第21話 到着
10日後
「・・・ふぅ、やっと着いた」
キトカから出発して10日、俺とラーニャは海運都市ラプアに着いた。
出発してから10日間、ずっと馬車で移動していた。
10日の間ずっとスプリングなんてものはない馬車でやってきた。
道が舗装されていないむき出しの地面なので揺れが直接体に伝わって乗り心地も悪く、車や電車に慣れていた現代人の自分からしたら正直きつかった。
古代ローマとかでは高度な土木技術で、アッピア街道をはじめとする石畳の街道を整備していたので、この世界の街道も石畳が敷かれているのかと思っていたのだが、そんなことはなかった。
まぁ、田舎の道としてはこのくらいが妥当だろう。
もっとも、迷宮のおかげでキトカに向かう人が増えたのでもしかしたらそのうち舗装されているかもしれないが。
この街は、名前の通り海運で発展した街だ。
海に注ぐ川の河口に街は位置する。
東に港があり、西に住宅街が、北に商業地区があって南に冒険者地区があるというのがこの街の基本的な構造だ。
港は各地へ向かう物流の拠点となっている。
街の北はキトカへ向かう街道や新街道、その他にも別の町へ向かう街道などの分かれ道となっており、ここの陸路での物流拠点となっている。
街の特徴としては、かつての戦争の名残で街の中心部が城壁で囲まれていることだ。
この地域は肥沃な土壌に豊かな海があり、さらには交通の要衝でもあるため、昔から度々戦火に見舞われてきた。
そして、その度重なる戦争のうちに街を守るために城壁が出来上がった。
その頃は住宅が城壁の中に、畑が城壁の外にあるといった様子だった。
しかし、今の国がこの街やキトカを含むこの辺り一帯を勢力下に置いてからは特に大きな戦争は起こらなくなった。
そのため、街は戦争がなくなって発展していった。
しかし、戦争がなくなったとはいえ、依然として魔物が出てくるので住宅は城壁の内側に作られていた。
そして、しばらくしてからこの街にも騎士団が置かれた。
その後、周囲の魔物の大規模な討伐を行い、安全を確保することに成功したため、住宅が城壁の外に作られるようになった。
そして時間とともにその建物は増えていき、今の街が形作られていったという。
結果として今この街は国の中でも屈指の大きさを誇っている。
ちなみに城壁で囲まれた中は、今では高級住宅地となっているらしい。
今回俺たちは南の冒険者地区へ向かうので、街の外周を回り、南へと向かう。
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「さて、着いたからにはまずは宿を取らないとな」
俺は馬車を停めて降りてからそう言った。
「そうだね、しばらく野営だったからしっかりとしたベットがあるところが良いよね」
ラーニャも馬車から降りて伸びをしながら言った。
確かにこの10日間はずっと野営だったから疲れた。
一応道中に何箇所か集落があるので、その集落の近くでの野営だったが。
それでも野営は疲れる。
集落が近いと言っても魔物は出てくる。
その魔物が襲ってこないように見張りとしてどちらかが起きていなければならない。
自衛官時代に野営の訓練はやっているが、いつ敵が襲ってくるかわからないので常に警戒する必要がある。
そのために、夜間は常に誰かが眠気と闘いながら見張りをしないといけないために神経を使う。
それに、訓練の時は小隊で行っていたが、今回は2人なので交代要員がラーニャしかいない。
そのため一人あたりの負担は大幅に増えている。
30人で行っていたことを2人でやるのだから当然だ。
なので二人とも疲労度がかなり溜まっている。
馬車は街の入口に停めた。
街の中で馬車を乗っていても邪魔になるだけだからだ。
宿探しは俺がすることになった。
装備はHK416は持っていかずにSIG P220をショルダーホルスターに入れていくだけの最低限の装備にした。
町中で武器を持っていたら怪しまれそうだからという理由でこの装備としたのだ。
だが、街に入ってその心配は必要が無いことに気づいた。
むしろHK416を持ってきたらよかったと思った。
なぜなら、周りを見れば剣を腰にぶら下げたり担いだりした男や、弓を背負ったり槍を持った冒険者が当たり前のようにうろついていたからだ。
もし絡まれたりした時にはSIG P220と魔法で相手をすることは出来るから良いが、出来れば無駄なことは避けたい。
そのためにはやはり抑止力としてHK416を持って来るべきだった。
見たことがないものでも背中に背負っている時点で何かの武器だってことは伝わるだろうから。
ラーニャは冒険者地区の入り口の所で馬車の番をしている。
荷物はまだ降ろしていないので、それの見張りだ。
ちなみにラーニャは俺と違って完全武装で馬車の前に立っていたらしい。
しばらくふらふら歩いた後、俺は冒険者向けの宿があるところに向かった。
そこには何件も宿が立ち並んでいた。
同じ所にこれだけあっても経営が出来るのだからそれだけ需要があるのだろう。
どの宿にするのか色々見て、俺は中が綺麗で部屋に鍵がちゃんと付いている宿を選んだ。
駆け出し冒険者向けの宿もあったが、流石に鍵がついていないのは不味いので、それに比べてちょっと高めの宿にした。
宿に入り、受付カウンターへ行く。
「すみません、部屋は空いていますか?」
カウンターには受付嬢がいたので聞いた。
黒髪の清楚系お姉さんという感じの見た目だ。
俺が呼ぶとすぐに顔を上げた。
「はい、空いています。一名様ですか?」
「いえ、二名です。」
「かしこまりました、冒険者タグはお持ちでしょうか?」
なぬ、冒険者タグだと?
それは冒険者かどうかの証明書的なやつか?
免許証みたいな。
そうだとしたらまだ登録していないから持ってない。
「いえ、持ってないです。」
「あら、そうですか、身なりからして冒険者かと思ったのですが」
「いえ、これから冒険者登録へいこうと思っていたのですが、冒険者タグがないとどうなるんですか?」
「この宿は冒険者向けの宿ですので、冒険者タグを見せていただけると宿泊料金を割引するようにしているんです。」
なるほど、冒険者向けと言うだけにちゃんとそういうことがあるのか。
「それで、割引はどの位されるんですか?」
「はい、冒険者タグを見せていただくことで、宿泊料金が銀貨1枚から大銅貨5枚になります。」
まじかよ、割引って言うからてっきり少しだけ安くなるのかと思っていたら半額じゃないか。
大銅貨は10枚で銀貨1枚と同じ価値になる。
自分たちが持ってきた予算は二人で銀貨30枚、宿泊料金だけで考えると、二人で泊まれる日数が倍になる計算だ。
これは冒険者登録が必要になってくる。
「そうですか、それなら冒険者登録をしてからこちらの宿に泊まりたいのですが、よろしいですかね?」
「分かりました、登録したらこちらに冒険者タグを持ってお越しください。二人部屋を1部屋開けておきますね。」
受付嬢のお姉さんはそう言ってくれた。
なかなかに優しいじゃないか。
そういえば荷物どうしようか。
冒険者登録へ行くにしても馬車を置き去りには出来ないし、荷物も担いでいけるとはいえ、重たいし邪魔だ。
「あ、それともしよろしければ荷物を預かってもらっていても良いですか?街の入口に停めた馬車に積んだまま置いてあるので」
「分かりました、それもこちらが責任を持ってお預かりします。」
よし、これで予約は取れた。
後は冒険者登録をしてこなければ。
そして俺は予約の紙に名前を書いて店を出た。
おっとその前に忘れていた。
俺はカウンターに戻り、お姉さんに声をかけた。
「すいません、これ」
そう言って俺は銀貨1枚を渡した。
海外で言うチップのようなものだ。
それにしては明らかに破格なのだが。
どちらかと言えば、チップというよりかは『自分はちゃんと意識しているから荷物を盗むなよ』という警告としての意味合いに近い。
いくら優しいと言ってもこれは演技の可能性がある。
海外で信頼していた人に騙されるなんて話はよく聞く。
これは予めお金を渡すことで牽制をかけているつもりだ。
お姉さんは銀貨を渡されて一瞬戸惑ったが、すぐに笑顔に戻って小声でこういった。
「ちゃんと警戒心があってえらいわね、君。心配しなくても大丈夫よ、私は荷物を盗んだりはしないから。だからこれは返しておくわ」
そう言って、銀貨を俺に返してウィンクをしてくれた。
多分この人は大丈夫だろう。
それでも盗まれた時は、知らない。
そうして、俺は再び宿を出てラーニャの元へと向かった。
どうも、夏になって庭がセミやらクワガタやら蜂やら蛾で溢れかえって賑やかになっている天津風です。
学期末で色々とあったので2週間ほど間が空きました。
・・・ほぼ3週間ですね、すいません。
小説書いていたデータが一回ぶっ飛んだりして消えた部分直していたら時間かかりました。
これからは夏休みなので投稿ペース上がるかな?
あげられるように頑張ります。
また、コメントを頂いて励まされたりもしています。
今まで何気ないと思っていたコメントでも投稿する側になって初めて頂いた時の嬉しさがわかるようになりました。
誤字などがあればまたご指摘ください、大歓迎です!




