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週末限定レンタル勇者  作者: 暮先 冬夜
週末限定レンタル勇者 一章
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訪問と説明

「おはようございます主様…あの、こちらの方は…?」

 翌朝村の入口で喚んだノアールは困っていた。耳が少し後ろ向きになっているから、警戒と恐怖心なのかも知れない。

 理由は単純で、剣吾が大はしゃぎだからだ。写真撮りたいとか、携帯持ってこなかったとか騒いでいる。感動するのは分かるけど、俺でも引く程だ。

 ノアールにしてみれば、どうしていいか分からないんだろう。

「剣吾。ノアールが怖がってるから、そんなに騒ぐなって」

「ごめんな、ノアール。俺は勇太の友達で、剣吾って言うんだ。よろしくな」

「剣吾様ですね?よろしくお願い致します」


「お待たせしましたな、お二人共。準備が出来ましたので出発しましょう」

 同行者は長老とユレア、そして釜を二つ持ったラルドさんだ。ちなみに、釜は米を炊く為じゃなくて、壊しても良いから同じ物を作れないか、調べてもらう為に持っていく。

 夕方までに二つの村を回るから、あまり時間はかけられない。ノアールに頼んで隣のレタスタ村へ向かう。

「ようこそ皆様。村長をしておりますマルスと言います。村の中央に皆が集まっておりますので、そちらへ向かいながら状況説明などをします」

 状況を聞くのは剣吾に任せて、俺は一番後ろにいるユレアと一緒に歩く。


「クレアさんは、まだ探しに行ってるのか?…気になるなら行っても良いんだぞ?」

 長老は二人共来るような事を言っていたが、実際はユレアだけだから探し続けている可能性を考えていた。ユレアは小さく首を横に振って否定する。

「大丈夫。姉様は地脈の安定しない場所を鎮めに行ったわ」

「そうか…早く見つかると良いな、妹」

「ありがとう勇太。…あの娘は、アリアはある意味で幼いから。心配なの」

「アリアって名前なんだな。髪の色は違うのか?」

「違うよ、金色でハチミツみたいに光沢があるの。ブラシを掛けてあげるのが好きなの」


 遠くを見つめるような顔をするユレアに、これ以上はこの話題は良くないと思った。何か話題を探そうと思った時に、いいタイミングで剣吾が戻ってくる。

 渋い顔をしているから、マルス村長から聞いた話が良くなかったんだろう。

「勇太、こっちの世界はどうなってるんだ?国民が困っていても、国が助けないなんて…」

「地球でも中世の頃は、世界中でよくあったことだろ?…今だってゼロじゃないしな」

「日本にいるからそう思えるんだよな、俺達。なあ…勇太は知っていたのか?」

 俺は黙って頷いた。領主が助けてくれないと聞いたから、子供が食事を制限しないといけないから、せめて食う事だけはと思ったのが、今に至るきっかけだ。


「だからかなのか?勇太が稲作を教えてんのは?」

「剣吾の意見も間違ってないけど、本当は違うんだよね?」

「ユレアは何か知ってんのか?流石にそこまでは細かく説明聞いてないからさ」

 いつの間にか剣吾とユレアが話し始めていた。気分転換になりそうだからいいかなと思う。

「勇太が持ってきた植物は、米と麦だったの。麦は枯れちゃったのよ」

「適応したのが米だから稲作しかないわけか。勇太も幾つか考えてたんだな」

「今だから言うけど、どっちも枯れるかも知れないっていう怖さはあったな」

 俺の言葉に二人共嫌そうな顔をするが、結果として米は育ってくれるから問題ない。話し込む俺達は足を止めていたらしく、ラルドさんが走って戻ってきた。


「皆さんはまだ来ないのかと、長老達が詰め寄られているので行きませんか?」

 大急ぎでラルドさんに付いていくと、噴水のある広い場所に到着した。集まっている村人達は俺達を見つけると、縋り付かんばかりに近寄ってきて、訴えてくる。

「女神様、このままでは村が」

「異世界の方。助けて下さい」

「お願いします、知恵を授けて下さい」

 タレサビ村よりも切羽詰まっているように見える。ユレアを見ると、村人の様子に困惑しながらも頷いてきた。俺は剣吾に近寄ると小声で話した。

「ユレアが話し始めるから、その後で俺達の出番だ」

「了解だ、勇太。ここに比べると、タレサビ村は皆大人しいんだな」

「同感だ…」


 ユレアが片手を挙げると静かになった。全員が祈りを捧げて言葉を待っている。

「聞きなさい、民達よ。異世界より招かれし者達により、タレサビは皆で生きていく道を歩み始めた。彼等は、ここレタスタにも協力をしてくれるという。よいか、皆で協力する事が大切なのだ。彼等の言葉をよく聞くように」

 タレサビでもそうだけど、女神の言葉ってすごいと思った。時代劇の後半で切り札的に出てくる、道具や決め台詞のようだ。

 その後は村人達が騒ぐ事もなく、俺と剣吾の話をちゃんと聞いてくれた。第一印象通りでタレサビよりも貧しく、資金の蓄えが少ないらしい。


 村長宅に案内されて話の続きを始める。俺達はテーブルで村のまとめ役の数人と、ラルドさんは釜を持って、部屋の隅で村の男達と話し合っている。

 分かった事はというと、作物や森の異常が同じで、タレサビと同時期に蓄えがなくなる事、道具を作る事は他の二村より優れている事、家畜は少ししかいない事、子供の数が少ない事だった。

 俺と剣吾は唸っていた。財政状況が厳しい上に、食糧が枯渇する時期が重なるからだ。何とかならないだろうかと、必死に考えるが思考のみだと限界だ。

「マルスさん、紙と書く物が欲しいんだけど…まあ、それでも構わないよ」

 大きめの木の板と、木炭みたいな物を渡された。とにかく書き込んでいく。


「勇太、何か思い付いたのか?…お?そうか、それならいけるか」

 板を覗き込んでいた剣吾が気付いてくれた。追加で木炭を借りてきた剣吾が、俺が書いた周りに追加で書き込みをしていく。

 日本語で書いているから、周りの連中には内容が伝わっていないだろう。

「待て、勇太。先にこっちをこうして、後からここで…こうっていうのは?」

「ありがとな剣吾。そうだよな、それしかないよな」

 板が文字と図で埋まるまで、二人でブツブツ言いながら書き込んでいく。

「…よし!こんなとこだろうな。皆、話を聞いてくれるか?」

 ラルドさん達も集まってから説明を始めた。


「米を栽培する為の水田を作ってもらっても、収穫前にレタスタは食べていけなくなる。しかも財政難だ」

 レタスタ村の男達が苦い顔をしているから、状況は理解しているんだろう。

「だから水田は予定通り作るが、先に収穫時期になるタレサビの米を分配しようと思う」

「勇太さん、待って下さい。それでは我々の村が次の収穫まで持たないですよ?」

 ラルドさんの指摘に剣吾が頷きながらも、板を立てて皆に見せる。中央辺りに図と文字があるから、そこを示しながら続きを説明してくれる。

「勇太から聞いたけど、この国は一年中暖かいらしいよな?そうすると、米は年間で二回収穫出来るんだ。この図を見て欲しいけど、文字が不明だろうから説明していくぜ」


 剣吾はタレサビと書いた文字の横の丸を示す。収穫した米を表わしている。

「タレサビでこれだけの米が出来たとする。その一部をレタスタに渡す。次にレタスタで米を収穫したら、タレサビに返す」

 レタスタとタレサビの間に書いた矢印を指して剣吾は更に言った。

「何ヶ月も時期がずれたりするわけじゃない。お互いが協力して、融通しなくてもいいところまで繰り返すんだ。もちろんソンノも含めてだ」


 剣吾の説明に全員が何かを考え込んでいる。疑問は先に聞いておく方が良いから水を向けてみた。

「剣吾の話で質問は?後は反対意見なんかも言ってくれ」

 質問は幾つかあったが反対はなく、細かい取り決めや次回の打合せに移行していった。

「それでは皆様、次回までに水田を作っておきますので、よろしくお願いします」

 ノアールに乗って出発する俺達に村長が手を振る。次に向かうのはソンノ村だ。

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