第12話 H&K HK416
二年後
あれから二回季節が巡り、俺は8歳の夏を迎えていた。
この間は特に何事も無く平和に暮らしていた。
確かに、魔物が増えていたが、それは自警団の見回りのおかげでここのところ落ち着いている。
この間に俺がやっていたことといえば、ラーニャに銃の作り方を教えたり、新たな武器の製作を行っていた。
新たな武器と言っても、小銃を1丁作っていただけだが。
この二年間で新たに自分が作った銃は、HK416だ。
この銃はドイツの銃器メーカーであるヘッケラー&コッホが制作したアサルトライフルだ。
どういった銃かというと、米軍の主力小銃であるM4カービンのH&K版の改良型である。
開発経緯は米陸軍がM4カービンの改修を依頼したことにある。
そして、その改修を請け負ったのが、よくジャムることで有名な英陸軍のSA80A1を劇的に改善させた実績を持つヘッケラー&コッホだったのだ。
だが、この銃は米軍に大規模に納入されることはなく、特殊部隊などへの限定的な配備になっている。
今回この銃の製作を決定したのは、この銃が比較的信頼性に優れているからだ。
実際に泥水につけた直後でも作動したと言われている。
また、ピカティニーレールを標準装備していることも決め手となった。
ピカティニーレールがあれば後々アクセサリーを制作した時にそれの運用が容易になるということもある。
信頼性に関して言えば圧倒的にソ連製のAKー47が良いのだが、それを制作するとなると新規に弾薬を作る必要性が出てくる。
現状弾薬を大量には作れないので89式小銃と同じ5.56mm×45mm NATO弾を使用するこちらの銃が良いという判断に基づき制作した。
二年かかって新しい銃の生産が1丁だけというのは、あまりにも銃が多すぎるとそれはそれで持ち運びが不便になるからだ。
銃の量産は今後PMCを始めた時にでも行えば良いだろう。
現在家にある銃は
89式小銃(試作品1号)
89式小銃(試作品2号)
HK416
SIG P220×3
この6丁だ。
それに加えて、5.56mm×45mm NATO弾がおよそ3000発、9mmパラベラム弾が400発ほどあり、さらにSTANAGマガジンが10本、SIG P220用弾倉が8本ある。
なぜこれほどまでに弾薬があるのかというと、先程も言ったように現状弾薬は大量生産に向かない。
一番量産すべきものなのだが、それが出来ない状況だ。
そのため、この二年間のうちに大量に制作しておいた。
ラーニャも弾薬製作になるとかなり苦戦していたのだが、最近になってようやく上手いこと弾薬が作れるようになってきた。
これで多少は弾薬の生産がマシにはなるだろう。
俺はこれらの事と平行して、あることを行っていた。
それは、前にも考えていた、武器の大量生産方法の模索だ。
それを本格的にスタートさせた。
まず、この世界にある鉄がどれほどのものなのかを調べることにした。
幸い町に鍛冶屋が1軒あったので、そこの鍛冶師のおじさんに色々話を聞きに行った。
それによると、どうやら高炉でコークスと鉄鉱石を燃やして鉄を作るところまでは行っているようだ。
そして、上級の武器、例えば貴族などが使う剣や、剣士が使う剣などはそれに加えて他のものを化合して強度を高めるらしい。
いわゆる鋼などは生産できるらしい。
それを聞いた俺は、一部の装備はこちらの世界での大量生産も案外可能なのではないかと考えた。
もし銃がダメだとしても、例えば水筒などの付属品。
その他諸々の装備を制作する道はこれで一歩前進した。
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数日後
今日は久々に銃の練習を行うとしよう。
一応練習は続けていたのだが、弾薬の節約や銃器の製作、大量生産の方法の模索など、多くの事をこなしていたため今までみたいに撃ちまくることはなかった。
それでも半分護身用であるSIG P220の練習はかかさずに行っていたため、9mmパラベラム弾の在庫は5.56mm×45mm NATO弾よりかなり少ないが。
久々にアサルトライフルを撃つのでラーニャも喜んでやってきた。
あの拳銃にはない連射の感覚を楽しみたいらしい。
自分は三点バーストを使うことを推奨しているのだが。
そして射撃場についた俺は、まずHK416を取り出した。
そしてラーニャは俺の使っていた89式小銃を手に取った。
ラーニャは最初、自分が作った89式小銃試作品1号を使用していたのだが、その後HK416を製作してこの銃を新たに使うように言ったため、一時はHK416を使用していた。
しかし、はじめの方は良かったのだが、しばらく使っているうちに、どうもスマートな89式に比べてゴテゴテしているのが合わなかったのか、返品されてきた。
そして俺はそれ以降使用する銃をHK416に変更し、ラーニャの方も俺が使っていた折曲式銃床を持つ89式小銃に切り替えた。
そして、最初は俺が射撃位置に立つ。
そしていつもどおりに補助魔法で身体能力を強化。
射撃体勢は体が大きくなってきたこともあり、スタンディングポジションを使っている。
簡単にいえば普通に立って撃つやつだ。
そして、銃のセレクターレバーを切り替え、単射にセットする。
ダンッ!
久々に聞いたこの音、やはりライフルにはライフルの利点があるよ。
そして三点バーストの練習をし、1弾倉撃ち切る。
2弾倉目と交換し、初弾を装填する。
今度は連射だ。
ダダダダダダダッ!
「っくっ」
確かに連射は良いが、その分反動も大きく、徐々に銃が安定しなくなる。
やはり三点バーストか一発で決めれるようになろう。
次はラーニャの番だ。
ラーニャも補助魔法で身体能力を強化、射撃姿勢をとる。
セレクターレバーを切り替える。
ダダダダダダダッ!
ラーニャはいきなり連射から始めた。
だが俺はそれについては何も言わない。
その答えは土煙の中の的が説明してくれる。
煙が晴れると、的が見えた。
そこには、発射した弾の分の弾痕ができていた。
ラーニャは俺と違い、連射でも十分に当てることが出来るのだ。
この辺は、ラーニャが獣人族であることが関係してきているのだろう。
獣人族はもともと身体能力が高い。
それに加えてラーニャは魔法で身体能力を強化している。
結果俺よりも反動を受け止めることが出来るため、連射でも当たるみたいだ。
「やった、全弾命中!やっぱり連射っていいね!SIG P220よりも速く撃てるし、距離が空いても当てられるんだよ!」
「確かに、距離が空いても当てられるのはいいけど、連射する癖は直したほうが良いと思うぞ?」
「えー」
「だってお前、実際に戦うときには持ち歩ける弾の数が限られるじゃないか、そんな状況で連射していたらすぐに弾がなくなるぞ」
「もう、わかったよ、連射しなかったら良いんでしょ?」
ラーニャのこのトリガーハッピー状態をさっさと治さないと弾がいくらあっても足りないだろう。
もし戦闘になればラーニャの弾はすぐに枯渇する。
俺は続いてラーニャにあるものを渡した。
これもこの前作ったものだ。
「え、なにこれ?ナイフだよね?」
「そうだ、だがただのナイフじゃない、ちょっと銃を貸して」
そう言って俺は銃を受け取った。
そして銃口の下にそのナイフを取り付けた。
「え、あ、凄い!そこにつけられるんだ!」
そう、俺が作ったものは銃剣だ。
その中でも89式多用途銃剣と呼ばれる、名前の通り89式小銃用の銃剣を制作した。
銃剣と聞いてまず思い浮かべるのが、銃剣突撃だ。
第一次世界大戦の塹壕戦、第二次世界大戦の日本軍など、歴史上銃剣突撃は度々行われてきた。
だが、近年は武器の発展に伴い、そのような戦法は廃れてきている。
近年で成功した例は英軍が何度か行ったものがあるが、そのようなことは稀だ。
この世界で銃剣を制作したのは、この世界では銃剣はまだまだ使えると判断したからだ。
この世界は剣や槍などを使った白兵戦が主流だ。
もし銃を持った状態で剣を持った相手に近寄られたら危ない。
弾倉交換中に斬りかかられたりしたら対応が出来ない。
その時銃剣があればとっさに対処することも可能だ。
また、銃剣は普通にナイフとしても使用できるため、何かと重宝する。
ちなみに俺が制作したHK416も、この89式多用途銃剣を装着できるようにしてある。
「ねぇ、これってどういったふうに使えばいいの?剣術なら型があるから良いけど、これはよくわからないよ」
「どちらかって言うと銃剣は剣よりも槍に近いんだ、それに銃と槍が合わさった感じで特殊だからね、そのへんは練習が必要だと思うよ」
「へぇー」
ラーニャはわかったようなわかっていないような顔つきで返事をした。
これはこれから銃剣の練習を主に進めていくか。
こうして新たにラーニャに教えなければならないことが増えた。
どうも、試験が始まると投稿ペースが上がる天津風です。
今回はHK416を登場させました。
この銃は某機械と人間が戦争するお話四作目の主人公が使っていてかっこいいなと思っていたので、何やら無理矢理感ありますが登場させました。
それと、初めてコメントを頂きました!ありがとうございます!
内容は89式小銃の正式弾薬は89式5.56mm普通弾が正しいということでした。
そこは自分がNATO弾を採用した経緯を書いていなかったために何やら変な感じになっていたので修正しておきました。
ご指摘していただいた方、ありがとうございます!
今回も銃を登場させたので、それについての指摘や、文章についての意見でも構いません。
歓迎します!