第一話 祖父の兵法と、僕のミニ四駆
はじめまして。この物語は、静岡市に住むミニ四駆少年と、徳川家康をこよなく愛する祖父との物語です。ミニ四駆と兵法が交差するとき、思いもよらない走りが生まれます。
ゆるく楽しんでもらえたら嬉しいです。
「人の一生は、重荷を負うて遠き道を行くがごとし」
祖父がそう言ったのは、夕方だった。
窓の外の空が、ゆっくりオレンジ色に変わっていく時間。
僕はテーブルの上のミニ四駆をいじっていた。
「……じいちゃん」
「うん?」
「それ、今日三回目」
祖父は湯のみを持ったまま笑った。
「そうか」
祖父の名前は徳川勝蔵。
もちろん本当に徳川家の人間じゃない。
でも、祖父は徳川家康が大好きだ。
家の本棚の半分は家康の本。
戦国史。
兵法書。
関ヶ原。
三方ヶ原。
久能山東照宮。
……とにかく家康。
「蒼太」
祖父が言う。
「戦はな」
僕はミニ四駆を持ち上げた。
「速さでしょ?」
祖父は首を振る。
「速さだけでは勝てぬ」
「またそれ?」
祖父は僕のミニ四駆を見た。
しばらく黙ってから言う。
「軽いな」
「え?」
「兵は軽すぎれば押し流される」
僕は笑った。
「それミニ四駆だから」
祖父も笑った。
「同じことじゃ」
そのとき。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
「蒼太ー!」
ドアを開けると、健太が立っていた。
少し息を切らしている。
「ミニ四駆大会やってる!」
「模型屋で!」
「大会?」
「初心者レース!」
僕はポケットのミニ四駆を見た。
少しだけ、胸が動く。
「出ようぜ」
健太が言う。
僕は少し考えてから言った。
「……行く」
後ろから祖父の声。
「蒼太」
振り返る。
祖父はさっきより少し真面目な顔をしていた。
「戦に出るなら覚えておけ」
僕は苦笑した。
「ミニ四駆だって」
祖父は言う。
「勝負事は同じじゃ」
そして静かに続けた。
「相手を見よ」
「地を見よ」
「風を見よ」
祖父はミニ四駆を指さした。
「そして」
少し間をおく。
「兵を知れ」
僕は首をかしげた。
「兵?」
祖父は笑った。
「その車じゃ」
僕も笑った。
「じいちゃん、変なこと言うなあ」
でも。
なぜか、その言葉が少し残った。
僕はミニ四駆をポケットに入れた。
外に出ると、夕焼けが町を赤くしていた。
風が少しだけ涼しい。
祖父が後ろから言った。
「蒼太」
僕は振り返る。
祖父は湯のみを持ったまま笑っていた。
「初陣じゃな」
そのときの僕は、まだ知らなかった。
この小さなミニ四駆が。
僕の世界を大きく変えることになるなんて。
第一話を読んでいただきありがとうございます!
次回はいよいよ模型店での初レース。蒼太のミニ四駆は、本当に勝てるのか?
もし面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価をしていただけると励みになります!




