第2話 毒消し草(乾燥タイプ) 100イェン
誰かのせいで、やけに風通しがよくなってしまった店のおかげで、今日は朝から、DIYに励む羽目になっていた。
全くもう、ほんとあの怪力女め。
あの後、弁償させようとした結果、引き出せたのは新しいドアの材料費だけだった。
「そもそも、鍵なんかかけたそっちが悪いし、どうせ暇なんでしょ」
とは、彼女の談であったが、どちらにも反論ができないのがなんとも悲しいところだ。
まあ、今日も客がくる気配はないわけだが。
わが、道具や、ジンの道具屋は、まれにくるわずかな新規客と、頻繁にくる常連客によって成り立っている。
昨日やってきていた、白薔薇が今のところ、一番新しい、常連客だろうか。
冒険者の中には、一人でダンジョンへと潜るソロプレイヤーと、パーティを組んで潜るパーティプレイヤーからなっているが、ジンの道具屋の常連は、ソロプレイヤーであることが多い。
普通に考えたら、ダンジョンはパーティで潜るものだと思われるが、今は多くは語らないが、実際は、ダンジョンで起こる現象のため、意外にソロプレイヤーというのは多いのである。
白薔薇もソロプレイヤーだし、昨日きた、ソアラもソロプレイヤーなんだろう。
どうしても、ソロでは、カバーできない部分を道具で補う必要がでてくるために、ソロプレイヤーが客として多いのも必然なのかもしれない。
よし、これをあとは、はめ込んだら完成だな。
額に浮かんだ汗をぬぐって、一気に引き戸を持ち上げる。
「絶対に嫌だー!」
「こら、待ちやがれ!」
「ノエル、ダメって言ってるでしょ」
「くっくっく」
通路の奥から、聞いたことのあるような、あまり聞きたくない声が聞こえてくる。
走っているのだろう、こちらにどんどん近づいてくる、複数の足音。
「うう、気持ち悪い」
「いわんこっちゃない!」
「ノエル、あぶない!!」
「くっくっく」
角を曲がって現れた、小さな影が、足をもつらせたのだろう、大きく進路を変えた。
そう、まっすぐに、おれのいるほうに
「って、おいーーー!!」
ゴシャー
間一髪、突進を避けることができたが、おれが今はめたばかりの引き戸には、ハーフリングの小男が、突き刺さり、足だけが生えていた。
「お、おまえらー!」
彼らが、この店の住人、ハーフリング、ドワーフ、ハーフエルフ、種族不詳の4人から構成される、常連パーティ、それが彼ら、千鳥足である。
おれは、いま目の前に広がった、惨状をみて頭をかかえる。
どんな千鳥足だよこれは……
「どっせい!!」
音を立てて、ドワーフがハーフリングを引き抜くと同時に、いま治したばかりのドアは、ボッキリと音をたてて真っ二つになってしまった。
思わず頭を抱える。
引っこ抜かれて、目を回しているハーフリングのトマスは、目を回しているだけではなくて、土気色をしていた。
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「毒だな、これは」
「毒じゃな」
「毒なんだよー」
「くっくっく」
4人(?)が同じ感想を述べる。
「おらは、大丈夫だって」
「大丈夫じゃないよね」
「大丈夫じゃないの」
「大丈夫じゃないよー」
「くっくっく」
4人(?)が(略)
「毒消し使わないの?」
おれが、素朴な疑問を上げると……
「使いたいんじゃが」
「使いたいんだけどねー」
「くっくっく」
「絶対に嫌だ!」
じゃっかん面倒くさくなってきたけど、のこり3人に事情を聞くとこうである。
ダンジョンで偵察に向かっていたトマスが、毒をもっているポイズンスライムにつかまってしまったらしい。
すぐに毒消しを食べさせようとしたのだが、毒消しとして使われる毒消し草は、端的にいうと、すっごい苦いのである。
「うん、押さえつけて飲ませればいいよ、じゃあ、おつかれさまー、ドア直しといてね」
今日もよく働いた一日だった、うん。
そういって、店の裏に消えていこうとしたおれの身体を、ドワーフのゴンゾウと、ハーフエルフのステラががっちりとつかむ。
後ろを振り向くと、全力で首をふる2人と、あいかわらずの残り2人。
首をふって、観念する。
実は、いいものがないでもない。
「ちょっと待ってて」
そういうと、部屋の隅にある棚から、一つの包みを取り出すと、コーヒー用に沸かしていたお湯と小さな白いポットをトレイに乗せて4人の待つ場所へと持ってきた。
何がおこるのか、真剣にこちらの手元を見守る4人。
なんてことはない、包みから取り出したものを、金属でできた小さな網にいれて、ポットからお湯を注ぐ。
しっかりと、成分がお湯の中に溶けるのを待って、小さなポットから白い粉をスプーンですくい取り、中へと注ぐ。
一杯二杯三杯、これだけ注げば十分だろう。水で濡らしたタオルで、液体をいれたカップを冷やして、トマスへと渡してやる。
「なんだ、これは?」
「いいから黙ってのめ」
「おら、苦いのはのまんからね」
そういっても、おれの眼力に負けたのか、トマスがおずおずと液体の入ったカップへと口をつける。
「うっ……」
「どうしたんじゃ」
「どうしたんだい」
「くっくっく」
「うまい!!うまいよ、これ」
そういって、熱さに苦労しつつも、どんどん、トマスが液体を飲んでいく。
「あたしにも飲ませてよ」
そういって、ステラがトマスの手から、カップを奪い取る。
「あまーい、おいしい」
「それがしも」
「くっくっく、おれにもくれ」
「おい、それはおらのだぞ」
4人が一つのカップを争って……その結果、予想通りのように、奪い合ったカップが宙に舞う。
慌てて、間に割って入って、カップを捕まえたところ……
「みっつけたー」
ステラがおれに向かって飛びついてくる。
むぎゅっ
柔らかい感触が顔に伝わる。と、その直後。
「おらのだって」
「それがしが」
「くっくっく」
四方からとびかかってくる連中に押し倒され、地面に押し倒される。
ぐぎゅ
おれの口から変な音が漏れ出した。
その後、4人に大目玉をくらわせて、床の掃除とドアの修理をさせた後、ようやく。
ゴホン
「通常毒消し草といえば、直接食べるのが基本だ、でも、ご存じのとおり、その苦さから苦手な人いる。これはあまり知られてないのだけど、毒消し草を乾燥させて、お茶をいれるようにお湯に成分を溶かすことができるんだ」
「お湯に溶かした時点で、苦みはだいぶましになるんだが、必要に応じて、砂糖をいれてやると、子供でも飲みやすいってわけ」
ふんふんと、4人がうなずいている。
「ということで、今後のために、買っていきなよ、毒消し茶、今なら1パック100イェンだ」
一話完結?っぽい話を書くことを想定して書き出しましたが、、、次はいつになるのやら……
感想とかいただけると、今後の参考になりますっ(`・ω・´)