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週末限定レンタル勇者  作者: 暮先 冬夜
週末限定レンタル勇者 一章
11/172

呼び出し

「ユレア聞こえてたか?」

 森での話の時に追加で教えてもらったが、改造で変化した腕輪に付いた特徴は二つあった。一つ目は帰ってきても消えることはないということ、実際は俺にしか見えないから関係ないけど。

 二つ目は小さい宝石がはめ込まれているから、それを外すとオンではめるとオフで会話が出来るようになること。石を外して腕輪に向かって言うと返事が返ってきた。

「聞こえてるよ。大事な友達は帰ったの?」

「そうだけど、困ったなあ。なあユレア、予定はないけど念の為に確認して良いか?」

「何?教えて」

 俺は少し考え込んでからユレアに聞いた。


「転送の魔方陣は範囲を広くすることが出来るのか?」

 暫くユレアは無言だった。よく聞けば誰かと話しているようだから、クレアさんに質問をしているのかも知れない。

「お待たせ。広げることは出来るよ。注意点が一つあるけど」

「注意点?」

「うん。範囲を広くするとね、色々な物を転送させちゃう可能性があるから、勇太が触っている物に限定しておくね」

 確かに無差別はまずいから、妥当な設定だろう。

「分かった。まあ、必要があれば頼むよ」

「それじゃあ変更があれば連絡してね」


 一週間なんてあっという間だと思った。先輩について客先訪問をしたり、見積を少し間違えて課長に絞られたりで早くも木曜日の昼だ。

 次に向こうで何をやろうか考えながら昼飯を食べていたら、剣吾からメールがくる。

「何だ?は?今夜くるって、荷物預かれって何だよ」

 荷物を預かれって事しか書いてないからどの位の量か分からない。今回はミリーとサンチョスだけにパンを持っていく予定だ。

 大荷物を持たされるのはなあ。そんな事考えて昼からの仕事をこなした。金曜夕方から日曜日の夕方まで居ないから、冷蔵庫に生鮮食料品が残らないように、しっかり飯を作った。

 剣吾が来るからちょうどいい。来るのが女の子だったらいいのになあって思った。


 『別に食わなくてもいいぞ、まあついでだ。冷蔵庫の整理だからな、わざわざ作ったんじゃないからな!』

 とか逆ツンデレ出来るのに。そんな相手も度胸もないのが悲しいけど。妄想で遊んでいたらチャイムが鳴る。扉を開けたら段ボール箱が沢山あった。

「勇太、悪いけど明日まで預かってくれ」

「何だよ、この段ボールの量は?俺の部屋はそんなに広くないぞ」

「細かい事言うな。明日もまだあるからな」

 せっせと荷物を運び込んでいる剣吾を見ながら先週の話を思い出す。

「待て剣吾。お前本当に行く積もりか?」

「言っただろ?俺も連れていけってさ。それよりも勇太、腹減った。飯食わせてくれ」

 話を聞いちゃいない。とりあえず一緒に晩飯にする。


「うめえ!勇太は飯作るのが上手いよな!野郎の一人暮らしなのにな!」

「おだてても誤魔化されないぜ」

「そう言うなよ。明日まで待てっての。お、これは?食った事ないな。結構いけるな」

 あっちの話は明日にと剣吾が譲らないから諦めよう。

「きりたんぽ風スープにしたかったんだよ。向こうに醤油に近い調味料があったんだ」

 剣吾に好評だった汁物を食べてから答えた。

「勇太は稲作を定着させる気だよな?だからだな。今日のおかずが全部白米向きなのは」

 言われてみればそうだった。ご飯ありきで作っていた。

「無意識って怖いな、言われて初めて気がついた」

 剣吾はおかずをがっつきながら茶碗を差し出してくる。

「勇太、お代わり」

 やっぱり聞いてねえ。まあ、剣吾は何だかんだ言っても社長だから、付き合いとか接待で舌が肥えてる。

 美味いと言ったなら今後の計画に組み合わせるのも悪くないだろう。


「あー、よく食ったー。腹一杯だぜ。勇太、お茶」

「てめえはどこの旦那様だ、まったく」

 ゴロゴロしながら食後のお茶を要求する剣吾に、文句を言ってから出してやる。

「そういや勇太、あれ進んだか?やってないよな多分」

 剣吾の話はゲームの事だろう。

「いや、少しだけ始めた。まだ最初の村周りだけど」

 剣吾はガバッと起き上がって俺を見た。

「マジか!やべえ出遅れた。お前余裕だな」

 我ながらよく時間あるとは思っている。単に睡眠時間削ってる駄目な奴なんだけど。

「そうは言っても、レベル上げだけだ。ストーリーを進めてる訳じゃねえよ」

剣吾は安心したような顔だ。


「あれってシステムは単純に見えるけど、状態に合わせて職業と別に名前つくのが面白いよな」

 剣吾が言ったのは行動に合わせてつく呼び名だ。ちなみに俺は職業が魔法剣士で、呼び名は何故だか村人達のお兄さんだった。

「剣吾は今どんな状態だ?」

「俺は職業が傭兵で、呼び名は通りすがりの旅人だ」

 あれ?最初は皆同じ呼び名とかがパターンだよな?まあ、バラバラにしてやり込ませるって事だろう。深く考えない事にしよう。

「明日も早いからそろそろ帰るわ、七時だからな」

「分かったよ、しつこいな。じゃあな」

 剣吾が帰った後で後片付けをして、荷物の山を見てため息が出た。


「お先失礼します」

 定時を少し回ってから会社を出た俺は駅まで走る。七時前に何とか目的地についた。

「いらっしゃいませ。あら、高野君じゃないですか。社長達が待ってますからどうぞ」

 事務員さんに言われて廊下を進む。擦れ違う人に挨拶していたら剣吾がきた。

「おう、早く来いよ。皆待ってるからさ」

 皆?待ってる?どういう事だろう?疑問だったが剣吾に言われるまま会議室の一つに入った。

「久し振りだな、勇太。元気にしてるか」

 机の向こうから大きな声で俺に話し掛けてきたのは、副社長の関口さんだった。驚きながら見れば他に二人いる。


「ご無沙汰してます、関口さん。あの、今日は一体何でしょうか?青山さんと谷崎さんもいらっしゃるみたいですが」

「ん?剣吾から何も聞いてないのか?…まったく、そういうとこがまだ甘いってんだよな。勇太もそう思わねえか?」

「あははは…でも俺にだけしか、そういう一面は見せられないんでしょう…社長としてやらないといけないから」

 俺をじっと見ていた青山さんが頷きながら言う。

「そうだね。坊は頑張り屋だからねえ。勇太君よく来たね、さあ座って」

 俺が着席して横を見ると剣吾が肩を落として、谷崎さんに慰められていた。

「青山さん、お願いだから坊って言うの止めて下さい…」


 関口さん達は剣吾の会社の重役さん達だ。確か関口さんが副社長兼、営業部統括部長で、青山さんは専務、谷崎さんは第二営業部の部長のはず。

 そんな人達に呼び出される覚えがない。今勤めている会社と剣吾の会社は、取引もない。だから仕事で何かの失敗を俺がした訳でもないはずだ。

 こっそり遊びに来ている時と違う雰囲気に内心で困っていたら、関口さんに見抜かれた。

「勇太、そう身構えるな。今日はお前に話があったんだよ、剣吾の願いでもあるけどな」

 剣吾の希望と言われて横を見ると、ニカッと笑った剣吾と目が合う。

「あのさ、勇太。俺、お前が欲しいんだ」

「…どんな意味でだ?そっちの趣味はないし、お前のご飯係も嫌だぞ」

「違うっての。勇太、俺と一緒に会社をやっていかないか?」

「は?」

 いきなりの発言に俺が固まっていると、見かねた青山さんが補足をしてくれた。

「ごめんね勇太君。坊の説明が不足してて。結論だけ聞いても分からないよね、私達から説明をさせてもらうよ」

 俺は青山さんの方を見て何度も頷いた。苦笑されているが仕方がない、状況が分からないんだから。

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