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可愛い妹が私を家族として見てくれない~妹として可愛がっていたはずなのに~

作者: 北条S
掲載日:2026/02/21

 十八年間一人っ子をやっていた私――オリン・ガルシアに、両親の再婚によって双子の妹が出来た。

 ずっと妹か弟が欲しかったから、二人が可愛くて仕方ないんだけど、何だか最近様子がおかしい気がするんだよねぇ……。


 「お姉ちゃん、ただいま」


 キッチンで作業をしていると、その本人が帰って来た。

 私の可愛い妹(双子の姉の方)エレナだ。

 腰まで伸びた髪を揺らし、小走りでこちらに駆け寄ってくる。


「おかえりー。今日は学校どうだった?」

「楽しかったよ。新しい魔法を教えてもらったの」


 私と違って才能がある妹たちは、一般学校ではなく魔法学校に通っている。

 どちらも成績良好らしく、我ながら自慢の妹だ。


「今日はクッキー焼いたんだ」

「わ! いいなぁ、食べたい」


 甘い物が好きなエレナは、目をキラキラさせて見上げてくる。

 十五歳になったばかりの彼女は年の割にしっかりしてるけど、こういうところは子供っぽくて可愛らしい。


「今用意するからちょっと待っててね」

「私も手伝うよ」


 お皿に手を伸ばしたら、同じようにそれを取ろうとしたエレナと手がぶつかった。

 瞬間、大げさなくらい素早く手を引っ込められる。


「あっ、ご、ごめん!」

「そんなに気にしなくてもいいのに」


 その時、また扉が開いてもう一人の妹――レータが帰って来た。

 途端、バッと音が出る勢いで私から離れていくエレナ……なんだ、この過剰反応。


 タレ目で柔らかい雰囲気のエレナとは違い、釣り上がった目つきのレータは、どことなく近寄りがたい雰囲気がある。が、可愛い妹には代わりない。


「おかえりレータ! 学校はどうだった?」

「普通」


 うーん、今日もそっけない。

 レータは基本不機嫌そうな顔をしているけど、エレナ曰く「怒っているわけではない」らしい。


「部屋で宿題やる」

「クッキー焼いたから後で持ってくね」

「ん」


 とても短い返事をして私の横をすり抜け、自分の部屋がある二階へと向かうレータ。

 その後ろ姿に、エレナが声をかけた。


「レータ、ちゃんとお礼言わないとダメだよ」

「……アリガトウ、オリン」

「うん!」


 滅茶苦茶棒読みだったけど、気にしない!

 ちなみにレータは私のことを「お姉ちゃん」とは呼んでくれず、名前で呼んでくる。


「もう……、……ごめんねお姉ちゃん、自由な子で」

「あれがレータの可愛いとこだから、全然大丈夫だよ」


 エレナがお行儀の良いワンちゃんなら、レータは人に懐かない猫みたいだ。どちらも違って、どちらも可愛い。


「……レータね、今日の実技授業で大活躍だったんだよ」

「そうなんだ! 流石だねー」

「うん。このままなら次のテストも学年一位かも」

「へぇー」


 つまり前回も一位だったのかな。

 レータはあまり学校の話をしないけど、私の想像の何倍も優秀なんだろう。


「お姉ちゃん、レータの分は私が持っていくね」

「あ、いいよ、私が持ってく」

「ううん、私が行く」

「そ、そう? ありがとう」


 何だろう。妙な圧を感じたような……。


 エレナとレータは、性格や雰囲気など含めて似ているところはあまりない。

 しかし仲は良く、特にエレナはレータのことを気にかけている。


 私に対してはそっけないレータだが、学校ではそうでもないらしく、エレナが言うには「友達も多い人気者」なんだとか。


「二人は魔力が高くて羨ましいなぁ。私なんて平凡だもん」

「でもお姉ちゃんのレベルなら、訓練すれば良い線いけると思うよ。やっぱり今からでも私たちと一緒の学校に行かない?」

「遠慮しときまーす……想像するだけで場違いだし」

「そんなこと……」


 エレナはそう言ってくれるけど、私が行くような場所じゃない。

 基本的に高い魔力を持つ貴族たちの中でも、さらに選ばれた一部の人間のみが通えるエリート校なのだ。

 そんな場所に通ってる私の妹たち……しかもこんなに可愛い……天才すぎるな本当。


 ふと隣でクッキーを盛り付けてくれている姿を盗み見ると、その横顔がどこか寂し気に見えた。


「……?」


 やっぱり最近、エレナの様子がおかしい気がする。


 初めて会った日から、人懐っこい笑顔で私たちを出迎えてくれたエレナ。

 同居を始めた当初こそ遠慮のようなものはあったけど、積極的に話しかけまくっていたら、いつからか自然に笑ってくれるようになった。


 一方のレータはずっとあんな感じの態度なので、懐いてくれるエレナを可愛いと思ってしまうのは、まぁ仕方ないことだと思う。


「エレナ、エレナ」

「ん? な――」


 なに、と言おうとしたエレナの口にクッキーを放り込んだ。

 目をまん丸にしたエレナに、サクサクと音を立てて砕かれていくクッキー。ちなみに今日のやつはなかなか自信作だったりする。


「……美味しい」

「よかった。エレナ、ジャムが入ったやつ好きでしょ? 今日は学校早く終わったし、気合い入れてジャムから手作りしたんだ!」

「そうなんだ……ありがとう」


 へにゃりと微笑むエレナの表情には、さっきみたいな寂しそうな感情は見つからない。

 その場凌ぎだけど、少しでも元気が出てたらいいな。


 きっと、一般学校に通ってる私には想像できない苦労が色々あるんだろう。

 若いのに大変だなぁ。なんて、お年寄りみたいなこと考えちゃった。


「……お姉ちゃんは優しいね」

「普通だよ。エレナが私に優しくしてくれるから、私もエレナに優しくしてるんだもん」

「でも……レータはお姉ちゃんに対してあんな感じだけど、変わらず優しいよね」

「それはほら、せっかく家族になれたんだし、仲良くなりたいなぁって思って」

「やっぱり優しいよ。お姉ちゃんのそういうところ、好き」


 うー、そんな素直に言われてしまうとなかなか恥ずかしいものがある。


 邪気のない笑顔でこちらを見るエレナに、妙にざわざわした気持ちになってしまい、そっと視線を逸らした。


◆ ◆


 ふと、夜中に目が覚めてしまった。

 明日も学校なので早く寝直したいところだったけど、意識すればするほど逆に睡魔が遠のいていく気がする。


「一旦起きるか」


 ミルクでも温めて飲んだら少しは眠くなるかな。


 ベッドから立ち上がると同時、外から微かな音が聞こえた。強い風が吹いたような音だ。

 今日そんなに風強かったっけと思いながら窓の外を見ると――動く影が見えた。目を凝らすと、庭にいたのはエレナだった。


 一心不乱に杖を振るっている。その度に緑色の魔法陣から小さな風が出現しては消えていく。

 魔法に詳しくない私でも、魔法の練習をしてることは分かった。


「こんな時間まで……」


 エレナは勉強熱心だ。

 家にいる時は大抵難しい魔導書を読んでいるし、夕方にはああやって魔法を練習している。

 頑張り過ぎて少し心配になるレベル……もしかして最近どこか元気がなさそうに見えたのは、勉強疲れからくるものなんだろうか。


 そう考えると放っておくわけにもいかず、私は部屋を出て階段を下った。


 外に出ると、肌に当たる風は思ったよりも冷たかった。思わず「さむ」と声がもれ、腕をさする。

 杖を振るうのを止め、何か考え事をしているらしいエレナは、私が後ろに立っても気が付いていない様子だった。


「エレナ」

「ひゃっ……え、お姉ちゃん……? なんでこんな時間に?」

「それはこっちの台詞。こんな夜中に一人で外に出たら危ないでしょ」

「大丈夫だよ。庭だし」

「危ない人は庭にも侵入してくるかもしれないじゃん」


 エレナに近付いてその手を握ると、彼女はビクリと肩を跳ね上げた。いきなり触れたから驚かせてしまったらしい。

 それにしても、思ったより手が冷たい。一体いつから外にいたんだろうか。


「もう遅いし、おしまいにしなさい」

「……はい」


 大人しく頷いたものの、俯いてしまうエレナ。

 表情が見えなくなっちゃったけど、言外に「もっと練習したかった」というのが伝わってくる。


 このまま家に戻したら、エレナはまたあの寂しそうな表情を浮かべるのかもしれない。

 そう考えると、握った手を引く気が起こらなかった。


「エレナ、ちょっと抱きしめていい?」

「え……えっ!? な、なんで?」

「いや、物足りなさそうだからもう少し練習してもいいかなって思ったんだけど、寒そうだったから人肌で温めてあげようかと」

「あたため……いや、大丈夫だから……そんなに冷えてないし」

「嘘、手冷たかったよ。ほら」

「わっ……お、お姉ちゃ……」


 問答無用で抱きしめると、エレナは一瞬抵抗する素振りを見せたけど、大人しく腕に収まってくれた。

 少しの間の後、私の胸元に顔をうずめたエレナの髪が頬に触れ、くすぐったい。

 冷えた背中を軽く撫でると、エレナは「ん……」と小さく声を漏らし、服をぎゅっと掴んできた。


「…………お姉ちゃんは、どうして私を気にかけてくれるの?」

「そりゃ家族だし……普通じゃないかな」

「家族……そうだね、うん……」


 エレナが甘えるように頬をすり寄せてくる。

 いやー、妹って本当に可愛い。こんな存在が毎日そばにいてくれるんだから、そりゃ気くらいかけちゃうよね。


 エレナの冷えていた体がある程度の体温まで戻ったところで、名残惜しいけど彼女を解放した。


「よし、じゃぁ私もここで魔法見せてもらってもいい?」

「うん。ありがとう」


 こっちを見上げるエレナの頬は、なんだかいつもより赤くなっている気がした。けどまぁ、多分気のせいかな。


◆ ◆


「ただいまー」


 とは言ったものの、家の中には誰もいない。両親は共働き、妹たちの学校は私の学校より時間が長いので、必然的にいつも私の帰宅が一番になる。

 けど少し待てば可愛い妹たちが帰って来るんだと思うと、寂しくなんてない。


 さて、今日も二人のためにお菓子作りでもしようかな。

 と、その時、電話の音が鳴り響いた。


「はい、ガルシアです」


 鞄を置きながら受話器を取った途端、聞こえてきたのは焦ったような声。


『オリン! 大変なの! エレナが急に倒れて……!』

「え?」



 二人の通っている学校までの道のりを、私がきちんと把握していたのは不幸中の幸いだった。

 学校にいるレータからかかってきた電話を受け、すぐに家を飛び出した私は、走って学校へと向かった。


 校門の近くにいた警備員さんに事情を説明し、学生証を見せて身分を確認してもらい、教えてもらった保健室まで辿り着いた。


「はぁっ……はぁ……っ、え、エレナ!!」

「静かに」


 大量に並べられたベッドの一つに、エレナが眠っている。

 その近くに座るレータは、電話での焦った様子はどこへやら、いつも通りの冷静な声音で私を注意してきた。

 保健室の中には他の人の姿はなく、先生のような人も見当たらなかった。


「レータ……エレナは? 大丈夫なの?」

「先生の話によると、単なる魔力切れみたいだから寝てれば治るって。……ごめんなさい、あたしも動揺して、変な電話かけちゃった」

「それは全然……むしろ教えてくれてありがとう」

「……この子、頑張り過ぎなのよ。休めって言っても全然聞かないし」


 言いながらエレナの頬を撫でるレータ。悲しそうな表情を見るに、エレナの無茶は私の想像以上のものだったんだろう。


「とりあえず、起きたら怒ろうか。私とレータの二人がかりなら少しは聞いてくれるだろうし」

「……そうね。特に大好きな”お姉ちゃん”の言うことなら聞きそう」


 このつまらなさそうな表情、もしかして私に妬いているんだろうか。

 エレナもレータを気にかけているけど、レータもエレナが好きなんだなぁ。嗚呼、なんて尊い姉妹愛。


「大丈夫だよ! エレナはレータのこと大好きだから!」

「別にそれは知ってるけど……、……頭撫でないでくれる?」

「あ、ごめん、可愛くてつい」


 気が付けば伸びていた手を慌てて引っ込める。

 こういうことを考えなしにしちゃうから、なかなかレータに心を開いてもらえないんだろうな。


「――レータ、どうしてお姉ちゃんがここにいるの?」


「わっ……あ、エレナ! 起きたんだ、よかったぁ……」


 今起きたんだろう。寝起き特有のかすれた声は、いつもより幼く聞こえた。


「あたしが電話で呼んだの。エレナがいきなり倒れたから、ビックリして」

「そっか……ごめんね、迷惑かけて……」

「迷惑というか心配よ。……気を付けてよね」

「うん」


 話しながら起き上がるエレナ。手を貸した方がいいかと迷ったけど、問題なく起き上がったので、もう魔力切れ?というやつは解消されたのかな。


「お姉ちゃんもごめんね……わざわざ来てもらって」

「エレナとレータのためなら、いつどこに駆けつけても苦じゃないから大丈夫だよ」

「妹バカ」


 レータの吐き捨てるような声が聞こえたけど、概ね事実なので言い返すことは出来ない。


「あの、二人は……」

「あたし先生呼んでくる。オリン、エレナのこと見てて」


 言いながら、早足で保健室を出て行くレータ。


「エレナ、今何か言った?」

「……ううん、何でもない」

「そう? ……あー、あの、あんまり無理しちゃダメだよ?」


 自分から言っといてなんだけど、面と向かって怒るのって意外と難しいな。

 だってエレナは頑張り過ぎたけど、努力することは悪いことじゃなくて、ただ限度があるってだけの話だし……うーん……。


「ごめんなさい……次からは気を付ける」

「分かってるなら全然……あ、明日はケーキ焼くよ。エレナのために、苺のいっぱいのったやつ」


 笑いかけると、エレナの瞳が微かに揺れた気がした。


「……うん、楽しみにしてる。……ねぇ、お姉ちゃん」

「ん?」

「私とレータ……、……ううん、ごめん、やっぱり何でもない」


 何だろう。明らかに何か言いたそうだったのに、エレナは再び寝転がってシーツにくるまってしまった。

 これ以上話したくないオーラを感じた私は、無理に聞き出すことも出来ず。レータと保健室の先生が来るまで、その場に突っ立ってることしか出来なかった。


◆ ◆


 エレナに何かあったのかもしれないという心配と、学校まで全力疾走した影響だろうか、今日はやたら眠かった。

 家族におやすみを告げて、自分の部屋へと向かう。

 そのままベッドに潜り込むと、その温かさにさらに睡魔が襲ってきた。


「ふわぁ……おやすみなさい」


 誰にでもなくそう呟き、目を閉じた。



 それからどれくらい経ったのか、正確には分からない。

 重みを感じて目が覚めた。


「んぁ……、……え?」


 目を開けると、可愛い顔がこちらを見下ろしていた。

 寝起きだから……というより、寝起きじゃなくてもちょっと意味が分からない状況だった。

 端的に言うと、エレナが私の上にまたがるように座っている。


「え、エレナ? どうしたの? というか、なんで私の部屋に?」

「お姉ちゃん……今日学校で、レータとなに話してたの?」

「へ? …………ああ」


 「エレナを二人で叱ろうって話だよ☆」とかストレートに言うのは、流石に憚られた。


「えっと、普通に学校でのこととかを聞いてただけだよ」

「……それでどうして頭を撫でる流れになったの?」

「あ、それは……何となく?」


 そんなところまで見られていたとは。

 それにしてもこれって、こんな夜中にやって来てまで聞きたいことなんだろうか……?


「……やだ」

「え?」

「お姉ちゃんまで……レータが一番になっちゃやだ」

「何言ってるの。家族に順番なんてないよ」


 それは心からの本音だったのに、エレナは信じないとばかりに首を振った。


「……ずっと怖かったの。レータがすごいことをする度に、周囲の人の注目が集まって、私の存在が消えていく気がして。私、いらない子なんじゃないかって」


「エレナ」


 言葉を遮るように名前を呼ぶと、エレナはハッとした表情で顔を上げた。それから視線をさ迷わせ、力なく俯く。


「ごめん……私、最低なこと言った……レータのお姉ちゃんなのに」

「誰だって不安になる時はあるよ。それに、エレナがレータのこと好きなのはちゃんと分かってるし」

「うん、大好き……」


 微かに震えているエレナの頭に手を伸ばすと、何をされると思ったのか、強く目を瞑られる。

 そのまま頭を撫でた。

 私は言葉がへたっぴだから、せめて行動で慰めてあげたいと思ったんだけど……私が撫でたところで大した慰めにはならないかもしれない。


「……あんまり甘やかさないで。私、性格悪いから」

「エレナが性格悪いなら私はそれ以上だって。……それに、好きな相手だって妬んじゃうことはあるよ。人間だし――って、うぉわっ!?」


 突然エレナが覆いかぶさるようにくっついてきたので、つい変な声が漏れてしまった。

 体が密着し、柔らかい重みを感じて頬が熱くなった気がした。

 流石にちょっと近すぎて、心臓がドキドキする。良い匂いのする髪が頬に当たって、何だか落ち着かない気持ちになる。


「きょ、今日のエレナは甘えんぼだね」


 でも落ち込んでいるみたいだし、全力で甘やかしてあげるのもお姉ちゃんの務めかな。

 そんなことを考えていると、エレナの顔が少し動いた気配がして、それから頬に濡れた感触がした。


「……え?」


 キスされたんだと気が付いたのは、十秒後くらいだった。


「な、なに……、……あ! 姉妹だとこれくらいのスキンシップ普通……?」

「普通じゃないよ……少なくとも私たちはしたことない」

「え、なら、なんで……?」

「……分からない?」


 上体を起こしたエレナが、こてりと首を傾げる。

 こちらを見つめる瞳の奥に、熱っぽい「色」のようなものを感じ、背筋がぞわりと震えた。


「オリン」


「う……お、お姉ちゃんって、呼んで欲しいなー、ナンテ……」

「でも家族だと……そういう風に意識してくれないでしょ」


 そういう風ってなに――残念なことに、そう言えるほど鈍くはなかった。


「……好きだよ。ねぇ、私のこと、どう思ってる?」

「っ、え、っと……」


 エレナが何を伝えたいのか、求めているのかが嫌でも伝わってくる。

 ――でも今の私はそれに応えることが出来ないから。視線を逸らしてエレナから逃げた。


「とっとにかく、今日はもう寝よう! モヤモヤしてる気持ちも寝れば消えるかもしれないし!」

「…………分かった。じゃぁ寝る」

「うんうん……って、あの、エレナさん? どうして私の横に寝転がるのかな?」

「一緒に寝よ。姉妹なんだったら、いいよね?」


 こ、こんな時だけ都合よく姉妹を使ってくるなんて……って、逃げた私が悪いのかもだけど……。


 少しの間エレナと睨めっこをしたけど、引き下がる気配はなさそうだったので、折れることにした。


「……エレナは可愛いんだから、気軽にこんなことしちゃダメだよ」

「お姉ちゃんにしかしないよ」

「わー……たしにも、しない方が、いいけど」

「どうして?」

「どうしてって……」


 そう聞かれちゃうと、困ってしまう。


 だって、ずっと欲しかった妹がようやくできたっていうのに。

 邪な感情なんて抱いちゃいけない。家族という形を壊しちゃいけない。


「お姉ちゃん、私、諦めないからね」


 ――嗚呼、神様、どうか助けてください。

 こんなに可愛い妹に迫られたら、うっかり好きになってしまいそうで恐ろしいです。


◆ ◆


 げっそり。

 今の私は、こんな表現が正しい顔をしていると思う。

 何故なら昨夜は一切眠れなかったから。


 だって寝られるわけないじゃん! あんなことがあって! あんなこと言われて! その後に平然とエレナと一緒に寝られるほど無神経じゃないもん!


「お姉ちゃん、おはよう」

「うっひゃおう!? え、エレーナ!? ……早起きだね?」


 ちなみに朝ご飯を作るのは私の担当なので、起床時間は誰よりも早い。

 さっき部屋を出た時は、エレナはまだ夢の中だったはずなのに、一体いつの間に。


「起きたらお姉ちゃんがいなかったから……寂しくて下りてきちゃった」


 ひえぇ……嬉しい……でも今日は嬉しがってる場合じゃない……。


「朝ご飯作るの手伝うよ」

「う、うん……ありがとう」


 意識しまくりな私と違って、エレナはまるで昨夜のことなんてなかったかのようにいつも通りだ。


 も、もしかしてあれは夢だったのかな?

 だとしたらどんだけ欲求不満なんだ私は……しかも妹相手にあんなこと……最低過ぎる……。


「卵割っちゃうね」


 ……そうだ、やっぱり夢だったんだ。

 エレナは可愛い妹で、私の大切な家族! 昨日のことは夢だよ、夢夢!


「お姉ちゃん」

「んー? なに?」

「昨日のこと、忘れないでね」


 ガッシャーンと、派手な音を立ててフライパンが床に落ちた。もちろん落としたのは私である。


「き、昨日のこと、というのは……」

「覚えてるでしょ?」


 嘘を許さない圧を感じて、私は無言で頷いた。

 卵を割り終えたエレナは、器を置いて私の方に近付いて来た。自然と距離をとるように、一歩後ずさる。


「お姉ちゃん、恋人はいないよね?」

「あ、はい」

「好きな人は?」

「いない……けど」

「なら私にもチャンスあるよね」

「ちゃ、ちゃんす……」


 家族の時点でノーチャンスなのでは……あ、義理だから関係ないのか……?

 いやダメだよ、エレナは可愛い妹だから!


 ブンブンと頭を振る私を見て、エレナはおかしそうに笑った後、手を伸ばしてきた。

 避ける間もなく、私の頬が包まれる。

 逃げるように後退すると、エレナはその距離を詰め、ぐっと顔を近付けてきた。

 鼻先がくっつきそうな距離感で見つめられて、自然と心臓の鼓動が早くなる。


「好きだよ、オリン」

「だっ、だから名前で呼ぶのは……」

「……ふふ、顔真っ赤。可愛い」


 至近距離で見るエレナの笑顔に、心臓が握りつぶされたような感覚を覚えた。


 ダメだ、家族でこんなの、絶対間違ってる。お姉ちゃんとして私が止めないと。こんなのは、一時の気の迷いだよって言ってあげないと。

 グルグルと思考が渦巻く中、徐々に近づいてくるエレナの顔。


 閉じられた瞼を縁取る長いまつ毛に見惚れていると、唇の端にやわらかな感触が当てられた。


「避けないんだね」


 私の頬から手を放したエレナは、どこか満足そうに微笑んだ。


「や、やっぱり、こういうのは、よくないよ……」

「……迷惑?」

「う……め、迷惑というか……」


 迷惑だって言えば、良い子なエレナは諦めてくれるかもしれないのに。どうしてハッキリ拒絶出来ないんだろうか。

 頑張れ私、今こそ年上としての威厳を見せるんだ――


「…………し、しばらく、時間ください……」


 絞り出すように出た答えは、自分の想像の十倍は情けなくて、拒絶の意を含まないものだった。

 エレナは私の返事にキョトンとした顔をした後、にこりと微笑む。


「ずっと待ってる……けど、我慢できない時もあると思うから、心の準備はしててね」


 出会った時から懐っこいワンちゃんみたいだと思っていたのは、エレナのほんの一面だったらしい。

 こちらを見る彼女の瞳は暗くて甘い色をしていて、見たことがないくらい妖艶に見えて、呼吸が一瞬浅くなってしまった。



終わり

最後までお読み頂きありがとうございました!

まだ至らぬ点も多々あると思いますが、読んで頂けたこと感謝いたします。


今まで短編をいくつか投稿して来ました(今作で一区切りです)

その中で特に反応の良かったものを連載として書いていけたらと考えています。

もし気に入った作品がありましたら、感想や評価などで教えていただけると嬉しいです!

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