プロローグ
「シグルド様の、お帰りー!」
アグリア王国の王宮。その門前で、凱旋のラッパが鳴り響いた。
「お帰りなさいませ」
「無事ご帰還、嬉しく存じます」
「流石はシグルド様」
配下の者達が深く頭を下げながら、アグリア王国の第二王子であり、第一騎士団の団長を務めるシグルドの帰還を喜んだ。
「全く、野盗狩りから帰還しただけだというのに、大袈裟な事だ」
隊の先頭を行く漆黒の髪、双眸を持つ美青年、王子シグルドは、大仰な出迎えに小さく溜息をついた。
広場で馬を止め、鏡のように磨かれた床に降り立つ。駆けつけた召使いに手綱を任せ、城内へと向かう。
「シグルド」
ふと呼び止められ、シグルドは歩みを止めた。
シグルドを呼び捨てに出来るのは、城内では二人しか居ない。第一王子である兄ドノヴァンと、父であり国王であるレイディルに他ならない。シグルドを呼び止めたのは、ドノヴァンだった。
「兄上が出迎えとは珍しいですな」
「それは嫌味と取って良いのかね?」
シグルドにはそんなつもりは無かったのだが、ドノヴァンの片方の眉がぴくりと動いたのを見て「まずい」と思った。が、ドノヴァンはすぐに表情を和らげ――しかし口元に怪しい笑みを浮かべながら――シグルドの肩をぽんと叩いた。
「冗談だ。ところで、父上がお前に話が有るそうだ。後で王室へ行くように」
兄は普段は優しいが、よくシグルドに意地悪をするという悪癖が有る。特に、今みたいな笑いをするときは。
「……分かりました」
一抹の不安を覚えつつも、シグルドは頷いた。
これから先、その身に降りかかる幾多の不運を、まだシグルドは知る由も無かった。
国王レイディルからの話によって、まさか自分が多難な運命を歩むことになろうとは、考えもしていなかった。
覚えてある方はお久しぶり、初めての方は初めまして。
あらすじを見て「何だこれは、ベッタベタじゃねーか」と思った方も見えるとは思いますが、今回は「よくある御伽噺」をモチーフとして構成してあります。
とは言え、読んでいてツマラナイと思われないように頑張りたいと思っていますので、出来れば最後までお付き合い頂ければ幸いです。