第13話 銃剣格闘
翌年
時が経つのは案外早く、おれはもう9歳の春を迎えていた。
元の年齢と合わせれば29歳、来年三十路だ。
そして俺は今射撃場のあるの丘の斜面に立っていた。
手には弾の抜いてある弾倉をセットしたHK416、銃の先には銃剣、ではなく銃剣に似せた木製の銃剣がついていた。
先には布が巻いてあり、突いても安全なようにしてある。
他にも銃床、弾倉などにも同じく布が巻いてある。
そして自分から2mほど離れたところには同じ木製の銃剣を装着した89式小銃を持ったラーニャがいた。
しかし、その89式小銃は固定式銃床がついた試作品一号だった。
今やっているのは銃剣の模擬戦だ。
事の発端は去年の夏に銃剣を作成したことにある。
近接戦闘が得意な獣人族の血が騒いだのかどうかは知らないが、ラーニャは銃剣が相当気に入ったらしく、去年の夏、そして秋冬、年が明けて今年の春まで、ずっと銃剣格闘の訓練をしていた。
ラーニャ曰く
「近くでは銃を槍のように使って、相手が不利なら下がるはずだけど、もし下がったら今度は発砲して倒すことができるから気に入った!」
とのことらしい。
どこのガ○ランスだよ。
というかまだ一回も実戦してないのにそこまでイメージ出来るのか。
すげぇな獣人族の遺伝子。
そして、今まで自分の作っているものがただの魔道具だと思っていたログナンも、俺が銃剣を作って銃剣格闘をラーニャに教え始めると、剣士の血が騒ぐのか、俺がやっていた元の世界の銃剣術に対して色々と指摘をして、こちらの世界に合った銃剣術へと変化させていった。
その説得には場数を踏んでいる分、説得力があった。
そして、もともとログナンに剣術の練習をつけてもらっていたこともあり、ふたりとも体力は万全、足さばきも剣術譲りでかなり素早かった。
そのため、上達は意外に早く、最終的に二人の上達具合を確かめるために模擬戦闘をやろうということになったのだ。
ログナンはどちらか勝ったほうが異種格闘技戦をやろうと言っていたが。
ちなみに練習の段階では、89式小銃の形を模した木銃を使って練習していた。
それは普通の銃を使うと銃が痛むということもあるが、それ以前に銃剣が多用されていた時代と違い、現代の銃はパーツにプラスチックを使っており、木が使われていた時に比べてかなりもろくなっているからだ。
もっとも、自分が使っている銃は魔法で作っているので、プラスチックの質量に金属の強度といった謎の物質になっているために少々手荒に扱ってもぶっ壊れる心配はないが。
折曲式銃床の付け根などの金具が壊れることのほうが個人的には警戒している。
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そして今自分たちは銃を持って向かい合っている。
ここ半年以上の訓練の集大成として行う模擬戦闘だから今回は実銃を使用している。
「構えっ」
俺がそう言うと、ラーニャは右足を軸に左足を半歩踏み出した。
そして右手でグリップの上の部分、左手でハンドガードを持ち、銃剣先を自分の喉に向け、右手の拳は右腰骨の前に来るようにして握り、銃剣格闘の基本姿勢、構え銃の体勢を取った。
俺もそれと同じ体勢をとった。
「・・・っ始め!」
俺がそう叫ぶと同時に、ラーニャは右足を踏み込み、俺に向かって長突を繰り出して来た。
俺はそれを銃剣の鍔で防ぎ、受け流した。
そして受け流したと同時に、今度はこちらが銃剣先を振り下ろし、こちらの銃剣先の近くまで踏み込んでいたラーニャの首筋に向けて斬撃を放った。
しかし、それはラーニャが後ろ向きにジャンプして避けたため不発に終わった。
二人は再び距離を取って向かい合った。
しばらくにらみ合いが続く。
そして、今度は先にこちらが仕掛けた。
先ほどラーニャがやったのと同じく長突だ。
右足を踏み込んで一気に突く。
そして、狙ったのは心臓、銃剣で刺突するポイントの1つだ。
だがその攻撃ラーニャに受け流される。
一旦下がり、すかさず斬撃を放つ。
だが、それは89式小銃のハンドガードで受け止められ、そのまま弾倉で止められた。
銃剣格闘では槍術とは違い、このようにあらゆる箇所で攻撃を受け流すことが出来る。
そして、今度はラーニャが銃を振り下ろし、弾倉で受け止めた俺の銃を払いのけた。
そして、同時にその銃剣先は俺の首筋を狙って振り下ろされていた。
俺はそれを危ういところで躱した。
だが、それで一度体勢が崩される。
今度はすかさずラーニャがこちらの懐へ飛び込んできた。
俺はすぐさま左手で握ったハンドガードを肩の高さに、グリップの付け根を握った右手を腰の上辺りに持ち、銃を斜めに構えた。
これが基本的なガードポジションだ。
そして、89式小銃とHK416がぶつかる。
そして鍔迫り合いの状態となり、そのまま膠着した。
それからしばらくの間はお互いに攻撃のタイミングを求めてジリジリと時間が過ぎていった。
この間ふたりとも一度も言葉を発していない。
それだけ集中しているのだ。
その状態が続いても攻撃のタイミングをつかめなかった俺は、とっさにラーニャの左足を自分の右足で払った。
不意を突かれたラーニャはそれでバランスを崩す。
その機を逃さず俺は左足を踏み込み、銃に対しておもいっきり体重をかけた。
そしてラーニャを押し倒し、刺突、または距離を置いて体勢を立て直そうとした。
だが、結果はラーニャがすぐさまバランスを回復させたため、よろめいただけだった。
だが現在はこちらが主導権を握っている。
この機を逃すわけにはいかない。
それで、よろめきながらも銃を構えるラーニャの左肘下をめがけて下突を行った。
だが、ラーニャはそれを瞬時に認識し、すぐさま後ろへ飛びのいた。
こういうところは獣人族で身体能力の高いラーニャの方が有利だ。
瞬発力があり、本能的に危険を感じて避けることが出来る。
本能的に危険を感じることは別に人間でもあるのだろうが、獣人族はそれに対してひときわ敏感だ。
ラーニャは着地後すぐに姿勢を低くしてこちらへと突っ込んできた。
そして、低姿勢から一気にスピードに乗った刺突を繰り出して来た。
低いところから繰り出された刺突を、俺はなんとかストックを使ってはねのける。
ラーニャは再び下がりつつ元の姿勢に戻ろうとした。
そのラーニャの目の前を、刺突を払いのけたHK416のストックが振り上げられる。
そして、絶好のタイミングだと思った俺はそのままストックを使い相手に直角に突く直打撃を繰り出した。
さすがのラーニャでも目の前の銃床から繰り出される直打撃を躱すことは出来ない。
ラーニャは銃後部を握った右手をすぐさま顔の前に出してこの打撃を防いだ。
銃剣先は先程自分が払いのけた直後で、構えが取れていなかったのだ。
だがそれはこちらも同じだ。
打撃を防いだラーニャはそのまま銃剣先を下から振り上げた。俺は再びストックでそれを払いのけた。
そして体勢を立て直すために距離を置く。
間髪入れずに攻撃が来ないか警戒したが、ラーニャも同じ考えだったらしく、攻撃はせずに後ろへ下がった。
そして、双方が再び構え銃の姿勢を取り、次の攻撃のタイミングを伺っていた。
これでまた振り出しに戻った。
それからしばらくの間、お互いに何度か攻撃を試みるも、すべて防がれていたため、再び膠着状態になりかけていた。
だが、そんなことはお互いに望んでいなかった。
既に開始からかれこれ30分以上が経過していた。
体力もそうだが、何よりも相手の動きを読むために、お互いが神経をすり減らしていた。
そのため、これ以上の持久戦を望まない者同士、ほぼ同時にお互いが攻撃を繰り出したのは自然なことだったのかもしれない。
双方とも距離が近かったため、長突ではなく左足を踏み込む直突を使った。
しかし、俺も行ったものの、少しこちらが遅れて繰り出した。
そのために俺はラーニャの直突を銃のガード付近で払いのけるしかなかった。
そしてこちらも払ったと同時に直突を繰り出した。
しかしこれはラーニャが後ろへ下がったことで不発に終わる。
だが俺はすかさずにラーニャの懐へ飛び込み、長突を繰り出す。
だが、それは銃剣先で払いのけれられる。
そしてラーニャは反撃のために直突を行ってきた。
だが、それは織り込み済みだ。
俺は危なげなくその攻撃を払いのけると、ラーニャの体勢が戻る前に再び飛び込んだ。
そして右足を踏み込み刺突を行う。
ラーニャもそれを再び払いのけ、とっさに下がろうとしたが、俺はそのラーニャの足を払いのけられた銃のストックで払った。
それによって、ラーニャは体勢を大きく崩した。
そこに俺はすかさず刺突を行う。
ラーニャはそれをなんとか払いのける。
そして、再び俺が繰り出した刺突を、ラーニャは両手で銃を横にして弾倉部で受け止めた。
そして、そのまま銃を上方向へ押しのけた。
俺の銃剣先が上に行ったことで、ラーニャはその上へ押し上げた銃の左手をすぐさま離し、ストックの付け根を持つ右手の下で握り、そのまま振り下ろして俺の首筋に対して左から右へ向かうように斬撃を放った。
ストックとグリップの部分を両手で握った剣術のスタイルだ。
俺はすぐに躱そうとした。
だが躱すには遅すぎる。
銃で防ぐのも間に合わない。
どうする。
今は神経をすべてラーニャの銃剣に向けている。
補助魔法で動体視力を強化しているため、周りの景色がスローで見える。
周囲の音が聞こえない静寂の中で、心臓の激しい鼓動だけが聞こえ、うるさい。
相手は銃を振りかぶり、隙がある。
上にはねのけられた銃剣先を戻すのはもう間に合わない。
そして俺は、右足を大きく踏み込んだ。
これで姿勢が低くなる。
多少なりとも攻撃を食らうまでの時間が伸びるはずだ。
実際には0.1秒もないのだろうが、その時間さえも長く感じる。
そして、踏み込んだ右足に全体重をかけて、そこからラーニャの心臓にめがけて直突を繰り出した。
この二人の攻撃が放たれたのはほぼ同時であった。
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「・・・これは、引き分けだな。」
「・・・そう、だね。」
しばらく無言状態が続いていた中、俺は開口一番にそう言った。
それについてはラーニャも異議はないようだ。
ラーニャの銃剣は俺の右の首筋の寸前で止められていた。
このまま振り下ろせば首に当たるところを寸止めされていた。
もしこれが実戦で本物の銃剣を使っているとしたら、このまま動脈を切られて死んでいただろう。
だが、ラーニャの方も、自分の胸元に銃剣先がつきつけられていた。
こちらも本物の銃剣を使っていたならば、このまま心臓を刺突されて死んでいただろう。
結局どちらとも急所を突き、突かれていた。
実戦なら相討ちだ。
そのため、今回の模擬戦は引き分けとなった。
勝敗がつかなかったのでログナンの言っていた異種格闘技戦はお預けとなるだろう。
ログナンは結構楽しみにしていたみたいだが。
使用した銃のメンテをする必要があると思うので、今日はこの辺で切り上げることにした。
かなり神経を使ったので結構疲れた。
弾倉などが歪んでいないかなどの点検をしないといざというときに撃てなくなる。
今日は家で銃を全部バラして点検しよう。
それにしても、ここのところ凄いのがラーニャの体の発達だ。
特に胸が凄まじい。
CかDはあるだろう。
お前本当に小学生か?というレベルだ。
そして、その大きさにも関わらず、ルックスはなかなかにバランスが取れている。
ストレートでショートの銀髪に碧眼、獣耳にロリ巨乳。
不味い、完全に俺のドストライクなタイプだ。
そして今のラーニャの服装は薄手のTシャツに短パンで露出がかなり多い。
さっきの模擬戦闘ようにかなり激しい事をやるために結構汗をかく。
そのためにこのようなラフな格好をしているようだ。
今はその格好にショルダーホルスターをつけている状態だ。
胸に押し上げられたTシャツ、そして汗で濡れ、濡れ透けまでとは言わないが今はそれが体に張り付いている。
そしてショルダーホルスターによりさらに押し上げられて強調される胸!
ショルダーホルスター先輩マジ神っす!
目のやり場に困ってしまうがな!
実際この格好で着剣した銃を振り回されると、チラチラと覗く白い肌やヘソにどうしても目が行ってしまう。
しかしラーニャ自身はそんなことは気にしていないらしく、向こうから自分に抱きついてきたりもする。
「お兄ちゃん、今日の練習なかなかに良かったね!」
そうやって噂をすればラーニャが背中から抱きついてきた。
背中に押し付けられるブラのつけていないTシャツ一枚越しの胸!
そのままラーニャに飛びつきたくなるが、そこはYES!ロリータ、NO!タッチの精神で必死に堪える。
こちらが必死にこらえているのにラーニャは構わず抱きついている。
ラーニャは結構自分の事が好きみたいだ。
それは構わない、むしろ嬉しい。
俺のことをお兄ちゃんと呼んで結構ひっついてきたりすることもそうだ。
そういえば、いつも思うのだが、なぜラーニャは俺とそう歳は変わらないはずなのに、お兄ちゃんと呼ぶのだろうか。
自分が生まれたのが夏の終わり、ラーニャが拾われたのはその翌年の春だ。
半年の差なら普通に幼なじみと変わらないはずだが。
確かこの世界は数え年で年齢が決まる。
そうやって考えれば確かにこちらのが1つ年上か。
いや、でも待て、ラーニャの年齢は拾われた日から数えてのことだろう?
流石に生まれたての赤ん坊を捨てるなんてことは出来ない。
詳しくないから分からないが、せめて半年くらい経たなければ無理なんじゃないか?
あれ?そうやって考えると、確かにラーニャと自分同じ頃に生まれたんじゃね?
話が逸れている、そんなことより、現在進行形で飛びついているラーニャをどうにかせねば。
流石にボディータッチが激しすぎる。
自分から胸を背中に押し付けてくる女に手を出せないなんて。
完全に生き地獄だよ、これ。
どうも、天津風です
気がついたら話が5000字超えていました。
うん、最近は大体4000字をめどに話を書いているのにどうしてこうなった。
普段あまり戦闘シーンを書かないので、気合を入れて書いていたらこうなっていました。
最初は4000字弱だったのですが、なにやら戦闘シーンがさっぱりしているのもアレなので、3回ほどに分けて肉付けをしていました。
銃の描写もわりと頑張っているのですが、今回のような戦闘描写も含めてやり過ぎると考察不十分で変な箇所が出てきたりすると思います。
そういう時はまたコメントでご指摘してもらえれば助かります。
誤字などがあればまたご指摘ください。