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暗躍 第3回 迷子の子猫ちゃんはどこにいる?

 オルフィス達が乗った乗合馬車はやっと、アラビスの町の一つ、クッルスにたどり着いた。ここは温泉が有名でたくさんの観光客が訪れる町でもあった。

「やっと着いたよ。早速温泉に浸かってこの汗を流したいぜ」

 浮かぶ汗を肩に掛けた手ぬぐいで拭うと、黒田せなは、その歯を輝かせた。

「すごいです~! せな様、夜寝るとき以外、ずっと馬車の横で走っていました~!」

 リア・エルル・アスティアはそんなせなに羨望の眼差しを送る。

「温泉がいっぱいある所為かな? 硫黄の匂いがすごいね」

 皇琥玖も辺りを見回した。そこには、温泉の煙を吹き出す煙突が多く建ち並んでいた。

「ちょ、ちょっと待って下さい。私たちの目的はプリムさんの捜索です。本来の目的を忘れないで下さい」

 不吉な予感を胸にユレイアーナ・リバーが皆に問う。

「うむうううう……」

 と、ここに悩める青年が一人。大きな刀を背負っている、孤我蒼雲だ。

「ああ、蒼雲さんだけです。誘惑の多いこの町で自我を保っておられるのは……」

 そんなことを言うユレイアーナに。

「やはり、下せぬ」

「は?」

「オルフィス殿はなぜ、あのとき素手で戦ったのだ!? 素手で戦うよりも剣で戦う方が分があったはずなのに、なぜ!!」

 その言葉を聞いて、ユレイアーナは一人涙した。

「ああ、こんなんで大丈夫なんでしょうか?」

 と、ふと思い出した。プリムヴェールのことにご執心な彼の姿が見えない?

「あれ? 皆さん、ヴォルさんは?」

「ヴォルさんならそこにいるわよ?」

 いつの間にか女装している琥玖、いや、累がそう話す。

「え? そこ?」

 累が指さす先にいるのは。

「プリムぅぅぅぅぅぅ~」

 にょろにょろと溶けている? ヴォルール・ヴァレ・ティラォンの姿が。

「ヴォルさん……切ないです……」

 ユレイアーナはその姿にまた、涙した。

「はいはい。皆」

 ぱんぱんと手を叩き、オルフィスが皆を呼んだ。

「とにかく、プリムのためにも早く探して見つけましょう。ヴォルが可哀想だわ」

「それじゃあ、ボクとせな様は」

「酒場で情報収集してくるよ」

 リアとせなはそろって酒場へ向かった。

「私は皆に任せるわ。頑張ってね☆ 温泉で待っているわね」

 そう言って累はとことこと温泉へと移動する。

「オレはプリムを探しに行ってくる!!」

 やっと正気を取り戻したヴォルールはその瞳に滝のような涙を浮かべつつも町の中へ繰り出した。

「し、心配ですから私もヴォルさんと一緒に行って来ます!」

 ユレイアーナは急いでヴォルールの後を追う。

「さてっと、それじゃあ、ワタシも探しに……」

 真剣な眼差しで蒼雲はオルフィスの前に出た。その眉はまだ寄せられている。

「オルフィス殿……話が、ある」

「……わかったわ。聞きましょう」

 蒼雲の言葉にオルフィスは頷いた。



 リアとせなの二人は酒場を探して歩いていた。と、リアがおもむろに口を開いた。

「先日、プリム様が仰っていたこと、覚えていらっしゃいますか~?」

「あ~何だったっけ? 女神がどうのってやつかい?」

 せなのその言葉にリアは頷いた。

「『女神に祝福されし力のかけら~』そして『力は呼び合い、一つになる』……これから考えると~まじかるすとーんには一つに収束しようとする力があるんじゃないでしょうか?」

「なるほど、収束する力……か」

「それに、鳥さんが『プリム様にまじかるすとーんの一つを渡し、次のすとーんの在処へ導く役目』を持っていると仮定すれば、鳥さんが自分の子供さんも連れずにプリム様を連れてアラビスへ行ったことにも納得がいくような気がします」

「それじゃあ、プリムのいる場所にまじかるすとーんがあるっていうのか?」

 せなはリアの言葉にそう答えた。

「かもしれません~。ですから、ボクはプリム様や鳥さんの話を聞かずにまじかるすとーんのことを聞こうと思います~」

「わかった。なら二手に分かれて話を聞き出そうか? オイラが鳥とプリムのことを聞き出すから」

「ええ、ボクは~まじかるすとーん関連を」

 二人は頷き、賑やかな酒場へと入っていった。



 二人の青年が荒野に佇む。一人は東洋の、そしてもう一人は西洋の剣士。

「で、話って何かしら?」

 訳も分からず西洋の剣士ことオルフィスは首を傾げた。

「オルフィス殿……何を考えているのだ?」

 もう一人の東洋の剣士、蒼雲がやっと吐き出すかのようにその言葉をオルフィスに投げかける。

「え? 何って、プリムを探しに……」

「違う!」

 蒼雲は突然叫んだ。

「何!?」

 それと同時に太刀を抜く蒼雲。それに反応してオルフィスもその背に付けた大剣を抜いた。

 ズシャアアアア!!!

 剣から放たれた鋭い旋風はオルフィスの剣でかき消された。

「で、何なの? これは本意ではないと思うけど……それともワタシと戦おうっていうことかしら?」

「………そう思ってもらっても構わない」

「OK。やるからには……覚悟はよろしくって?」

 二人の目から笑みが消える。

「オルフィス殿も」

 そして剣が交差した。

 ガキーーーン!!!

 二人は同時に剣を弾き、距離を伸ばす。いや、伸ばすのではない。自分の間合いを計っていた。

「何故……」

「?」

「何故、剣を捨て、鎧を捨て戦ったのだ?」

「ちょ、ちょっと……」

 オルフィスが何かを言おうとしたが、それを蒼雲の巨大な太刀、華興が阻止した。

「ダズ殿とオルフィス殿には別々の戦い方があるはず……なのに、何故本来の戦い方をせずにあんなことを!」

 二人の剣がまた交差する。

「いい太刀筋ね……でも、ワタシの技を受けてもおしゃべり出来るかしら?」

 二人はまた離れ、そして。

「グランジェスタ流……」

「孤我流剣術……」

 閃光!!!


 二人は揃って荒野に倒れていた。その傍らを埃が舞う。

「なかなかやるじゃないの? 『闇風』さん」

 顔に青い痣をを付けたオルフィスがそう告げた。

「!! なぜその名を!?」

 驚き起きあがる蒼雲、だが、それにより走る激痛に仕方なくまた、荒野に体を預けた。

「孤我って名前、どこかで聞いたことがあるから気になって調べてみたの。そしたら、ある人が教えてくれたわ。『人斬りの闇風』っていうのが、孤我という古い家の生き残りだって」

「……オルフィス殿はどこまで知っているのだ?」

「十年前に一家が惨殺される事件があったっていう、とこまでよ。それに実際人を斬っているところを見たことがないから、まだ信じてはいないわ。いえ……信じたくなかったってとこかしら? でも、さっきの太刀筋は、どうやら本物のようね。あっと、このことは皆には内緒にしておくわ」

「………」

「ふふ、これではフェアーじゃないわよね。知りたいんでしょ? 何で不得手な方法で戦ったのかを」

 そして、ゆっくりと起きあがり、オルフィスは蒼雲の瞳を見た。

「ワタシ、うーんと年の離れた兄がいたの。ワタシがまだ4歳のときに兄はもう20だったわ。きっと今のワタシの倍、いえ、もっと強い人だったわ。剣だけでなく武術でも飛び抜けた能力を持った人だった。だから、ワタシは兄のように強くなりたい、大きくなったら兄と共に旅に出ると決めていたわ」

 蒼雲は静かにそれを聞いていた。

「それが、ある日突然、死んでしまったの。事故だとか、事件に巻き込まれたんだっていっていたけど、本当のことは分からないのよ、今でも。残されたのは変わり果てた兄の遺体と、そして、唯一の生存者、ダズだった」

「ダズ殿?」

「知りたいのはダズの知っている真実。けれど彼は一度もそれをワタシに話してはくれなかったわ。聞く権利はあるはずよ。例えお父様が言わなくてもいいといっても、ワタシは聞きたい。例えそれがどんなに酷いことでも、ね……あら、脱線しちゃったわね」

 オルフィスは寂しげに微笑んだ。

「ワタシの目標は剣も体も一番になりたいのよ、なれなかった兄の代わりにね。だから、ずっと鍛えてきた体がどれだけ強くなったのか確かめたかったの。……でも、まだまだね。あっという間にダズに負けてしまったわ。これではあの世に行った兄に笑われてしまうわよね」

「オルフィス殿……だから、剣も捨て、鎧も捨てたのか? 自分の力を確かめるために」

「そういうことよ。……さてっと、もういいかしら? そろそろプリムを探しにいかないとまたヴォルが泣いてしまうわ」

「あ、ああ」

 そして立ち上がる蒼雲。少しふらふらしているのは気のせいだろうか。

「ちょっと、大丈夫? 宿屋で休んでいた方がいいんじゃないの?」

「これも修行のうち、だ」

 その蒼雲の言葉にオルフィスは苦笑する。

「分かったわ。眠りそうになったら言ってよね。手を貸すわ。ワタシ達仲間なんだから」



 かぽーん。

 白い湯気が辺り一面を支配していた。

「はぁ……気持ちいい……」

 うっとりとした瞳で累は温泉に浸かっている。ここはクッルスでも評判な温泉宿、『極楽クッルス』。ちなみに累が入っている温泉は。

「ねえねえ、聞きました? 奥さん」

「まあ、そんなことがありましたの?」

「おほほほほほほ」

 そう、おばさんがいっぱいいる女湯である。

「うふふふ、やっぱり女湯は面白いわよね」

 体にバスタオルを巻きながら、累は笑みを浮かべた。と、また新たな客が入ってきた。

「おばあちゃん、せっけんおちてる」

「おや! まあ、危ないねっ! せっかくだから貰っておこうかい」

 どうやら、おばあちゃんと、その孫らしい。しかもそのお孫さん、体中傷跡だらけである。

「あらまあ。あれって、鞭の痕みたいね。特に背中が酷いわ」

 累は細かく分析し始めた。

 少女の瞳はオッドアイ。左右の瞳の色が違う。右の瞳はアメジスト。左の瞳はエメラルド。そして。

「おばあちゃん? ぷりんもからだあらう」

 孫の前でてきぱきと洗い場の確保をしているおばあちゃん。目の前にいるのに見えていないらしく、右を見たり左を見たりしている。

「あらあら? 目が見えないのかしら?」

 まだじっと見つめている。累の頬が徐々に赤くなってきた。

「プリン、こっちだ。こっちに座りな。ほら、さっきの石鹸、何だか上等なものみたいだよ。こーんなにあわあわさ」

 そう言っておばあさんは泡の付いたタオルをプリンと呼ばれた少女に渡す。

「わーあわあわにゃ☆」

 ぱこん。

「にゃは付けない」

「お、おばあちゃん、わかった」

「うむ、それでよし」

 プリンの目がうっすらと涙を浮かべていた。どうやらおばあちゃんアタックはかなりの威力があるらしい。

「あらあらあら? もしかして、もしかすると……」

 体を洗い終えたおばあちゃんとプリンは、温泉に浸かってから、すぐさま去っていった。

「これは後をつけてみる価値ありそうね」

 ふらーりふらーり。

 ちょっぴり逆上せてしまったが、それでも累は二人をそっと追ったのであった。



 一方酒場では。

「あの~物知りおばあさんのいるところを知っているのは~あなたですか~?」

「やいやい、オメエかい? 大きな鳥を見たって言うのは?」

『ってええ??』

 リアとせなは一人の青年の前に来ていた。別行動で情報を得ていたのだが、いつの間にか同じターゲットを選んでいたようだ。

「なんだ? 俺に何か用か?」

 左頬にでかでかとした絆創膏が貼られているアラビスの青年が驚く二人に声をかけた。燃えるような赤く短い髪に、ややつり上がった黒い瞳が印象的である。

「俺は忙しいんだ。手短にな」

 それに彼の右腕には銀の腕輪が付けられていた。

「あの、物知りおばあさんのいるところをご存じだとか~、よければ何処に住んでいるのか教えてくれませんか~?」

 リアがもう一度、先ほどの質問をした。

「ああ、それならまず、ここを出て右に行き、果物屋の横の道を左に……」

「はい~」

 それをしっかりとメモしていくリア。

「それから……ああ、面倒だ。食事が終わったら案内する。言うよりも案内した方が早い。ちょっと待ってくれよな」

 そう言って目の前のカリーをがつがつ豪快に食べ始めた。

「あっと、その前にオイラの話も聞いてくれよ! オメエ、ここの近所で大きな鳥を見たんだろ? 何処で見たんだ?」

 カリーを食べ終えた青年は、皿をテーブルに置いた。

「ああ、見たぜ。物知りばあさんの家の近くでさ」

「うお!?」

 どうやら、せなも一緒に行くことになりそうだ。

「それより、アンタ達の名は? 俺はクリス。クリスナ・アンダーソニア」

「オイラはせなだ」

「リア・エルル・アスティアです~。よろしくお願いしますね~クリス様」

 三人はこうして、連れだって酒場を後にした。



 どよーんとしたくらーい空気が彼にのし掛かっている。

「す、すぐに見つかりますよ。ですから、そんなに落ち込まないで下さい、ヴォルさん」

「これが落ち込まずに居られるかよ!」

 涙ながらにヴォルールはユレイアーナに訴える。背中に暗い空気を背負いながら、ではあるが。ちなみに目は今までずっと泣いているのでかなり赤くなっている。

「こーんなに探しているのに……こーんなに心配しているのに……ああ、もうプリムには会えないんだ……ああ、一度でいいプリムに会いたい、会いたい……」

「あ、あのヴォル……さん?」

「俺のプリムを返せ~!!」

 突然叫びだした。

「こうなったら、プリムが出てくるまで叫んでやる!! 地の果てまでも!!」

 これはかなり危ないかもしれない。いや、先ほどの叫び声で町人の視線を浴びていた。これ以上叫ばれたらもっと視線を浴びることになる。

 それはかなり恥ずかしい。

 ユレイアーナは背筋にぞっと走るものを感じた。

「ああ、ヴォルさん! 気を確かに!!」

 ユレイアーナはなんとかそれをくい止めようとするが、プチ切れヴォルールにはかなわない。

 ユレイアーナは全ての脳細胞を隅から隅まで急いで回転させた。

 この状況を回避する方法。

「ひ、閃いた!」

 ユレイアーナの頭の上にぴかぴかと光る電球が見えた気がした。正確には閃いたではなく、思い出した、だけであるが。

「ヴォルさん! 行きましょう! このクッルスには物知りなおばあさまがいらっしゃいます。もしかするとそこへ行けばプリムさんの居所が掴めるかも!!」

 その声にヴォルールは叫ぶのを止めた。

「よし! それじゃあ、早く行こう!」

 立ち直りの早い人である。

「あっと、その前に……おみやげを持っていかないと」

 ユレイアーナは近くにお菓子屋さんがないか辺りを見渡した。それはすぐに見つかった。

「おみやげ?」

「タダで教えて貰うつもりですか? きっと喜ばれますよ」

 にこりと笑い、ユレイアーナは店に入ろうとする。

「ま、いっか。早く頼むぜ」



「間違いない……服装は全く違うけど……あの愛用のポーチはプリムのポーチだ」

 累……いや琥玖はおばあちゃんとプリンことプリムヴェール・ティラォンの後を付けていた。歩いている内に逆上せが引いたのか、今ではぴんぴんしていた。と、小さな家の前でおばあちゃんとプリムヴェールは立ち止まり、そして入っていった。どうやら、そこが彼らの家のようだ。

「よし、中に入って……っと、誰か来たみたいだ、ちょっと隠れようかな?」

 琥玖は手慣れた忍法でぼむんと隠れた。

「ここだぜ。物知りばあさんの家は」

 そこに現れたのは先ほどのターバンの青年クリスナとリアとせな。いや、それだけではない。

「あ、リアさんにせなさん?」

 大きなバスケットを抱えたユレイアーナと緊張しているヴォルールの姿も見える。

「おや、皆、ここで何をしている?」

 オルフィスと蒼雲も偶然ここにたどり着いたようだ。いつの間にか、琥玖も仲間に入っている。

「それじゃあ、行くぜ!」

 全員揃ったのを確認してから、せなはどんと戸を開けた。

「やいやい、ばあさん! プリムと巨大鳥の居所教えろ!」

「なんだい、急に。ノックもなしかい? 無礼なヤツに話すことはないよ。ほら、さっさとお帰り!」

 どうやらばあさんはご機嫌斜めのようだ。

「あ、ちょ、ちょっと待って下さい。先ほどの無礼は謝ります。ですが、その、私、これを持ってきました」

 そう言ってユレイアーナは出来立てのアップルパイを取り出した。

「おや、まあまあ!! アップルパイ、アップルパイじゃないか☆ ……仕方ないね、今回だけだよ」

 やっとこさ、入れた一行。

「プリン、アップルパイ、食べるかい?」

「ぷりん、たべる~☆」

 そこに現れたのは、目隠しこそ無いが。服もアラビア風になっているが。

「プーーーーリーーーームゥゥゥーー!!!」

 ヴォルールの叫び通り、プリムヴェールだった。

 が、ひょいっとそれを避けて。

「りあねえ~」

 とことこリアのところにやってきた。

「ぷ、プリム~まだ怒っているのか?」

「………」

 プリムヴェールはぴったとリアのところにくっついている。

「プリム様~。ご無事で安心しました~」

「ぷりん、ひとりでさみしかった……」

「プリム、俺が悪かった。だから帰ってきてくれ! な! 頼む、この通りだ~!」

 感動の再会をやっているリアとプリムヴェールだったが、必死に許しを請うヴォルールを見たリアは……。

「りあねえ?」

「プリム様、もういいでしょう? もう仲直りしては? お兄さんがこんなに泣いて謝っていますし」

「………」

「おや、兄貴がいたのかい? プリン。よかったじゃないか。ほら、感動の再会だよ」

 側にいたばあさんもプリムヴェールを促す。

「プリム……」

 ほろほろと涙を零すヴォルール。

「にーちゃ、ないちゃだめ」

 ととととっとヴォルールのところへ行き、ぺたぺたと顔を探り、そして、その涙をその手で拭ってやった。

「プリム~!」

 ぎゅむっと抱きしめるヴォルール。

「にーちゃ、くるしい~」

「あ、ごめんごめんよ。兄ちゃん嬉しくて嬉しくて」

 そして、やっと感動の再会を果たしたのであった。


「で、私に何の用だい?」

 アップルパイを平らげた、物知りばあさんが皆に尋ねた、が。

「と言いたいとこだけどね、もう遅いし、私も疲れたんだよ。詳しいことは明日聞こうかい?」

「ええ!? せっかく来たのに~」

「仕方ない。せな殿、また出直すとしよう」

 蒼雲はすぐさま立ち上がった。長居は無用ということらしい。

「そうそう、それともう一つ。次はアップルパイじゃなくて別の物を持っておいで」

『はいいいい!???』

 思わずそこにいた皆の衆は綺麗にハモりながら叫んだ。

「にょ?」

 一人、何が何だかよく分かっていない者もいるようだが。

「聞こえなかったのかい? おみやげだよ。……仕方ないね。ヒントを出してやろうか。ヒントはイチゴだよ。それに今度はパイじゃないよ。そうだね……クリームがいっぱい付いたものだよ。……ちょっとヒントを出しすぎたね。さ、さっさとお帰り。ほら、プリンも兄ちゃんと一緒にお帰り」

「おばあちゃん……」

「いいから、お帰り」

 ばたんと戸が閉まった。辺りはしんと静かになった。

「さ、ここにいても迷惑なだけだし、宿に戻りましょう」

 オルフィスの言葉に皆は頷き、宿屋に向かったのであった。


 が、一人戻らなかった者がいる。琥玖こと、累だ。

「ちょっと気になるのよね……」

 そっと物知りばあさんの家の窓を覗いた。

「全く、ほんとあの子には疲れたよ、ああ、疲れたよ……ほんとに……」

 そして、ベッドに座る。そこに立てかけていた写真立てを見ながら。

「どうして、プリンを私の娘だと……思ってしまったんだろうね。あの子はもう、いないというのに……私が追い出したっていうのにねぇ……」

 寂しそうにそう呟くと、ばあさんはふっと窓を見た。

「でもまあ、プリンに兄ちゃんと会わせることが出来たからいいとしようかね」

 もう一度立ち上がると夕食の支度を始めた。

「あ、危なかった……。でもまあ、何か訳ありのようだね?」

 琥玖はそっとその場を後にした。



「え~!? クリス様って妹さんいるんですか~!?」

 リアが大声を上げた。

 ここは宿屋の一階にある食堂。ここで夕食を取っていた。本当はクリスナも家に帰ろうとしたのだが、一人で食事することを聞いたので、せっかくだからとこうして皆で食事を、ということになったのだ。

「妹か……して、その妹は?」

「行方知れずだよ。どうやら両親が死んだ後、施設に入ったところまでは分かっているんだが……その後の足取りが掴めなくてね。何とか糸口を見つけようとこうして、運び屋をやりながら捜しているってわけさ」

 にっかと笑うクリスナ。

「それで、妹さんの名は何と言うんですか?」

「カマラだよ。カマラ・アンダーソニア……見つけたら教えてくれよ。赤い髪で、深緑の目をしているんだ。と、そろそろ帰らないと。明日は早いんでね。じゃ、また」

 そう言ってクリスナは去って行く。

「同じ様な境遇の人もいるようだな」

 ヴォルールは人ごととは思えない口振りでそう告げた。

「にーちゃ、さがすの?」

「うーん……探してもいいけど……ん?」

「にーちゃ?」

「た、確か……クリス、さっき『カマラ』って言ったよな?」

「うん、いった」

「もしかして、シルムの町であった、あの人かもしれない……」

「どうかしたのか? ヴォル殿?」

 ヴォルールとプリムヴェールの様子を見ていた蒼雲が声をかけた。

「どうしよう、俺、カマラさん知っているかも……」



■次回予告

プリムヴェール「ぷりん、じかいよこくする!」

ばあちゃん「その調子だよ、最後までがんばりな」

プリムヴェール「……でも、かみにかいたじ、よめない~」

ばあちゃん「そういえば、そうだね! 全く誰だい? こんな紙を渡したのは!」

プリムヴェール「次回、『導かれし神の水』」

ばあちゃん「ぷ、プリン!?」

プリムヴェール「にょ? なんかいった? おばあちゃん?」

ばあちゃん「もしかして、プリンは神に選ばれし巫女、かもしれないね?」




■NPC紹介

▼オルフィス・グランジェスタ

 蒼雲さんとの親密度UP! お兄さんがいたようです。

▼クリスナ・アンダーソニア

 どこかにいる女性のお兄さん。今は運び屋をやっています。通称、クリス。

▼物知りばあさん

 何だか訳あり? アップルパイ好きなわがままばあさん。



■キャラクターデータ


PCNO/PC名ふりがな/通称/年齢/性別/出身地/職業/追加スキル・アイテム等


●オルフィスと対決! 親密度UP☆

01/孤我蒼雲こが・そううん//28/男/ジャパネ/侍/アイテム・二本の刀『華興』と『華仙』、キセル


●アップルパイ騎士さん

06/ユレイアーナ・リバー/ユレイア/23/女/サンユーロ/騎士/アイテム・テディベア、特別指令・王からの頼み


●酒場で情報ゲット! ネタになる?

07/リア・エルル・アスティア/リア/18/男/サンユーロ/作家志望/アイテム・ペンダント、その他・リクと知り合い


●酒場で情報ゲット! 燃えてるぜ!

08/黒田くろだせな/疾風のクロ/17/女/ジャパネ/飛脚/アイテム・飛脚箱


●次回の鍵を持っているかも?

11/ヴォルール・ヴァレ・ティラォン/ヴォル/16/男/アラビス/盗賊/アイテム・ナイフ『フルーブ』、その他・カマラとリッティとライアと知り合い


●にゃがなくなって寂しいです、本当に

12/プリムヴェール・ティラォン/プリム/8/女/アラビス/子供/スキル・罠感知、飼い猫『ジュエル』、アイテム・まじかするとーん『女神の短剣』、不思議ポーチ、追加設定・別人に?、その他・リクと知り合い


●女湯は面白いところ☆

14/皇琥玖おう・こきゅう/オウコ/17/男/ジャパネ/フリーの忍者/設定・女性になったら『るい


●今回はお休みさんです。遅刻は駄目よ?

16/メム・ソルティア/四つ角のメム/18/女/アラビス/さすらいの占い師/飼い蛇『ごんざりお』



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