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第3話「朝の教室と佐々木さん。」


――朝の教室1



朝。

僕はいつもより30分早く家を出た。

理由は特にない。強いて言えば、誰もいない教室に入ってみたい。――中2男子のきまぐれ。


学校に着いたのは7時半。さすがにまだ誰も来てないだろう。

昇降口を抜けて、教室のドアを開ける。


「よし……誰もいない! 一番乗り!」


そう思った――んだけど。


「おはよう」


「うわっ!?」


教室の窓際、すでに佐々木さんが座っていた。

眼鏡をかけて、ノートを開いて、静かにペンを走らせている。


……なんでいるの!?

いや、いること自体はいいんだけど、早すぎない!?


「……佐々木さん!? 早っ!」


「うん。ちょっと早く目が覚めちゃって」


「えっ、何時に起きたの?」


「5時半」


「おじいちゃん!?」

声に出てた。


「そこはおばぁちゃんでしょ」


冷静なツッコミありがとうございます。

僕のボケが、完璧に処理された。

しかも、声のトーンが落ち着きすぎてて、逆に動揺する。


佐々木さんは、くすっと笑ってペンを止めた。

その笑顔が、なんかこう……反則だった。

か、可愛い…。


「朝の教室って静かで好きなの。窓から風が入ってきて、気持ちいいし」


「……わかる。なんか、世界に自分しかいないみたいな気分になるよね」


「でも、今は二人いるね」


「……あ、そうだね」


僕は自分の席に座りながら、まだ心臓がドキドキしていた。


「……あの、佐々木さんって、朝から勉強してるんだね」


「暇だからお絵描きしてた」


天然?天然なのか?


「え、だったら家でゆっくりしてたら!?」


「木戸君なに持ってるの?」


急に話題変えたな。


「教室で食べようと思って買ってきた」


「……あの、それ、メロンパン?」


「えっ? あ、うん。メロンパン。なんで分かったの?」


「袋に書いてあるよ」


――たまにカウンターが飛んでくる。

急に現実的な一撃を放ってくるのやめてほしい。

僕は反射的に謝っていた。


「あ、なんか、ごめん」


佐々木さんは、笑いながらノートを閉じた。

そして、窓の外を見ながら、ぽつりと言った。


「ふふっ、変な人」


あなたに言われたくはないです。


「……でも、こうして朝の教室で木戸君と話すの、ちょっと楽しいかも」


「…っ!」


たまにクリティカル出すのやめて!

やっと心臓が落ち着いてきたのに、思春期には耐えがたいよ!


「いつも朝、一人だったから」


僕は、何か言おうとして、うまく言葉が出てこなかった。

代わりに、机の上でメロンパンの袋をそっと開いた。


「そうなの?まあ朝早いからね。あ、これ…いっこ食べる?」


「えっ、いいの?」


「うん。一番乗り記念に」


「じゃあ、半分こ」


―僕は次の日から早く家を出るようになった。

理由は、もう“きまぐれ”じゃなかった。





――朝の教室2


今日は昨日よりさらに30分早く登校した。

理由は簡単。

「早く行けば、佐々木さんと二人きりになれるかも」という、思春期の欲望である。


昇降口を抜けて、教室のドアを開ける。

誰もいない静かな空間。

窓から差し込む朝の光が、机の上に淡く広がっている。


あれ?まだ来てないのか。

ちょっと残念な気分になって俯いたら――

机の下に居た。


「おはよう木戸君」


「うわあああああああああああああああああああああああ!?」


机の下に佐々木さんが隠れてた。

眼鏡越しに、じっと僕をみつめてる。


「消しゴム落としちゃって」


「びっくりした……幽霊かと思った……」


「幽霊だったら、こんな朝早く学校来ないと思うよ?」


「いや、最近の幽霊はまじめかもしれないし……」


「じゃあ、成仏できるね」


今日も朝から絶好調ですね。佐々木さん。


「佐々木さん、何時に来たの?」


「えっと……たぶん、6時半くらい?」


「早すぎるよ!? 先生より早いじゃん!鍵空いてた!?」


「うん。今日も、目覚ましが鳴る前に目が覚めちゃって」


「それ、もう目覚ましの存在意義ないよね」


佐々木さんは、ペンをくるくる回しながら、ふわっと笑った。


「誰もいない教室って落ち着くの。あと、机が冷たい」


「えっ、そこ?」


「うん。ほっぺたくっつけると、ひんやりして気持ちいいよ」


「それ、猫の行動じゃない!?」


「ふふ。じゃあ、私は朝の猫ってことで」


「いや、猫だったらもっとゴロゴロしてるでしょ」


「……じゃあ、ゴロゴロしてもいい?」


「今から!? 教室で!? 人来るよ!?」


佐々木さんは、机にほっぺたをぺたんとくっつけて、満足そうに目を閉じた。

その姿が、なんというか……尊い。


「……あの、佐々木さん」


「んー?」


「僕、さすがに今日は一番乗りだと思って来たんだけど」


「うん。惜しかったね」


「惜しいって言われたの初めてだよ、この状況で」


「でも、二番目ってことは、私の次に来たってことだよね」


「まあ、そうだけど……」


「じゃあ、特別に“準一番乗り賞”あげる」


「そんな賞あるの!?」


「うん。副賞は、私の描いたメロンパンの絵」


「実物じゃないの!? 絵!?」


佐々木さんは、ノートの隅に描いた謎の丸い物体を見せてくれた。

……たぶん、メロンパン。たぶん。


「ありがとう……なんか、今日一日頑張れそう?」


「よかった。準一番乗りの力だね」


――朝の教室。

静かだけど、僕の心はツッコミで忙しい。

そして佐々木さんと二人っきりの時間。

誰も来ないでくれと、心の中で本気で願った。



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