「はい、何でしょうか?」
捕まった。こういう時は事を荒立てずにするのが一番だ。
「俺の名前はケビンだ、父さんは町で商人をやってる。お前、確かここで変な魔道具作ってるんだよな? 町 で噂になってるぜ?」
ケビン君!この世界のケビンくんはガキ大将なんだね。
家でひとりぼっちの時に泥棒撃退とかはやってないんだね。
「確かに魔道具に当たるものは作ってますけど、どうかしましたか?」
「いや、俺はな、そのお前が作っている魔道具を見てみたいんだよ。どうだ?一回貸してくれねぇか?」
あ、まずい、これ絶対に貸し出せないやつだ。
どうしよう、渡したらこの89式小銃の威力がバレてしまう。
「いくら年上に言われたとはいえ、さすがに自分の開発中の魔道具を他人に渡すような人は居ないと思いますけど」
「誰が他人だって?俺はここらのガキの中でトップなんだぜ?つまりお前は俺より年下でその上に弱い、だったら俺の手下になるんだから他人じゃねぇだろ?」
あ、これ完全に見下されてるよ。
嫌だぞ、せっかくの異世界で出来る交友関係第一号がこんな手下とか。
俺は関係を築く時は対等な対場が良いんだよ。
日出づる処の天子、書を日没する処の天子に致す。恙無きや
「いや、自分はそんな傘下に入った覚えはないので他人に当たると思うん......」
「何だと?お前、そういう事を言うのは俺に喧嘩売ってんのか?この俺にそういった事を言うのは俺より強いってことがわからねぇとダメなんだよ、なんならなんだ?今から喧嘩するか?お前、喧嘩での魔道具の使用は禁止だぞ」
さすがに喧嘩で銃撃つほど馬鹿じゃねぇよ!
あ、でもこの世界の人間は銃の存在を知らないのか、だったら威力も知らないのか。
「喧嘩は嫌なんですけど、やめてくれませんかね?」
「俺は父さんから聞いたから知ってる、魔道具を作る奴は弱い、魔法が使えず、剣術も出来ない奴が魔道具を使うんだ、魔術師でもないのに魔法を使って攻撃をする、つまり魔道具を使う奴は魔法が出来ない上に剣術を学ぶ気持ちもないただの腰抜けだって事を」
・・・うん?魔道具ってそんなものなのか?普通に自分魔法も剣術も使えるんだけど、これはどういうことなんだ?もしかしてケビン君、俺が魔術師ってこと知らないのか?
「あの、喧嘩するの本当にやめといたほうがいいですよ?」
「何だ?魔道具が使えねぇから逃げるのか?やっぱり魔道具使う奴は腰抜けなのか?戦えねぇからって逃げんのか?」
その言葉に俺はカチンと来た
俺はこの世界で人の役に立つ事をしたいのだ。
そのために色々と魔法や剣術を練習している。
人を助けるためには自分の命をも犠牲にする覚悟で自衛隊やってたんだぞ?
逃げる?
そのように誤解しているのならその考えは今すぐに直してもらわなければならない。
「わかったよ、だけど後で逆恨みするのはなしだぞ」
「俺はな、父さんから格闘技を教えてもらってるから喧嘩には負けたことがねぇんだ、お前なんか一瞬で倒してやれるからな」
ファイティングポーズ取りながらフラグ建築ご苦労さまです。
哀れケビン君、だが、喧嘩をふっかけてきたのはそっちだからな?
そう思ってこっちも戦闘態勢を取ると、ケビンが殴りかかってきた。
どうも、天津風です。
今回の投稿が大幅に遅れてしまったことをお詫び申し上げます。
年度初めで色々と忙しかったため執筆できませんでした。
申し訳ないです。
誤字などがあればまたご指摘ください。