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(12)はるか、立会人になる

「う〜ん、困った、困った。こんな場合はどうすればいいのかな?

お迎え部、おなだめ部両方に連絡しちゃったから、今更ダメでした

では審判部の面目も丸つぶれになっちゃうしな。第一、せっかく天

に昇る気になったおばさんだって可哀想だし。う〜ん」

「やっぱりお迎え役のこの私が!」

「おなだめ役のワタクシこそ!」

 二人は肩で相手をおしのけるようにしあっている。どうしても自

分が担当をしたいようだ。


「ちょっと、キミたちは黙っててよ。もう、こうなりゃ、ヤケだ。

こんな例はこれまでには無かったけど、風野はるかくん、キミが立

ち会うのが一番良さそうだ。やり方はこの私が教えてあげる。なに、

方法自体はそんなに難しくないから安心して」

 ワタシの顔色を伺うようにして、ハジメ君はそう言った。それで

もコレが最終判断って訳だ。ハジメ君の表情がそれを物語っている。


「待ってよ。肝心なコトがまだ決まってないわ」

 お迎え少女が口をはさんだ。おなだめ少年もだ。

「あの、その子が担当したとしても、成績としてはどうなるんです

か? その子には成績なんて関係ないコトでしょう?でもワタクシ

たちにはそれが一番の問題なのです」

 これを聞いたハジメ君は、二人をギロッと睨みつけると

「分かったよ。キミたちがどうして成績が上がらないのか。キミた

ちとはるかくんの違いは歴然だ。はるかくんはこのおばあさんの為

を思ってる。でもキミたちは自分の成績が一番なんだから。キミた

ち、神様のお使いのくせに、恥ずかしくないの?」

 二人は黙り込んでしまった。ワタシにはそんな二人が何だか気の

毒に思えたんだ。


「あの…ワタシには二人の気持ちが良く分かる。二人だって自称に

しろ神様のお使いなんだから、おばあさんの為にってのが一番ハジ

メにあるって。でも上から成績、成績って言われ続けると、それが

段々一番になっちゃうんだよ。ね? これは二人の上司の部長さん

がいけないとワタシは思うな。それからね、成績だけど、二人で半

分ずつってのはどうかな? ワタシが立ち会ってもそれなら問題な

いでしょ?」

「えっ?」

「本当ですか?」

 二人の顔が輝いた。


 ハジメ君もため息をつくと

「キミたち、そういうコトで手を打とうか? それぞれの部長さん

には、うちの方から話をつけるようにするから。さて、おばあさん、

それでいいならそれでいこうか? ね?」

「はい。お世話になります」


 こうして話がまとまり、ワタシは立ち会う方法を教授された。審

判役、お迎え役、おなだめ役、三人からされたんだから、今ワタシ

は最強の立会人だ。

「いいかい、門が見えたら、そこで引き返すんだよ。ねえ、おばあ

さん、おばあさんにもお願いするよ。このコはあくまでも部外者で、

今回は特別措置なんだから。門の所で別の者と交代するからね」

「はいよ。分かった。わたしが責任もって返すから。ねえお嬢ちゃ

ん?」

「はい」


 ワタシはワクワクする気持ちを抑えながらそう言ったんだ。だっ

て、こんな経験、フツーは出来ないでしょ? たとえ幻覚だとして

もさ。

「それじゃ私たちは席を外すから。いいかい? 心から願うんだよ。

おばあさんの成仏をね」

「分かってるわ。ワタシ、うまくやれると思う」


 おばあさんと二人になって、言われた通りのコトをした。やり方

はハジメ君が最初に言った通りに簡単だった。手の角度とか足の構

え方とか、お迎え役、おなだめ役、それぞれに少しずつの違いはあ

ったけど、要はおばあさんのおでこに手を当てて祈るだけ。それか

ら、ここに戻って来る時も強く念じるだけ。どちらも心が大切なん

だって念を押された。

 ワタシは一生懸命にお祈りした。おばあさんが心安らげますよう

にって。


 おばあさんはそんなワタシを見守ってくれるてるように思えた。

まるで自分の孫にするみたいにさ。

 ワタシ達は光に包まれ、どこかに昇ってゆくようだった。眩いば

かりの光が、次第に光度を落としてゆく。コレならもう目を開けて

も大丈夫だ。周りの状況も分かり始めた。


「へえ、ココが天国なの?」

 辺りは柔らかな光に満ちてる。まるで春の日差しの中にいるよう。

いい花の香りもする。きっとココが天国に違いない。

「ねえ、おばあさん、あそこに門が見える。ワタシはココまでの約

束なの」

「そうだね。お嬢ちゃん、ありがとうね。後はわたし一人で大丈夫

だから、気をつけてお帰りよ」

「うん。でも引継の人がいるはずだから、ちょっと待ってね」


 立会人として最後までちゃんとしなくちゃ。ワタシは声を上げた。

「お〜い! 誰かいませんか! すいませ〜ん!」

「おいおい、そんなに大声を出さなくてもいいって。オレならココ

にいるぜ」

 そう言いながら現れたのは、全身を白でキメた、背中に大きな羽

根のある、まさに天使様だった。頭の上の輪っかも、型通りの定番

だ。

 ワタシは思わず見とれてしまった。

「はー、見事に天使様ね。でも待てよ? 見方を変えれば、ワタシ

の想像がこの域を出てないってコトよね。幻覚なら何でもアリのは

ずなのに。ワタシの想像力も大したコトないって訳か」


「おまえ、何ブツブツ言ってるんだ? まあ、いい。連絡はちゃん

と受けてる」

 いかにもの天使様は、まるでワタシを変なモノを見る目つきでジ

ロジロと見ている。ワタシはちょっとムッとした。だって、ワタシ

は好意で、このお仕事を引き受けたのに、『ありがとう』、とか

『ご苦労様』の挨拶もないんだもの。それでなくてもまず一番初め

に『すみませんね』の一言があって然りじゃない? まあ、ワタシ

だってお礼が言って欲しくてやってる訳じゃないけどさ。でも、こ

の態度。ましてや天使様なのに。


 ワタシはちょっと一言言ってやろうと思った。お迎え役、おなだ

め役の上司である部長さんの件でも言いたいコトは山程あったんだ

から。

「あの、ちょっと言わせてもらいます。いいですね」

 ワタシの剣幕に、いかにもの天使様はちょっと腰が引けたようだ。

「な、なんだよ。急に態度が変わりやがったな。まあいいや。言っ

てみな」


 あ、割と素直なんだと思ったけれど、もうココまで来たなら止ま

らない。

「あなたが単なる引継か、それともどれ位エライ人かは知りません。

でも、常識として、挨拶ぐらいは知ってますよね?」

 天使様は黙ってうなずいた。

「知ってるならなおさらです。いくらワタシが人間の、それも小娘

の魂でも、知らない人から親切を受けたのならまず『挨拶』、コレ

をしなけれはダメです。挨拶は心を開くおまじないなんですから」

「ほお」

「それから!」

「なんでえ、まだあるのかよ?」

「コレはあなたに言ってもしかたがないかも知れません。でも言っ

ておきます」

「おう」

「お迎え役もおなだめ役も、現場の人はみんな頑張ってます。だか

らあまり成績、成績って言わないでください。上から成績って言わ

れると、下の者はもうそれしか目に入らなくなります。心が閉じち

ゃいます。心が閉じちゃうと相手も心を開いてくれません。だから

成績も上がらないんです。つまり、成績を下げてる原因は上司の部

長さんたちにあります。成績を上げたいなら、まず部長さんたちの

方針を改めるべきです!」

「ううむ」


 天使様はそう唸るとその場にドカッと腰を下ろした。それからワ

タシをチラッと見ると

「それじゃ、今度はこっちがひとつ聞くぜ。その部長さんたちは、

どのように方針を改めたらいいと思う?」

 逆にそう質問してきた。

 ワタシはこの際だからと言ってやった。胸を張って、自信満々、

まるで先生が生徒に諭すようにさ。


「そんなの簡単です。相手の気持ちを考え、その魂の安らぎを得る

為にはどう行動すればいいかを考えるんです。相手を納得させよう

だの、説き伏せようだの、そんなコトより相手と一緒に悩んでやる。

そんな方針ならイケると思います。それからお迎え役、おなだめ役

とも縄張り意識を捨てて、両方が力を合わせて行動すべきです。だ

ってあくまでも主役は迷える魂なんですから」


 おばあさんもワタシに微笑んでくれた。あの時の、触れたおばあ

さんの手のぬくもりを思い出した。

「おい、婆さん、お前さんもそう思うんだな」

 うなずくおばあさんを見て

「ヨシッ! 分かったぜ! 考えとく。アノよ、あ、コレ、洒落じ

ゃねえぞ、アノよ、もし良かったら、お前、うちの部署にこねえか?

うちは審判部よ。ほれ、お前に今ついてるのもうち所属なんだぜ」

 天使様は早口にそう言うとニカッと笑い、親指を立てた。


 あー、この人、見映えと違ってやっぱり品はあまり良くないな、

と思いながら

「あの、ワタシはまだ死んでないんですって。だからどこにも所属

は出来ないわ。それより、確かにおばあさんを連れて来ました。後

はよろしくお願いしますね」

 そう言ってお辞儀をした。相手の人がいくら品が無いからって、

礼を尽くす時はちゃんとする。それがワタシのポリシーだ。

「ああ、お前、天界のモノじゃなかったな。おまけにまだ死んでも

ねえんだ。そうだった。死んでもねえし、天界のモノでもねえと。

それが大したコトをやってのけたって話か。それに今の話っぷり。

いやあ、感心しちまった。今のままでもお前だったらどこでもうま

くやってけるのによ。もったいねーな。まあ、しゃーねーか。また

縁があったらな。よし、後はオレが責任もって引き受けた。気いつ

けて帰れ。じゃ、婆さん、オレといこうぜ」

 ウインクをしてからおばあさんの手を取り、天使様は門の方に向

かって歩いてゆく。おばあさんは振り返り、ワタシに向かって手を

何度も振ってくれた。

「ねえ、おばあさんは天国に行くのよね」


 天使様はそれには答えず、振り向きもせずに手を振った。

 二人の姿が門の中に消えてからも、ワタシはそこで祈り続けた。

「どうか、すべての迷える魂が、少しでも早く、天国に昇りますよ

うに」

 どのくらいその場に居たんだろう。ほんのちょっとの間にも思え

るし、随分長い間、居続けたような気もする。

「そうだ、帰らなきゃ。ハジメ君が心配してる」

 そうしてワタシは、心を込めてハジメ君のいる所に戻りたいって

祈った。そうしてこの後、ワタシは無事にハジメ君の元へと戻るコ

トが出来たのだった。



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