小話 王様からもぎ取った役目
それは舞姫が王から去った後のこと。
そのときのことを司祭は後にこう話している。
「あのことは陛下の厄日であろうな……。私も同じ事があったらと思うと……おお恐ろしや、恐ろしや……」
「で、何の用だ? たつぞーとやら」
そこに現れたのは後仁立三、その人だった。
「舞姫ちゃんの渡した巻物を変わりにオイラが届けてやろうっていってるんでヤンスよ」
そう言って立三は笑みを浮かべた。
「だが、巻物は一つしかないぞ?」
「後で舞姫ちゃんからスルから心配ないでヤンス」
「そんな無茶な……」
その強引さに司祭が思わず呟いた。
「お主の目的は何なのだ……」
「舞姫ちゃんが心配なだけでヤンスよ。あの子、かなりの人見知りでヤンスからね~」
そう言って立三は消えた。いや、違う。
「陛下! 後ろに!」
「むっ?」
いつの間にか立三は王の後ろに立っていた。
「それには王直々の署名付き委任状が欲しいのでヤンス」
「それはやらぬ。お主の勝手にするがいい」
「それは困るでヤンスよ。舞姫ちゃん、妙に律儀だから、勝手にその役目を奪っては可愛そうでヤンス。署名があれば、悲しまずにすむでヤンスよ」
支離滅裂であった。とにかく、王直々の委任状がいるようだ。
「い、いやだ……」
「どうやっても嫌だというなら、こっちにも策があるでやんすよ」
王の耳元で囁く立三。と、そこで行ったこととは……。
「ふう~、ふう~」
「ひよへら~」
王は王らしからぬ奇怪な言葉を発した。
「お、お主……王妃しか認めておらん、耳ふうふうをするとは……」
「ふう~、ふう~」
「へらほひ~」
「陛下……」
その様子を止められずに涙する司祭。立三は巧みに背後を変える王の後ろをばっちりマークしていた。
「ふう~、ふう~」
「わ、わかった、わかった! お主の言う通りにしよう! 司祭、紙とペンを……」
「はい、陛下……」
涙しながら司祭は紙とペンを持ってきた。
こうして立三は上手い具合に委任状をゲットしたのであった。
「オイラの勝ちでヤンス!」
その後、嬉しそうに立ち去る立三の姿をサンユーロ城の門番が見かけたのはいうまでもない。