第5話 訓練
アルバ・ハーシュタは4歳になった。
最初に魔法を使用してから半年ほどが経った。
現在俺は母から魔術師としての教育をされている。
俺はなんだかんだで文字を読めるようになったので現在は魔術の解説書を読みながら魔法の練習をしている。
もっとも、読めるのは基本的な単語だけなので、そのへんはラーナにフォローしてもらう必要がある。
そして俺は天才で4歳にして魔法を盛大に扱えるようになっていた。
・・・と言いたいところだが、実際は主に体力づくりの方を重点的におこなっていた。
なぜ体力づくりかと言うと、この世界では魔術師が強力な力を持っている。
なので、魔術師でない人々は魔術師と戦って勝てないのか。
答えは否、だ。
ならどうすればいいか。
答えは剣術を極めることだ。
この世界の剣術は前世と違いかなり強力で、剣術を扱う剣士は人外じみた戦闘力を発揮する。
そのため、剣術を身につけると魔術師相手に対抗できるようになる。
だが、これらの剣術を扱う者は少ない。
それでも、魔術師は魔術師との戦闘を想定するだけではなく、剣術を身に着けていない戦士程度なら魔法を使わずに剣で戦えるようにならなければならない。
そのために魔術師は、ある程度の剣術を身につける。
でなければ相手に手も足も出ないまま倒されてしまうからだ。
そして俺はその剣術を学ぶために体力づくりをしている。
剣術には大きく分けて2つの流派がある。
1つは相手の攻撃を受ける前に斬り込む先手必勝の神撃流。
いかにして先に相手へのダメージを与え、次の手を封じるかを重視する流派である。
体力を温存するのではなくすべての力を一振りに加えてくるため一撃ごとの威力が結構高く、油断すると防御魔術を展開してもばっさり、なんてことがある短期決着型の剣術だ。
対人戦を主とする人が使ったりする。
もう1つは相手の攻撃をかわして隙を見つけて斬りかかる風神流。
神撃流とは違い、こちらはいかにして相手の攻撃を退け、攻撃で出来た隙をついてカウンターをかけるといった流派である。
攻撃を受けてもそれをかわして隙をつくので、どちらかと言うと持久戦になることを前提としている剣術である。
持久戦に向いているため冒険者あたりに結構好かれている剣術でもある。
ちなみに剣術にも魔法と同じように
初級
中級
上級
聖級
神級
と分かれている。
そしてこの2大流派は、対魔術師戦闘が可能な剣術を教えている。
だが、これらの剣術は道場で修行をしたものだけが扱うことができ、教えてもらった弟子たちもこの剣術をあまり他人へ教えたがらないため、結果的に扱う人が少ない。
また、剣術道場を抱える国が自国の軍事力の1つとするために他国で道場を開くことを認めていないことも剣士が少ない要因の1つになっている。
ちなみに、この2大流派を扱う者のことを剣士、この流派を身につけず、独自の戦い方をするものを戦士と呼ぶ。
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俺の父親、ログナン・ハーシュタは元冒険者であり、Ⅱ級魔術師であり、剣士であった。
彼は神撃流を主として扱いながらも風神流もある程度扱える。
魔術師が教わる剣術は対魔術師を想定した2大流派ほど高度なものではない。
ある程度の戦士を相手にできるほどのものである。
しかし、ログナンは違った。
ログナンは魔術を扱えるにも関わらず神撃流の剣術を教わった。
そして、神撃流を教わった後、風神流の道場に転がり込み、そちらの剣術も教わった。
結果として、ログナンは遠距離近距離ともに戦える魔法剣士となった。
魔法が苦手で剣術を学んだらしいが。
俺は今、そのログナンから剣術の基礎を教わっている。
はじめに腕立て伏せ、腹筋、ランニングなどの基礎体力を身に付ける運動をした後、ログナンと共に木剣で素振りをするなどの練習をしていた。
といっても、精神は現在24歳といえど体は4歳なので出来ることは限られてくるが。
ログナンは俺に対して神撃流の剣術を身につけさせようとしている。
本来ならば、ここまで高度な剣術を魔術師はあまり身につけない。
しかし、ログナンは俺の父親だ。
自分の息子に対して自身の扱う剣術を教えようと思うのは当たり前なのかもしれない。
「アルバ、本来魔術師はここまで剣術を身につけようとはしない。
だが、身につけておいて損はない、だから俺の教える剣術もしっかりと覚えるんだぞ。」
そう言って俺に剣術を覚えるように言ってきた。
それから俺は剣術の練習をするようになったのだ。
ログナンに言われたとおり行う練習メニューは結構きつめだ。
だが、俺だって元自衛官だ。
異世界に転生したとはいえ、入隊後の訓練の厳しさは魂に刻み込まれている。
それに比べればどうということはない・・・というほどではないが、幾分かはマシだ。
そんなわけで俺はログナンに言われた訓練メニューをこなしていった。
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俺のここ最近の一日のスケジュールは大体、朝起きて朝飯食って午前中ログナンの練習受けて、昼飯食ってからの午後はラーナから魔術についての勉強を受ける。
といったものになっていた。
そして今は魔術の練習をしている。
魔術師の練習はまず体力づくりと剣の素振りなどから始めるのだが、俺の場合それはログナンと共に既にやっているのでそれを飛ばして魔術の練習を始めている。
今日は最初に防御魔法を教えてもらうことになっている。
魔術師がはじめに覚える魔法はまず防御魔法から。
そういうことらしいので俺は防御魔法の練習をしていた。
確かにいくら強力な魔法を使えても防御が出来なければ意味が無い。
防御できなければ死ぬのでどれだけ強くても無駄ということだろう。
それこそ攻撃力はあるが防御力が殆ど無いアハトアハトでハルファヤ峠を守備するようなものだろう。
あの戦いでアハトアハトはマチルダⅡ歩兵戦車に・・・勝ってるな。
うん、このたとえは無しだ。
防御魔法は詠唱が必要ない。
ラーナ曰く、防御魔法を展開するのに何か例となるものがないのであれば、相手を拒絶しようとする感情を魔力に込めるとうまくシールドを展開できるとかなんとか。
ならば結構、俺には前世の記憶がある。
だから例に出来るものがあるのだ。
そう、あの芦ノ湖北岸の地下秘密基地を守るために戦う某人気アニメが。
俺は息を大きく吸い込んで叫んだ。
「A○フィールド、全開!」
俺は何を言っているのか理解してもらえなかったが、シールドを展開できたことでラーナから防御魔法の合格をもらえた。
A○フィールドの練習を終えた俺は、今度は屋内でラーナ先生の座学を受けた。
いやぁ、ラーナのような金髪の美女教師が前世で自分のクラスの担任だったらと考えると、定期試験時のクラスの士気が凄まじかっただろうに。
それだったら絶対自分の成績良かったよ、いやほんとに。
でなければあんなに受験で苦労しなかっただろうに、くそぉ。
今日のお題は土属性の魔法についてだった。
土魔法は例えば、魔力を使って地面を隆起させたり、沈下させたり、といった地形の操作や、自分の魔力でその辺の土を岩や泥などに変化させて相手にぶん投げるといった、主に地面に関係のあるものを操ることが出来る魔法だ。
俺は話を聞いて、ある面白いことに気がついた。
それは、土魔法では自身の魔力でその辺の土を岩などに変化させることが可能で、しかもその形を自分の思い通りにできるということだ。
そして、自分が過去に触れたものならば、その硬さにすることが出来るらしい。
「母さん、1つ聞いても良い?」
「なに?質問なら大歓迎よ。」
「この土魔術を使えば、その辺の土から鉄の剣を作れるってこと?」
そのように聞くと、ラーナはその辺りについてさらに詳しく説明してくれた。
それによると、理論上出来なくはないが、それは難しいらしい。
まず、鉄の剣を作るにはもちろん過去に鉄に触れたことがある必要がある。
それに関しては、自分が正確な硬さを知らなくても、一度触れたものはそれをイメージすると勝手にその硬さになるので大丈夫らしいが、問題はここかららしい。
まず、自分の頭のなかに作りたいもの、ここでは鉄の剣になるが、作りたいものの正確なイメージが必要になってくるらしい。
硬さは大丈夫でも、剣の厚さや、長さ、刃の部分の鋭さなど、それをすべて正確にイメージしなければ、厚さは均一ではなく、長さも思っていたのより短く、刃に至っては肉を切れるかどうか怪しいなんとも言えないものが出来てしまう。
硬さは大丈夫だと言ったな、あれは嘘だ。
というのも、硬さが大丈夫なのは間違いないのだが、硬いものにすればするほど硬さを調節する魔力の消費が多くなっていくため、魔法力の少ない人には出来なくなっていくらしい。
つまり鉄より硬いものを作るとなるとかなり大変そうだ。
また、そもそも土魔法自体消費魔力が大きいため、鉄剣を作るならば、少なくともⅡプラス級以上の魔法力がなければ出来ないそうだ。
つまり、鉄剣作るために変に頑張るより、普通に店で剣買ったほうが良いということらしい。
俺はその説明を聞いて、あることを聞いた。
「母さん、僕の魔法力は大体魔術師何級くらいになるの?」
そう聞くとラーナはニコッと笑って
「アルバの魔法力は大体だけど、魔術師Ⅲ級くらいになれるだけはあるわ。」
と言った。
俺は、その言葉を聞いて、心のなかで大きくガッツポーズを決めた。
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数日後
俺は今日もここ最近のいつもと変わらない生活を送っていた。
朝のログナンとの剣術の練習は終わり、今は魔術の練習をしていた。
今日は魔力コントロールのことを教えてもらっていた。
やっていることを傍から見ると地味だが、これも大事なことなんだ。
まず意識を自分に向け、左手に魔力を送り出そうと考える。
すると、なんていうのだろうか、血が心臓から左手に流れていくような感覚になる。
そして、その魔力を体外へ放出する。
それを右手からまた体内へ戻す。
魔力を放出すると、少し疲労感がする。
余計な魔力が放出され、うまく魔力を操れていない証拠だ。
俺は魔法力がかなりあるらしいのでこの程度で済んでいるが、Ⅱマイナス級の魔術師はこの練習だけでその日の魔法力を使いきってしまうらしい。
俺はこの魔力ロスを極力減らす練習を暇な時に自主練習で行うことに決め、今日の練習の2つ目に移った。
今日練習する魔法は火属性の攻撃魔法だ。
一応初級はそこそこ出来ているので、少しずつ中級の方も練習していこうということだった。
「我らを守りし灼熱の炎を今ここに、ファイアーボール!」
ラーナはそう叫んで空へ向けて火の玉を放った。
ファイアーボール自体は初級魔法で存在する。
初級とは少し詠唱が違ったような気がするが、今回はその応用で、手のひらサイズだった火の玉を人の身長の半分ほどにするのだ。
人の身長の半分というが、4歳児の大きさの俺からしたら自分の大きさと変わらない。
「我らを守りし灼熱の炎を今ここに、ファイアーボール!」
俺もラーナのように詠唱をした。
無詠唱でも出来そうであったが、ラーナ曰く、はじめは詠唱してみて感覚を掴み、それから無詠唱に移ったほうがよいとか。
ふと、人の気配を感じ、家の入口を見た。
すると、そこにはラーニャが立っていた。
毛先まで変わらない色を保った銀髪に透き通った碧眼、その上ケモ耳の彼女は完全に俺の好みだった。
いや、今はそんなことはいい。
今は中級火魔法の練習中なのだ。
ラーニャをかわいがるのは後でも良い。
そう思って練習に戻ろうとすると、ラーニャがラーナのところへと駆け寄っていった。
何やら顔が暗いが、何かあったのだろうか。
「・・・私もアルバお兄ちゃんがやっているみたいに魔法をやりたい。」
おや?ラーニャがそんなこと言うのは珍しいな・・・って、魔法をやりたい?
マジでやるの?普通の4歳の女の子っておままごとで遊んでいるようなものじゃないのか?
いや、でも午後はラーナが俺につきっきりで魔術を教えているせいでかまってもらえないのか。
・・・あれ?そういえばラーニャ、友達居たっけ。
そんなことを考えていると、ラーナがこう言った。
「それじゃあラーニャも一回試してみましょう。
一回目で出来なくても文句は言わないでね?」
するとラーニャの顔がパァっと明るくなり、はい、と大きな返事をした。
全く元気なものだ。
「じゃぁ今から呪文を教えるから、よく聞いてね。」
「ううん、さっき聞いてたから大丈夫。」
「さっき聞いてたってことは、それって・・・」
ラーナが言い終わる前にラーニャは空に手を向けてこう叫んだ。
「我らを守りし灼熱の炎を今ここに、ファイアーボール!」
うん?それ中級魔法の呪文だろ、いやいやいや流石にいきなりは無理だろ、俺だって最初にやったのは氷魔法の初級だぞ、出来るわけ・・・出来た。
空を見上げると、そこには虚空へと吸い込まれていく火の玉があった。
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こうして俺の妹、ラーニャ・ハーシュタは4歳の時、初めての魔法で中級火魔法を扱うことに成功したのだった。
どうも、天津風です。
ちょっと2日ほど日を開けてしまいましたが、なんとか5話投稿です。
もしかするとこれからもこのような調子の投稿になってしまうかもしれませんが、頑張って書きます。
誤字などがあればまたご指摘ください。