第16話 緊急会議
「っくぅ、いってぇ・・・」
俺は体を起こした。
体当たりを受ける直前に身体能力を強化をしたのでダメージは少なかった。
ラーニャにぶん殴られた時以来、俺は何かあるととっさに補助魔法を使うようになっていた。
それが今回たまたま効果を発揮した。
いや、そんなことはどうでもいい、魔物はどうした?
そう思い、あたりを見ると、自分から20mほど離れたところでラーニャが魔物と格闘している。
撃つのではなく、銃剣で格闘しているのだ。
あの犬のような魔物は、かなりすばしっこいい。
俺は接近に気付かないままふっとばされた。
それだけ早いのだ。
だが、ラーニャはその犬と闘っている。
むしろ、ラーニャのほうが押している。
犬は何度も噛み付いたり引っ掻こうとしているが、ラーニャはそれを全て紙一重で回避している。
補助魔法を使ったとしても流石にあの動きは俺には出来ない。
そして、ラーニャが執拗に狙っているのが足だ。
あちこちに出来た傷口から血が出ている。
何度も何度も足を切ってだんだん犬の機動力をなくそうとしているのだ。
しかし、犬の方も黙ってはいない。
噛みつくのではなく、突然横に飛んでラーニャに体当たりをしようとした。
だがそれもラーニャがかわして不発に終わる。
それどころかラーニャに銃剣で腹を刺突されるというカウンターを食らっている。
勝敗はそのうちに決まるだろう。
それから少しして決着がついた。
結果はラーニャの圧勝だ。
執拗に足を狙われた犬は最後は自分の体重を支えることすらできなくなり、その場に倒れた。
そして、ラーニャは倒れた犬の首を一突きして止めを刺した。
「っふぅ、勝った・・・」
ラーニャはそう言って首から銃剣を引っこ抜いた。
いつの間にあそこまで強くなっていたんだよ。
すると、自分の意識が戻っているのに気がついたのか、ラーニャがこっちへ駆け寄ってきた。
「あ、お兄ちゃん気がついたんだ!良かった」
「どこか怪我とかしていない?」
「いや、怪我はないから大丈夫だ、それよりもラーニャのほうが怪我していないか心配なんだけど。」
「ううん、大丈夫、相手よりもこっちの動きのほうが早かったから攻撃はもらってない。だから平気」
「そうか、それなら良いんだ」
そして、俺はあたりを見回して言った。
「だけど、まだ魔物はいるみたいだからまずはそれを倒さないとな。」
そう言われたラーニャは俺から目を離し、あたりを見回した。
そこにはさっき倒した犬が5体ほどいた。
どれもこれも自分の仲間が殺されたことを怒っているようだった。
グルグルと唸り声を上げてこちらへ近付いてくる。
それを見たラーニャは銃を持って立ち上がった。
そして、銃を魔物に向けた。
セレクターレバーも三点バーストに合わせてあり、いつでも戦えるようにしている。
少しの間、静寂が訪れた。
双方が睨み合っている。
『グルルォォォォォォォォォォ!!!』
そして、その静寂を破り、犬が遠吠えを上げて一斉に走りだした。
ダダダッ!
ラーニャは落ち着いて先頭の犬に向けて発砲した。
銃弾を頭部にもろに受けた犬はそのまま倒れる。
そして、次の犬に向けて撃ったが、その弾は躱された。
恐らくゴブリンとの戦闘を見ていたのだろう。
こちらの武器の手の内は知っているようだ。
弾を躱されたラーニャは、突っ込んでくる犬に対して銃剣を向けて、突っ込んでいった。
また近接戦に持ち込むようだ。
俺もその戦闘を眺めているだけではダメなので、加勢しなければいけない。
そう思った俺は銃を持って立ち上がろうとしたが、そこでやっと手元に銃がないことに気付いた。
見れば自分から5mくらい離れたところに置いてあった。
あそこで弾を込めていたのだから5mってかなりふっとばされたな。
とにかく銃を持たなければ始まらない。
そして銃を取りに行こうとして立ち上がったところで、自分の方に犬が来た。
2体いる。
ラーニャと戦っていた犬だろうが、今ラーニャは他の2体相手に戦闘をしている。
恐らくラーニャの機動力に追いつこうとしたら数が多いと逆に身動きがとれないのでこちらに来たのだろう。
さてどうする、自分の手元にはHK416がない。
俺はガンベルトにぶら下げてあるホルスターからSIG P220を取り出した。
それを犬に向ける。
弾倉は入っている、この銃は弾さえ入っていれば、引き金に力を入れるだけで発砲することが出来る。
パンッ!
パンッ!
俺はすぐさま射撃を開始した。
相手は弾を躱そうとするが、俺はそこに先読みをして射撃を行う。
しかし、緊張しているためか、狙った場所から弾がずれる。
1弾倉分9発撃ち切り、やっと1体仕留めた。
そして、すぐに空の弾倉を抜き取り、マガジンポーチから取り出した弾倉と交換する。
弾倉を交換し、スライドストップを解除する。
解除したと同時に初弾が薬室に装填される。
そして、引き金を引いて再び射撃を始めた。
その後、しばらくして俺はもう一体の犬を倒した。
最終的に至近距離にまで寄られた俺は、すぐさま鞘から銃剣を取り出した。
銃剣は単に銃に装着するだけではなく普通のナイフとしても運用できる。
そして、噛みつきにきた犬の顎を銃剣で突き刺した。
そしてその犬を蹴飛ばし、距離を置く。
瞬発力を強化しているため、素早く行える。
距離が空いたが犬は再び突っ込んでくる。
今度は腹を突き刺し、左手に持ち替えてあるSIG P220で頭を殴る。
再び蹴飛ばし、よろめいたところへSIG P220の残りの弾倉内の弾を撃ちこみ、犬を倒した。
それと同じくらいにラーニャの戦闘も終了した。
犬は2体とも銃剣で急所を突かれていた。
よく急所を的確に狙えるな。
俺には出来ん。
戦闘が終わり、今度こそ他の魔物がいないと判断した俺は、HK416を拾い、弾薬箱を持って急いでラーニャと家に戻った。
夕焼けで空は既に赤くなり、星が見え始めるような時間だった。
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家に帰り、泥や返り血がついていた俺たちを見て驚いたログナンに今日起こったことをすぐさま説明した。
そして、話を聞いたログナンはすぐさま家を飛び出していった。
恐らく行く場所は町長のところだろう。
その夜、町長の家では緊急の会議が行われた。
議題はもちろん俺たちが今日戦った魔物についてだ。
この森には魔物がいるとはいえ、そこまで多くはない。
いても本当に森の奥へ行かないといないらしい。
しかし、今回こうやって魔物が出てきた。
どうしてこうなったかということについては、町長の予想だと、森のなかに未発見の迷宮があるということだ。
この世界には迷宮が存在している。
その始まりは神トロムスが迷宮を作ったことにあると言われているが、それはもはや神話の世界だ。
少なくとも、世界が出来てからの長い年月の間に存在が忘れられてしまった迷宮が数多くある。
そして、存在が知られている迷宮は冒険者がお宝を求めて潜って行ったりして迷宮内の魔物を倒すから良いが、町長が言う未発見の迷宮はそういったことがない。
そして、最終的には迷宮の中が魔物で溢れ、居場所がなくなった魔物が押し出されて外へ出てくるのだ。
今回やってきた魔物の数から考えると、その可能性が高いらしい。
一応この日の夜は自警団が町の警戒に当たることになった。
町の役人や自警団の中には、俺達が子供だから数を多く感じてしまったのではないかという者や、そもそも魔術師としての能力があるとはいえ、子供がゴブリンを80体倒すのなんて不可能だという者がいたが、その疑念は翌朝になると消え去った。
朝になり、ログナンや町長、その他町の重役たちが自警団と共に現場を見に行った。
そして、そこには俺達が倒したゴブリンや犬の死体が大量に転がっていたのだ。
ちなみに犬の魔物は『グレイウルフ』と呼ぶらしい。
見たまんまの名前だな。
あと犬じゃなくて狼だったのか。
現場を見た結果、やはり未発見の迷宮がある可能性が高いらしく、町長はすぐに応援を要請するように言った。
行き先は商業都市ユーノス、ユーノスはここら一体のハーフェノア領と呼ばれるところの領主がいる。
そこにいる騎士団に救援を要請するようだ。
この世界は魔物の討伐も領主の仕事に入る。
そして、迷宮をほったらかしにして魔物を討伐しなかったら普通に森をうろついている魔物と合わさってかなり危険になってしまう。
あまりにもひどいと領主はその座を失い、最悪の場合は命を失うことになる。
だからこそ、新たな迷宮を発見した場合はすぐに領主に報告することになっている。
そして、領主側もすぐさま部下を向かわせてこれに対処する。
なので、迷宮がある可能性大ということになれば、領主もすぐに応援を出してくれるだろうということだった。
だが問題は、ここキトカからユーノスまでは普通に行けば10日、早馬でも3日はかかる。
そのため、応援が到着するまでには早くて一週間は必要になる。
それまでの町の防備はどうするか。
それについて考えねばならなくなった。
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「それじゃ、これから一週間の間は1日3交代で警戒に当たるということで良いですね」
その町長の言葉により、24時間体勢で警戒が行われることになった。
そして、その指揮に当たるのはログナンだった。
自警団のメンバーは60人ほど、それを20人一組に分け、朝組、昼組、夜組でそれぞれ警戒に当たる。
さらにその20人を5人ずつに分け、ユーノスへ向かう道の入口、ラプアへ向かう道の入口、森周辺、そして俺の作った射撃場がある丘に配置した。
夜は何かと戦闘の難易度も上がるので、そこには戦闘経験のあるものなど、練度の高い人たちが配置された。
もちろんログナンも夜組だ。
そして、もし魔物が来たら、その時は非番の他の2組も加勢する。
今までほとんど実戦経験のない自警団だったが、ここ4年間の見回りの際に魔物と戦ったメンバーもいて、一応ド素人の集まりと言うわけではなかった。
そして、ログナンは密かに俺にも声をかけてきた。
「アルバ、お前たち二人はあの魔物を相手にして怪我もほとんどせずに勝利した。本音を言えば加勢してもらいたいが、なにせお前たちはまだ子供だ。これから一週間は自警団が警戒を行うから家でじっとしていてほしい、もし何かあった時は、お前たちが家を守ってくれ。」
父親にしては随分と弱気だな。
大丈夫か?
それはともかく、これから一週間、この町は戦いに備えることになる。
戦力がどうかは知らないが、一応防備計画があるのだから、俺たちが出て行ったら逆に足手まといだろう。
こうして俺はこの一週間は家でじっとしていることにした。
どうも、天津風です。
気がついたら6月も終わり、7月になっていました。
時が経つのは早いですね。
誤字などの指摘、ご意見などは大歓迎です。
これからは22時投稿を目指すように頑張ります。