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週末限定レンタル勇者  作者: 暮先 冬夜
週末限定レンタル勇者 一章
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クリスマスシーズンだけど異世界は不穏

 夏と同じように得意先へお歳暮を持って行き、忘年会に連れて行かれる。そんなシーズンになると、クリスマス関係で街が染まっていく。

 外回りから戻ると定時寸前で、帰る用意をしているお局に捕まった。

「外回り大変ね、高野君。彼女にあげるクリスマスプレゼントに悩んだら、お姉さんが相談に乗るわよ?お先にね」

 いないと知ってるのに、そんなネタを振ってくる。ああいうタイプじゃない女の子と出会いたい。そんな事を思いつつ挨拶をする。

「その時はよろしくお願いしますね、お疲れ様です」


 商店街に寄っておにぎりを買って帰る。食べながらパソコンを起動して、忙しくてあまりやっていないゲームを始める。

「レベルも上がったし、所持金も良い具合だな。装備とスキルを見直して次の段階に行くか」

 不特定多数と組んだりしないから、他のユーザーよりも遅れていても気にしない。ステータスメニューを開いて、次の装備を考えていて気が付いた。

「何だこれ…この前と称号が変わってる」

 見れば『慎重派の見習い商人』という、よく分からない称号に変化していた。所持金の額に関係するのかな?気にしないで遊ぶ事にしよう。

 ついつい時間を忘れてしまい、翌日会社に遅刻した。当然だが課長に怒られた。


「それでは、今日はここまでですな。お二人共意外に覚えるのが早いですな、もう教える事が少なくなってきましたな」

 恒例になった長老の授業が終わったから、のんびりと薬草茶なんかを入れる準備をする。ケトルがないから鍋で湯を沸かして、乾燥させた薬草を直接入れて煮出す。

「長老の教え方が良いからだろうな。勇太は一応大学卒業だけど、俺は高卒だしな」

「あちらの学校の種類ですかな?どちらにせよこちら側とは違いますからな」

 進学出来なかった事を気にしている剣吾に、長老が学歴だけでは決まらないと言っている。コップに注いでいる時に、ユレアとクレアさんが来たので追加で作る。


「ありがとう勇太」

「すいません勇太様」

 皆で仲良く薬草茶を飲んで、水田の様子などを話したりする。夕食をどうしようと考えていたら、剣吾がクレアさんを食事に誘おうとしていた。

「申し訳ありません、剣吾様。今日は神殿に来客が…エルフ族の、新しい長が挨拶に来ていらっしゃって、色々お話をする予定なんです」

「そう…ですか。仕方ないですよね、お仕事なら。じゃあ、外まで見送りますよ」

 すっごい残念と背中に書いてある剣吾を見て、ユレアが小声でボソッと呟く。

「ねえ勇太。剣吾は立ち直り早い?」

 つられて俺も小声になる。

「早いほうだが、内容による。どうした?」

「まあ、あの事は知らないままだろうな…気にしないで?」

 非常に気になるが教えてくれそうにない。ずっと後でそれが分かった時、俺は剣吾を上手く慰められなかったが、クレアさんの事はこの時点では、俺も予想さえ出来なかった。


「ユレアは食べていくのか?勇太が作ってくれるぜ?」

 クレアさんを見送って、戻ってきた剣吾はユレアに聞いた。ユレアは俺を見て頷くから、合わせて四人分の飯を作る。

「美味しかった。お米って意外に良い食材ね」

「本当は小麦が枯れないようにする方が良いけど、その前に皆が飢えるからな」

 オレンジによく似ている、名前の分からない果物を切り分けながら言うと、ユレアは何かを言いたそうな顔をしていた。

「ねえ、二人は今から時間ある?出かけながら話を聞いて欲しいの」

「今からどこに行くんだ?ここに帰れるのか?」

 剣吾の質問にユレアは首を横に振る。

「多分無理だから、直接送るね」


 俺が長老に目を向けると、静かに頷いて髭を触っている。

「長老は何か知っているのか?

「内容は聞いておりませんが、お二人を連れて行きたいと、相談はされましたな」

 どうしようか考える俺達に、長老が大丈夫だと言う

「水田の世話は自分達で出来ますので、女神様のお話を聞いて頂きたいですな」

 長老から話を聞いてそういう事ならと言って、ラルドさんが服を貸してくれたが、サイズが合わなくて引っかける位しか出来ない。

 後で何とかするからと言うユレアに追い立てられて、出かける準備をしてサンチョス達に挨拶する。


「ノアールごめんなさい。もうすぐ夜になるけど、あたし達を運んで」

「大丈夫です、女神様。では、主様、剣吾様行きましょう」

 ノアールを喚んで出発する。すぐにユレアが事情を教えてくれた。

「今から人間達の国、モディートグリーデンに向かうわ。ノアール方向は分かる?」

「お任せ下さい、女神様」

 今度サンチョス達に、ドワーフの国の名前も聞いてみようと思う。そんな事を考えている内に、ノアールが少しだけ進路を変える。

「実はね、最近人間とエルフの関係が悪くなってるの…姉様の所に若長が来たのは、そのせいなの」

 夜になっていくから意外に寒い、水筒みたいな物があれば良いのに。そうすれば薬草茶を持ち歩けるとか思いながら、ユレアに質問する。


「原因が分からないから、俺達に調べてこいと?」

「そうなの…勇太、ごめんね。あたしが行くと問題が…」

 申し訳なさそうにするユレアに、剣吾が分かったような顔で言う。

「目立ちすぎてって事だろ?俺と勇太に任せておけよ」

「ありがとう!剣吾。後もう一つ気になる事があるけど…アリアの事なんだけど…」

 妹の事になった途端に、声が小さくなるユレア。今にも泣きそうだ。

「気にするな、ついでに聞いてくるよ。…だから笑ってろ」

 同じ意見なのか、剣吾もユレアに向かって頷いている。

「…本当にありがとう、二人共」

ユレアは我慢出来ずに少し泣きながら、喜んでいた。


 ドワーフの国と人間の国は隣接しているという事は、最初の頃に長老から教えてもらっていた。

 俺達はモディートグリーデンに入ってから、両国の国境近くにある街で宿を取って、翌日に王都に近い街へ行き情報を集めようと決めた。

「門から見えない場所で降りて歩くしかないか、ノアールよろしくな」

「承知致しました、主様」

 ノアールを見送ってから行動の再確認をする。ユレアは大きくて綺麗な布を、頭から被っていた。髪を隠す為で、同じようなスカーフで口元も隠す。

「勇太と剣吾はあたしの護衛って事にしてね。それからこれを渡しておくわ、適当に言い訳して服とかを買ってね」

 モディートグリーデンの銀貨がたくさん入った袋を一つずつ渡される。タレサビ村に居る間は金なんて必要なかったけど、行動範囲が広くなれば考えないといけないだろう。


 小さな街だからなのか門を守る兵士の姿はなかった。宿屋と酒場が一緒になった場所を見つける。

「三人泊まりたいんだけど、空いてる?後は軽い食事があると良いんだけど」

 剣吾に服の調達を頼んで、俺とユレアは部屋を確保する。

「おやまあ、こんな時間に宿無しかい?銀貨一枚の部屋が空いてるよ。三人で一部屋になるけどね。食事と酒は酒場で別料金だよ」

「それでいいよ、先払い?…じゃあ、銀貨一枚」

 丸々とした宿の女将に銀貨を渡し、部屋に案内されて暫くしたら剣吾が戻ってくる。やたらと荷物が多い。


「何だよこれ、剣なんていらないだろ?」

「服屋のおばちゃんに、護衛なのに丸腰は何でだって聞かれて…とっさに来る前に壊れたから捨てたって…」

 そして親切なおばちゃんは、自分の亭主経営の武器屋に連れて行ってくれたらしい。フラグが成立してるから、買わずに店から出る事は不可能だろう。

「良いんじゃない?使わなければ良いのよ。護衛として、怪しまれずに行動出来そうじゃない」

 ユレアの言葉になるほどと頷く俺達だった。

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