第24話 猫耳
1時間後
森の中を進んでしばらく時間が経った気がする。
しばらく歩いているのにも関わらずまだそれっぽいウサギには出会っていない。
「そろそろ出てきても良い頃だと思うんだけどなぁ」
「そうだね、でも何かいる気配はしないよ?」
ラーニャが気配を感じていないと言うことは、どうやらこの付近にはいないようだ。
「本当にこの場所に出てくるのか?」
「さぁ、それは私にはわからないけど・・・」
これほど遭遇しないとなるとここでは出てこないのかと思ってきた。
来る森を間違えたか?
だがまだ探し出してから1時間ほどしか経っていない。
遭遇しないのは時間帯が悪いのかもしれない。
もしかしたら夜行性という可能性もある。
ゲームでも特定のモンスターは夜にしか出現しないなんてことはよくあることだ。
夜まで歩き回っていれば遭遇する可能性はまだある。
・・・それは現実的ではないな。
少なくとも一度出直して情報を集めることも視野に入れたほうが良いかもしれない。
他の冒険者が教えてくれるかどうかは分からないが。
「っ!何か来る!」
そんなことを考えているとラーニャが突然声を出した。
俺は担いでいたHK416をすぐに構えた。
ラーニャは既に着剣済みの89式小銃を構えている。
それを見た俺は腰にぶら下げた銃剣を取り出してHK416に取り付けた。
これは遂にビックラビットがやってきたか?
そうだとしたらクエストを実行出来るぞ。
「・・・何が来たかわかるか?」
「よくわからない、だけど何かがこっちに向かってきている」
ラーニャはそう言うとさらに警戒するように銃口を木々の中に向けた。
ラーニャが銃の方を使うかどうかは分からないが。
それからしばらく警戒していたが自分には何かが来るような気配は感じられない。
しかし、ラーニャの獣人族の勘がそう言っているのだから実際に何かが来ているのだろう。
「・・・だんだんここに近づいてきてる、別のところに移動したほうがいいかもしれない」
そう言うとラーニャは森の中を歩いて行く。
俺は背後を警戒するようにしてラーニャの後に続いた。
移動先の木の陰に隠れて銃を森へ向けているが、相手が来る気配はない。
流石にこの状況になってくると俺でも変だと感じていた。
もしかすると今相手にしているのビックラビットじゃ無いのではないか。
どんな相手かは分からないにしてもラーニャの警戒度がウサギを相手にしているそれじゃない。
ウサギは臆病な生き物だと言われているが、名前が名前だけにここまで気配をさせておきながら姿が見えないなんてことは無いはずだ。
もっと別の何かが来ているのだろう。
「近い、もうすぐ姿が見えるはずだよ・・・」
そう言ってラーニャは木の陰から森の奥を見つめた。
俺もラーニャが見ている方を凝視する。
このように何かを探すときは周囲をキョロキョロ見るのではなくて、ある一点を見ていたほうが見つけやすい。
一点を見つめていたほうが景色の変化に気付きやすいからだ。
そして少しすると足音が聞こえてきた。
俺とラーニャは銃を音がする方へ向けた。
セフティレバーを解除していつでも撃てるようにする。
もう少しで出てくるはずだ。
一体何が出てくる?
そう思っていると、突然背後の茂みで音がした。
とっさに振り向くとその茂みの中から何かが飛び出してきた。
そして黒い影は目にも留まらぬ速さでラーニャに飛びかかった。
あまりの突然のことに俺は対処できなかった。
しかし、そこは獣人族だけあって、黒い影に気付いたラーニャはすぐにそれを躱すように後ろへ飛ぶ。
獣人族は考えて動くというより、直感的に動いている。
その分考えるだけの時間が節約できてすぐに動くことが出来る。
そして俺なら絶対に避けられない攻撃を躱した。
だが、その黒い影の方も素早く、最初の攻撃を躱されるとそのまま木を蹴飛ばして進路を変え、攻撃を避けたラーニャを追いかけた。
そして、再びラーニャに飛びかかった。
流石のラーニャも最初は躱したが、突然進路を変えてくることは予測できなかったらしく、対処が出来ていない。
そもそも最初の攻撃を躱したときに崩れた体勢を立て直していない時点で避けることは難しい。
再び避けることは無理と判断したラーニャはすぐに防御態勢を取った。
キーンッ!
金属と金属がぶつかりあう甲高い音がした。
二本の剣がラーニャに向かって斬りつけられ、その二本ともが89式小銃の銃剣先とストックの部分で受け止められていた。
よく二本とも受け止めたな。
そして、斬撃を受け止めたラーニャの前にはもう一人の人影があった。
二本の剣の柄を握っている視点で紛れもなく先程の黒い影の正体だった。
双剣を使う茶色の髪の女。
そして、その姿を見たら誰でも獣人族とわかるだろう。
「・・・猫?」
その姿を見た俺の口から出た言葉がそれだった。
事実、ラーニャに切りかかった人には猫耳が生えていたのだった。
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「へー、あんたなかなかやるみたいだにゃ」
ラーニャを斬りつけたその猫耳はそう言うと剣を鞘に収めた。
双剣を見ると厨二病の魂が疼いてしまう。
二刀流なんて言えば厨二病の代名詞でもあるのだから無理もない、ないはずだよな?
「僕の奇襲攻撃を受け止めれる人なんてそうそういないのににゃ」
「・・・何者?」
そう言ってラーニャも銃を下げた。
銃には斬撃を受け止めたくっきりと跡が残っている。
これは後で部品交換も視野に入れた整備しないといけないな。
「おい、ミーア!何突然斬りかかってるんだ!」
すると今度は後ろの方から別の声がした。
俺はすぐさま声がした方に銃を向けた。
「わ、待て待て待て、落ち着け!少なくとも俺はあんたたちの敵じゃない!」
銃を向けられるとその声の主はすぐに両手を上げた。
この場合銃を向けられて手を上げたと言うより、どちらかと言えば銃剣を見て手を上げたのだろう。
この世界には銃が存在しないみたいなので、こういった所で銃剣を作ってよかったなと思う。
実際銃剣がなければ、ただの変な筒を向けられたとしか思わないだろう。
「俺の名前はフェリックス、うちのところの馬鹿猫が突然斬りかかったりして悪かった。それとこっちに向けている槍をおろしてくれないか?」
「にゃ!?馬鹿は余計にゃ!」
俺は言われたとおりに銃を下げた。
「とりあえず、なんで突然斬りかかってきたのか教えてくれませんか?」
そういうと、フェリックスは苦笑いをしながら答えた。
「俺達は最初5人でビッグラビットを狩りに来たんだ。だけど開始早々にこの馬鹿がビッグラビットの群れの中に突っ込んで暴れまわったせいでみんな逃げてしまったんだ」
「だから馬鹿は余計にゃ!」
「そしてその後は警戒して出てこなくなったから仕方なく他の所にいないか探していたんだが、そしたら突然この馬鹿が『近くで同じ獣人の気配がする、これは狩場を取られないために倒さなきゃいけないのにゃ!』とか言って走っていったから残りの3人には待ってもらって俺一人で追っかけてきたんだ」
「だから馬鹿っていうのはやめるのにゃ!」
「だけどこいつ無駄に早いせいで途中で見失って、歩き回っていたら何やら音が聞こえて、その音がする所へ来てみたらこうなっていたというわけだ」
フェリックスの野次を華麗にスルーする説明で
大体事情はわかった。
要するにこの猫耳が暴走して勝手に斬りかかってきたというわけか。
うん、ラーニャに斬りかかった罪は重いぞ。
これは極刑に処すべきか否か。
俺の中の国民投票の出口調査では既に賛成多数になっている。
これは処すしかないな。
「・・・お兄ちゃん、今笑顔で恐ろしいこと考えてなかった?」
「え、何か変なオーラ出てた?」
「何考えてたかは知らないけど、とりあえず絶対に考えてたことは実行しないでね」
うむ、本人に言われたならば仕方ない。
国民投票は拘束力持たないから投票結果を無視しよう。
そんなことより、ビッグラビットを狩っていた?
「なるほど、事情はわかりました。」
「本当に済まなかった。この馬鹿にはこっちで言い聞かせておくから」
「それより、ビッグラビットを狩っていたんですか?」
「ああ、ラプアの冒険者ギルドで受けたクエストでな、ビッグラビットを10体討伐という依頼だったんだが・・・、もしかしてあんたらもビッグラビットを狩りに来たのか?」
「はい、その通りです」
「参ったな、たまにあるんだよ、こうやって同じ目標に対しての討伐依頼が・・・、今回は近くの村から出されたんだろうけど」
なるほど、この森の近くの村から別々に同じ依頼が出されたと言うことか。
少なくとも、今回はビッグラビットを狩るという依頼だったから良かったが、これがもし1つしかない目標に対しての依頼だったらどうなっていたのやら・・・
「出来ればビッグラビットがどっちの方角へ行ったか教えてくれませんか?」
「ああ、分かった、ミーア!どこへ行ったか分かるか!?」
「・・・馬鹿馬鹿言うやつには協力しないのにゃ」
「そんなことを言ってたら報酬の分前やらんぞ」
「にゃ!?それはあんまりなんだにゃ!そもそもなんで僕がこいつらのために教えなきゃならないのにゃ!?」
「それはどう考えてもお前が迷惑をかけたからだろ。」
「わかったのにゃ、とりあえずあいつらの一群が向かったのはここから南西の方角だにゃ、そっちへ行けば何かいるかもしれないのにゃ」
「分かりました。とりあえずは南西に向かってみますよ」
「ふん、せいぜい頑張るんだにゃ」
「ミーア・・・とりあえず他の3人と合流しに行くぞ。報酬の配分についての詳しい話はそれからだ」
そう言って二人は森の出口の方へ歩いていった。
それにしてもあの猫耳の名前はミーアだったかな?
ボクっ娘で猫か、悪くはないな。
少なくとも嵐のような奴だったな。
クエストを実行する前にかなり体力を消耗した気がする。
とりあえずラーニャに斬りかかった罪として分け前無くなれという念でも送っておこうか。
それよりも早く兎狩りへ行かなければ。
「じゃあ出発するか」
「そうだね」
こうして俺とラーニャは兎狩りへ向かったのだった。
どうも、天津風です。
今回でクエスト回をやろうとしたはずなのに話が伸びてしまった。
あと小説も絶賛スランプだったりする。
スランプ克服出来るように頑張ります。
誤字などがあればまたご指摘ください。




