人事異動
〈佳き時代みんな裸の一夜など 涙次〉
【ⅰ】
カンテラ、とぼけた顔でゐたが、實は「バンカラ」の事、最重要課題だと考へてゐた。テオにロボテオ2號を借りて、「バンカラ」の懐深くを探る- 2號は、自分の事を*「をばさん」の世話役に留まる事のない「秘メラレタぽてんしやる」があると、カンテラに自ら賣り込んで來たのである。有能な者は使ふ、【魔】との闘ひに於いてカンテラが學んだのは、それ、だつた。
* 当該シリーズ第182話參照。
【ⅱ】
それと同時に(前回仄めかしたが)平涙坐と、短期ではあつたが、スパイ契約を結び、「バンカラ」にかう云はせたのだ。「口程にもないんですね。傷が癒えたら、また事に当たつてくれるんでせうね」‐「当たり前だ。だがそれには助けがゐる- 丁度ロボテオ2號なる者が、カンテラと諍ひを起こし、俺に靡いてゐる。彼奴を使つて一騒動起こしてやるさ」
【ⅲ】
カンテラ事務所は人事異動の季節を迎へてゐた。テオは今まで一味の情報収集係であつたが、これからは、カンテラ・じろさんに加へて、攻撃部隊の一角を担ふ事となつた。安保さん製作のアーマーを身に着け、武闘に參加する事、と云ふのが辞令の内容だつた。
で、代はつて情報収集係には、「シュー・シャイン」、平涙坐、ロボテオ2號、が収まつた。(テオが無能と云ふ事ではなく、魔界通であつた方が、これからは良い、と云ふ事。)
巨大獸相手の攻撃部隊には、「龍」の遷姫、金尾のゴーレム、新たに白虎。金尾、金錢出納係兼任は變はらず。専属メカニック、安保宙輔。
雑用、牧野。映像記録係、杵塚。カンテラ秘書・庶務、神田悦美、ここら邊に變更點はない。
代表、神田寺男。副代表、此井功二郎。他に遊撃隊、「ぴゆうちやん」。番犬、タロウ。由香梨と君繪、そしてでゞこ、は勿論無役である。
⁂ ⁂ ⁂ ⁂
〈愛輝き愛くすむ時それは尚輝き・くすみである愛の夜 平手みき〉
【ⅳ】
さて、まんまと「バンカラ」の懐深く迄接近した(臭覺モードは切断してあつた・笑)2號、「バンカラ」の様々なデータをカンテラ一味に齎した。人間界の某W大出(商學部)である事、若かりし頃は魔界の應援團に處屬してゐた事、今でもその先輩がたには頭が上がらない事...
カンテラは考へた。その援團関係で攻めるべし。涙坐にせつつかせて、早く對決出來るやう手筈を調へた‐
【ⅴ】
カンテラ、「シュー・シャイン」に命じて援團OBの【魔】を一人、味方に付ける。さて、叛撃だ。
體育會、と云ふのは魔界にあつても縦社會なのは變はらない。そのOBの名で、「バンカラ」を呼び寄せた。テオ、*「破邪の爪」を装着、心なしか緊張した面持ちである。
* 安保さん製作の猫用武具。要は猫の爪が伸縮自在になり、ダイアモンドで出來てゐる、と考へればよい。
【ⅵ】
「先輩押忍! ご達者なやうで」‐先輩Aの後ろから、テオが出て來た。「き、貴様、カンテラのところの猫!」‐「そろそろ2號、返して貰はうかと思つてね。ふぎやあお」‐「破邪の爪」を着けると、テオ、性格が一變するのだ。
顔だけは普通に肉で出來てゐる「バンカラ」、手酷く引つ掻かれて思はず後退した。そこをじろさんの投げ技に依り、鋼鉄製の躰を仰向きに倒され、止めはカンテラの剣、でずぶり。三人がゝりの攻撃に、流石の「バンカラ」も音を上げた。一味は、戰闘部隊のティームワークも良く、「バンカラ」を斃した‐
【ⅶ】
〈ごきぶりや磨きし靴のごと光る 涙次〉
と云ふ譯で、新体制での【魔】退治、でした。涙坐も、短期ではなく永久就職しやうかしら、と云つてゐる。だうやら白虎に會へる、と云ふのが氣に入つたらしく、じろさんに和解の言葉を掛けて來た。「父の事は父の事として、こゝはわたしにとつても樂園ですわ」
そんな本日のカンテラ一味。目出度し、目出度し。