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暗躍 第4回 導かれし神の水


「あれぇ~? ここ、どこぉ?」

 うろうろと町を歩き回るのはプリムヴェール・ティラォン。彼女の目的はただ一つ。

「おばあちゃんに、いちごのしょーとけーき、あげたいのにぃ~」

 うるうると涙を浮かべながら、またうろうろし始める。

 先ほど人の良いおばさんから、ケーキが置いてある店の方向を教えて貰ったのだが、途中でまた、人にぶつかり方向を見失ってしまった。盲目のプリムヴェールにとって、お買い物に行くだけでも他の者よりも手間がかかる。

「あれ? も、もしかして……プリムさん?」

 そこに現れたのはユレイアーナ・リバー。

「あ、ゆれねえ☆」

 とてとてとユレイアーナの声が聞こえたところへやってくる。

「お兄さん……ヴォルさんとは一緒ではないのですか?」

 一人でいるのを不思議に思い、ユレイアーナはプリムヴェールに訊ねた。

「んーとね、しるむのまちにいくって。きちんとおるすばんしなさいっていっていたけど、おばあちゃんにけーきもっていってあげようとおもって」

 にこりと笑いながらプリムヴェールはそう言った。

 何だか報われない人なのね。

 思わずこの場にいないヴォルのことを不憫に感じた。

「仕方ないですね……。私もこれからケーキを買いに行こうと思っていたんです。一緒に行きましょう」

「うん☆ いっしょにかう~」

 ユレイアーナの差し出した手をしっかりと握りながらプリムヴェールは、優秀な案内人をゲットすることに成功したのであった。


 それを遠くで見ている者がいる。

「うう、プリム~。あんだけ言っといたのに……オレよりもあのばあさんの方がいいのかよ……」

 彼の名は言わずとしれたヴォルール・ヴァレ・ティラォン。ヴォルールの涙がぶらーんぶらんと揺れていた。

「いや、これじゃあ駄目だ!」

 ぶんぶんと首を横に振る。

「オレも……プリムから子離れならぬ、妹離れしなきゃ、な……」

 淋しそうにプリムヴェール達を見送り、ヴォルールは馬車に乗り込んだのであった。



 一方、その頃。

「どりゃあああああああああ!」

 べったん!

「うりゃあああああああああ!」

 べったんべったん!

「てぃやあああああああ!」

 べたべたべったん!

 黒田せなはこれでもかというほど、気合いを入れながら、飛脚棒を使い、餅を伸ばしていた。

「あ、あの……な、何を作って……いるんですか~?」

 隣でかしゃかしゃとボールに入っている生クリームを泡立てているのはリア・エルル・アスティア。

「決まっているだろ? イチゴ大福だよ! どりゃっ!」

 べちゃん!

 リアはそっと目をそらした。

「あの~恐らく、おばあ様が欲しがっているのはイチゴのショートケーキではないのでしょうか~?」

「そんなのわかっているさ」

 あっさりとせなはリアの言葉に頷いた。

「え? じゃあ、何でですか~?」

「洋菓子はお年寄りの身体に悪いだろが!」

 その言葉にリアは、ああと手を打った。

「とにかく、イチゴ大福で当たりなんだよ。あっと、クリーム余ったらオイラにくれよな。大福に入れるから」

 リアは苦笑しながらも。

「ええ、わかりました~」

 せなの分まできちんとクリームを用意したのだった。

 もうすぐ、ケーキと大福が出来上がる。



 場所は変わって、クッルスの町外れ。

「ねーえ? 一体何処へ行こうって言うの?」

 オルフィスはずんずんと進んでいく孤我蒼雲に訊ねた。

「やはり、修行はこれでなくては!」

 どーんとオルフィス達の前に現れたのは。

「た、滝っ!?」

 アラビスに数少ない滝だった。しぶきがオルフィス達まで降りかかってくるほど、勢いがある滝。

 そして蒼雲はおもむろに脱ぎ出す。真っ白なふんどしがはたはたとはためいている。

「はいいいいっ!?」

 オルフィスは驚き、蒼雲を凝視した。

「何をしている? さあ、オルフィス殿も」

「えっ? あっ? な、何をする……」

 あたふたと顔を真っ赤にさせながら、オルフィスはあわてふためいている。蒼雲はきょとんとしながら、口を開いた。

「滝に打たれての修行だ。オルフィス殿は苦手か?」

「……それならそうとワタシを連れていく前に説明してほしいわ。ちょっと誤解しちゃったじゃないのよ……」

 苦笑しながらも、オルフィスも脱ぎ出し、パンツ姿になる。

「何を誤解したのか?」

「何でもないわよ」

 二人は揃って滝に打たれた。

 耳元でごごごごごという、滝の音が大きく響く。

「……オルフィス殿」

「なに?」

 二人は手を合わせ、目をつむり、立ったまま滝に打たれている。

「どうして、ダズ殿は真相をオルフィス殿に伝えようとせぬのか?」

「さあ、ワタシにも分からないわ。分かれば苦労しないけどね」

 オルフィスは笑みを浮かべたようだが、滝の勢いで引きつっているようだった。

「なるほど……。ところでもう一つ気になることがあるのだ」

 滝に打たれつつ、まだ話し出す蒼雲。

「あの物知り婦人の申していた、いちごのなんだかが、どうしても分からぬのだ。いちごはわかった。だが『くりいむ』とはいったい何なのだ?」

 その言葉にオルフィスはどぼんと、滝壺に顔を突っ込んだ。それに気づかずになおも続ける蒼雲。

「『くりいむ』がいっぱい付いたもの……白くて甘いものらしいが……うあああ、わからんっ!!!!!!」

 と、一通り叫んだところで、はたと気づく。

「お? オルフィス殿? どうなされたか?」

 ぷかぷかと浮かぶオルフィスに蒼雲はやっと声をかけたのであった。



 馬車がシルム町の前で止まった。そこに降り立つのはヴォルール。彼はその足でとある場所へ向かった。

 そこは馴染みの盗賊ギルド。

 盗賊になるにはギルドで必ず登録をすまさなくてはならない。何故なら、許可なく盗賊家業を行うとギルドから暗殺者が送り込まれるのだ。もちろん、ヴォルールも例外なく、登録をしている。

「お、久しぶりじゃねえか、『クトー』」

 ギルドの受付に座る男がヴォルールにそう声をかけた。

「といっても、一ヶ月ぶりってところか」

 苦笑するヴォルール、しかし、その瞳は笑っていない。

「何かあったのかい?」

 男はなおも訊ねた。

「ああ、ちょっと聞きたいことがあってな。カマラ・アンダーソニアっていう女、知らないか?」

「カマラ?」

 首を傾げる男の前に金貨を二枚、置いた。

「ああ、思い出した。あのカマラだな。カマラなら、最近までこの町にいたぜ。旅の一座と一緒にな。だけど、途中で別の団体とジャパネに向かったらしい」

「別の団体?」

「うーん、なんていったかな~?」

 ヴォルールはもう一度、金貨を一枚、男の前に置いた。

「ああ。あのダズって男と一緒に行ったらしい。後は知らないね」

「ありがとう。助かったよ」

 そう言い残して行こうとしたときだった。

「あら、『クトー』じゃない」

 奥から黒のドレスを着た女性が現れた。

「ミランダか……」

 ヴォルールは瞳を細める。

「なんだい、つれないねぇ。私とは4年振りなんだからね」

「ああ、そうだったな」

「ああ、そうだったって……あんたにいい話があるんだけど、またにしとくわ」

 ぷいっとミランダは顔を背けた。

 その様子にため息をもらしながら、ヴォルールはミランダの肩に優しく手を置いた。

「ちょっと外で飲まないか?」

「そうこなくっちゃね」

 ミランダの赤い唇が艶やかに揺れた。


 ミランダに連れられた場所はとある酒場の2階。個室であった。

「店の中じゃ、話せない内容なのか?」

 ヴォルールは部屋にあるソファーに座り、ミランダに訊ねる。

「ちょっとね、こればっかりは私と『クトー』の二人でないと、ね。それに良い話でもないんだよ」

 苦い顔をしながら、ミランダはワインの注がれたグラスをヴォルールに手渡した。

「勿体ぶらずに、そろそろ話したらどうだ」

「そうね。じゃあ話すわ」

 こくんと一口、ワインを飲んだ。

「『アンダーヘヴン』って知っているわよね?」

「それって……何者かの襲撃で壊滅したっていう『暗殺組織』のっ!?」

「声が高いわ」

「あ、す、すまん……」

 ミランダの言葉にヴォルールは声を潜めた。

「実は最近仕入れた話なんだけど、どうやら生き残りがいるって噂なのよ。その名も『ディアブロ』」

 険しい表情のまま、ヴォルールはミランダの言葉を待つ。

「『アンダーヘヴン』の中でもトップクラスの暗殺者の一人。話を聞けばまだ幼い少女だっていうのよ」

「幼い少女? ……ま、まさか、オレのプリムヴェールを疑っているのか?」

「否定はしないわ。けれど、その『ディアブロ』は瑠璃色をした髪のアラビス人だったというわ。それに……あんたがあの子を拾った時期と襲撃を受けた時期がばっちり合っているんだよ」

「ふざけるなっ!!」

 かちゃん。

 立ち上がると同時にワイングラスが落ち、割れる。

「私はあんたのことを思って話しているんだよ。『ディアブロ』はターゲットを泳がすことはあっても、殺さないことはなかったから……」

 ヴォルールはミランダの頬を叩いた。ミランダはキッと刺すような眼差しでヴォルールを見る。

「目を覚ますのは、あんたの方だよ! 以前のあんたも同じ人殺しじゃないか! 実入りのいい話だっていろいろ来ているんだろ? 小娘一人にうつつを抜かすんじゃないよ! 泣く子も黙る『盗賊のクトー』は何処へ行ったんだよっ!」

ヴォルールは黙って、ミランダを睨み付けると、さっさとその部屋を後にした。

「そんなこと、あるものかっ! プリムが、あのプリムが人殺しなわけがないっ!」

 立ち止まり、とある路地裏で。ヴォルールは一人立ち止まる。

 がしんと己の拳を壁に叩きつけた。それはヴォルールの手を傷つけるのに充分なほど強い。紅の滴がぽつりぽつりと地面に落ちていく。

「そんな嘘、信じられるか……馬鹿野郎」



「あら? リア達じゃないの? それに向こうにはユレイア達もいるわねぇ」

 いい汗をかいてきたオルフィスと。

「あれは確かにリア殿……そういえば、今日は物知り婦人に『いちごのなにか』を渡す日だったと思ったが」

 蒼雲がその姿を確認した。

「あ、オルフィス様~☆」

 どうやら、リアが気づいたらしい。

「さて、ワタシ達も行きましょうか?」

「ああ」

 こうして、二人は皆と合流を果たしたのであった。


 物知り婆さんの家では、良い香りのお茶が用意されていた。部屋中にアラビス産の紅茶の匂いが満ちていく。

「で、持ってきたのかい?」

 物知り婆さんの声に四人は頷いた。

「おばあちゃん、それって、いちごのけーきでしょ?」

 そう言ってプリムヴェールはユレイアーナの持っていたケーキの箱を開けた。どうやら、プリムヴェールとユレイアーナは一緒に買ったようだ。

「ほう、あの店のケーキだね。うんうん、合格だよ」

 満足そうにケーキを受け取る物知り婆さん。

「あ、あの! 僕も作りました~!」

 遅れては行けないとリアは急いで取り出したケーキを取り出した。リアのケーキも同じ苺のショートケーキ。こちらは手作りの暖かい雰囲気のケーキだった。

「オイラも持ってきたぜ、ほらよ!」

 そう言ってせなが取り出したのは……。

「……こ、これは……なんだい?」

 せなの取り出した菓子を目の前にきょとんとする婆さん。

「『イチゴ大福』だっ!」

 自信満々にせなは、そう言い切る。

「うう~む……」

 婆さんは眉を潜める。

「言っとくけど」

 せなはそう前置きして話を続ける。

「洋菓子はお年寄りの身体に良くないと聞いた! だから、このせなさんが精魂込めてヘルシーなイチゴ大福を作ってやったんだ! これを食って、その我が侭な性格を『悔い』改めなっ!」

 一応、書いておくがイチゴ大福の中身は大きなイチゴと『生クリーム』である。ショートケーキと同じくらい砂糖も使われていたりするのだが。

「……うまいんだろうねぇ?」

 訝しげに婆さんはそっとその大福を一つ摘んで一口食べた。

「おや、まあ、面白い食感だけど、まあまあだね」

 にっと笑い、せなを見た。

「今日は特別だよ。さあ、聞きたいことがあるならさっさと言ってごらん」

 婆ちゃんはリアの作ったケーキをナイフで分け、その一切れ一切れを皆に配った。もちろん、自分の分も忘れない。

「あの、不思議な水がこの近くにあると聞いたのですが……何か知っていることがあればお教え下さい」

 ユレイアーナが飲んでいたカップを置いてから、そう訊ねた。

「ああ、不老不死の水のことだね」

「ええ」

「表向きは不老不死と言っているが、本当は違うんだよ。あれは水は水でも特別な水。人間である私達が飲んで良い物じゃない。神の力を秘めた『女神の水』だよ」

「女神の水ってことは……」

 ユレイアーナの言葉に婆さんは頷いた。

「そう、まじかるすとーんの一つ。もっともそれを掬うことの出来るのは神に選ばれし者でないとタダの水になってしまうから、気をつけな」

「それと、以前プリムが青い短剣を手にこんなことを呟いていたんです。『神に祝福されし力のかけら、女神の短剣』と」

「え~? ぷりん、そんなのいってない~」

 ほっぺたにクリームを付けながら、プリムヴェールはそう言った。

「おや、もう『女神の短剣』を手に入れたのかい? それじゃあ、一つ昔話をしてやろうか」


 婆さんの話は昔々の話だった。

 まだこの大陸が出来て間もない頃のこと。この地を作った女神は大地に必要な恵みを授けた後、自らの力を四つのかけらにして、大地に残した。

 『女神の短剣』。

 『女神の宝石』。

 『女神の聖杯』。

 そして、『女神の聖水』。

 この四つを大地の奥深くに隠した。

 何故なら悪意ある者には手に入らないようにするため。その力は人が扱える物ではいないのだ。人が使えばそれは世界を壊しかねないだろう。しかし、それでも力を分けて大地に封印することが必要だった。

 この身に宿した大切な子を産むためである。女神の持つ力はこの大地そのものを消しかねないほど強大なものだった。もし、その力を制御出来ずに大地を壊せば、せっかく大地から生まれたもの達も消してしまうことになる。それを恐れ、女神は力をなくし、子を産むため一人、別の大地へと向かったのだ。


「女神の力が集まるとき、世界に大いなる災いが生まれる。そう私達の親から言い伝えられているよ」

 そう婆さんは締めくくった。

「大いなる災い……」

 その言葉に蒼雲は訝しげに目を細めた。

「さ、最後にもう一つ。その、サンユーロ第三王女に似た人物を見ませんでしたか?」

「ああ、確か宝石コレクターをしていると聞いたよ。だけどアラビスに来たという話は聞いたことがないね」

「そうですか。ありがとうございました」

 そう言ってユレイアーナは残念そうに頭を下げた。王女のことは分からなかったが、まじかるすとーんについては沢山のことを聞いたように思う。

「次はオイラだよ。婆さん、プリムと何処で会ったんだい? また、変なのが乗り移っていなかったか? あの大きな鳥は何処へ行ったんだ?」

 次にせなが訊ねた。

「プリンとは……ああ、プリムだったっけ。とにかく、あの子はこの裏の丘の上で会ったんだよ。一人泣いていたのを連れて帰ってきたのさ。鳥は知らないね。それに何かが乗り移っていることもなかったよ」

「とりさんなら、ぷりんしってる☆ ぷりんのともだち~☆ じぇむ、いう~」

 どうやら、プリムヴェールは鳥と友達になっていたようだ。しかも『ジェム』と名付けたようである。

「それじゃあ、なんでプリムにご執心なんだい? 何か訳ありなんだろ? なんならオイラに言ってみろよ! 力になるぜ!」

 そのせなの言葉に婆さんは苦笑した。

「気づいていたのかい? しょうがないね」

 婆さんは棚に飾ってあった古い写真を手に取った。

「あれからもう、10年が経つね。私には娘が一人いた。名はユリア。気の優しいいい子だった。ある日、突然ユリアは男を連れてきた」

 そう言って、ことりと写真を元に戻した。

「結婚したいと言っていたが、私は反対だった。結婚相手である男は盗賊で盗みが家業だったからね。足を洗うと言っていたけど、信じられなかった、信じようとしなかった。だから、出ていったよ。……いや、違う。追い出したんだ。それっきり音沙汰なしだよ。風の便りで二人の子供を産んだと言うことは聞いたけどね」

 そう言って涙を浮かべる婆さんにせなは、ずずっと鼻をすすった。

「もし、ユリアに……ユリア・ウィルルに会ったら、私が会って話がしたいと言っていたと伝えておくれ」

「ああ、任しとけ! この飛脚のせな様がばっちり伝えてやるぜ!!」

 その声に婆さんは初めて笑顔を見せた。

「あんたにこれをやろう。きっと役に立つだろうから」

 そう言って小さな小瓶をせなに渡した。

「これは……?」

「唯一、神の水を入れることの出来る小瓶だよ」

 こうして、せな達は婆さんから大切な小瓶を手に入れたのであった。

「そうそう、それと……プリムを大事にするんだね。その子は神に選ばれたようだからね」



 湯けむりの旅へ向かうものが二人。

「丁度良かったわ~☆ 一人では淋しいと思っていたのよ」

 皇琥玖……いや、今は女装をしているので累である。

「そうだったんですか? 私もオウコ様と無事、合流できて安心いたしました」

 にこやかに笑みを浮かべるのは愛ヘビ、ごんざりおを肩に乗せたメム・ソルティアだった。

「一時はオルフィス様達とはぐれてしまい、占いしながら探していまして、本当に良かったです。……ところでそのお姿で入られるのですか?」

「あら、いけないかしら? どうせ、女同士なんだし、いいでしょ?」

「え、いえ……その……」

「あ、もしかして、身体に自信ないとか? 大丈夫。あなたなら、私と張り合えるくらい、良い体型しているわよ☆」

 さあさあと女湯へ引っ張る累。

「あ、あのっ! わ、私はその……女性のように見えますが、その、男……です」

「そう男だったの……って、ええええええええええええええええっ!!!!!!!」

 素っ頓狂な累の声が温泉の前で響き渡った。

「でも、まあいいわ。混浴もあるし、まずは男湯で着替えてから行きましょ」

「って、オウコ様っ! せ、せめてその格好を……」

「いいじゃない、面白いわよ?」

「ああああああ~~~」

 今度はメムの切ない声が響いたのは言うまでもない。


 かぽーん。

「あら、お揃いね」

 湯船に入った累がそうメムに言った。

「お揃いって、タオルでしょうか? タオルは違う色ですが……」

「違うわよ、その体の傷よ」

 累の指摘通り、メムの体中には刃物で斬りつけられた傷が無数にあった。身体だけではない。いつもヴェールで隠れていたので分からなかったが、顔にも傷があった。特に大きいのは額の右から左の頬にかかった傷である。

「お揃いって……それは、誰のことを……」

「ん、決まってるじゃない。プリムちゃんよ」

「プリムちゃんですか? まだ幼い少女ではないですか! そんな少女の体に傷とは……なんて惨いことを……」

 そしてメムははっと重大なことに気づいた。

「る、累様!? も、も、もしかして、もしかすると、累様、お、お、女湯にっ!?」

「あら、そんなに驚くことないじゃない。男湯と違うものが見られて面白いのよ?」

「そそそそそ、そうじゃなくって、そのっ!」

 そう裏声になるメムが入っている混浴風呂に。

「そう固いこというなよっ! 混浴なんだし、いいじゃねえか!」

 その元気溢れる声はせな。

「だ、駄目よ駄目っ! 騎士たる者、心に決めた女人以外の肌を見ることはハラキリなのよ、わかるの? わかるぅううっ!?」

 あのオルフィスが明らかに動揺している。

「あらあら、面白そう☆ 皆~、こっちよ、こっち☆」

 累が楽しそうに湯船から手を振った。

「あのオルフィス様でも……かなり動揺なさるのですね……」

 顔を引きつらせながら、やってきたオルフィス達を眺めるメムだった。もう、メムの頭の中から、累が女湯に入っていたことだけ綺麗さっぱり忘れ去られていた。



 場所はかわって、クッルスの町はずれ。物知り婆さんから聞いた『女神の聖水』があるという井戸へオルフィス一行は来ていた。シルムの町に行っていたヴォルールも戻って来ている。

「ここにあるのね……」

 深い井戸の底を覗きながらオルフィスが呟いた。

「水を掬うことの出来るのは~、神に選ばれた者のみと言っていました~。それって、もしかして……」

 リアの言葉に蒼雲が頷く。

「この白い紙に選ばれし者……だな。うむ。ではこの紙でくじ引きをしようではないか」

「違うでしょっ!!」

 すぱこーんっとオルフィスが取り出したハリセンで蒼雲に突っ込んだ。

「と、とにかく、これを掬う事の出来るのはプリムだろ?」

 せながプリムに井戸の桶を手渡した。

「ぷりん、みずすくう?」

 きょとんとした表情でプリムヴェールは皆を見上げた。

「でしょうね。まあ、重いようなら手助けしてあげるわよ」

 オルフィスはぽんっとプリムヴェールの頭に手を置いた。

「それでは、プリム様。頑張って下さいまし」

 リアの言葉にメムが応援の言葉を述べた。

「うん! ぷりん、がんばる~☆」

 桶はすとんとプリムヴェールの手で井戸の奥深くに入っていった。

 ざぱん。

 沢山の水を蓄えた桶はプリムヴェールの手にのし掛かる。

「にゅにゅにゅにゅ~」

 額に汗をかきながら、プリムヴェールは一生懸命桶のロープを引き上げる。

「後もう少しです~、プリム様~」

「がんばれ! 終わったら一緒にまた温泉だ!」

 リアと琥玖が手に汗を握りながら、応援していた。

「にょ~☆」

 やっと桶が出てきた。そこに入った水はタダの水と変わりない、澄んだ水であった。

 桶をことんと地面に置き、そこから婆さんの貰った小瓶で水を掬うプリムヴェール。水を掬い、栓をしたのち。

 ぱあああああ。

 淡く瓶は光り輝いた。

「これで二つの欠片が揃った」

 囁くようにプリムヴェールはそういうと、ぱたりと倒れてしまった。

「……プリム……」

 それをそっと抱きかかえるヴォルール。

 そして、オルフィス一行は二つ目のまじかるすとーんを揃えることが出来たのであった。



「問題は……」

「そう、これからのことである」

 メムの言葉に蒼雲が頷いた。

「これからどうするのだ? オルフィス殿」

「そうね……どうやら、物知り婆さんでも他のすとーんの場所までは知らないって言っていたし……ちょっと行き詰まってしまったわね」

 オルフィスはそう言って眉を潜めた。

「後は『女神の宝石』と『女神の聖杯』、でしたね~」

 リアがそういう。

「あの……」

 おずおずとユレイアーナが手を挙げた。

「一度、サンユーロに戻ってはいかがでしょうか?」

 そう言うつもりだったのだが。

「こんばんわー、皆さん」

 そこに現れたのはあのクリスナ。

「く、クリスさん……」

 ヴォルールは思わず立ち上がる。

「あ、話ならちょっと待ってね。あなたに手紙が届いていますよ」

 そう言ってクリスナはオルフィスに手紙を手渡した。

「こ、これはサンユーロの……グラード陛下からの手紙だわっ!」

 オルフィスは差出人を見て、急いで封を開ける。

『オルフィス、頼んだすとーんはいくつ揃ったかね? 実は先日、第5のまじかるすとーんである聖なる祭壇がサンユーロにあることが、古文書で判明したのだ。ついては至急サンユーロに戻り、その祭壇の調査に当たって欲しい。よろしく頼む』

 その文面の最後には流れるような字でグラード王のサインがされていた。

「どうやらこれで決まったようだね」

 琥玖はにっと笑った。



■次回予告

メム「とうとう二つ目のまじかるすとーんも無事に手に入れることが出来ました」

せな「物知り婆さんも何だか訳ありだったからな。力になってやりたいぜ」

メム「しかもプリム様は『神に選ばれた大切な人』でした」

せな「そうそう、皆で守ってやらなきゃな!」

メム「次回、『祭壇に忍び寄るもの』」

せな「何だか次回もうさん臭そうだな……」




■NPC紹介

▼オルフィス・グランジェスタ

 こうみえても動揺だってしますのよ。なお、せなの調査により正真正銘男と言うことが判明しました(笑)。

▼クリスナ・アンダーソニア

 出ないと思ったら……ちゃっかり出ていた人(笑)。

▼物知り婆さん

 ユリア・ウィルルという娘を捜しているようです。イチゴ大福にも目覚めた?

▼ミランダ

 色っぽくて怪しい姉さん。ヴォルールの知り合いさんです。



■キャラクターデータ


PCNO/PC名ふりがな/通称/年齢/性別/出身地/職業/追加スキル・アイテム等


●滝の修行! スキルゲット☆

01/孤我蒼雲こが・そううん//28/男/ジャパネ/侍/アイテム・二本の刀『華興』と『華仙』、キセル、追加スキル・滝で忍耐


●ショートケーキ騎士さん

06/ユレイアーナ・リバー/ユレイア/23/女/サンユーロ/騎士/アイテム・テディベア、特別指令・王からの頼み


●ショートケーキ作り☆

07/リア・エルル・アスティア/リア/18/男/サンユーロ/作家志望/アイテム・ペンダント、その他・リクと知り合い


●燃えるイチゴ大福!

08/黒田くろだせな/疾風のクロ/17/女/ジャパネ/飛脚/アイテム・飛脚箱・追加スキル・イチゴ大福作り


●怪しい情報ゲット?

11/ヴォルール・ヴァレ・ティラォン/ヴォル/16/男/アラビス/盗賊/アイテム・ナイフ『フルーブ』、その他・カマラとリッティとライアと知り合い、闇の通り名・『クトー』


●相変わらず婆さん好き☆

12/プリムヴェール・ティラォン/プリム/8/女/アラビス/子供/スキル・罠感知、飼い猫『ジュエル』、アイテム・まじかするとーん『女神の短剣』と『女神の聖水』、不思議ポーチ、追加設定・別人に?、その他・リクと知り合い、鳥の『ジェム』と友達


●いやあ、温泉って楽しいわ☆

14/皇琥玖おう・こきゅう/オウコ/17/男/ジャパネ/フリーの忍者/設定・女性になったら『るい


●そう、実は男だったのです

16/メム・ソルティア/四つ角のメム/18/本当は男/アラビス/さすらいの占い師/飼い蛇『ごんざりお』




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