恋は続くよ
広島駅のホームに、冷たい風が吹き抜ける。
彼女は小さな封筒を握りしめていた。指先が少し震えているのは、寒さのせいだけじゃない。
封筒には、彼の名前。ボールペンのインクが、少し滲んでいた。
「ごめんね、急に呼び出して」
「いや、来てもらえて嬉しいよ」
彼は相変わらず、柔らかい声でそう言った。
でも、その瞳の奥にあるものは、もう彼女の知らない世界だった。
東京での新しい生活、夢に向かって走り出す未来。彼女はそれを応援してきた。
隣で、笑って、泣いて、支えてきた。だけど、最近ふと気づいてしまった。
彼の未来に、居場所はあるのだろうか、と。
「東京、行くんだってね」
「うん。来週から。仕事も決まったし、いよいよって感じ」
彼は少し照れくさそうに笑った。
その笑顔がまぶしくて、彼女は目をそらした。
「これ、読んでくれる?」
彼女は封筒を差し出した。
彼は少し驚いた顔をして、それを受け取る。
「今は開けないで。東京に着いたら、読んで」
「わかった」
電車がホームに滑り込む。
彼は一歩、二歩と近づき、振り返る。
「ありがとう。ほんとに、ありがとう」
「ううん。私こそ、ありがとう」
ドアが閉まり、電車が動き出す。
彼女はその背中を見送った。涙は流れなかった。ただ、胸が少しだけ痛かった。
数日後、彼からの連絡が届いた。
LINEの通知に、彼女は少しだけ胸が高鳴った。
「手紙、読んだよ。感動した。で、ひとつ聞きたいんだけど…“お弁当は忘れずに”って、どういう意味?」
彼女は思わず吹き出した。
「そこじゃないでしょ!最後のページに“好きです”って書いたのに!」
「えっ……あ、ほんとだ。ごめん、お弁当のくだりで泣いてて、最後まで読んでなかった…!」
「泣くとこ、そこじゃないから!」
スマホを握りしめながら、彼女は笑った。
秋晴れの空が、まぶしくて、ちょっと泣きそうだった。
その週末、彼は広島に帰ってきた。
「やっぱり、君に会いたくなった」
そう言って差し出したのは、東京で作ったお弁当と、彼女への手紙だった。
「今度は、ちゃんと最後まで読んだよ」
彼は照れくさそうに笑った。彼女も、笑った。
風は少し冷たかったけれど、心はぽかぽかしていた。




