第20話 旅立ち
一ヶ月後
あれからは特に何事も無く平和な日々が続いていた。
ただ、迷宮の捜索は引き続き行われていた。
そして、つい一週間に発見された。
森のかなり奥で見つかった。
そして、どこで話を拾ってきたのかは知らないが、既に冒険者がちらほら町へ訪れるようになった。
なぜ冒険者が来るのか、それは迷宮で一攫千金を狙っているからだ。
迷宮には宝物があちこちにある。
だが、有名な迷宮だと、そのような宝物はあまり出てこない。
なぜなら既に取り尽くされているからだ。
そういった迷宮で宝物を探すとなると、まだ誰も行ったことがないかなり深くまで潜らなければならない。
そして、深くなればなるほど魔物は強力になる。
そのため、有名な迷宮はあまり一攫千金には向かない。
だが、見つかったばかりの迷宮なら話は別だ。
見つかったばかりなので、迷宮の中には手付かずの宝が大量に眠っている。
まさに宝の山だ。
もっとも、そんなお宝を簡単に取れるはずはなく、それ相応の魔物がいる。
今は迷宮がどうなっているのか確認するために騎士団が潜っているので立ち入り禁止だが。
少なくとも、この町に集まってきた冒険者は一生遊んで暮らすという夢があるのでここにいる。
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冒険者がやってきて町が何やら活気づいている頃、俺は家でのんびりしていた。
普段は銃の練習をしているのだが、今はやっていない。
というか出来ない。
以前の魔物の襲来の際に射撃場が破壊されたので、今までみたいな練習が出来ないのだ。
それに、今まで人目が少ないということで丘の北側を使用していたのに、その肝心の北側が戦闘跡地なので、一ヶ月経った今でも片付けが続けられている。
そのため、周辺には常に人が出入りし、もしそこで射撃訓練をしたら誰かに銃を見られてしまう。
町の人ならまだいいが、それが冒険者だったら何が起こるかわからない。
それが嫌なのだ。
一応午前の剣術の練習をは継続して行っているので、体力は落ちていない。
しかし、午後は銃器の手入れぐらいしかやることがないので案外暇をしている。
そんなある日、ログナンが俺に声をかけてきた。
「なぁ、アルバ、お前って将来何になろうと思っているんだ?」
俺は突然そう聞かれた。
将来何になるか。
俺の夢はこの世界でPMCを作ることだ。
しかしこの世界にPMCという概念があるのかどうかは知らない。
PMCは現代の傭兵と呼ばれる存在だ。
この世界でその傭兵に一番近いのは何だろうか。
「・・・冒険者、かな?」
「そうか・・・」
俺は冒険者と答えた。
冒険者は詳しくは知らないがいろんな事をやっている。
だったら冒険者として暮らし、そこからPMCになるのが一番良いと思っていたからだ。
それに、せっかくの異世界で冒険者をやらずに何になるという自分の興味も働いていた。
ログナンはしばらく目をつぶって何かを考えていた。
「・・・お前、冒険者になるんだったらもうなっても良いぞ?」
そして、ログナンは目をつぶったままそう言った。
・・・うん?
ファ!?
「え・・・?父さん、俺まだ10歳だよ?」
「確かにな、俺もお前が冒険者になるんだったら13歳になってからと考えていたんだが、この前の戦闘を見て考えが変わったよ。お前は既に十分な強さを持っている。将来の夢をかなえるのなら早いに越したことはない。ちょうど10歳の節目だしな。」
早いに越したことはないって、いくらなんでも早すぎやしないか?
「父さんも昔は親父から冒険者になるのは15歳からと言われていたんだがな、俺はそれよりも早く冒険者になりたかったんだ。そして、親の言うことを聞かずに13の時に家を飛び出して冒険者になったんだ。だが、当時の俺は中級の剣術と魔法を使えた程度で、結果的にかなり苦労したよ。だからお前が冒険者になるのなら13歳からと決めていた。それより若いと無理だろうと思っていたからな。」
なるほど、ログナンは13歳で冒険者になったのか。
13歳、中学1年か。
なかなかに早いな。
だが体は大人だ。
「だが、今のお前はその時の俺よりも遥かに強い。今冒険者になっても大丈夫だろう。十分にやっていけるさ」
まじか。
でもそうだな、10歳か。
確かに某ボールでモンスター捕まえてポケットに入れる世界の主人公も10歳で旅を始めてたな。
そう考えると大丈夫なのか?
「なるほど、そういうことですか・・・」
「それに、お前は一人じゃないだろ?」
一人じゃない?
確かにラーニャはいるが・・・、まさか?
「それって、ラーニャも一緒に行くって言うこと?」
そう言うと、ログナンは頷いた。
まじっすか。
「でも、ラーニャって9歳ですよね」
「そうだな、だがそれは数え年だってお前もわかっているだろ?実際はお前と同じくらいだ。それだったら問題なかろう。」
「問題ないんですか・・・」
「それに、仲間がいると何かと心強いからな。俺もラーナに出会ってからはかなり楽しかったしな。」
なるほどね、確かに心強いな。
っていうかログナンが初めてラーナと出会ったのが冒険者の時なんだな。
あれ、そういえばログナンって今何歳なんだ?
「父さんってそう言いえば今何歳なんです?」
「俺は今29歳だな。冒険者になってからもう16年も経ったからな。」
まじ、まだ29歳か。
っていうか俺のトータル年齢の30歳とあまり変わらないのか。
あれ、それだと俺の年齢が今10歳だから、19歳の時にはラーナとギシアンして俺を産んだのか。
日本の感覚からすると随分と早いな。
だが昔はそんなもんだったと言うし、この世界からしたら普通なのかもしれない。
「ついでに聞くけど、母さんの年齢は?」
「母さんは、俺と同い年だな。」
なるほど、同じ19歳でギシアンしたんですね。
「とにかく、お前は自分の好きな時に冒険者になっていいぞ」
「でも、ラーニャも一緒って、まず自分で確認しないと・・・」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん、私もついていくから!」
そこに、ソファーの影からラーニャが出てきた。
どうやら話を聞いていたようだ。
それを見たログナンが言った。
「どうやら同意は取れたようだな。一応確認するがラーニャ、お前も冒険者になるんだな?」
「うん、私も冒険者になってお兄ちゃんと一緒に旅をしたい!」
ラーニャは俺についてくる気満々だ。
これでラーニャとのふたり旅になるわけだ。
「じゃあ決まりだな。お前たち二人は明日からでも冒険者として旅に行っても良い。これは父親の俺が許可する。ちゃんと母さんには相談済みだから安心しろ」
こうして俺とラーニャは冒険者になることとなった。
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それから一ヶ月後、朝早くに俺とラーニャは家の前に立っていた。
空が明るくなり始めてはいるが、まだ涼しく、人々の生活が始まっていないような時間だ。
修学旅行でやたらと早起きをしてしまった時の感じと言えば分かりやすいだろう。
後ろには馬車がある。
馬車と言っても幌はあるが結構小さいもので、馬一頭で引くことが出来る程度の大きさだ。
どうせ二人分なのでこれで良いということだった。
荷台には弾薬箱と余分な89式小銃、SIG P220、後は食料が積み込まれていた。
そして、俺とラーニャはベルトキットをつけ、弾倉を全てマガジンポーチへ入れた状態で立っている。
肩にはそれぞれHK416、89式小銃がそれぞれスリングで背負われている。
後は背負い袋の中にそれぞれ荷物を入れてあった。
お金等の貴重品もこの中へ放り込んである。
ついに俺も冒険者として旅立つ時が来たのだ。
そして、その俺達を見送るためにログナンとラーナが立っていた。
「それで、お前たちはこれからラプアへ向かうんだな?」
「はい、そのほうが他の土地へ行きやすいと思ったので。」
ラプアは海運都市だ。
そのため、他の土地への船も出ていると聞く。
これから世界を旅するのであればちょうどいいはずだ。
その後、色々と話をして、ついに旅立ちの時が来た。
そして、ログナンとラーナから別れの言葉を言われる。
「お前たちならきっとうまくやれる、だから心配するな。」
「そうね、あちこち行くのなら、私達が冒険者として各地を歩き回っていた時の仲間がどこかにはいるはずだわ。だからもし何かあったら私の名前を言えば助けてくれるはずよ。」
「わかった、ありがとう、父さん、母さん。」
「それじゃ、行ってくるね!」
なんだかこうやって見ると昔の出征式みたいだな。
そして、別れの時でも陽気なラーニャには励まされる。
俺なんて涙腺崩壊しそうだっていうのに。
俺は昔やっていた、田舎に押しかけ一泊する番組を思い出した。
確か別れはこんな感じだったな。
しかし、その番組と違うのは俺が一泊ではなくここで10年暮らしたということだ。
その分こみ上げる感情も多い。
「それじゃあ、しばらくはこの家には帰ってこないでしょうけど、父さんや母さんに負けないくらいの冒険者になっていつかまた訪れます、それまではお元気で。」
俺はそう別れの言葉を言うと、すぐに背を向けて馬車へ向かって歩き出した。
これ以上いたらこみ上げる感情で涙腺が確実に崩壊する。
そのような姿は男として見せたくない。
ラーニャは最後にラーナとログナンに抱きついていた。
そして笑いながら涙を流していた。
戦闘力があっても心はまだ9歳の女の子だ。
いくら陽気だとしてもやはり別れは辛いのだろう。
そして、俺が門の前に停めてある馬車へ向かって歩き出すと、ラーニャも俺に続いてきた。
そして、顔は上を向いている。
恐らくこれ以上涙が零れないようにしているのだろう。
上を向いて歩こう。
涙が零れないように。
だが俺は前を向いて歩く。
別れを惜しんで上を向くよりは、しっかりとこの先の未来を見て、前を見て歩んでいきたい。
ラーニャも俺と同じようにしっかり前を向いて歩こう。
でないと。
馬車にぶつかるよ。
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俺とラーニャの冒険者としてのスタートは、ラーニャの前方不注意でラーニャが馬車に激突することから始まった。
いきなり壁(物理)にぶち当たったが、この先にはまだ見ぬ未来が広がっている。
この広大な世界でPMCとして人助けを行うことが、この俺の目標だ。
元自衛官、本田健也を改めアルバ・ハーシュタとなった俺の冒険者(PMC)としての物語は、まだ第一歩を踏み出したばかりだ。
どうも、天津風です。
執筆時間がない。
何とか書いていたのですが、いつの間にか日をまたいでしまいました。
すいません。
ともかく、これで一区切りつきました。
次回からは冒険者編をやっていく予定です。
ご指摘、ご意見などは大歓迎です!




