第11話 夏の終わり
一ヶ月後
「おお神よ、そろそろログナンが帰ってくる頃だ、助け給え。」
俺はそんなことを言っていた。
気がついたのは数日前で、ログナンが帰ってくると言う話を聞いたときに、ログナンが出発した三ヶ月前何があったかを考えた時に思い出した。
そう、ケビンとの喧嘩だ。
その喧嘩は自分の作っている89式小銃を巡って起こったものだった。
「ケビンとの喧嘩がバレてたらどれくらい怒られるのだろうかねぇ」
事情を説明さえすればどうにかなるかもしれないが、さてどうなることやら。
でも喧嘩相手は年上だ。
絶対に大丈夫だ。
きっと大丈夫だ。
多分大丈夫だ。
それでダメならもうダメだ。
普段は穏やか(?)な性格のログナンだが、アレでも上級剣士だ。
剣を持ったら性格が割りと変わる。
ブチ切れたあかつきには、その上級剣士の腕前でぶっ殺される。
イメージ的には普段は優しい剣道部の顧問が竹刀を握って本気を出したら性格が急変するといった感じだ。
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数日後
運命の時だ、ログナンが帰ってきた。
俺はできるだけ普段の様子を保つように頑張るようにしよう。
そう思った俺だったが、ログナンは喧嘩について知らないようだった。
それよりも魔物のほうが気になっているらしい。
「いやぁ、王都からユーノスまでは良いんだが、最近そのユーノスからキトカまでの道での魔物が多いな。
前まではこの道もまれにしか魔物は出てこなかったのだが」
話していることはそういう感じのことだった。
しかし道に魔物が出るのか、確かに怖いな。
ログナンは別に大丈夫だろうが。
「行き道でも聞いたんだが、あそこの道で既に何人か魔物にやられたらしい、だからユーノスについてからそこの駐屯兵にどうにかならないかと言ってやったんだが、新街道の方でも最近魔物が出てくるからそっちの討伐を優先していると言われたんだ」
「恐らくキトカ、ユーノス間の道の魔物の討伐はその後回しになるだろうな」
どうやら魔物が増えているらしく、その事のほうが気がかりになっているらしい。
確かに海運都市ラプアと商業都市ユーノスを結ぶ新街道の防備のほうが国からしたら優先事項だろう。
だが新街道でも魔物が出るということは全体的に魔物が増えていることになる。
大丈夫なのだろうか。
その後ログナンはあれこれ言った後に町の自警団に相談してくると言って再び家を出て行った。
帰ってくるのは夕方頃になるだろう。
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さて、今日も午後になったからいつもどおりに銃の製作に取り掛かろう。
今は銃を大量生産する方法を模索すると同時に、ラーニャに銃の部品作りを手伝ってもらうために製作方法を教えている。
本来午後はラーニャの勉強時間で壊滅的に出来ない算数の勉強をラーナとしていたのだが、それを自分が教えるから代わりに自分がやっていることをラーニャに手伝ってもらってもいいかということでラーナに許可をもらった。
ラーナの方はあまり良い気はしていないみたいだったが。
そして今はSIG P220の部品を作る練習をしている。
部品を作ると言ってもそれはそれでかなり難易度が高い。
しかしラーニャは記憶力がいい。
それで俺はラーニャに感覚で覚えさせようとしていた。
「今日はまずこのスライドを作ろう、それじゃぁやるよ」
「う、うん」
そう言った俺はラーニャの手に自分の手を添えた。
そして、脳内でイメージしたスライドの部分をラーニャの手を通して形成していく。
そして、ラーニャは目をつぶっている。
なぜこのようなことをするのかというと、それは魔術師同志が相手に触れて魔力を流すと、その相手の魔術師はその魔力の流れを感じることが出来る。
そして、触れている方は何かの魔法を普段通りに使う。
すると触れられている方はその魔力の流れを感じ、その流れを覚えてその通りに行うと、その魔法を発動できる。
俺はそれを利用してラーニャに作り方を覚えさせているのだ。
本来この方法はあまり使用されない。
なぜなら、今の魔法は詠唱が確立されているからだ。
この方法が使われていたのは詠唱が確立される前までで、現在もその方法で指導しているとなれば、それは無詠唱魔法の練習になる。
詠唱は魔法の発動に必要な魔力の流れを体内で形成するためのものだ。
つまり、詠唱を行うことで魔法を発動することが出来る。
しかし無詠唱魔法はわけが違う。
無詠唱魔法は魔力の流れを自分でイメージしなければならない。
しかもそれを行うのには詠唱を行って魔法を発動するときの倍の魔力を必要とする。
その代わりに無詠唱にはメリットも有る。
それはやはり発動の時間が短縮できることだろう。
詠唱を行わずとも、上級者になってくると脳内で一瞬だけイメージしたら発動できるようになるらしい。
また相手の不意を突くことも可能だ。
しかしそれらの点があるにしても一般の魔術師からすればやはり魔力二倍のデメリットが大きく、使用されることは少ない。
だが、土魔法は別だ。
詠唱というものは本来、型のようなものだ。
つまり、ある決まった魔法しか発動できない。
しかし自分が今やっている銃器製作というものは型が存在しない。
そのため必然的に脳内でイメージしたものを形成する、つまり無詠唱魔法と同じことをやっているのだ。
今自分が流している魔力の流れを記憶するために、ラーニャは意識をすべて内側に向けている。
そして、しばらくしてスライドが完成した。
ラーニャの手にはしっかりとスライドがあった。
「どうだ?感覚はつかめたか?」
「うん!ちゃんとわかった!」
本当にわかっているのだろうか。
「じゃぁ一回自分で作ってみて」
そう言われたラーニャはスライドの製作に取り掛かった。
銃の部品はかなり精密に作らなければならない。
でなければうまく発砲出来ない。
そして、およそ3分ほどして製作が完了した。
実を言うとこのスライドを作るのでこの銃は最後だ。
どういうことかというと他の部品はすべてラーニャが作り終えてしまった。
というのも、はじめはこの方法ではかなりの時間を要すると思っていた。
しかし、ラーニャの記憶力が想像以上によく、瞬く間に部品を作ってしまった。
そして、次々に部品を作らせていったが、ラーニャはすべて一発で成功、銃製作で一番の難所であるバレルもあっという間に作り上げ、それを見た時には自信をなくしてしまうほどだった。
そのあとも銃の機関部などを制作して、一度自分のSIG P220に組み込んで発砲したが動作も良好、完璧だった。
そして、今ラーニャが作ったスライドを銃にセットし、ついにラーニャ製のSIG P220が完成した。
「よし、最後にちゃんと動くかどうか確認してみるよ」
「うん」
そして、俺はラーニャに銃を渡した。
「使い方は前教えたとおりだ、その通りにやればしっかりと使えるはずだ」
そう言うと、ラーニャは銃を構えた。
そして、引き金を絞る。
パンッ!
自分の銃と変わらない音がした。
成功だ。
「よし、ちゃんと撃てたみたいだな、これで完成だ」
「えっ!ホント!?」
「あぁ、ちゃんと的にも穴が開いているだろう?」
「うん!」
そして、ラーニャはそのまま次弾を撃ち、瞬く間に1弾倉を撃ち尽くした。
「へぇ、凄いねこれ、自分が魔法を使うよりも速いスピードで次の魔法が出てくるよ」
「そうだろ?でも、絶対に人に向けて撃ってはいけないからね、これは人を一回で殺してしまうほどの威力を持っているんだから」
「わかった!」
なんだかやたらと嬉しそうだな、尻尾も左右にブンブン振っている。
「じゃぁ今日はここまで、一回銃を預かっておくよ」
「え?うん、でもまだ時間はあるよ?」
ラーニャは銃を俺に渡し、日の傾き具合を見てそう言った。
俺はちゃんと銃の中から弾が抜いてあるのを確認した。
「そうだな、だけど母さんから言われているんだ、ラーニャに算数を教えなさいってね」
「え・・・?」
こうしてある意味銃を作らせるよりも難しいラーニャへの算数を教える時間が始まった。
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ラーニャに算数を教え、家に帰ってゆっくりしていると、ログナンが帰ってきた。
「あ、父さんお帰り」
「あぁ、ただいま」
「確か自警団のところへ行ってたんだよね?何を話してきたの?」
「そうだな・・・」
そう言って俺はログナンから話を聞いた。
それによると、この町の自警団が半月に一度道沿いの森へ見回りにいき、魔物が居た場合はそれを退治するということになったらしい。
もし手におえないのならユーノスかラプアまで行ってそこの駐屯兵か騎士に救援を依頼するということになったらしい。
「父さんも自警団のメンバーだからね、これからは半月に一度家を空けることになるからよろしくな」
「そういえば自警団はどのくらい人数がいるの」
「大体60人くらいかな?でもほとんどが町の男が剣を持っただけだからな、定期的に俺が剣術の訓練をしているからそこそこの戦力にはなるとは思うが」
ほう、大体陸自二個小隊ほどの戦力だな、それだけいればかなり戦えるはずだ。
それよりログナンが剣術の指南をしていたんだな、知らなかった。
にしても人口300人に対して60人って相当多いな、五分の一じゃないか。
「一回の見まわりが大体3日ということだから、本当にこの近辺だけの掃討になるとは思うが、それでこの村が守られるのならそれでいいよ」
(確かに、でも魔物が出るのは怖いな、これからは護身用に拳銃を常に身につけておくか)
そう思った俺だったが、そこで気づいた。
ホルスター持ってないじゃん。
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それから半月ほどがたって、町の自警団の最初の見回りが出発していった。
俺はそれまでにホルスターを作っておいた。
町に行って特注で作ってもらったやつだ。
結構お高い。
そして、それを二つ用意した。
もう一つはラーニャの分だ。
ホルスターはショルダーホルスターで、上着の内側に隠せるようにしてある。
町中で堂々と銃を持てるほど勇気ないよ、俺は。
ともかく、今度はラーニャにどのような銃を作ってもらおうか、それを考えなければならない。
午後になり、ラーニャにホルスターを渡した。
使い方を説明するとラーニャは喜んだ。
そりゃ今まで持ち運ぶときに箱のなかに弾と一緒に放り込んでいたからな。
このホルスターは銃と予備弾倉を1つ入れれるようになっている。
予備があったほうが安心感もあるしね。
こうして6歳の夏の終わりは過ぎていった。
どうも、定期考査が近づいているのに小説書いている天津風です。
最近暑いですね。
突然雨も降ってきたりして傘が手放せない状態になっています。
愛用していた(壊れかけの)折り畳み傘が何処かへ行ったのでコンビニで買ってきたビニール傘を使っていますが。
さて、アルバは銃の製作方法を上手いことラーニャに教えることが出来ました。
そして次に作る銃についてあれこれ考えているアルバ。
果たしてこの先どうなるのでしょうかね。
誤字などがあればまたご指摘ください。歓迎しますよ!




