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恋は続くよ

作者: 北風陣
掲載日:2025/10/19



広島駅のホームに、冷たい風が吹き抜ける。

彼女は小さな封筒を握りしめていた。指先が少し震えているのは、寒さのせいだけじゃない。

封筒には、彼の名前。ボールペンのインクが、少し滲んでいた。

「ごめんね、急に呼び出して」

「いや、来てもらえて嬉しいよ」

彼は相変わらず、柔らかい声でそう言った。

でも、その瞳の奥にあるものは、もう彼女の知らない世界だった。

東京での新しい生活、夢に向かって走り出す未来。彼女はそれを応援してきた。

隣で、笑って、泣いて、支えてきた。だけど、最近ふと気づいてしまった。

彼の未来に、居場所はあるのだろうか、と。

「東京、行くんだってね」

「うん。来週から。仕事も決まったし、いよいよって感じ」

彼は少し照れくさそうに笑った。

その笑顔がまぶしくて、彼女は目をそらした。

「これ、読んでくれる?」

彼女は封筒を差し出した。

彼は少し驚いた顔をして、それを受け取る。

「今は開けないで。東京に着いたら、読んで」

「わかった」

電車がホームに滑り込む。

彼は一歩、二歩と近づき、振り返る。

「ありがとう。ほんとに、ありがとう」

「ううん。私こそ、ありがとう」

ドアが閉まり、電車が動き出す。

彼女はその背中を見送った。涙は流れなかった。ただ、胸が少しだけ痛かった。

数日後、彼からの連絡が届いた。

LINEの通知に、彼女は少しだけ胸が高鳴った。

「手紙、読んだよ。感動した。で、ひとつ聞きたいんだけど…“お弁当は忘れずに”って、どういう意味?」

彼女は思わず吹き出した。

「そこじゃないでしょ!最後のページに“好きです”って書いたのに!」

「えっ……あ、ほんとだ。ごめん、お弁当のくだりで泣いてて、最後まで読んでなかった…!」

「泣くとこ、そこじゃないから!」

スマホを握りしめながら、彼女は笑った。

秋晴れの空が、まぶしくて、ちょっと泣きそうだった。

その週末、彼は広島に帰ってきた。

「やっぱり、君に会いたくなった」

そう言って差し出したのは、東京で作ったお弁当と、彼女への手紙だった。

「今度は、ちゃんと最後まで読んだよ」

彼は照れくさそうに笑った。彼女も、笑った。

風は少し冷たかったけれど、心はぽかぽかしていた。

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