第17話 キトカ防衛戦①
キトカ厳戒態勢1日目
今日は魔物に対しての本格的な警備が始まった初日だ。
町の中には鉄製の兜を被り、腰に剣をぶら下げた男たちが非番にも関わらず、いつ命令がかかっても大丈夫なように備えていた。
剣以外にも一応槍や弓を持っている男もいた。
武器は色々あるみたいだ。
ユーノスへ救援を要請するのには町で一番早い馬を用意した。
それでも一週間はかかる。
その間再び襲撃があれば自分たちで撃退しなければならない。
俺は、今日は外に出ないことにしている。
理由は、ログナンにじっとしていろと言われたこともあるが、それよりもまず銃の手入れがしたかった。
先日の戦闘の際に自分はHK416を使用したとはいえ射撃しかしていなかった。
しかし、ラーニャの方はおもいっきり銃剣格闘を行っていたため、射撃には問題がないが、再び89式小銃にダメージが入っていた。
そのダメージはやはりストックの付け根などに集中しており、あちこち部品が破損しているものもあった。
その部品を新たに土魔法で制作し、入れ替える作業をしなければならない。
この前ラーニャが使っていた銃は89式小銃の折曲式銃床のタイプだ。
それに銃床は軽量化のためにスケルトンストックになっている。
誰が見ても、銃のあちこちを使って殴ったりする銃剣格闘に向いていないのは一目瞭然だ。
そのためしばらくの間はラーニャに固定式銃床の89式小銃を使ってもらうことにする。
去年ラーニャと銃剣格闘模擬戦をした時に使用していた銃はこれで、こいつにもダメージが入ったのだが、折曲式小銃よりはマシだろう。
そして俺はSIG P220のメンテナンスをしていた。
この銃もグレイウルフと取っ組み合っている時に殴るのに使用したりしていたので、その点のダメージのチェックが必要だった。
その他には弾倉のチェックも行った。
実際ラーニャがスピードリロードを行った際に運悪く石か何かに当たって弾倉が変形した。
そのような弾倉が他にもないかチェックを行ったのだ。
映画などを見ていると、銃の弾倉は使い捨てというイメージがあるが、実際はそうではない。
本来は弾倉は何度でも使用する。
そのため、弾を撃ち切ったらマガジンポーチから新たに弾倉を取り出し、撃ち切った弾倉はマガジンポーチに戻す。
マガジンポーチ以外にも、ダンプポーチと言われるものに入れる方法もある。
ダンプポーチは腰にぶら下げる巾着袋のようなものだ。
これを腰にぶら下げておくことで、いちいちマガジンポーチの口を開けてその中に突っ込むということをせずとも、ダンプポーチに放り込むだけで再利用が可能になる。
しかし、俺はまだダンプポーチを製作していない。
そのため、敵が押し寄せ、早く弾倉を交換する必要があるためにラーニャは仕方なくスピードリロードを選択した。
実際空の弾倉をしまうより、マガジンリリースボタンを押してその場に落としたほうが交換速度は早い。
だが、結果としてこのように弾倉が変形するといったことが起こった。
これでは再使用することは出来ない。
もし破損していることに気付いていなければ、実戦で装弾不良が起こり、弾詰まりを起こしてしまう。
そしたら命が危うい。
なので、俺はチェックを行うと同時に、弾倉自体のメンテナンスも行った。
また、新規に弾倉を製作したりもした。
こうして装備品のメンテナンスを行っていた俺達だったが、思いの外問題箇所が出てきたので、それらの修理のために最終的に3日を要する事になった。
そして、この間は特に何も起こることはなかった。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼
キトカ厳戒態勢4日目
銃のメンテナンスが終わった俺達は、この日は弾薬を製造していた。
ラーニャは9mmパラベラム弾、俺は5.56mm×45mm NATO弾と、役割分担を行って制作した。
やはり、消耗品である弾薬を制作できる人が自分以外にもいると随分助かる。
この前の戦闘で消耗した弾薬はせめて製作する。
そして、外に行けないので、今のうちに弾薬も大量に製造しようということになり、この日は弾薬をひたすら製造していた。
弾薬一発と言っても、製造にはかなり正確なイメージが必要となる。
そのため、一発作るだけで3分ほど時間が必要だ。
一時間で20発、生産速度はとても早いとはいえない。
こうして、この日は5.56mm×45mm NATO弾を200発、9mmパラベラム弾を90発製造出来た。
ラーニャには途中から5.56mm×45mm NATO弾の製作を手伝ってもらっていたが。
そして、この日は警備の方でも変化があった。
それは昼に森周辺を警備していた5人組が魔物と遭遇したらしい。
魔物はゴブリンで、数は10体。
すぐさま遭遇した5人は戦闘に入った。
結果は勝利、こちらはけが人が一人出ただけでそれ以外の損害はなかったそうだ。
結構ゴブリンって弱いのか。
戦闘後すぐさま遭遇した5人が報告を入れ、警備体制を強化した。
そして、その夜は緊張に包まれたまま迎えることになった。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼
キトカ厳戒態勢5日目
緊張した空気が漂う中、夜が明けた。
今回の戦闘が迷宮の魔物と関連があるのかどうかわからないので、一応森のなかに10人の調査隊を送り込むことになった。
メンバーは昼組から抜擢され、町の警備は朝組が帰還まで引き続いて行うことになった。
森のなかで行うのはただの偵察だ。
しかし、偵察と言っても、いつどこから魔物が出てくるのかわからないので、かなり慎重に行かなければならなかった。
そして、昼過ぎ頃になり、調査チームは戻ってきた。
道中で何度か魔物に遭遇し、これを撃退しながら前進していき、最終的に見たのは、魔物の大群だったという。
この報告を聞いて、町の方ではさらに緊張が高まる。
魔物は移動中だったらしく、その方向はこの町へ向けて、と言うよりかは森の外へ向けてだったみたいだが。
この報告を聞いた町は、すぐさま防御体勢を整える事になった。
どれくらいの時間で町に到達するかは分からないが、今から迎撃の準備を行わなければならないだろうという判断に基づいてのことだ。
救援の要請は既にユーノスへ届いているはずだ。
恐らく今頃は応援の騎士団がこちらへ向かっている頃だろう。
その応援が到着するまではなんとしてでも町を守らなければならなかった。
そして、魔物が出てくると思われるのは北の丘、俺の作った射撃場があるところだ。
そこで迎え撃つことになったらしい。
町からは自警団が出ていき、その場所に障害を設置した。
先を尖らせた木で作った柵や、三角形になるように組んだ木の障害など。
魔物を食い止める程度ならば十分に効果を期待できるものだ。
その頃俺たちは家で弾薬を製造していた。
その他にも弾倉の数をさらに増やしたり、弾薬箱をさらに作ったりと、主に弾薬関連の事をしていた。
森に入った調査隊が魔物の群れと遭遇したというので町のほうが大丈夫か気にはなるが、ログナンからじっとしていろと言われているので、仕方なくこうするしかなかった。
そして、この日は町を守るため、ほぼ実戦体勢を取って夜間警備を行う事になった。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼
キトカ厳戒態勢6日目
この日は朝から慌ただしかった。
防御陣地に既に40人ほどが入って迎撃準備をしている中で、再び森へ入っていった調査隊から連絡が入ったのだ。
その内容は、魔物は既に森の出口辺りまで来ている。
そのため、魔物の群れが出てくるのはちょうど昼過ぎ頃になるだろうということだった。
そして、ついに魔物の群れと自警団が衝突することが決定的になったため、町に予備戦力として調査から帰ってきた10人を残し、他は全て防御陣地へ向かうことになった。
防衛体勢を整える自警団の指揮を取るのはログナン、弓を持ったものを丘の斜面の上の方に配置し、槍を持ったものは木で作った柵の内側に配置した。
丘の頂上には即席ではあるが、物見櫓もあるため、相手の行動を察知することが出来るようになっていた。
町では女達が食事を作って男たちに持って行ったりとしていたため、町も町で慌ただしい。
そして、このように準備が進む中で、物見櫓で鐘が鳴らされる。
魔物が見えたということだ。
陣地では時間があるのならば今よりも障害を増やそうということで、男たちが柵を増やしたりしていたが、この鐘がなったことによりその作業は中断。
皆が兜を被り、槍や弓、剣を持って配置につく。
そして、魔物たちに備えた。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼
魔物の群れはそれから5分ほどして姿を表した。
森のなかから剣や槍、弓や斧、多種多様な武器を持ったゴブリンが出てきた。
しかし、森から出てきたところで、そこには池がある。
その池を超えなければ自分たちのところへ来ることは出来ない。
そして、魔物の群れは徐々に数が増えてくる。
そして、後続に押し出された魔物が池に入りだした。
向こう岸までは100mほどの距離がある。
その距離を渡り切るまでは時間がかかる。
弓を射れば届かないこともない距離だ。
だが、当たるかどうかわからない上に矢の本数が少ない。
そのため、引き付けるしかない。
そして、池を渡りきったゴブリンたちが防御陣地の中にいる自警団の男たちに向かって走りだした。
それを見たログナンは命令を下した。
「弓隊は攻撃を開始、ここで食い止めなければ町が蹂躙されるのだ、一歩も引くな!」
その言葉と同時に、戦闘が始まった。
どうも、天津風です。
予約投稿を失敗しているのに気付いたので急遽手動で投稿しました。
誤字などの指摘、ご意見などは大歓迎です。