第10話 仲直り
前回のあらすじ
ラーニャにぶん殴られた。
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気を失ってどれくらいたったのだろうか。
意識が戻って空を見上げた。
日が傾いてもう少しで夕焼けになるといった感じだ。
恐らく1時間弱気を失っていたようだ。
こっちの世界に来てからは、時計がないので時間を知る方法として日の傾き具合から大体の時間を読み取るようにしている。
幸い今住んでいるあたりは地球で言う日本あたりの緯度に位置しているようで、太陽の南中高度も見慣れた高さとあまり変わらなかった。
また、ちゃんと四季もあるので、季節から日の長さを考え、それも大体の目安にしている。
今はそんなことよりもぶん殴られたところを治さなければ。
俺は手のひらをストレートが直撃した顔に当て、呪文を詠唱した。
「母なる慈愛の女神よ、傷を癒やし給え、治癒」
日本で顔に手を当てて呪文を詠唱していたとしたら、それはただの痛い人だが、この世界は魔法が使える世界だ、中二病患者ではない。
実際に傷が治るのだ。
だがおかしい、なぜか傷が癒える感覚がないのだ。
無詠唱でばかりやっていたから呪文を忘れてしまったのか?
そんなことはない、俺は治癒魔法が苦手で、この魔法だけは唯一無詠唱で扱うことが出来ないのだ。
つまりいつも唱えているので忘れるはずがない。
(殴られた拍子に魔法が使えなくなったっていうんじゃないだろうな・・・)
俺の頭を一瞬悪い考えがよぎり、冷や汗が流れる。
だが、その考えもすぐに消え去った。
再び顔に手を当てて気づいた。
(・・・傷が治っている?)
おかしい、さっき詠唱した時には失敗したはずだ。
なのに治っている?
俺はフラフラしながら池に顔を覗き込んだ。
そこには、固まった鼻血が付いているものの、とても失神する力で殴られたとは思えない、痣ひとつない顔があった。
殴られた際に口をかんだりしたはずなのだが、それも綺麗サッパリなくなっている。
どうやら誰かが治癒魔法をかけてくれたようだ。
最初意識が戻った時はまだ頭がボヤーとしていたので、『殴られたから傷を治す』という考えだけが頭のなかにあり、そこで既に治っている顔に治癒魔法をかけたことを失敗したと勘違いしたらしい。
でも誰がかけたんだ?
そこで、俺は背後の木の影から視線を感じ、とっさにに振り向いた。
そこには不安そうな顔をしたラーニャがいて、自分と目が合うと一瞬ハッとして、その後少し困ったような表情になった。
そして、何かを言いたそうな感じだったが、そのままうつむいてしまい、こちらに背を向けると家の方へ走って行ってしまった。
俺はその背中をしばらく見つめていた。
そして、池の水で顔を洗い、あちこちについた泥を払った後、荷物をまとめて家に帰った。
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三日後
あのあとラーニャは俺と話をしていない。
正確に言うと、こちらが話しかけようとして近づいていってもラーニャのほうが避けるようにどこかへ行ってしまうのだ。
今朝も朝食の後に話をしようとしたが自分に呼び止められたくなかったのか、自分より先に食べ終えてどっかに行った。
仕方ないので、もはや日課となっている剣術の練習をしていた。
午後やっていた魔術の勉強は、自分が文字も読め、そこそこ魔法を使えるようになったので、ラーナから自分で本を見て練習してわからなくなったら聞きに来なさいと言われているので半分自由時間みたいになっている。
ログナンが今王都へ行って居ないが、それでも訓練はサボらずにやっている。
サボったら大変な目に遭うということは自衛官時代の訓練で散々見てきた。
まずはいつもどおりの腹筋や腕立て伏せから初めて、その後木刀での素振り。
それを毎日日課としてこなす。
銃を持っているのに剣術の練習をなぜするのかというと、主に体力作りだ。
いくら銃を持っていても走り回ってすぐにヘタってしまっては意味が無い。
それに、もし銃が使えなくなったりした時の備えでもある。
こっちの世界では元の世界の銃に当たるものが剣になる。
剣術が扱えれば銃が壊れても剣を奪って戦える。
それに、剣と魔法の世界で剣術が使えないのはもったいないという個人的な考えもある。
そして俺はここのところ、この剣術の練習中に魔法と剣術を同時に扱う方法を研究していた。
具体的に言うとなれば、この前のケビンとの喧嘩の際に使った体の横で爆発を起こし、本来ならありえない機動で相手の攻撃を躱すといった事をやっている。
前回やった時はとっさの思いつきだったが、それが思いの外効果的だったので、これを洗練していったら強くなれるんじゃねという発想から始めたことだった。
と言っても、今はその爆発であっちこっちに瞬間的に避ける事、言ってみれば人力の立○機動装置のみを練習しているだけだが。
その他の方法は今のやつが安定しておこなえるようになってからにしよう。
午前の練習が終わって、昼食を食べる。
その時もラーニャは話をしなかった。
そして、食べ終わったら今度は射撃訓練の時間だ。
池の畔へ行くのに荷物をまとめる。
89式小銃、SIG P220、マガジン、5.56×45mm NATO弾、9mmパラベラム弾、その他必要なものをかばんに詰めて、いつもの射撃場へ向かった。
最初は89式小銃の射撃訓練をする。
伏せ撃ちでどれだけ的に当てれるか練習をする。
だんだん距離を開けていき、狙撃も練習していく。
本来小銃で狙撃はあまりしないのだが、目に魔力を送ることで目を強化し、簡単な狙撃ならできるようになる。
もっとも、風向や風力も考えなければならないが。
89式小銃の射撃訓練を一通り終えたら、次はSIG P220の射撃訓練に移る。
SIG P220は作って間もないので、練習ができていない。
性能的には問題ないが、自分がそれに慣れる必要がある。
それに、最初に練習をした日はラーニャにぶん殴られたのでそれどころではなかった。
まずは拳銃の交戦距離である20mから射撃を開始、徐々に下がりつつ50mで撃つ。
補助魔法のおかげでしっかりと当たる、拳銃の練習も順調だ。
両方の銃をその後も何度か撃ち、それぞれの銃のデータをメモしてから片付けを始めた。
すると、池の向こうの森から気配を感じた。
すぐに森のほうを見る。
木の陰で何かが動いている、すぐに視力を強化してその場所を見つめる。
もしかしたら魔物かもしれない、そう思った俺は、SIG P220に弾が入っているのを確認し、予備弾倉を1つ取った。
そして、池の縁まで歩き、そこで森に向かい銃を構えた。
「おい、そこに誰か居るのか?」
返事がない、だが何かがいる。
パンッ!
森へ向け威嚇発砲をする。
俺は再び視力を強化した。
よく見ると、何かが見える。
銀色の髪に、イヌ耳、それに白いしっぽ。
どこかで見覚えがある、というかここのところ気まずい雰囲気だった相手じゃないのか?
「・・・ラーニャか?」
そう言うと、一瞬影が震えたのがわかった。
そして、木の影から一人出てきた。
やっぱりラーニャだった。
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「なんでこんなところにいたんだ?」
俺は、池をぐるりと回り、ラーニャのところへ行くと、そう言った。
「・・・ごめん、なさい」
「それより、なんでここ数日俺から逃げるようにしていたんだ?」
そう言うと、ラーニャがさらに暗くなった。
「・・・やっぱりお兄ちゃん、怒ってたんだよね」
「わたし、ずっと謝ろうとしてたの、最初殴った時には怪我させるつもりなんてなかったのに」
「いや、俺を殴ったことだろ?別に怒ってないぞ?それに元はといえばこっちの方に非があるし」
「嘘、だってあんな事されたらだれだって怒るじゃん、だから怖かったの・・・。謝ろうと思ってもいつ仕返しされるかわからない、だからお兄ちゃんが話をしようとしてきたら怖くて・・・」
「いや、俺は仕返しはしないから安心して大丈夫だから」
「でもさっき私の方に向かってその魔道具使ってきたじゃない」
「いや、あれは威嚇発砲といって、そうだな・・・」
「いかくはっぽう?」
「まぁそれはいい、少なくともさっきの攻撃は仕返しじゃないから安心して」
「今回の事はこっちが許しているからもう仲直りでいいよ」
「でも、やっぱりやったからにはおあいこじゃないとダメだと思うの」
うーん、自分が馬鹿馬鹿言ってたのだから殴られるのは当然だと思うのだが、それについてラーニャはかなり気にしているらしい。
「だから、お兄ちゃんが言うことなんでもするからそれで許して!」
「ん?今なんでもするって言ったよね?」
おっといけないいけない、前世の記憶からとっさに反応してしまった。
「?うん、出来る範囲でならだけど・・・」
やってくれるのか!だがダメだぞ!?流石にアレなことをシてしまうのはダメだ
(そう、YES!ロリータ、NO!タッチだ、というか相手6歳だがこっちも6歳だ、どっちにしろまず無理だから。)
そんなことよりももっと実用的なこと考えないと。
ん?そういえば、スノーを馬鹿馬鹿言ってた時考えていたことって・・・
「わかった、じゃぁちょっとこっちに来て」
「え?う、うん」
そう言ってラーニャはこっちに来た。
そのラーニャの手を俺は握った。
ラーニャが一瞬震えたのがわかる。
なに?NO!タッチは何処へ行ったかだって?大丈夫、あっち系のことは多分しないから。
そして、俺はラーニャに・・・
土を持たせた。
「じゃぁ今からこっちが手本を見せるから、一回それを真似て同じものを作ってみて」
「え?あ、うん。」
そうして、俺はラーニャに銃の作り方を教えたのであった。
製造メンバー、一名確保。
どうも、最近1時間半睡眠が続いて半分魂抜けている天津風です。
ゲームをやっているとつい夜が更けて気がつけば外が明るいなんてことよくありますよね?ありますよ・・・ね?
いままで書いたやつ読み返していて思いましたけど、ちょくちょくズレが生じているところありますね。
その辺りも直したほうが良いのでしょうか。
誤字などがあればまたご指摘ください。大歓迎ですよ!