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週末限定レンタル勇者  作者: 暮先 冬夜
週末限定レンタル勇者 六章
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皆で作業中に飛び込んでくるアルバート王子

 暗い…寒い…とても眠い。どうして自分はここにいるのだろう?よく思い出せない。でも気にすることもないと理解している。

 いつからなのかは覚えていないけれど、ずっとまどろんでいるだけだった日々に小さな変化が起きた。見た事のない小さな光が現れた。

「アリア、君はアリアなのか?」

 小さな光が話しかけてくる。アリア?誰の事?ああ、私の名前だった。何故私の名前を知っているの?小さな光に少しだけ興味が湧いた。

「必ず見つけるから」

 小さい光だからきっと無理だろう。いつか全ての、この世界と共に消えてしまうのだろうけれど、出来るだけ先延ばしにしてあげたくなった。


「帰っても良いのですよ、アリア様」

「フェイアートおじさんが独りになっちゃうから」

 虚無に蝕まれるのではなく受け入れている影響かほんの僅かな理性が残っている。引き返せる道が残っているのではないかと思っている。

「決心は揺らぎません。巻き込んでしまう全てに謝罪することは出来ないけれど、歪な世界ならば零にしてしまって…いつか完全な世界が出来るのを夢見る方が良い」

「諦めるのは嫌だけれど…フェイアートおじさんを見捨てる事も出来ない」

「優しく幼い女神様…憂いを消してきましょう」

 小さな光が消し飛んでしまう?でも私はフェイアートおじさんを守ろう。ユレア姉様やクレア姉様が悲しそうではあるけれど。


 どうやら小さな光は消えなかったみたい。フェイアートおじさんが傷付けたせいだろう、少し話が出来た。時間はそれほど残っていないから…出来れば逃げて欲しい。

 今の私は何が正しい道なのか探せなくなっているのだから、いつか小さな光の住んでいる世界まで壊してしまう可能性もある。

 いいや、必ずそうなる。だってフェイアートおじさんはそれも望んでいるのだから。




「治癒魔法をかけたけれどいつ目を覚ますのかは体力次第かしら」

 ユレアがちょっと自信なさそうに言う。

「様子を見るしかないね。怪我が酷いだけではなくてかなり虚無にも蝕まれていたから」

 もしかしたら罠かも知れないとシュヴァリエさんも来てくれた。罠ではなかったけれど怪我で弱っていたから、虚無に蝕まれてしまったのだろうと言って取り除いてくれた。

 ジェイダンさんは呼吸も落ち着いてうなされる事なく眠っている。エリック経由でアルバート王子に連絡をしたから見に来るだろう。

「多分大丈夫じゃないかな。それじゃあ勇太君、これでゴーホームするよ」

「く…はい、シュヴァリエさんも大変なのにありがとうございました」

 吹き出しそうになるのを何とか我慢してシュヴァリエさんを見送る。もしもを考えてユレアは残って様子を見ている。

「早く目を覚ますといいな」

「そうだよな…ヨハンとサンチョスがな」

 広間で記入用紙を分けながら剣吾と話す。俺は無事だったと喜んでいたけれど、ジェイダンさんを見た後のヨハン達は口数が少ない。

「ショックだったかな?」

「そうかも知れないっすね」

 山城君も手伝ってくれるから作業が遅れる事はない。ないのだけれどヨハン達が暗い事が気になる。


「ジェイダン!傷は浅いぞ、しっかりしろ!」

 重苦しい空気は突然破られた。叫びながら扉をバーンと開けて、アルバート王子が飛び込んで来たからだ。

「馬鹿野郎!大声出すな、ついでに傷が浅いは多分フラグだ!」

 寝室方向へダッシュしようとするアルバート王子に、素早く立ち上がってラリアートをかける剣吾。

「グエェ!な、何をする剣吾!勇太といいお前といい、王族に対する態度か?」

 身長差かわざとなのか首の辺りにガッツリ入った。危険だから良い子は真似をしないで欲しい。

「やっと落ち着いたんだ、騒がしくすると負担になるぞ?」

「うぐっ!その通りだな…大人しくしよう。そこの可愛いドワーフよ、薬草茶を一杯もらえるか?」

 俺の近くに座ってミリーに薬草茶を要求し始める。

「ミリーはおいらの嫁さんだあよ。いくら王子様でも譲ってあげないだあよ。痛い、痛いだあよミリー」

「申し訳ありません。ちょうど休憩時間なので用意しますね。旦那様は黙っていて欲しいです」

 サンチョスの頭を後ろから軽くグリグリしてキッチンへ向かうミリー。照れ隠しなんだろうなと思うけれど少し痛そう。

「おお。サンチョスの嫁だったのか、悪気はないから許してくれ」


 そんな会話をしていると疲れた顔で髪が乱れているエリックが来る。暴走気味のアルバート王子を止めようと頑張ったのだろう

「よ、良かった。止めてくれたんだな。落ち着けと言っても聞かなくて。押さえていたが転移直後に振り払われた」

「エリックが頑張っていたのは分かるよ。薬草茶を煎れるからゆっくり座っていろよ」

 追加があるとミリーに伝えて作業に戻る。コピー用紙を手に取ってひっくり返したりしているアルバート王子がいた。

「美しい紙?なのか?」

「勇太達の世界では紙と言えばこれが最初に思いつくだろうな。同じ様な紙に目で見ているような風景を描いてあったりしたぞ」

 エリックが言っているのは日本へ観光に来た時に見た何かのポスターだろう。というか今かなり危険な事を言ったな?

「エリック…まさか向こう側へ行ったのか?今まで勇者の国へ行く事は禁忌とされていたのに」

「最初は行けると思わなかった。勇太達が帰る時に一緒に行ったらどうなるのか?そう思って、な…好奇心しかなかったな、爺に物凄く怒られたが」

「だからと言って実際にやるとは…過去に帰って来なかった者がいたり、変な病を持ち帰ったりしたからだぞ」


 二人の話を聞きながらタブーになるのは理由があるという事かと考える。今回選ばれたのが俺だったから、現代の日本だから無事に旅行まで出来ただけか。

 アルバート王子が妙な事を言い出さないように祈ろう。

「アルも勇太達に頼んでみたらどうだ?驚きの連続だぞ」

 何を余計な事を!俺と剣吾が驚く事を平気で口にするエリックをどうにかしなければ!

「今が良くなっただけで最初からじゃないぞ!」

「問題も多いんだからな?」

 剣吾と一緒に慌てて否定するとアルバート王子はあっさり諦めてくれた。

「いや、止めておこう。エリックの口振りから勇太達の国が、豊かで平和だろうと想像出来る。見てしまえば同じ位豊かにしたいと思い詰めると思う。簡単に父上が堕ちた道へ進んでしまいそうだからな」

「すまない、俺が軽率だったな」

「気にするなエリック。俺は単純で突っ走りやすいから、危ないと思ったら今みたいに止めてくれよ。勇太」

「出来るだけお前らしくしていれば大丈夫そうな気はするがな。ジェイダンさんの様子はユレアに聞けばいい、どうする?」

 ミリーが配ってくれた薬草茶を飲みながら聞いてみた。顔位は見たいだろうと思って聞いてみる。

「いや、あの場から何とか生還してくれたのだからな。ゆっくり休んでもらおう」

「あの場?まあいいか、それならアルも寝るか?」


 今からエリックとブロウディートフォレスティに戻って、明日また来るのは面倒だろうと思っての言葉だった。

 けれど黙って聞いていたゴウザン王が、急にテーブルに身を乗り出すようにして言う。

「そうだった。あの日国境の谷からどうやって脱出したのだ?そしてどうやってブロウディートフォレスティに行ったのだ。聞くチャンスがなかったから聞いていなかったが」

「すべて…ジェイダンのおかげだ」

 あまり思い出したくないのかアルバート王子は苦い表情になった。

「話す事が苦痛ならば無理は…」

 エリックがアルバート王子を心配する。

「いや、大丈夫だ。心配してくれて感謝する。あの日の事を話そう」

 ポツポツと話し始めるアルバート王子に皆が耳を傾けた。ユレアも聞きたいかなとか勝手に考えて、ミリーに呼んできてもらう。

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