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週末限定レンタル勇者  作者: 暮先 冬夜
週末限定レンタル勇者 二章
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お局への依頼と有給休暇

 火曜日に仕入れ先から連絡が入る。木曜日午前の打合せと、買い取り依頼についてだった。予定をチェックしてから了承する。

「木曜日の午前十時でいかがでしょうか?その時間であればかなりの人数が残っています。特にお昼前なので女性陣へのアピールにはいいですよ」

 話している間に送られてきたメールを開き、添付ファイルを見てそう付け加えた。相手も是非というので予定を確定させて電話を切る。

 見ていた添付ファイルを印刷して席を立つと、書類とにらめっこをしている課長の机へ近付く。まだ何も言っていないが書類から俺に視線を移してきた。

「課長お時間頂きたいのですが、よろしいですか?先週話した件の続きです」

 先週とはいっても課長が日々こなす業務は多い、思い出すのに少し時間がかかったようだった。


「ああ、あれだな。事故品とサンプル品の件だな」

「そうです。最初は事故品は二つだけでしたが、昨日別件で増えたらしいです。これが送られてきた資料ですが、悪くはないと思いますよ」

 書類を手渡すと課長は内容を吟味し始めた。幾つかの場所に赤丸をつけていく。

「課としてこんなとこだろう。後は回覧して個人的にやっておけ」

「分かりました、失礼します」

 今日中に答えが集まるように急ごうと、書類を持って移動する俺に課長がストップをかける。

「待て高野。お前に言わなきゃいけないことがあった、今夜飯を奢ってやろう付き合え」

「はい…了解しました」

 俺は何をやらかしたんだろうか?飯と言いつつお説教な未来しか想像できない。内心ブルーになりながら次の目的地に足を向けた。


「木下さん少しいいですか」

「あら高野君。いいわよ?何でも聞いて。お姉さんが教えてあげる」

 もうすぐ丸二年経つけどこの人は苦手だ。俺はお局の、木下さんの笑顔に引いていた。書類を見せながら話をする。

「実は四角社さんで色々な事故品が出ちゃったみたいなんですよ。後は恒例のサンプル品ですけど」

「結構あるのね。これ楽しみなのよね、仕入れ先には申し訳ないけどね。今回の理由は…全部印刷ミス、中身にはまったく問題なしなのね」


 時々起こる話だが例えば、ある企業が商品の外装ラベルを印刷所に依頼する。印刷所の担当営業が受注してラインに乗せる。

 製造過程の小さなミスに気付かないまま最終段階を通過する。受け取った企業側も気付かないで自社製品に貼り付けてしまう。

 製品として出荷する直前もしくは問屋で発覚すると、食品系の場合は例え中身が安全でも市場には出せない。

 印刷を受けた会社がミスプリントしたロットを丸ごと買い取って弁償する。お互い気付かなかったけれど、どこかが責任を取らないといけないからだ。

 大量の食料品は自社内だけで捌けるわけもなく、取引先に格安もしくは無料で配ることがあるのだ。

 お菓子や飲み物だと従業員のおやつとして、一定額まで会社が購入してくれたりする。他に欲しい物があれば個人のお財布でとなる。


 同じ事故品でも落下や破損は、品質が劣化している可能性があるので破棄されることがほとんどらしい。

 仕入れ先がそういう商品を木曜日に持ってきてくれるので、事前にまとめておいてもらおうと思っている。

「うーん、これいいなあ。美味しそう、高野君もそう思わない?」

「どれですか?ちょっと高級感があっていいですね」

 俺はわざとそう言ったけど、木下さんが好きそうなお菓子はチェックしてあった。課長は許可をしてくれなかったので買うなら個人負担だ。

「木下さん…僕がプレゼントしましょうか?」

 ここからが大変だぞと内心で気合いを入れる。俺の目的はサンプル品の中にあるリボンとハンカチだった。

 何とも言えない目つきをした木下さんは、にんまりと笑いながら質問してくる。


「隠してる下心は何かな?教えてくれないと受け取らない」

 この人に限らず女性に対して、この手の隠し事は成功率が低い。だから用件をストレートに伝える。

「ばれますよね。実はサンプル品のこれと、これを組み合わせてブーケみたいな髪飾りを作って頂けないかな…なんて考えてます」

 裁縫が得意で鞄に付けている飾りや、ヘアアクセサリーは自作だと今年の新年会で話していた。相変わらず笑顔で俺を見上げてくる。

「誰に贈るのかな?同じ会社の人?それとも?」

「母親ですよ。来週誕生日なんです、だから週末には…ダメですか?」

「お母さんにしては、色が明るいわね?本当?」

 それでも根掘り葉掘り聞こうとしてくる。のらりくらりとかわしていたら諦めてくれたけど、これだからこの人苦手なんだよ。

「ふふ、仕方ないなあ。高野君のお願いだからやってあげる、デザインは任せてもらうわよ。後は皆の希望をまとめればいいのね。そうそう、さっきのお菓子三つお願いね」

 何気に多い要求を飲まされたが背に腹は代えられない。

「承りました、先輩」

 ミッションコンプリートと思いながら午後の仕事を片付けていった。


「俺はここのウナギが好きなんだが、他に刺身と焼き魚もいいぞ?ビールでいいか?」

 夕食は課長と一緒にややお高そうな和食店だ。酒は?と聞かれたが、怒られるのではないかと緊張しているから頷くだけだった。

 魚中心に海鮮料理が数種類テーブルに並ぶ。ビールはもちろん俺から注いだ。

「ご苦労さん。まずは食って、飲め。別に説教じゃないから、腹を満たしてからでいいだろう」

「いただきます」

 隠せないもんだな。普通に見えるように頑張ったのに、お見通しかよ。何の話か分からないけど、安心して飯が食えるのはいいことだ。

 しばらく売れ筋傾向はとか、業界全体の景気はなんて話をして飯を食っていた。段々手酌で飲み始めた課長が、本題を持出してきた。

「高野。お前まだ有給休暇を取っていないだろう」

「え?有給休暇ってあるんですか?俺」


 説明しよう、有給休暇とは!なんてフレーズが頭の中にあったけど、実際は間抜けな顔で課長を見ていた。

「何て面してんだ。いいか、お前は二年目だろう?十日くらいあるんだよ。忙しくて説明しなかった俺も悪かったが、総務から注意されてな」

 俺が有給休暇を取っていないと、課長が総務から怒られる?少しも意味が分からなかった。

 ちょうど近くを仲居さんが通るので、酒の追加注文をして課長に質問する。

「別にどうしても欲しい用事はなかったから、取りませんでしたけど。そもそもあると思っていなかったんです。何で課長が怒られるんですか?」

 お猪口を課長に渡して熱燗を注ぐ。俺は冷やでいく。くいっとあおった課長はつまみを追加した。

「一日も消化させていないのは部下の管理が悪いとか、体調とかに気を配っていないと言われるわけだ。…もう一つはな?そういう社員が多いのは、会社として大丈夫かと問題視されるんだよ」

 なんというか色々あるんだな会社も。最近は仕事も少し好きになってきたし、有給休暇を取ってまで出掛ける彼女とかもいないからな。

 どうすればいいんだろうか。


「十日あるって言われても、俺どうすればいいか分かんないです。仕事だってあるし」

 何の魚か分からないけど、甘辛く煮付けた物を食べていた課長が鼻で笑った!

「ふん、たかが二年の若造が休んだってどうってことはない。お前がやっている仕事なら俺がカバーしてやる。だから休め」

「そんな急に言われても…しばらく考えさせて下さい」

 お前程度はまだ新米だと言われたことに少し傷ついたけど、本当に休みがあっても困るんだけどな。考え込む俺に課長が追い打ちをかける。

「年度内に少なくとも三日くらいは取れよ。連休も可能だ、いいな」

「年度内って、来月じゃないですか。…了解しました、何とか考えてみます」

 剣吾誘ってみるか?社長だと無理かなとか考えながら、課長に食事のお礼を言う。

「課長。今日はありがとうございました。ご馳走様でした」

「まだ帰るには早いぞ。次行くぞ」

 そこから別の店に連れて行かれた俺は見事に二日酔いになった。だけど有給休暇があると、仕事はやっておくから休めと言ってくれた課長に、後日心から感謝することになる。

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