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週末限定レンタル勇者  作者: 暮先 冬夜
週末限定レンタル勇者 一章
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勉強と羽馬

 色々話し合ったが打開策は思い付かない。他の事を話して気分転換をしようと思った俺に、サンチョスが何かを差し出してきた。

「勇者様。これを受け取って欲しいだあよ…それでお願いがあるだあよ」

 見ると薄くて丸い金属の板が何枚もある。多分貨幣だろうと思う。銅貨のようだった。

「お前なあ…言っただろう?俺はこっちの基準が分からないって。何のつもりだ?」

 サンチョスは困った顔で、俺と広間の端でエーメさんと話をするミリーを交互に見比べて言った。


「ミリーが、もう一度異世界のパンが食べたいって、言うだあよ…だから…おいら」

 なるほどなと思いながらミリーに目を向けると、まだパン屋の袋を持っていた!そんなに気に入ったのなら、次に買ってきてもいいが…。

 そこまで考えて俺は立ち上がると、ユレアをミリー達とは反対側の広間の端に連れて行く。ユレアにだけ聞こえるように小さな声で話をする。

「さっきの内緒話は後回しにする…色々思い付いた事があるんだけど、協力してくれないか?」

「あたしに出来る事なら何でも言って?」

「それじゃあ…」

 俺は思い付いた内容をユレアに話した。ユレアの表情が怪訝な状態から驚きに変わり、最後には嬉しそうになった。

「それいい!試そうよ。成功したら凄い事になるよ?あの子達も幸せになれるよ」


 色々話している内に夕暮れになってきたらしく、気付くとエーメさんがランプを灯し始めていた。揺れる灯を見ていると強烈な睡魔が襲ってくる。

「どうされましたかな?」

 ぼんやりする俺に長老が聞いてくるが、返事を返すのも面倒だと思える。

「…いや…眠いんだ。今はまだ夕方だよな?」

「あっ!忘れてた。ごめんね?向こうとこっちの時間調整してなかったから、勇太は寝ないでずっと起きてた事になるのよね。次から調整するね」

 俺は金曜の朝から土曜日の夕方まで、一睡もしていないということになる。最初の時は眠ってからだったから、気付かなかったわけだ。

 しかもユレアは忘れてたとか言うし。

「…ユレアのせいか?貸しにするからな…長老、悪いけど朝まで眠らせてくれ」

 そこまで言うのが精一杯だった。俺はそのまま気絶するように睡魔に負けた。


 翌日は深く眠っていたせいか自分では起きられなかった。

「勇太兄ちゃん、朝だあよ?今日は良い天気だあよ」

 サンチョスが起こしに来てくれたが、ユレアだったら良いのになとか下らない事を考えた。

「どうしただあよ?勇太兄ちゃん?」

 どうやら俺が睡魔に負けた後で、ユレアが皆に頼んでくれたらしい。名前で呼ばれるようになっていた。正直なところ、勇者扱いは違う気がしていたから嬉しい。

「何でもねえよ、ほら行くぞ」


 広間でラルドさん達に挨拶を済ませて待っていると、長老がやってくる。

「今日は何をやれば良いかな?畑の視察とかか?」

 長老は首を横に振った。

「見たところで好転はしないでしょう。それよりも勇太殿には、こちらの事を学んで頂きたいのですが、よろしいですかな?」

「分かった。今日は勉強に費やすとしようか。先生は誰なんだ?ユレアか?」

 俺の質問に長老が自分を指差していた。

「ユレア様はお忙しいので、本日は夕方近くになるそうです。一般的な内容なので儂が説明をします。では始めますぞ?」


 長老の説明が始まったがかなり長い、途中でミリーが薬草茶を二度位出してくれた。俺はこの世界の種族や、通貨や気候について詳しく教えてもらった。

 月の名称や日数はサンチョスから聞いていたが、他はこんな感じだった。


 世界には果てしなく広大な土地が一つのみ存在していて、六種族がそれぞれに国を作り暮らしている。国を治めているのは王である。

 宗教的な物は女神崇拝の他、種族により多種多様と言う事。気候は色々で、年中寒い雪と氷の国もあれば、何ヶ月かで変動する国もあるそうだ。

 六種族についてはこうだった。


 神と魔 律と理の一族

 竜   剛と智の一族

 精霊  流転の一族

 エルフ 弓と緑の一族

 ドワーフ 鎚と技巧の一族 

 人間  強欲と学びの一族


 貨幣制度があるのは精霊以外全てで、それぞれが自国の貨幣を発行していること。流通しているのは金貨、銀貨、銅貨の三種類。

 勢力関係によって交換レートがあるようだが、ドワーフ達の国に限定するなら銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚になる。

 パンが銅貨十枚で買えるらしいから、俺の感覚では銅貨一枚が日本円で十円位だろうと考えた。


「そして我らが住まうこの世界は、グラリアス・モノ・リースと呼ばれておりますな」

 長老の話を聞きながら、自分なりにまとめていたが疑問が出てきた。

「グラリアス・モノ…あれ?なあ長老。最初の時に妖精族と言わなかったか?エルフも妖精族に入るから…六種族じゃなくて五種族じゃないか?」

「勇太殿の世界ではそうなのでしょうが、こちらでは妖精ではあるけれど別の種族として数えられていますな」

「そうなのか。後さ、神と魔族が一緒なんだけど?魔族ってどんな奴らなんだ?」

「獣の姿をしている者、人間達に似た姿の者、鬼達がいたりしますな。一番多くの種類が集まっている種族ですな」

「鬼?俺達の世界だと、悪と分類されがちなのも混ざってるのか」

「…まあ、お互いが異世界という事なのでしょうな」


 そんな風に考えたり聞いたりして、話が終わったのは昼過ぎ頃だった。サイズの合わない椅子に、長時間座っていたせいだろう。体が軋む気がする。

 外に出てストレッチをしていたら、慌てたサンチョスが走ってくるのが見えた。

「勇太兄ちゃん!大変だあよ!一緒に来て欲しいだあよ!」

 興奮気味に言うサンチョスは、返事も聞かないで俺を引っ張って行こうとする。何事かと長老が出てきた。

「これ、サンチョス!何を騒いでおる。勇太殿に迷惑じゃろう」

「長老も来るだあよ!珍しいだあよ!」

 サンチョスは長老さえも引っ張り始めた。顔を見合わせた俺と長老は、走って行くサンチョスの後について行った。


 村の入口に村人が群がっていたが、俺達が近付くと道を空けてくれた。村のすぐ外に羽馬がいた。サンチョスが騒ぐ。

「勇太兄ちゃん!きっとあの時の羽馬だあよ!会いに来てくれただあよ!」

「…これは!何とも珍しい…勇太殿、恐らくこんなことは最初で最後かと。ささ、名前を与えるのです!」

 二人のテンションについていけない俺は理由を聞いた。

「羽馬が来るのがそんなに騒ぐ事なのか?名前は付けないつもりなんだけど」

 何て事をと言わんばかりの顔で、長老とサンチョスが言ってくる。

「…よいですかな?彼等は本来笛や歌で喚んで、頼まなければ力を貸してはくれないのですぞ?向こうから来るなどと聞いた事がないのです」

「そうだあよ!きっとこの羽馬は勇太兄ちゃんを手伝ってくれる気だあよ!ほら、名前!」


 勢いに負けそうだったから、羽馬の方を見ると目が合った。やっぱり可愛いなと思う。意思の疎通が図れるか分からないけど声を掛ける。

「この前のやつか?俺に名前を付けて欲しいのか?」

 驚いた事に首を縦に振った。サンチョス達が更に騒がしくなった。

「分かったよ…考える邪魔になるから、少し静かにしてくれよ」

 俺が頼むと皆静かになって、少し後ろに下がって見守り始めた。視線が集まるから、さっきよりも居心地悪い。

「…名前…名前…お前、よく見ると黒目がキラキラするな。…ノアールにしようかな」

 名前を決めた俺の横に長老が近付いてきた。

「…額の中央辺りに触れながら、名前を呼んでやるのです」

 見ると膝を折って姿勢を低めにしてくれている。


 羽馬に近付いて、言われたように額に手を当てて呼んでみた。

「…ノアール?」

「…はい。これからよろしくお願いしますね?主様」

「しゃべった!」

 思わず後ろに下がった俺は、長老にぶつかって転んだ…。長老を助け起こしてから、もう一度羽馬を見て話し掛けてみる。

「しゃべったよな?何でだ?」

「名前を付けて頂いたので、私と主様の間に契約が成立したのです」

 訳が分からない俺は困って長老を見た。腰をさすりながら説明してくれた。


「彼等は自由に生きておるのですが、他の種族に使役される事もあるのです。報酬は笛や歌などの音楽、宝石類や食物などとも言われますが、個体により違うのです」

「へえ?使役って言うけど報酬がいるなら相互関係だから契約か…待て、俺も何か出さないといけないわけだよな?」

 これには長老じゃなくて、ノアールが答えてくれた。

「私は主様が気に入りました。だから何も要りません」

「何も必要ないのか?本当か?後からは無効だぞ?」

「…では、一つお願いしますね。私以外の羽馬には乗らないで下さい。こちらにいる間は私だけにして下さいね」

「分かった…ちなみにノアールは雌か?」

「雌なんて言い方は嫌です」

「…分かった…」

 つまり女子として扱えって事で、他のに乗るなってのは嫉妬するかもって事だろう。人の女子にモテたい…。


「では主様。私の尻尾から十本ほど毛を抜いて下さい」

「十本だな?」

 言われるままに尻尾から毛を抜いた。

「それをユレア様に渡して、腕輪と組み合わせて下さい。そうすればいつでも、私を喚べるようになります」

 なるほどなと思った俺はなくさないように、ポケットに入れた。

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