第25話 ビッグラビット
30分後
俺とラーニャは猫耳に言われたとおりに南西の方角へと歩いていった。
しばらくすると木が少ない開けた土地が出てきた。
周りに丸太が置いてあるところから察するに、木を伐採しているところなのだろう。
ちょっとした道のようなものも整備されている。
この辺では林業もしているみたいだ。
そして、その開けた場所に4匹の巨大ウサギがいた。
体長は2mほどで、見た目は丸っこい。
某ひつじアニメに出てくるでかい羊と似ている。
それと違うのは頭に生えているウサギ耳だ。
おそらくこれがビッグラビットだろう。
「よし、ラーニャ、ウサギは臆病だからできるだけ気付かれないように移動しよう。」
「わかった」
俺はラーニャにできるだけビッグラビットに近づき、どのあたりに隠れるか指示をした。
指示を受けたラーニャは移動を開始する。
そして俺もビッグラビットを攻撃するために移動を始めた。
俺は森の中でも射線が通りそうな場所として、木の上を選んだ。
低い場所にいるより高いところにいたほうがよく見えるからだ。
枝を掴んで木に上り、枝の上に腰掛ける。
そして担いでいたHK416を構え、射撃体勢をとった。
下を見ると、ラーニャは音を立てずに徐々に近づいている。
ビッグラビットは開けた土地の真ん中にいるからその周囲の森の中を進めば気付かれないようだ。
ウサギは耳が良いから少しでも音を出せば見つかるだろう。
しかし、ラーニャはバレることなく近くの茂みの影に入った。
もしかしてこのウサギかなり鈍感?
茂みに入ったラーニャはこちらを見て手を振った。
準備完了の合図だ。
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対象との距離はおよそ300m
森といっても、このあたりは木の密度が少なく射線が通るので弾を当てることは出来るだろう。
俺は補助魔法で身体能力を強化する。
これで万が一木から落ちてもある程度は大丈夫だろう。
視力も強化したので300m先にいる相手を狙うことが出来る。
普通に狙うだけなら強化する必要もないのだが、今回は頭を撃ち抜くことを狙っている。
狙撃と言っていい距離なのかは分からないが、今回は狙撃を行う。
理由としては、ビッグラビットは発砲音が聞こえたらすぐに逃げ出すと考えられるからだ。
臆病な生き物である以上、大きな音がすれば逃げ出すのは目に見えている。
追撃するにも、来たこともない森の奥には踏み込まないほうが良い。
最悪迷って帰れなくなる。
だから一気に4匹を倒す必要がある。
効率的に倒すにはやはり頭を撃ち抜くのが一番だ。
俺はHK416のセレクターレバーを単射にセットする。
まずは左にいる相手を狙う。
照門と照星を頭に合わせて徐々に引き金を絞り、あと少し引けば発砲できるところで息を止める。
そして、体の力を抜いて引き金に軽く力を加えた。
ダンッ!
発砲音がするとほぼ同時にビッグラビットが1匹倒れた。
どうやら頭に当てれたようだ。
すぐさま次のビッグラビットの頭を狙う。
ダンッ!
もう1匹のビッグラビットも、赤い血を流して倒れ込んだ
残り半分を狙おうとしたが、突然仲間が倒されて危険を感じ取ったビッグラビットは逃げ出した。
でかい図体の割にはかなり素早い動きをする。
それに関しては流石ウサギと言ったところだ。
そして、2匹のビッグラビットは仲間が倒された場所と反対の方角へ向かって逃げる。
これはウサギでなくても、誰でも同じ行動を取るだろう。
だが、森の中へ逃げ込もうと全力で走っていった先の茂みからマズルフラッシュと共に銃弾が放たれる。
そして一匹が倒れ込んだ。
その茂みはラーニャがいる茂みだ。
ラーニャは三点バーストで確実に仕留めた。
予め逃げると予測した場所にラーニャを配置して正解だった。
流石に狙撃で倒し切るのは無理がある。
残された1匹は逃げれないとわかると、ラーニャのいる茂みへと突進していった。
しかし、その突進を茂みから出てきたラーニャはひらりと躱し、すれ違いざまにビッグラビットに対して銃弾を撃ち込んだ。
そして、最後の1匹もその場に倒れ込んだ。
倒したビッグラビットが死んでいるのを確認してラーニャがこっちに手を振ってきた。
それに手を振り返して返事をした俺は木から降りてラーニャの下へ向かった。
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「思ったよりあっさり倒せたな」
「そうだね」
二人の前にはビッグラビットの死体が転がっている。
それにしても不安定な場所からよく2匹も狙撃出来たな。
やった自分自身が驚いている。
「お兄ちゃん、倒したのは良いけど、何を持っていったら良いの?」
「確か、耳を切り取っていくんじゃなかったかな?」
クエストを受注したときに使った紙にそう書いてあった気がする。
それにしても耳を切り取るって結構残酷だな。
とは言ってもウサギのトレードマークだから一番わかりやすくて良いとは思うが。
「なら、もう切り取っちゃっていいかな?」
「ああ、大丈夫だ」
俺がそう言うと、ラーニャは銃剣を外し、それを使って耳を切り落とし始めた。
耳を全て切り取ったら、それを俺が持ってきたバッグパックに突っ込んだ。
バックパックの口から耳が8本飛び出しているが大丈夫だろう。
それに切り口から血が滴っていて結構グロテスクだが、それも大丈夫だろう。
「どうする?もうちょっと狩りを続けるか?」
「そうだね、せっかく弁当も持ってきたんだし、もうちょっと倒そうよ」
そして俺たちは狩りを続行することにした。
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あの後は持ってきた弁当を食べてから狩りを続けた。
結果的には6匹を追加で倒すことに成功した。
そういえばウサギって匹じゃなくて羽で数えるんだったかな?
なんかそんなだった気がする。
よくよく考えたら日本語をもう10年も喋っていないんだな。
また今度口に出して喋ってみるか。
40分ほど歩いてやっと森を抜けることが出来た。
あと30分歩いていけば街に到着する。
「なんか、もったいなかったよね?」
「え、何が?」
歩いていると突然ラーニャが聞いてきたので思わず聞き返した。
「だって、ビッグラビットを倒したのに持ち帰ってきたのは耳だけでしょ?絶対に他の部分も売れるような気がするんだけど・・・」
言われてみれば確かにそうだ。
別に耳だけを持ってくる必要はない。
他の部分も売ろうと思えば売れたはずだ。
例えば毛皮とかなら売れるだろう。
他にも食べられるかどうかは分からないが肉だってそうだ。
クエストのことで頭が一杯になっていて気付かなかった。
「でもラーニャ、二人とも皮の剥ぎ方とか知らないよな?」
「あっ・・・」
うん、今回はどっちにしろ無理だったようだ。
とりあえずのところはクエストに必要なものだけを持ち帰ることにしよう。
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しばらくして街に着いた俺たちは冒険者ギルドのある建物へと向かった。
まずはクエストの完了報告をして報酬を貰わないと。
冒険者ギルドに着いた俺達はまずカウンターに向かった。
やはりこの時間になると混んでいるようだ。
少しして自分たちの番が回ってきた。
「ようこそ、今日はどういったご用件でしょうか?」
「クエストの完了報告に来ました」
「分かりました、依頼用紙をお持ちでしょうか?」
「はい、受けたクエストはこの紙に書いてある『ビッグラビット退治』です」
「分かりました、では依頼用紙に書かれている通りに耳を切り取ってきましたか?」
「これですね」
そう言って俺はバックパックをカウンターに置いた。
耳をいちいち取り出すのも面倒だからこれでいいだろう
「確かに確認しました。でしたら依頼用紙とそれを持って建物横の交換所へ行ってください。」
「分かりました」
カウンターを離れた後、俺とラーニャは言われたとおりに建物の横にある交換所へ向かった。
交換所は冒険者ギルドの半分くらいの広さだ。
中では様々なものが取引されている。
単にクエストの報酬を受け取るために来るのではなく、逆にその売り払われたアイテムを購入するために来ている人もいる。
そのような人混みでごった返している交換所を進み、カウンターへと辿り着いた。
冒険者ギルドも交換所もこの時間帯だと人が凄いからやっぱり時間をずらしたほうが良いのか?
そんなことよりまずは換金だ。
金がなければ何も出来ない。
カウンターにいるのは今までみたいなお姉さんたちではなくてごっついおっさんたちだ。
元冒険者といったところだろう。
「すいません、このクエスト報酬の換金をお願いします。」
「あいよ、何だ、あんた随分と若いじゃねえか、歳はいくつだ?」
「10歳ですね」
「なるほどな、それで、どのクエストだ?」
そう言われて俺は依頼用紙を渡した。
「ほう、ビッグラビット退治か、初級の冒険者向けではあるが、舐めてかかると結構痛い目を見るやつだな。こいつを難なく倒せるようになったら初級冒険者を脱却してD級になる程度の腕前はあるってことだ。それで、何体狩ってきたんだ?」
「10体ですね」
俺はバックパックから耳を取り出した。
10体分の耳、20本だ。
「・・・ほう、お前たち、若い割にはなかなかやるな。今日は少し前にあんたらよりちょっと歳上の奴らが似たようなクエストを報告しに来てな、そいつらもなかなかにやると思っていたんだが、お前たちはそれを越えるかもしれないな。」
うん?似たようなクエスト?どこかで聞き覚えがあるぞ。
「まあ、あんたらの戦果は10体だな。報酬は銀貨10枚となっているから、10体分で100枚だな。」
「え?クエスト全体を通して10枚じゃないんですか?」
「なんだ、その程度のこともまだ知らなかったのか。この手の討伐系の依頼は1体について報酬が割り振られている、だから10体倒せばその報酬も10倍になるってわけだ」
それについては初耳だった。
冒険者登録をする時の説明ではそんなことは言われなかった。
むしろ教えるに値しないレベルだったのかもしれない。
「それだったら銀貨100枚ってことは金貨1枚ですよね?」
「そうだな、そっちがそうしてほしいのならそれでも良いぜ?正直な話、金貨なんて庶民の買い物では使い勝手が悪いが。」
「いや、金貨で大丈夫です。」
「わかった、だったらこれが今日のあんたたちの報酬だな」
そう言っておっさんは金貨を一枚取り出して俺に渡した。
「その金はお前たちが自分の手で稼いだんだ、自分の好きなように使うといいぞ」
「分かりました」
そう言って俺とラーニャは交換所を後にした。
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交換所を出た頃には日が既に傾き、夕焼けで空が赤く染まっていた。
大通りでは屋台のようなものが並んで活気で溢れていた。
そんな光景を尻目に、俺達は宿へと向かった。
それにしても、まさかこのような所で金貨が手に入るとは思わなかった。
この世界の貨幣は、銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨で構成されている。
銅貨は10枚で大銅貨1枚、大銅貨は10枚で銀貨1枚、銀貨は100枚で金貨1枚、金貨は10枚で大金貨1枚、そして大金貨100枚で白金貨となる。
円で換算すれば、銅貨が10円、大銅貨はが100円となり、それで計算すると金貨の値段は10万円となる。
これだけの金があれば、少しながら余裕が生まれる。
それに、今回だけがこの収入になるのではなく、今後同じクエストを受ければまた金が手に入る。
そうすれば生活も成り立つだろう。
「どうだ?明日もこのクエストを受けてみるか?」
「報酬も美味しいし、私は良いと思うよ?」
「なら決まりだな」
これで明日も兎狩りを行うことになった。
今晩は銃のメンテナンスをしてから早めに寝るようにしよう。
また混雑した時間帯に冒険者ギルドへ行くのは正直避けたい。
そうして俺達は宿に着いた。
近くの食堂で夕飯を食うことにしようか。
だがまずは部屋に戻ろう。
「すいません、アルバ・ハーシュタです」
「あ、おかえりなさい、鍵はこれね」
カウンターに座っている受付嬢さんは俺が呼んだらすぐに鍵を渡してくれた。
この辺はホテルのように外出時は鍵を預けていくことになっている。
鍵を受け取って部屋に戻ろうとすると受付嬢さんが聞いてきた。
「それで、今日は初めてクエストを受けたんでしょ?どうだった?」
「とりあえずビッグラビットを狩りましたけど」
「へえ、ビッグラビットって言ったら初級を脱却するかどうかの基準の一つじゃない、よくそんな魔物を倒せたわね」
「ええ、大体の相手はラーニャが強いので勝手に倒してくれますけど」
「ちょっとお兄ちゃん!私をそんなに誇張しないで!」
いや、それに関しては誇張でもなんでもないと思うのだが。
「まあ、それでどれだけ倒したの?」
「初めてだったので10体ですね」
そういうと、受付嬢さんがしばらく固まった。
「・・・それって初めてのクエストって言って良いのかしら?」
「さあ、自分にはわかりませんね・・・」
それに関しては自分でもよくわからない。
銃を持っていたら倒せて当たり前な気もするが。
やはり凄いことなのだろうか?
その後部屋へ向かおうとカウンターを離れると、受付嬢さんが思い出したように言ってきた。
「あ、それとあなたたちに会いたいって言ってきた人がいたわよ?」
「俺達ですか?」
「そうね、どちらかと言えばラーニャさんの方に会いたいって言っていた気がするけど。」
「え、私に?」
「ええ、今はいないって言ったらどっかに行ったけど」
「なるほど、分かりました」
話を聞き終わると俺は階段を登った。
部屋は二階にある。
それにしてもラーニャに会いたい人なんているのか?
いや、もしかするとラーニャの体目当てで寄って来た輩かもしれん。
もしそんな奴だったら俺が容赦なく叩き潰してやる。
妹に手を出す不埒者は兄である俺が倒さなければ。
俺が無理だとしてもラーニャ本人が叩き潰すだろうが。
俺はそんなことを考えながら階段を登った。
だが、階段を登って二階の廊下に来たときにその考えは一瞬にして消し飛んだ。
廊下の先に何かが転がっていた。
少なくとも人の形をしていて、猫耳と尻尾が生えている。
何か嫌な予感がするな。
「・・・なんかいるな」
「・・・なんかいるね」
近づくとその予感は当たった。
俺達の部屋の前にはどこかで見たような気がする猫耳が床に突っ伏していた。
あまりこういったことには首を突っ込まないほうがいい。
俺とラーニャはそれを避けるようにしてドアを開けて部屋へ入ろうとした。
「にゃ!?無視するのかにゃ!?目の前で倒れている人がいるというのに」
なんで避けようとしたら食いついてくるんだ。
「正直変なことには関わりたくないのでごめんね」
そう言って俺はドアを閉じようとした。
すると、そのドアを掴んで猫耳は俺に向かって話してきた。
「いや、冗談抜きで助けてほしいのにゃ。腹減って死ぬ・・・」
そう言ってその猫耳は失神した。
とりあえず部屋の前に転がっていると他の宿泊客の邪魔なので部屋の中には引きずり込んだが。
しかし、なんで昼間に出会った猫耳が転がっているんだ。
いや、猫耳じゃなくてミーアとか言う名前だったな。
話だけは聞いてやることにしよう。
どうも、天津風です。
最近突然寒くなってきましたね。
そうかと思えば突然暑くなったり。
寒暖の差が激しいので風邪を引かないようにしてください。
自分は既に手遅れで風邪を引きましたが・・・
誤字などがあればまたご指摘ください。
追記:pc修理しているのでちょっと投稿遅れています、すみません。
追追記:pc修理が10月いっぱいはかかる見通しなので次回の投稿が11月中旬になりそうです。すみません。慣れたpcを使わずに文を書く方法を色々と模索してみます。




