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週末限定レンタル勇者  作者: 暮先 冬夜
週末限定レンタル勇者 二章
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朝食後1

「勇太様おはようございます。朝食は王の私室にてお願いします。準備は終わっていますから」

「ありがとう…もう少しで行くと伝えて欲しいけど、頼めるかな?」

「了解しました」

 呼び出しの兵士に伝言を頼んで、服や寝癖を直す。

「ふわあ、すごく眠い…後、五分だけ寝たい」

 ベッドに戻りたい気持ちを抑えて剣吾を起こす。

「剣吾、起きろ。朝飯だってさ。ゴウザンの部屋に行くぞ」

 シーツにくるまっていた剣吾は、顔だけ出すと拒否のジェスチャーをする。シーツの端に手をかけて一気に引き剥がしてやった。

「な、何すんだよ!お前は、オカンか!」

「文句多いな。でもお前俺の部屋に来るたびに、飯や茶を要求するだろ。ある意味オカンかもな、ほら起きろよ」

 ぶつぶつ言いながらベッドから離れる剣吾に、水差しを渡してやる。うん?カップがないな。探している横で剣吾が直飲みしてた。

「おい。俺も飲むんだぜ?直にいくなよ」

「細かいな。いちいち気にすんな。器の小さい男はもてないぞ」

「うるせえよ」

 結局、剣吾から水差しをひったくって飲んだ。


「今回は申し訳ありませんでした。お怪我でもされていたらと思うともう…」

「昨日は本当にすまなかった。たかが熊だと、危険はないだろうと過信していた我の落ち度だ」

 朝から何気に量の多い飯が終わった直後に、ゴウザン王と宰相に謝られた。俺達は何もないから気にしていないからと、そう言ったが困った顔をされた。

 女神二人から部隊の後ろで待機させるように、事前に申し入れというか頼まれていたらしいの知っていた。

 それがいざ現場に行ったら予想外の展開になってしまった。怪我はしてないけど危なかったのは事実だ。だから自分が悪いのだとゴウザン王は譲らない。

 あの時行きたくないと言えばゴウザン王は了解してくれただろうと思う。俺達は魔獣討伐と聞いて怖いから嫌だと反対しなかった。

 更には現場での手伝いを増やそうと自分達から頼み込んだ。その結果ちょっと危ない目に遭ったけど自己責任じゃないかなと思う。

 お互い様だと説得する方がいいのか、悩んでいたら剣吾がさっさと受け入れてしまう。

「分かったよゴウザン。次は事前に話し合うとしよう」

 なるほどねと思う。王様という立場は色々だから、俺達みたいな感覚じゃあ終われないという事か。

「俺も剣吾と同じ意見だから、よろしく。この件は終わりにするけど、別件で聞きたいことがある」


 初めてタレサビ村に召喚された時に聞いた話、世界に異変が起こっているという内容。具体的なことは不明だけど助けて欲しいと言われていた。

「そもそも俺が喚ばれたのは、異変から助けてくれっていう話だったんだ。皆が食うに困っていたから、それを何とかしないとって考えて行動したけど」

 続きを剣吾が話していく。

「女神の谷は稲作が成功して商売も上手くいって、自立して食べていけるようになったけど根本は解決していない。というよりも問題の全体像が見えてこない。そんな状況で昨日みたいな後味の悪さ…だな?勇太」

 剣吾に頷いてからゴウザン王に視線を戻すと、さっきとは違う感じで困った顔になっていた。どうしたのかと思ったが宰相が口を挟んできた。

「王、諦めてはいかがですか。隠し通せるとは思えません」

「ぬうう…無理なのか?気が進まんが」

「取り返しがつかない事態を招きたいと仰せですか?」

 冷静に言う宰相にゴウザン王が白旗を上げた。

「仕方ないな。…異変の正体は各国の上層部、場合によっては王家しか知らないのだ。だから谷の民達には内緒だ」

 俺は必ずと返事をした。そして簡単には解決できないだろう話の流れに、つい剣吾を見る。

「何見てんだよ、今更手を引けとは言わせないからな。危なくなったらちゃんと考えるさ、これでも他人の人生をたくさん背負ってるからな」

「これから聞くのがどんな話か分からんが…可能な限りよろしくな剣吾、お互い無理は禁物で。話の腰を折ってすまない、教えてくれゴウザン」


「まずは我らが住まう世界であるグラリアス・モノ・リースは、定期的に滅びの脅威に襲われるのだ。期間は千年前後が最も多いが、五百年足らずでという場合もある」

 少し気になったからゴウザン王に対して質問をしてみる。

「それはあれか、繁栄の限界に到達するからか?」

 首を横に振りながら続けてくれる。

「違うな、どうしてなのかは解明されておらん。色々な理由でやってくるとしか言えん。文献によれば各国が協力して原因を探ろうと、突き止めて対処しようと研究した時期もあったそうだ…徒労に終わったようだがな」

 現象が起こるからにはその引き金となる何かがあるはずだ、それなのに全く分からないとはどういうことだろう?

「なあゴウザン、その…脅威はどんな形で現れるんだ?イビルベアみたいなのが大量に発生するとかなのか?」

 ゴウザン王は剣吾の質問にも首を横に振る。これは予想以上に面倒なパターンじゃないだろうか?そんな気がしてきた。

「剣吾の言うように魔獣に魔物、それも通常では考えられん個体が大量に発生したこともある。だが大規模な環境破壊だったり、それこそ見たことのない疫病だったこともある」

 剣吾がこめかみをグリグリとマッサージし始めた。俺も眉根を親指でギューッと押さえたりして落ち着こうとする。


「要するに決まった形がないけど、世界を維持することが困難になりそうな事柄を指して言うわけだな」

「そういうことだ。ただし幾つかの共通点があるがな」

 何とかまとめて剣吾が聞くと、ゴウザン王は腕を組んで大きく頷きながら言う。共通点が鍵になるかもしれないから俺は当然質問をする。

「共通点について教えてくれないか」

「構わんが…ここからが伏せておかなければならん内容だ。まず一つ目だが、世界の滅亡は必ず何処かの国内から発生する。しかもどんな場合でも元はたった一人の国民が原因だ」

「疫病や異常な魔物の説明になってない気がするけど」

 剣吾に対してゴウザン王はそうでもないぞという顔をした。

「狂った医者が疫病に見える何かを作って川に流したり、世界を制圧しようとした魔法使いが魔物を放ったりするのだ」

 説明を聞いて余計に分からなくなった、混乱しそうな考えを整頓してみる。

「さっきは原因は突き止められていないって言ったよな?でも一人から始まると分かっているなら…」

 疑問を口に出してみたら剣吾が反応してくれた。

「待て勇太。その一人がどうして発生源になるかが不明なんじゃないか?」

「そうか発生して大問題に発展するまでは誰も知らないなら…いつの間にか困った事態になっているとしか思えないよな」


 俺達がある程度理解したと思ったのか、ゴウザン王は先を話してくれた。

「二つ目は悲しいことだが、何処かの国で誰かからと発表してしまうと、その国を滅ぼそうという話になってしまう。その種族すべてが悪だと決めつけ、正当化しようとする馬鹿者はいつの時代でもおるのでな」

 言いたいことは理解できる、怖いから排除したいのだろう。先の事なんて考えていないんだろう。

 どの国なんて決まっていないみたいなのに、それを理由に争うなんてすればすぐに世界が滅ぶ。俺が言う前に宰相がため息と共に口を挟む。

「知性と理性がある生き物は同時に愚かでもあるのです。視野が狭くなってしまうのでしょうな。数千年以上前に機密扱いになったといわれております…」

「なるほどね」

「納得」

 俺達は苦い顔しか出来なかった。少し沈黙が広がった室内に、宰相を呼び出す兵士の声が聞こえた。

「何かあったようですので少々席を外します」

 出ていくついでにという口調でゴウザン王が何かを頼んでいた。

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