魔法科二年三組の講師-4
ガラーン……ガラーン……と学院の中心の大聖堂の塔の中にある大鐘の音が鳴り授業の始まりを告げた。生徒たちは教室の中に入り着席して講師が来るのを待つ、そして今日一番落ち着いていないクラスがあった。
魔法科二年三組だ。まったく資格を持たない一般人同様にしか見えない新人講師、彼の最初の授業は一体どうなものなのだろうか、クラス全員が気になってそわそわと待っていると教室の扉が開いた。
「一時間目の授業は魔法学にとって最も基本的な『魔法の構築式』だ。これは魔術にもあり構築式をどう作るかによって魔法や魔術は千差万別に変わる、俺は魔術のほうしかやったことないし魔法と魔術、それは似て非なるものだからな。俺もまずは勉強から始めようと思う!」
リオンは高らかに宣言すると黒板に三十分自習と大きく書いて教科書と辞書を広げて教卓から動かなくなった。
唖然としたクラス全員は一瞬ポカーンとして思考が停止してしまう。魔法科に配属された講師が魔術の構築式しかやったことがない、黒板に書かれた自習の文字、教卓から動かなくなった講師、すべてが頭の中でごちゃごちゃになって誰も何も言えないでいる。
その沈黙から数分、沈黙を破った生徒が現れた。薄氷色の髪をした女子生徒、ルル・リンカーネート・テイルズだ。
彼女は教室の真ん中を歩いて教卓の前まで行くとリオンのことを見て口を開いた。
「先生、授業をしないんですか?」
「ん? ああちょっと待ってくれよ、今回やる場所どころか俺は魔法のことがさっぱりなんだ。まずは根本を理解するところからだろ?」
「ふざけないてください! これじゃ学院にいる意味がありません、なんで魔法科の講師なんてやってるんですか!?」
ついには激昂して叫んだルルだが、それをまったく意に介さず教科書を見続けるリオンはさっきとはまったく変わらないテンションで説明をした。
「俺さ、実は魔術科に配属されるはずだったんだけど学院の都合で魔法科になってな、しょうがないじゃん。やったこともない魔法を教えろって言われても理解してなきゃ意味ないし」
「そんな、なんで学院長はそんなこと……!?」
「俺が知るかよ、とりあえず席もどれ。あと二十分したらやるから」
学院長の取り決めと都合ということで何も言えなくなったルルはリオンに言われるがまま席に戻り少しでもなにかしようと問題集と辞典を出して自習を始めた。
それから二十分後――
「よし、全員前を向け」
急に立ち上がったリオンに全員の目が集中する。まさかとは思うが魔法の構築式をこの二十分程度で理解したのだろうか? と生徒たちは考えたがそうでもないようだ。
リオンは全員の視線が自分に集まっていることを確認すると黒板の自習の文字を消した。
「まずほみんなに聞きたいことがある、魔法と魔術の違いを答えられるやつは手を挙げて答えてみろ!」
少し挑発的な質問の仕方をしたリオンに対して眼鏡を掛けた男子生徒がぱっと手を挙げて立ち上がった。
「なぜそんな無意味な質問なのかわかりませんが、魔術とは自らの魔力を代償に悪魔の魔力を得て扱う、魔法とは自らの魔力を使用して扱う。違いはこんな感じじゃないでしょうか?」
「それじゃ五十点ってとこだな、細かく言えば詠唱の初めには悪魔の名前が入っていたり使用リスクも違う。種類と威力にもよるが魔法は失敗しても怪我程度で済むが、魔術は失敗すれば悪魔の強い魔力に当てられて脳が破損、廃人確定だ。もしそうならなくても術式処理能力に欠陥ができて魔術が使えないなんてどころの騒ぎじゃなくなる大きなリスクがある。その代わりに威力が魔法とは格段に違うって感じだ」
「と言っても魔法というのは民間人のためにあるものです。戦争のために使用される魔術とはわけが違います」
「そんなこというな、民間警備隊だって王宮魔導師だって魔法よりも魔術を使う頻度の方が高いんだ」
「一体あなたは何が言いたいんだ!」
まるで魔法よりも魔術のほうが優れていると言わんばかりの喋り方に頭に来てしまったのか、発言をした眼鏡を掛けた男子生徒はリオンに向かって強く叫んだ。
「精神状態、テンション、トーン……お前今魔法使ったら確実に事故るぞ」
「だからなにを……!?」
「無駄なプライドに引っ張られて魔法を乱用してしまわないか、どんな状況でも冷静にいられるかの抜き打ちテストだ。お前は不合格だな、これからも時々こんなことやってくから」
教卓の上に置いてあった板に挟んである名簿の中で先程の生徒の名前か書いてあるところを探してバツマークを付ける。
このことには誰もが予想外だったようで全員が授業の始めのように喋れなくなってしまった。
「ま、そんなことは置いといて授業もあと二十分くらいだ。魔法のことはよくわからんが少しでもお前らの役に立てるようにはしてみるよ、でもさっきみたいに適正テストはちょくちょくやるから覚悟しとけよ」
少し格好つけたような姿勢でそう言ったリオンはまた教卓に置いてある教科書とにらめっこを始めてしまった。