第15話 魔物
目の前の森には魔物の群れがいた。
「え、なに、なんだこれ?」
俺もあまりの数に動揺してしまった。
なんで突然魔物の群れが出てきたんだ?
だが、そんなことはどうでもいい。
目の前に脅威がいるのだ。
悠長にしている時間はないのだ。
「ラーニャ、今からあいつらを倒す、やれるか!?」
「っえ!?あ、うん、分かった、やってみる!」
今奴らを倒さなければ、町のほうが大変なことになる。
俺はすぐさまここで戦う決断をした。
先ほどコッキングレバーを引いたから初弾は装填されてる。
俺はセレクターレバーを回し、単射に合わせた。
同時に補助魔法で視力を強化する。
そして、池の向こう側にいる魔物に銃口を向けた。
対岸までの距離は100mほど、想定交戦距離よりも遥かに短い。
普段の練習では全弾当てることが出来るようになっている。
大丈夫だ、やれる。
俺は、サイトを覗き、はじめに見たゴブリンの頭に照準を合わせた。
相手はこちらに気付いていない。
そして、照準がブレないように息を止めて引き金を引いた。
ダンッ!
発砲音がして、空薬莢が排莢される。
それと同時に、照準の中にいたゴブリンが崩れるように倒れた。
聞き慣れない音を聞き、仲間が倒されたゴブリンが一斉にこっちを向いた。
そこに立っているのは見慣れないものを持った子供だ。
剣などの武器を持たない俺たちはちょうどいい獲物に見えたのだろうか。
それを見たゴブリンたちは一斉にこちらに向かって走り始めた。
自分たちとの間には池がある。
しかしゴブリンたちはお構いなしに水の中へジャバジャバと音を出して入ってきた。
この池は結構浅く、一番深いところでも3m程しかない。
そして、後続のゴブリンたちも次々に池に入り、こちらへ向かって浅いところを走ってきた。
だが、いくら浅いとはいえど、水の中では速度が落ちる。
「射撃開始、行くぞ!」
「了解!」
先頭集団が池の半ばまで来たところに、俺達は射撃を開始した。
ダンッ!ダンッ!
ダダダダダダダダダッ!
ラーニャは相変わらず連射を使っている。
だが、ラーニャの撃った弾は団子になっているところに吸い込まれていき、次々にゴブリンをなぎ倒していく。
そして俺はその団子から外れたところに立っているゴブリンを一体一体倒していた。
すると、何体かのゴブリンがこちらに弓を向けているのが見えた。
俺はすぐさまそちらに銃を向け、引き金を引いた。
ダンッ!
ダンッ!
ダンッ!
そして、銃口を向けられたゴブリンは弓を射る事なく倒された。
各ゴブリンに1発ずつ。
全てヘッドショットだ。
やはり射撃に関してはラーニャより上手い。
この調子で倒していこう。
だが、ヘッドショットをしても映画みたいに派手に血しぶきが上がることはない。
支えのない人形のようにその場で崩れ落ちるだけだ。
ラーニャの方は敵の団子に連射を加え続けている。
だが、狙いが甘い。
確かに固まっているところに掃射をすれば倒すことは出来るだろう。
しかし、それでは確実に全部を倒すことは出来ない。
事実、ラーニャが掃射を加えたゴブリンを見ていると、撃たれて倒れても、撃たれたのが腕だった等の理由で起き上がってくる奴らがいる。
それに連射というところにも問題があると思う。
ラーニャの89式を見ると、身体能力強化で反動を抑えているとはいえ、銃口が跳ね上がっている。
「ラーニャ!三点バーストを使え!」
「え!?、わ、分かった!」
そう言うと、ラーニャは銃把から手を離し、セレクターレバーを『レ』から『3』へ切り替えた。
ちょっとパニックになりかけてないか?
「集団に弾をばらまくんじゃなくて、一番近い相手から撃て!」
ラーニャは言われるがままに射撃した。
ダダダッ!
ダダダッ!
一番近い相手に銃を向けて引き金を絞ると、相手は膝から崩れ落ちた。
さっきまでとは違い、確実に仕留めることができている。
ラーニャは俺のようにヘッドショットを決めるのが苦手だ。
そのため確実に倒すためには相手の胴体へ撃ち込まなければならない。
1発だけではさっきみたいに他のところに当たって倒せないなんてこともある。
だから俺は三点バーストを使わせた。
ダンッ!
ダンッ!
俺も射撃していたが弾倉内の弾が空になった。
すぐさま弾倉を外し、マガジンポーチから抜き取った新しい弾倉と交換する。
交換したらコッキングレバーを引き、初弾を薬室に送り込む。
ダンッ!
弾倉交換中に近づいてきたゴブリンを撃つ。
ゴブリンはそのまま水の中に倒れる。
俺はいま交換した弾倉が2本目だ。
残り5本、まだ余裕はある。
しかしラーニャは弾を最初に使いすぎていた。
今使っているのは最初のものを含め5本目だ。
マガジンポーチには残り2本しか入っていないはずだ。
このままで大丈夫か。
だがその心配の必要はなかった。
それから少しすると、ゴブリンがそれ以上進んで来なくなったからだ。
いや、進むことが出来るゴブリンがもう残っていないと言ったほうが正しいか。
ゴブリンが無闇に前進を続けた池には、かなりの数の死体が倒れていた。
流れ出た血で、池のその箇所は真っ赤になっている。
ゴブリンの血も赤いんだな。
倒した数は、ざっと数えて80体くらいか。
相当倒したな。
まさに死屍累々だ。
「どうだ、まだ何か見えるか?」
「ううん、すぐ近くには居ないみたい、多分大丈夫だよ」
「そうか」
どうやらゴブリンを殲滅出来たみたいだ。
一応手持ちの弾を確認してみる。
残っている弾を見る限りだと、さっき撃った弾は俺が40発ほどでラーニャが150発ほど。
200発近く撃っている。
実際自分の足元は薬莢だらけになっている。
「どうやらなんとかなったみたいだな」
「そうだね」
そこでふと俺はあることに気付いた。
よくわからなかったが最初ゴブリンを見た時にゴブリン以外の魔物もいなかったか?
今倒した奴らはゴブリンだ。
ゴブリン以外の奴らはどこへ行ったんだ?
戦闘している間に森のなかへ帰っていったことも考えられるが、どこに行ったかはわからない。
ちょっと怖いな。
一応何か来た時に備えてラーニャには弾倉を交換しておいてもらう。
いわゆるタクティカルリロードというやつだ。
それと一緒にラーニャから空の弾倉を受け取って自分の予備弾倉を渡しておく。
自分は弾がまだ残っているので大丈夫だろう。
「一回家に戻って自警団に報告しよう、薬莢は拾わなくていいから」
そう言って俺は帰る準備をしていた。
弾薬箱の中にちゃんと弾薬が入っているかを確認する。
ついでにラーニャから受け取った空の弾倉に弾を込め直した。
最後の一本に弾を込めようとしたのだが、その弾倉は、ラーニャがスピードリロードをした際に落として運悪く石か何かに当たったらしく、ちょっと歪んでいるみたいだった。
少し弾が込めにくい。
最後の数発が特に固く、俺はそれを込めるために必死になっていた。
そして、4本とも装填が終わった。
「よし、準備出来たから帰ろう」
そう言って立ち上がろうとした時。
「待ってお兄ちゃん!頭上げたらダメ!」
突然ラーニャにそう言われてすぐに伏せた。
ダダダッ!
同時にラーニャが発砲した。
その弾はさっきまで俺の頭があったところを飛んでいった。
頭上でヒュンと弾が飛んで行く音がした。
一体何が来た。
そう思って起き上がった俺の目には体長が2mほどある犬みたいな魔物がこちらに走ってくるのが見えた。
ラーニャがさっき発砲したが、弾は全て外れたみたいだ。
そして、そいつは突っ込んできた。
俺は体当たりを食らってぶっ飛ばされた。
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---ラーニャ視点---
何とかゴブリンの群れを倒すことが出来て、私はホッとした。
池にはさっき撃ち殺したゴブリンの死体が浮かんでいて、それを見た私はこの『銃』というものの威力をあらためて感じました。
しかし、自分のさっきの戦いは反省点もあります。
まず、銃を連射で撃っていたことです。
練習の時には全弾当てることができていました。
それについてはお兄ちゃんの方も何も言っていませんでした。
でも、いつも練習が終わると
「ラーニャ、連射もいいけど三点バーストを使え」
と言ってきます。
最初、私はそれを聞いてなんでそんなことを言うのかわかりませんでした。
お兄ちゃんの方は連射して同じところへ当てるのではなく、一発ずつ撃って的に当てる練習をしていました。
正直言って、反動の大きい連射で同じところへ当てれる自分のほうが凄いんじゃないかと思っていました。
でも、それがさっきの戦闘でわかったのです。
確かに、練習では大丈夫でも、実戦になるとすごく緊張します。
緊張してしまった私は、いつもどおりに弾を当てることが出来ませんでした。
距離は100mしかないのに、弾が外れてしまうのです。
敵を倒してはいるのに、倒した敵の中には起き上がってくるゴブリンもいることで、私は軽くパニックになりかけていました。
でも、そこでお兄ちゃんが
「ラーニャ!三点バーストを使え!」
と言ってきたのです。
私はパニックになりかけているのを隠すために出来るだけ普段通りの返事を心がけて答えました。
そして、今度は
「集団に弾をばらまくんじゃなくて、一番近い相手から撃て!」
と言われました。
私は言われたままに三点バーストで近づいてくるスピードが速い相手を撃ちました。
すると、さっきまでとは違い、相手にしっかりと弾が当たるのです。
そして、確実に倒すこともできています。
私はそのまま三点バーストでゴブリンを倒し続けました。
そして、その間にお兄ちゃんの方を見ました。
セレクターレバーは単射にセットしてあります。
そして、一発一発を確実にゴブリンの頭に撃ち込んでいきます。
そして、弾倉交換の頻度は私より少ない。
弾も残っています。
それで、一番大切なのは、沢山の弾を同じ所に撃ち込むのじゃなくて、少ない弾でいかにして確実に相手を倒すかということがわかりました。
戦闘が終わったみたいで、私は周囲に何かいないか神経を集中させて探しました。
結果は他の魔物は見当たらず、全部の相手を倒したのだろうと考えました。
お兄ちゃんは、その後私の空の弾倉と自分の弾の入った弾倉を交換してくれました。
そして、お兄ちゃんは弾倉に弾を込めたり、、帰る準備を開始しました。
そこで、私はまた変な気配を感じました。
また何かが来る。
そう本能が言っています。
私はすぐに周囲を見渡し、どこにいるのかを探しました。
でも見つかりません。
不安になった私はお兄ちゃんに言おうとして、池の方から後ろの丘のほうを向きました。
そしたら、その丘の方にいたのです。
犬みたいな魔物がいました。
そして、こちらへ向かって走ってきました。
お兄ちゃんは気付いていません
私はとっさに銃を構えて魔物に狙いをつけました。
そして、ちょうどいいタイミングが来たので撃とうとしました。
「よし、準備出来たから帰ろう」
しかし、そのタイミングでお兄ちゃんが立ち上がろうとしました。
その場所はちょうど私の銃の射線を塞いでいます。
なんという間の悪さ。
「待ってお兄ちゃん!頭上げたらダメ!」
私はそう叫びました。
そしたらお兄ちゃんは驚きつつも声とほぼ同時に伏せました。
そして、引き金を引く。
ダダダッ!
しかし、さっきの少しの時間で照準がずれたらしく、全部外れてしまいました。
そして、その魔物は突っ込んできて、お兄ちゃんを跳ね飛ばしました。
その瞬間に私はガンベルトにぶら下がっている鞘から銃剣を取り出し、着剣しました。
そして、お兄ちゃんに体当りしたばかりの魔物に向かって、補助魔法で瞬発力を強化して突っ込んでいきました。
どうも、天津風です
とりあえず、ここまで読んでくれた方はありがとうございます。
誤字などがあればまたご指摘ください。