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週末限定レンタル勇者  作者: 暮先 冬夜
週末限定レンタル勇者 一章
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社会人一年生、研修中

「何度言ったら分るんだ?大体お前は普段からやる気というものがだな?聞いているのか」

 俺は課長に怒られていた。こっちは社会人になったばかりだから、先輩として少しくらい大目に見て欲しい。

 今回は客先へ出す書類に誤字脱字が多かった事が原因だが、使っているパソコンの辞書機能がすごかった。

 以下の事例にという言葉を烏賊の辞令にと変換するのだから、俺のせいじゃないと思う。見落としたからダメなんだけど。

「とにかく直して再提出だ、始末書も書け。今日中にだ、いいな」

 課長から書類を受け取って自席に戻る。残業確定だ。


 俺、高野勇太。二十二才、独身で絶賛彼女募集中。社会人一年生だけど現在書類と始末書を書かされている。

 後ろでは課長が見ているからってわけじゃないけど、一応真面目にやっている。結局書類を直して会社を出たのは午後十時。

 終わるまで課長が待っていてくれたことにお礼を言って、近所のコンビニでビールを買ってから部屋に帰った。

 スーツを脱いで部屋着になってから冷蔵庫を覗く。

「最近ミスが多いのかな。結構いい頻度で注意をされてる気がする…ちょっと辛いな。さて食い物はっと」

 豆腐とチーズとハムしかなかった。今から外へ行くのは面倒だ。豆腐を取り出してフィルムを剥がしてからそのまま醤油をかけてかき込んだ。

 食事とは言えない晩飯後にビール片手にメールチェックをするが、くだらない内容の広告メールがほとんどだ。

 幾つかはネット仲間からのメールだがゲームの情報交換くらいしか書いてない。

「ゲームの話が多いよな。仕事の話もしてみたいけど、向こうから言われるまで待とうかな。俺はどんな道へ行くんだろう…このまま平?違う、きっと…」

 社会に出てからは独り言を言いながら酒を飲むことが癖になってしまった。


 二本目のビールを開けてあおり始めた時に二通の新着メールが届いた。一つは大学時代に同じゼミで割と仲が良かった奴からだ。

 大手企業に就職して要領良くやっている奴で、きっと出世街道まっしぐら、人生勝ち組のレールに乗っているんだろう。

 卒業後は何となく疎遠になって俺からは連絡をしなくなった。たまに現状報告や女を紹介してくれるとかの、ややお節介なメールが来るだけだ。

「近状かな、女かな…紹介してくれるっていっても、緊張して何言えばいいのか分かんないんだよな。結局あいつに迷惑かけちゃうし、彼女いない歴年齢って不利な気がする…」

 開いてみたら現状報告で、上司から得意先を任されるようになったと書いてあった。良かったな、俺も頑張ると書いて返信しておくことにする。

 もう一つはネット仲間だけど妙に気が合うから頻繁に連絡を交わす奴からだ。住んでいる場所も意外に近いから一緒に出掛けたりもする。


「こっちは剣吾からか。おお?あのゲームって制作会社が潰れてお蔵になったと思ったのに出るのか?」

 剣吾からのメールには話題の新作オンラインゲーム情報が書かれていた。制作途中で会社が経営破綻して棚上げになっていたけど、他の会社が引継いで完成したらしい。

「へえ、今月末に出るのか。今から予約で間に合うかな。剣吾にはいつものようにって返しとかねえとな」

 剣吾とオンラインでやるときはお互い約束していることがあった。キャラのレベルが上限の半分以上になるまでは組まない。

 お互い足手まといにならないようにだけど、俺の方が低かったとしても多分剣吾は気にしないだろう。要は俺のつまらない見栄がそうさせてるだけだ。

 剣吾に返信した頃にはアルコールの影響で眠くなってきた。明日も仕事だから寝ることにする。


 飯を食わないで酒を飲んだのがまずかったのか、寝付きが悪かったのか寝坊した。

 慌てて部屋を出て駅へ走る。何とか遅刻にはならなかったが、同じ部署のお局に寝癖を指摘される。

「あら高野君どうしたの?髪型変えた?」

 寝癖がひどいって言えばいいのに…適当に誤魔化して自席に向かうことにする。

「いや、ちょっと気分変えてみたくて。似合います?」

 いつの間にかこんなことも自然に言えるようになった。

「さて、本日の予定はっと。研修と外回りか…俺が役に立つ日はいつだろう」

 自席で与えられた仕事内容を確認して今日も一日が始まる。

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