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半分の天使と赫赫の盗賊王が作る空の色は?  作者: SIRO
第一章 半分の天使と赫赫の盗賊王
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第三話 「天使軍師」

 ヴァンは団員たちを見渡して大仰にうなずく。


「そうとも。決闘や戦いの末に奪っちまうのはしょうがねえ。こっちだって死にたくないからな。しかしだ、武器を持たず、抵抗もしない相手の命はいたずらに奪っちゃならねえ。そういうことをするのは、貴族や王宮住まいの豚どもだけだ。今度の徴収でも誰も殺してないだろうな」

「へい!」

「もちろんでさ!」


 貧乏人からは何も取らない。貴族からは剣で脅し、金品を奪うが、命だけは決して取らない。そのため、生き残った貴族たちから恨みを買い、討伐隊が出されることもあるのだが、それらをはねのけるときも、この掟だけは決して破らない。


「――俺たちは国に捨てられたならず者だ。国のため、王のため、そんな大層なもんは何も持ってねえ。だからこそ、俺たちは、己と仲間を守るためだけに全力で剣を振るえ!」

「おおー!」


 団員たちは沸き立ち、夜空に剣を掲げる。その様は、国王に忠誠を尽くす騎士たちのようであった。

 彼らは皆、国を捨て、国に捨てられ、国を追われた孤児のようなものだ。無能な王の守護の下で暮らしていた時よりも、小さな国のようなこの集まりに身を置いている現在の方がずっと彼らを安心させている。


 彼らは互いに友人であり、家族であり、国であった。


「よーし、お楽しみの戦利品を山分けといこうぜ!」

「おおー!」


 強奪した金品を品定めして、不平の無いように振り分ける。特に活躍した者や、団員同士で結婚し、子を成した者には多く振り分ける。当然、裏方の連中やアジトの番をしたものにもきちんと分け与えるのだ。


 平等。生まれもっての階級制度に弾かれた彼らが、最初に掲げたものがそれであった。この『(義賊団)』を構成しているのは、ほとんどが貧民で、残りが平民や逃げてきた奴隷の階級の者だ。もっとも、現在はみな浮浪の民であるが。


 国や地域によって多少異なるが、身分とは大別すると、王・貴族・平民(職人)・貧民・浮浪・奴隷の順に低くなる。特に下の三つは人としての扱いを受けないことが多い。


 しかし、ここにはそんな階級は存在しない。子供から年寄りまで分け隔てなく接し、元の階級など微塵も気にしていない。唯一例外があるとすれば、団長のヴァンだ。全員が全員平等だからと言って、皆が同じ高さに立つと、どこに行って良いかわからなくなる。そこで、一応ヴァンが団長という役割に立ち、皆をまとめている。そして勿論そこには上下関係など一切無い。誰もが気安く挨拶を交わし、敬語は使わず、賭チェスでも接待をすることはない。


「団長。まずはこいつからいきやしょうぜ」


 団員の一人が、意気揚々(いきようよう)と大きなずた袋を抱えて持ってくる。その袋は、彼らが人をさらうときに用いるもので、中身がもぞもぞと動いている。


「そうだな。ナマモノは早めに食っちまわないとあたるからな。この前も食い意地の張った誰かが悪くなった魚を食って吐いてたよな」


 ヴァンの冗談に、その食い意地の張った男が照れるように頭を掻いて足下にいる少年にからかわれている。その様子を見て団員たちは愉快そうに笑う。


「ま、それはさておき。さしもの団長も、こいつには驚きますぜ」


 特に高価そうな宝の品定めは、まず団長であるヴァンが行う。別に団長だからという訳ではない。彼が仲間内でもっとも審美眼が優れているからだ。金銭的価値は勿論、芸術的価値においても並の鑑定士では遠く及ばない。


「随分と勿体ぶるじゃねえか。絶世の美女でも入ってんのか? 早く見せてくれよ」


 団員はずた袋の口を焦らしながらゆっくりと開き、開ききったところで一気に逆さまにする。放り出された中身は、夜の古城には存在し得ない金と白を持って転がり出てきた。その輝かしさに彼らは思わず声を上げる。


 見た目は九か十の少女だろうか。

 古傷だらけのやや浅黒い肌に長く輝く金髪、その頭には十字架が多数くっつきあってできた古びたサークレットが乗っかっている。

 子供特有の大きな目は左目しかなく、右目には十字架を引き延ばしたような眼帯がんたいが当てられている。その左目は、まるで夜空を切り取ったような深い色をしており、真剣な眼差しでヴァンを見据えている。その瞳の中に恐れなど全くない。

 細い体に身につけているのは、白いワンピースと十字架のサークレットのみ。そこから伸びる腕や足には、過去に剣や槍で突き刺されたようなきずあとがあり、所々に火傷の痕もある。以前に戦火に巻き込まれたことがあるのだろう。


 と、傷だらけの体を無視すれば、気の強そうな少女であるのだが、彼女には普通の人間には絶対に無いものがある。


 それは、背中から生える大きな純白の翼である。


 だが、本来一対であるはずの羽は右翼しかない。しかしそのアンバランスさがまた幻想的で、彼女の神秘性を高めている。


 ボロいずた袋の中から現れたのは、両手両足を縛られて猿轡さるぐつわをされた天使であった。

16/03/05 ルビ修正。

16/03/12 文章微修正(大筋に変更なし)

16/09/03 文章微修正(大筋に変更なし)

16/12/27 文章微修正(大筋に変更なし)

17/03/15 文章微修正(大筋に変更なし)

17/03/16 サブタイトル変更(旧:運搬軍師)

17/03/26 文章微修正(大筋に変更なし)

17/06/19 文章微修正(大筋に変更なし)

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