真琴の章 2
グッドモーニング諸君! 中学生になるまで、アメリカの首都はニューヨークだと思っていた まこっちゃんで御座います。
なんだよワシントンって!? 人じゃねぇの?
そんな感じで今日も生きてるまこっちゃん、落ち込むこともあるけど、私は元気です。
ちなみにあれだ。風俗業界じゃ、たとえ深夜でも挨拶は常に『おはよう』なんだぜ? これ豆知識な!
っつー訳でね、今回も風呂屋の接客業務について語ってやるとしましょうかね。
君達もこれが聞きたくて今までページをめくってきたんだろう?
この愛すべきエロ野郎共め!
けどまあ、
メフィスト的にあまりリ
ア
ル
な
描 !
写 ね
は ど
け
す
で
ん
な
G 残念だったな
N エロ野郎の諸君!
まぁいいや、とにかく何か話さないと間が持たないしな、では談話室の話をひとつ。
まあ談話室の話っつっても、まずは私の自室から始まるんですが、昨日ね、仕事中に買い置きの入浴剤が残り少ない事に気付きましてね。ウチの店は入浴剤は女の子が自分で用意するんですよ。
まあ別にわざわざ自腹切って買う必要も無いわって女の子も多いんですけどね、そこはほら、ナンバーワン嬢のまこっちゃんですよ。ちゃんと用意しますよ私ゃ。
私は通販で取り寄せた各種ハーブの入浴剤を店のお風呂の棚に常備してるんですよ。【御部屋持ち】の特権って奴です。
あ、【御部屋持ち】ってのは、成績優秀な娘には固定の客間をあてがって、好き勝手に部屋を使っても良いって制度です。
御部屋持ちの子はガンガン荷物を持ち込んで部屋を私物化する権利が与えられるんですよ。
ちなみに、普段は毎朝の部屋の割り振りも、お部屋持ちの娘の客室は外して割り振られます。そりゃ、あたしが休みだからって、自分の部屋で接客されるのも、あんまり気分の良いものじゃないですからね。
なお、ウチの店は私と翔子ちゃんが御部屋持ちです。
そんなマイ客室201。私のチョイスで小洒落た容器のボトルの入浴剤を並べて悦にひたってたのですが、まこっちゃんヌかりました。うっかりカモマイルの入浴剤を切らしちゃった! 確認してみると、ミントも残りわずか。ラベンダーとローズはしばらくは何とかなりそうですが、こいつぁー困った。もっと早く補給をしておくべきでした。
仕事が終わって帰宅したのが午前0時。
こんな時間に開いてるような殊勝な店はコンビニか24時間スーパーくらいなもんです。しゃーねー、ちょっと行ってくっか。
私は車を走らせます。
さて、24時間スーパーに来てみたものの、予想通り私が使ってる入浴剤はありませんね。くっそう……
しかし、捨てる神あれば拾う神もあるもんでして、1つのコーナーに目が留まります。
私の目を引いた物。
それは『日本の銘湯』シリーズ!
温泉としては鉄板である草津、別府、登別。地元岐阜県が誇る下呂。そして妙に気になるのが
『秋田 乳頭の湯』!!
なにこれ!? 乳頭? 乳首!? 乳首の湯か!
こいつぁー買いです!
決めた。ハーブの次は金津園で温泉三昧をテーマに風呂を演出する事に決定!
銘湯シリーズをひととおり並べ、出来ればバスタブも檜風呂にしたい所です。乙原に頼めば何とかしてくれるんじゃねーかな? あいつ元、宮大工だし。
よし! とばかりに私はカゴを銘湯シリーズで満たします。
午前1時、ガランとした店内の入浴剤コーナーで不適な笑みを浮かべる女。冷静に考えりゃ、かなりの勢いで不審人物です。
ふふふ、早速この乳頭の湯をお見舞いしてやるぜ。朝一の客め!
!
ぇ
ね
来
おいおいおい、お昼過ぎても客来ないよ、どーなってんの?
確かコバっちは朝一に予約が入ってると言った筈なのになー。
取り合えずフロントに行って状況を確認することにします。
「コバっちー、お客はいつになったら来るのさー?」
「うーん……【前日確認の電話】も頂いてませんし、これはもう来ないと判断するしか……」
【前日確認の電話】ってのは、文字通り、店に予約を入れた事を確認させる電話です、お客さんは前日に店に一報を入れますが、これは店に対しキャンセルをする気が無いという事を意味します。
結構ね、最初に予約だけ入れて、その後すっぽかしをする奴がいるんですよ。
「んなー! よりによってこのあたしに肩透かしを食らわせるとは不届千万!
こりゃお前、軍法会議もんだぜ!?」
「……申し訳ありません……」
コバっちはしょんぼりした顔で私に謝ります。いや、あんたが悪い訳じゃないけどな……。
通用口にはアイスペールが2つ用意してある所を見ると、どうやら客を待っていたのは確かなようです。
「しゃーない、ちょっと談話室でテレビ観てるわ」
来ないものはしょうがない。気を取り直して一旦部屋に戻り、上着を着て談話室でくつろぐ事にします。
乳頭の湯の試験運用は次回に持ち越しです。試してみたかったんですけどねぇ乳首の湯。
色とかピンクですよ絶対。
「ありゃ? 昭の字、何してんの?」
上着を羽織り、談話室に入ると、乙原が工具を手に、コタツをいじくってます。
「……何してるも何も、昨日コタツが壊れた腹いせに関節技を極めやがったのは、どこのどいつですかね?」
ああ、昨日のオモプラッタの一件か。そういや壊れてるんだっけコタツ。
「で、どう? 直りそう?」
私は乙原の手元を覗き込みながら声を掛けます。
なにやらドライバーで電源コードをいじくっている様子。絨毯の上にはペンチやニッパーや、何か目盛りが付いた変な機械が置いてあります。
「んー……多分コードの接触不良だと思う……」
手元から目を離さず、乙原からはそっけない返事が返ってきました。うむ、頑張れ昭の字!
「ほほう! 所で、この変な目盛りと金具が伸びてるメカは何じゃい?」
許可も得ずに、目盛りの付いた面白メカをいじくり回す私に乙原が仏頂面で答えます。
「ああそれか? 『テスター』っつって、電流が通ってるかどうかを調べる機械だ……」
「へー……今日びの宮大工はこんなん使って寺を建てるんか、すげえな!」
「いや、それは親父のお古だ。
ウチの親父、電気工事士の資格持ってるからな……っておい! 手元がブレる!」
「お? すまんすまん」
私は乙原の肩口から伸ばした腕を引っ込めます。しかしこいつ、高校時代は撫で肩のモヤシっ子でしたが、
「昭の字、お前結構ガタイ良くなったな~……」
演劇部員ってのは、男とはいえ、大なり小なり運動が苦手としたもんです。シーズンオフの暇な時期は、備品の化粧箱を使って乙原に化粧して遊んだもんですよ。調子に乗って制服も交換したりしてね。当時は意外とスカート姿が様になってましたが。
「そりゃ毎日玄翁振ってりゃ、筋肉も付くさ」
「ゲンノー?」
「『なぐり』の事だ」
『なぐり』ってのは、芝居用語で『トンカチ』の事です。
こう見えて高校演劇の世界も昔ながらの用語が使われたりします。寸法とか、場合によっては大道具の配置とかを尺寸で説明したりしますしね。
「ほうほう、つまり、この胸筋はなぐりを振りまくった成果かね。こりゃ大したもんだ」
かつてより広くなった肩口から引っ込めた腕は、今度は脇の下から伸び、乙原の胸板周辺をいじくり回します。
「だから邪魔臭ぇって言ってんだろ!!」
「ファファファ!
貴様、さてはドキドキしておるな?」
「なんでラスボス口調だよ!?」
暇なんだよ遊んでくれ。
「しかしお前、あれだ。ちょっとはこの状況を有難く思えよー。
店のコタツを直す支援にわざわざおっぱいの温もりを供給するナンバーワン嬢なんて、このあたし位なもんだぜ!?」
「背中がくっついてるかと思いきや、実は乳だったか!
こりゃ1本取られたな」
「……お前、『チョークスリーパー((背後 裸締め))』という技を知っているか?」
「すんませんでした!」
☆ ☆ ☆
「さて、これでコードは大丈夫だと思うが……
って……何お前、その格好?」
配線作業を済ませ、ようやくこっちに顔を向けた乙原は珍妙なものを見る目で私を見やがります。
「ん? この上着か?
まこっちゃん愛用のドテラだけど?」
「……客が付いてないときは、それ着てんのか?」
「下着が透けまくりの制服じゃ寒くてかなわんからな、結構綿が入ってるしね、温いぜ?」
私はドテラの裾を摘んでくるりと回ってみせます。
「ちなみに裏地は春画だ!」
メフィスト的に、見せるのはNGだ!
「……そういうの、どこで買ってくんの?」
「お店屋さんに決まってんだろうが!
どうよ、このほとばしる色気?」
「……お前、芸術作品とか見ても『かわいい』の一言で済ますタイプだろ……?」
そう言いながら、乙原はコードをコンセントに挿します。
っつーか、この野郎。この私のドテラ姿の萌えっぷりに気付かないとは、お前の目はケツ穴か!?
「……よし。ちょっとスイッチ入れてみな?」
「スイッチ? ここかな?」
パッ!
スイッチを入れると、コタツの機械が赤く灯り、その鈍い輝きは私に復活を宣言しているようにも見えます!
「おぉぉぉ!! 立った! クララが立ったー!!」
台詞とは逆に、私はコタツの中に潜り込みます。
「これで修理は完了だな」
工具を片付ける乙原。天晴!
「でかした!
よし、褒美にオッパイを3回だけ揉む権利を貴様にくれてやろう!」
「気持ちだけ頂いておく」
なんだとこの野郎!?
「けどまあ、あれだ。そのテスターとやらを授けてくれた、あんたの親父さんによろしく言っといてちょ」
だんだんコタツが温もりを増してくるのが解ります。快適至極!
「そういや親父さんはさておき、綾ちゃんは元気にしてんのかー?」
乙原の妹、綾ちゃんは、私が高校3年の春に新入部員として入部してきた子です。
ちゃんと説明しますと、乙原と私は県立の馬鹿高校の演劇部でしてね、私は『演出』として役者を仕切り、乙原は『舞台監督』として大道具などの裏方を仕切ってました。
よその学校でもそうであるように、ウチの演劇部もオタク揃いで、綾ちゃんとはこれからの日本アニメ界について熱く討論したものです。これはこれで青春だったんだぜ諸君?
「あー綾女な。
……そういえば、お前さんと連絡取りたがってたぞ?」
そう言いながら乙原はポケットをゴソゴソと探って、1枚の紙切れを取り出しました。見ると女の字でメルアドと080から始まる番号が書かれています。
これが綾ちゃんのアドか……チラシの裏ってのが、あの子らしいですね。
「ん? 昭の字、これ綾ちゃんのアドしか書いてなくね?」
「それがどうした?」
「お前さんのアドは? ちょっと教えてみ?」
「俺がお前にアドレス教えたら進退問題になるだろうが」
「ああ、そういうことか。お前、妙な所で堅苦しいのは相変わらずだなぁ」
「
風俗店における店員の心得其の五
店の女の子に手を出すなかれ! 最大の背信行為と見なす!
……昨日、店長と中居さんに叩き込まれたマニュアルだ」
「ほほう、そんなんあるんか。
しかし、『其の五』って事は、其の一から四はなんなん?」
「教えてやってもいいが……そろそろ美樹さんと翔子さんの【アップ】30分前だからな、俺は仕事に戻るぞ……」
工具を片付け終えた乙原は時計を見ながらそう言い、漆黒の背広を羽織って面倒臭そうに仕事に戻ります。部屋から出る前に鏡で神経質そうにネクタイを直す所を見ると、身だしなみについて説教を受けたのでしょうか?
私は1人残った談話室の中でコタツに入りつつ、超久々な綾ちゃんに送るメールの文面を考える事で時間をつぶす事にします。
ちなみに【アップ】ってのは【UP時間】と言って、プレイが終了して、お客さんがフロントに戻ってくる時間の事です。
「あ、真琴ちゃん、おはよ。
……暇そうだね」
「翔子ちゃん、おはよー」
部屋に入って来たのは翔子ちゃんです。いや、暇っつーか、綾ちゃんに久しぶりメールを送った後、高校の部活時代の事を思い出しながら、コタツに入ってマッタリするのに忙しかった訳ですが……うん、すなわち暇って事か。
「……恵那ちゃんいる……?」
「? 見ての通り、あたし1人でありんす」
「おはよ~、誰かいる~?」
今度は美樹ちゃんがアップしたようです。ちょっと眠そうな顔をして入ってきました。
「……」
翔子ちゃんは無言で退出します。
恵那ちゃんになんの用事があったんですかね?
「あ、ねぇねぇねぇ~真琴ちん! そういや真琴ちんってさ、地元民だったっけ?」
「? うん。一応岐阜県出身だけど、なんで?」
流れ者の多いこの業界、地元出身者はそこそこ珍しい存在です。
「ほら、あたしって最近金津園(この街)に来たからさ、デートスポットって知らないのよ~」
美樹ちゃんはコタツに入りつつそう言うと、タバコに火をつけます。隣で吸われると自分も吸いたくなってくるものでして、さて私のタバコは、と
「あ、そういやあたし部屋にタバコ忘れてきちゃった!
美樹ちゃんごめん。1本めぐんで!」
「いいよ~、漢方タバコだけどいい?」
なんでそんなマニアックなのを吸いますか!?
「……それどんな薬効があるの?」
「ん~と、高血圧、その他って書いてあるね」
その他ってのが非常に気になる所ですが、試しに1本頂くことにします。
「あんがと。さて、地元民のみぞ知るスポットね……」
紫煙を輪っかの形でポコポコ吐き出しつつ、脳内に検索をかけます。
っつーか不味いなこのタバコ。これさ、かえって健康に悪いんじゃないの?
「珍しい所……
仏
大
の
阜
岐
なんてのは?」
「……なにそれ?岐阜に大仏なんかあんの……?」
説明しよう!
日本三大大仏とは、奈良の大仏、
鎌倉の大仏。
そしてもう1つが岐阜の大仏であり、岐阜市内にある
『正法寺』に
その大仏があります。
なお、奈良、鎌倉の2大メジャーは鉄板ですが、それに続く第3番目については岐阜だけでなく、各地方の大仏もそれぞれ『日本三大大仏』を自称しており、議論はいまだ決着が付いていないのが現状です。
「これで1つ賢くなったね美樹君?」
「……心の底からどうでもいいです先生」
「けど、せっかく大仏あんのに意外と岐阜県民でも知らない奴が多いんだけどね」
「っていうか~、この大仏談義、長くなりそう?」
「あたしに客が付くまで続くけど?」
「……退室していいですか先生?」
「いやいやいや、何を言っとりまんこ!?」
「ってゆ~かさ~ぁ?
この岐阜の大仏ってカップルで行ってさ~、盛り上がる場所なの?」
「
!
「 ん
? ゃ
然 じ
全 目
ぁ 駄
や ら
い た
」 っ
だ
」
んな事いわれてもなぁ。この岐阜市も金津園くらいしか名物が無いですからねぇ……。
「そうだ! 関市で日本刀の資料館に行くってのは?」
「……盛り上がる~?」
「あたしはかなりの勢いでテンションが上がるけど?」
「真琴ちんのテンションが上がってもな~」
「なんで!? 日本刀、超かっこいいよ?
言っとくけど、関市はただの田舎じゃねぇですよ? 米軍のナイフも一部は関市で作ってんのよ!?」
岐阜県関市は昔から刀鍛冶が多く、今でもナイフや剃刀といった刃物産業が盛んな街です。
ミリタリーオタクでもある私は、東京に居た頃、ミリタリーショップでネイビーシールズのナイフに『SEKI JAPAN』と刻印されてるのを見て失禁しそうなくらい感動したものです。
「ん~、他に何かない~?」
美樹ちゃん、明らかに不満そう。こんな生意気な女は、1発張り倒してヒーヒー言わせてやろうか!?
「飛騨高山は?」
「一晩で帰ってこれる~?」
ちょっと遠すぎますね……
「っつーかさ、そもそもなんで急にデートスポットなんて探してんの? 美樹ちゃん、この街に来てまだ半月くらいじゃん。
普通なら買い物するとことか探すんじゃない?」
「ん~この前、クラブで知り合った人と仲良くなっちゃってさ~今度デートすることになったのよ~」
「だったらその彼に連れてって貰ったらよくない?」
「でも~彼ってちょっと頼りないところがあってさ~、ほら、あたしがちゃんと面倒見てあげないと! 的な、ね?」
「なるほどね、ちなみにクラブってどこの?」
「柳ヶ瀬の『堕天した鵜』だけど?」
語呂が悪い店名だな!
しかし、駅前の柳ヶ瀬(飲み屋街)にそんな店あったっけか?
「……何屋?」
「だ~か~ら~、クラブだってば!」
「ホストクラブ?」
「ホストクラブ。」
嬢ちゃん、そりゃヒモフラグ立ってますやん!
「あー……一応確認するけど、彼氏はホストなの?」
「うん、あたしと一緒で、まだ入店したばっかだから中々指名が取れないってしょげてた。
あ、そうだ! 真琴ちんも行ってみない?
決まり! 今晩行こう!」
『堕天した鵜』にか?
「……あたしは遠慮しとくよ……」
なんか、マルチの勧誘を受けてる気分ですよ。
コンコン……ガチャ
駄々をこねる美樹ちゃんをよそに、失礼しますと言いつつ入ってきたのは乙原です。ナイスタイミング!
「真琴さん、スタンバイ願います」
基本、ボーイさんは我々には敬語で接します。乙原もさすがに他の人がいる所ではあたしに敬語を使ってますね。
「お、客かい?」
「……御新規、アルバム指名のお客様です……」
「よっしゃ毎度あり! そんじゃ支度すっから、ちょいと待っとれ」
私は漢方タバコを灰皿に押しつけ、大きく伸びをします。
んー、コタツに入ってると眠くなりますねー。
「あ、ねぇねぇボーイくん。あんた地元民?」
まだ火の残っている漢方タバコを手に、美樹ちゃんは今度は乙原に質問を開始しました。
「はい。岐阜県は養老町民ですが?」
「地元民しか知らない隠れスポットって知らない~?」
「タウン誌に載ってないような所ですか?」
「そ~! そんな所!」
美樹ちゃんは興味津々な顔で食いつきます。
18で東京に出た私と違って、こいつは生粋の岐阜在住者ですからね、参考に私も聞いておくことにしましょうか。
「でしたら、ここから車で “
15分程の所に 仏
大
の
阜
岐 ってのがございますが?」
”
「
大
仏 「いや、しかし、岐阜の大仏は
は 『日本三大大仏』
も としてですね?」
う
い
い
「そんなん連れてったら ん
彼氏にドン引きされるわ!!」 だ
よ
!
」 美樹ちゃんは
半ギレです。
さて、半ギレの美樹ちゃんは置いといて、私は仕事の支度をしましょうかね。あ、レイ子さん、おはよ。
そうだすっかり忘れてた。入浴剤、秋田『乳首の湯』の試験運用をするんでした。
なに? 乳頭の湯? 細けぇこたぁいいんだよ。
さて、元々すっぽかした朝一の客の為に、ベッドメイクとかは既にしてありますからね。支度っていってもドテラをロッカーに戻して髪を整える位です。そうだ、仕事の前に口直しに自分のタバコを一本吸っておきましょうか。今日びは男も嫌煙家が多いですからね、そんなお客さんの前では決して吸わないのが女道ってもんですよ。
消臭スプレーを用意しタバコに火を付けると、誰やらノックをする者がいます。
コンコン
「あいよー」
ノックの主は乙原でした。
「失礼します。真琴さん、お客? ……様……がナースのコスプレ希望との事なので、よろしくお願いしますってゆーか、お前なに吸ってんの?」
「タバコだけど?」
「いや、煙草は見りゃ解るけど、その筒は何? キセルって奴?」
乙原は珍しそうにまこっちゃん愛用の煙管を眺めています。
「ああこの煙管か。いいだろこれ?
東京に居た頃に巣鴨で買ったんだよ。職人の手作りで、こうやって普通の巻きタバコも刺せるしね。ちなみに純銀製だ!」
「値打物ってのは解ったが、それで吸うと何か違うのか?」
「特に変わらん。しいて言えば気合が入る!」
「ああそう……とりあえずナース服で頼む」
乙原はつっこみきれねぇよ、って顔で部屋を出て行きます。解ってねぇなあいつ。煙管で吸うのは煙じゃない。心意気なんだぜ?
ポン……
と、煙管を逆さにして手に叩き、煙草を灰皿に落とします。吸殻は水に付けて消火しゴミ箱へ。その後、灰皿を洗い、ティッシュで水気を拭き取りテーブルに戻します。部屋に消臭スプレーを撒いてアロマポットに火を付けます。このポットもあれだな、風呂を温泉シリーズにするなら、香炉でお香を焚いたほうがいいかな? 帰ったらネットで調べてみましょう。あ、そういえばナース服で出迎えるんだっけ。着替え着替えっと。
さて、戦闘準備完了。まこっちゃん、出撃します!
「おう昭の字。赤コーナーから店のナンバーワンが入場だぜ!」
「……また訳の解らんテンションで来やがったな……店長?」
エレベーター脇で突っ立ってる乙原は、どことなくどんよりとしたオーラを纏っています。どうした?
「では真琴さん、こちらが客札になります。
乙原君、お客様を御案内して」
「え!? マジっすか?」
「うん。いい機会だから練習しといて」
うー……と唸りながら渋々待合室に向かう乙原。その間に私は御新規さんの客札に目を通します。
「……コバっち。お客さんの名前って、『乙原』さん?」
「ええ」
「『乙原』って、結構珍しい苗字だと思うんだけど?」
「そうですね。僕も今の所、1軒しか知りませんね」
「ちょっと待て!
こりゃ
? 「いやー、本人は田中とか鈴木とか、
! よくある苗字を
か 名乗りたかったと思いますけどねー」
ぇ
ね 「……息子と店内で対面しちゃ、
ゃ 本名バレバレだわな……。
じ 所で、何で昭の字に案内させたのさ?
父 入店2日目じゃ、まだ早くない?」
親
の 「どうせあのお客さんは
ち リピーターにはならないでしょうし
ん
原 なにより面白いじゃないですか」
乙」
お前、意外と鬼だな……