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(18)そして大団円?

さて、この説教臭いお話も今回で最後。じゃ、ハジメますよ。

「どうもありがとうございました」

 お母さんの声が聞こえる。ワタシはベッドの上に起きあがり、た

め息をついた。

 病室の窓辺には、沢山のお花が飾られてる。入院生活も慣れてく

ると退屈だ。今も親戚のおばさんがお見舞いに来てはくれたけど、

話すコトは同じだから、眠ったフリをしていた。


 ワタシがあの集中治療室で意識を回復してから一週間が経った。

あのハジメ君と別れてからも、同じだけの時間が経ったという訳だ。

 ワタシが目を開けた時、お母さんもお父さんも泣いていたっけ。

後から聞いた話だと、意識が戻らない場合はもうダメかも知れない

と言われていたんだって。

 集中治療室にいたのはたったの二日間。それから普通の病室に移

って七日が経った。体はもう何ともない。頭を打っていたので、大

袈裟な検査を繰り返しされたけど、体は奇跡的に擦り傷だけですん

だそうだ。(それならなぜあんなに包帯でグルグル巻きだったのか

って不思議だけれど、今となってはどうでもいいコトだ)ま、それ

でも意識不明の絶対安静だったんだから、脳が体に与える影響はや

っぱり大きいんだね。


 ワタシはすべてのコトをハッキリと覚えていた。でも、ハジメ君

の言葉に従って、誰にもあの話はしなかった。言ったところで所詮

は幻覚の話だから、そうも思った。

 そうそう、昨日は学校の友だちが、お見舞いに来てくれた。学級

委員の斎藤君に佐藤さん、それから本物の鈴木ハジメ君が代表とし

てね。ハジメ君を見た時、思わずどうしたの? って言っちゃった。

ハジメ君は『?』って顔をしていた。三人とも言葉少なに『それじ

ゃまた学校で』って帰っていった。


 ワタシは思う。ココは現実の世界なんだって。ワタシはまた現実

の世界に戻ってきたんだ。でも以前のワタシと今のワタシは違う。

あの経験をしたからね。

 何でも心構えひとつ。今ではコレがワタシの信条だ。そう思うと

何が起こっても怖くはない気がする。まあ、退屈だって、いい機会

だと思えばいい機会だよ。


 窓の外を何気なく眺めていたら、我が目をうたがった。あの時の

元お迎え少女、元おなだめ少年の天使様が、二人仲良く飛んでいた

んだ。

「うそっ!」

 目をこすってよーく見ると、白いチョウチョが二匹飛んでいるだ

けだった。

「なーんだ。そうだよね。そんな訳ないよね。幻覚の続きが見える

なんてさ」

 独りでにそう口に出していた。

「よう! 元気そうじゃん?」

「戻るコトが出来たそうで、何よりですね」

「え?」

 声のする方を見ると、ベッドの上の天井付近、あの天使様たちが

浮かんでいた。

「あ、あなたたち…」

「ふふ、お陰様でうまくやってるよ。この病院に迷ってた魂はあら

かた片づいたんだ」

「話は聞きましたよ。君がキッカケなんですってね。お陰でこうし

て彼女とペアを組んでから、ずっと良いコトばかりなんです。一度

お礼をと思って。ね?」

「おう。まあ、世話になったな。その、ありがとな」

 二人の天使様はちょっと恥ずかしそうにそう言った。


「あ、ああ、そうなんだ。それは良かった。あ、山名のおばあさん

も?」

 週刊誌で、女優山名めぐみさんの祖母死去の記事を読んでいた。

病室のテレビでワイドショーも観ていたから、その後のおばあさん

が気にはなっていたんだ。

「ああ、あのおばあさんは素直に昇ってくれたよ。ただ、孫のコト

は気にはしてたけどね。でも今頃は天国でのんびりしてるんじゃな

いか。そうだよな」

「ええ。そうです」

「ふうん、良かった。あ、あの審判役は今何してるの? やっぱり

誰かのところで仕事をしてるんでしょうね?」


 ワタシはあのハジメ君のコトが知りたかった。もう会えないかも

知れないと言ったハジメ君。もしかしたら百年後の再会があるかも

知れないと言った、本当はハジメ君じゃないハジメ君。

「え? 審判役? ああ、あいつなら今回のコトで昇進した。ほら、

お前が審判部の部長に色々言ってくれたお陰で、システムも変わっ

て、うまくコトが回り出したからな。そのお前を引き回したあいつ

が、ごほうびに預かったって訳」

「そうですよ。確か審判役から審判部付きのフリーのエージェント

になったんです」

「審判部付きのフリーのエージェント? それって何なの?」

 エージェントと聞いて、スパイを思いだした。あのハジメ君が、

黒いスーツを着て、サングラスをして、物陰からこっそりターゲッ

トを覗いてる場面を想像してしまった。


「え? まあ、簡単に言ったら、天界とこの世を自由に行き来して、

お迎え役・おなだめ役の悩みを解決してくれる代理人かな。ほら、

私たちはうまくやってるけど、中にはうまくやれない奴もいるだろ?

そんな時、エージェントがアドバイスを送る。まあ、そんな役割だ

ね。それと、後はこの世における自由裁量。要するに、この世に関

する天界からのメッセージを、人間にこっそりと伝える」

 はあ、ハジメ君たら、そんなコトを始めたんだ。うまくやってけ

るのかな?


「風野はるかくん。こんにちは!」

 懐かしい声に振り返ると、そこにあのハジメ君が立っていた。

「うそっ! ハジメ君? どうして?」

「ハハ、百年後じゃなくて一週間後に会っちゃったね。どう、体の

方は?」

 ハジメ君は鼻の頭をかきながらそう言って笑った。

「うん、ありがとう。もう大丈夫。お陰様でしっかりと生きてるわ。

でも、ハジメ君、コレって、また幻覚なの? ワタシ、強く頭を打

ったからって、何回も検査を受けてるの。その影響かな?」

 頭を少し振ってみたけれど、目の前の天使様たちは消えそうもな

い。ただ、見目麗しきはずの彼らが歪んで見える。涙が自然に溢れ

ていたんだ。


 ワタシはアクビのまねをして涙を誤魔化した。

「ふうん、キミがそう思えばそう。そう思わないならそうじゃない。

ま、そんなコトはどっちでもいいよ。それより今聞いた通りさ。私

は審判役から審判部付きのエージェントになった。あの部長直々の

ご指名でね」

 あ、あの少しばかり品の良くないザ・天使様ね。

「ふうん。昇進なら良かったじゃない。おめでとう」

 ワタシは心からそう思った。ハジメ君がワタシに関わったコトで、

多少なりともプラスになったんなら、それはワタシの喜びでもある

んだからね。イッツ・マイ・プレジャーですよ。

「うん。ありがとう。でね、今回はそのお礼とお願いがあるんだ。

あのね…」

「ええっ…?」

 窓の外では、日々濃くなってゆく緑が、初夏の風に揺られている。


                *

 退院してから一週間が過ぎた。ワタシはまた学校に通いだした。

初日こそみんなの注目を浴びたけれど、二日目からは何も変わらな

い日々がまた始まった。

 ホントのハジメ君は、相変わらずだ。試しに『ハジメ君』って呼

んでも無視を決め込んでる。それでもワタシは当分コレを続けるつ

もり。そのうち根負けして、『なあに?』って、幼稚園の時みたい

に答えてくれるかも知れないからね。ワタシにとってはカズ君より

もハジメ君、それが正しいって思えるんだからしょうがないよね。


 あ、そうそう、何も変わらない日々って言ったけれど、学校以外

じゃ大きく変わったコトがあった。実はワタシ、いま、エージェン

トをやってるんだ。そう、お察しの通り、審判部付きのエージェン

トだ。

 つまりね、天界とこの世を行き来するハジメ君のパートナーに指

名されて、それを受けたんだよ。ワタシの意見で審判部部長が方針

を変えたから、そのワタシにも無関係じゃないって言われて、頭を

下げられたら、もう断れないでしょ?

 まあ、そうは言ってもワタシは普通の人間だから、時々訪ねてく

るハジメ君の話し相手をするだけで、特に変わったコトをする訳じ

ゃないけどね。あ、そうだ、例のザ・天使様の審判部部長さんもた

まに姿を見せる。何でもいいから意見を言ってくれって、何だかワ

タシ、随分偉くなったような気がするよ。小学生の意見を大真面目

に採り上げるなんて、天界も凄いのか大したコトないのか分からな

いけどね。

 ハジメ君は、今は本来の姿でワタシの前に現れる。ワタシが頼ん

でそうしてもらった。初めのうちはちょっと違和感があったけれど、

直ぐに慣れた。だって、見た目じゃなくて問題は中身だからね。今

では、本当のハジメ君と同じなのは名前だけだ。これだけはワタシ

がこだわって、エージェントネームってコトで納得してもらったん

だよ。


 予定では、今日もハジメ君は相談に来る。ワタシは出来る限りの

コトはしようと思う。人間のワタシがお迎え役・おなだめ役の悩み

を解決したり、天界からのメッセージを人間にこっそり伝える、な

んて大層なコトは出来ないけれど、ワタシが教えてもらった『心構

えひとつ』ってコトと、『生きるコトは神様のごほうび』ってコト

はみんなにも分かってもらいたいからね。

 エージェントの任期はとりあえず三ヶ月。その後、更新されるか

は今後の活躍次第なのだそう。ま、なんとかなるよね。ふふっ。


 今、ワタシは使命感、責任感に燃えてる最強の小学生だ。

 風野はるか、小学四年生、女の子。今日もハリキッていきます!



最後まで読んで頂けた皆様、ありがとうございました。あなたこそ天使様ですw


神様のごほうび…作者としては二重の意味を含ませました。説教臭さ漂う妖しげな話でしたが、心は込めたつもりです。

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