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小話 忍び達の苦労


 後仁立三……いや、天隴尋輝琉丸は、追われていた。ここはシルム町の屋根の上。深夜なので屋根に人がいるなどわかるはずもないだろう。それくらい軽い身のこなしで次々と屋根を駆けめぐる。

「いやあ、参ったでヤンス。ここまで抜け忍狩りが来ているとは……まあ、こうでなくては忍びではないでヤンスね」

 苦笑を浮かべる輝琉丸だが、その瞳は余裕に満ちていた。

「輝琉丸……お主の命、拙者がもらい受ける」

 黒衣の忍び装束に身を包んだ青年の声が響く。

「その台詞、聞き飽きたでヤンス」

 にっと笑い、懐から何かを出した。

 ぼむん!

「何っ!?」

 驚愕する青年。煙が晴れた場所にはもう、誰もいない。

「ま、また、か……」

 舌打ちすると青年は何処へともなく消え去った。


「いやあ、危ないところでやんした」

 消えた青年を遠くで確認してから、ほっと一息つくのは輝琉丸。

「立三さん……まだ追われてるのですね?」

 そっと樽の影から顔を出して言うのは舞姫であった。

「丁度よかったでヤンス。舞姫ちゃんに言いたいことがあったでヤンスよ」

「言いたいこと?」

 そっと出てきて舞姫は正座した。

「まずはこれを見て欲しいでヤンス」

 そういって取り出したのは王からくすねた……いや、預かった委任状と、もう一つ。

「王様から預かった伝承の巻物っ!」

 舞姫は急いで持っていた巻物を取り出した。そこにあるのは『後ろに立つための心得 その5』である。

「ああああああああああっ!」

 顔を真っ赤にさせながら、舞姫は大声を上げた。が、それを途中で輝琉丸が口をふさいで阻止したために何とか、夜中に起き出す町人を出さずに済んだ。

「も、もしかして……あのとき……」

「そうでヤンス。預からせてもらったでヤンス。でも、やっぱりその後ろに立つ心得も返して欲しいと思ったのでヤンス」

 という輝琉丸の声は舞姫の耳には届いていなかった。

「そ、そんな……これでは忍び失格です……こ、これは……ダズ様……私、先立つ無礼をお許し下さい」

 ほろほろと涙を浮かべつつ、この世をかなーり、むちゃくちゃ惜しみつつ、舞姫は懐から小振りの刀を取り出した。

「ああっ! は、早まってはいけないでヤンスよっ!」

「で、ですが……王様から預かった大切な巻物を奪われた上に、委任状まであるのです……忍びである以上、失敗は死を意味します……お止めにならないでくださいまし!」

「なら、この委任状がなければいいんでヤンスね!」

 輝琉丸は、びりっと躊躇いもなくその委任状を破り捨てた。

「立三……さん?」

「はいはいでヤンス」

 懐から大切な心得の書いている巻物と王から預かった巻物を取り替えた。

「これで死ぬことはないでヤンスよ」

 そういって輝琉丸は笑みを浮かべた。

「立三さん……あなたって人は……」

 ほろりと涙を浮かべ、手にしていた刀を戻した。

「それと……一つ提案があるでヤンス! 舞姫ちゃん、なかなか親父様にその巻物、渡せないでいるでヤンスからね」

「提案?」

 きょとんとする舞姫に。

「名付けて『スイトンの術』でヤンス」

 その輝琉丸の言葉に一層、舞姫は眉を潜めるのであった。



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